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ペットシッターの紹介する本や映画あれこれ by ペットシッター・ジェントリー

ペットシッターを営む著者が、日常業務を交えつつ、ペット関連の本や映画を紹介します

映画『犬ヶ島』

2019年07月19日 22時00分00秒 | 犬の映画

長くペットシッターをやっていますが、犬や猫の気持ちがどれだけわかるのかと聞かれれば、ほとんどわかりません、と答えます。人間と違って動物は嘘をつかないからわかりやすい、とよく言われます。たしかに嘘はつかないかもしれませんが、意に沿わない行動を我慢しながらやっていることはあるでしょうし、人間の理屈では計り知れない考えや行動もあることでしょう。だから僕は、安易に動物の気持ちをわかった気になって行動するより、気持ちなどわからないことを前提に行動したほうがうまくいくと思っています。そうして行動した先に、動物と人間とのうっすらとした絆が見えてくる、そんな気がします。
 これは人間同士でも同じことで、人と人とはそもそも理解などしあえない、それを前提に生きたほうがうまくいく、という主張に僕は賛同します。これについては、劇作家・演出家の平田オリザざんが書かれた名著『わかりあえないことから』に詳しいですので、番外的にご紹介しておきます。

さて、今回ご紹介するのはずばり、『犬ヶ島』という映画です。実写映画でも有名なウェス・アンダーソン監督の手がけたストップモーションアニメです。すべてのキャラクターがCGではなく実際の人形として制作され、それを1コマ分ずつ動かしては撮影するという、途方もない手間をかけて作られています。
こちらで、動画入りの撮影風景が紹介されています。この記事を読むと、本作がいかに素晴らしい芸術作品かがよくわかります。)

本作の舞台はなんと日本! 架空の街〈メガ崎市〉で、ドッグ病という伝染病を駆逐するため、市長が街から犬を一掃しようとしています。犬たちは市長により、海に浮かぶゴミ島に捨てられていきます。この島に単身で乗り込んだ少年がいました。市長の養子・小林アタリ君です。実は、島に最初に捨てられたのがアタリの飼い犬スポッツで、彼はスポッツを取り戻すためにやってきたのでした。しかしスポッツはそこにおらず、白骨だけが残されていました。アタリは島で出会った5匹の犬と共に、市長への反乱を試みます。

この監督さん、とにかく大の日本びいき、とくに黒澤明監督が大好きで、本作は黒澤映画へのオマージュに溢れています。メガ崎市が『天国と地獄』の茅ヶ崎市のもじりだったり、ゴミ島が『どですかでん』と同じ設定だったり、市長の顔が三船敏郎だったり。とくに劇中で流れるBGMが最もわかりやすく、アタリが5匹の犬と出会い旅立つあたりで『七人の侍』の有名なテーマ曲がかかります。犬5匹+アタリ+スポッツ、合わせて7人、というか7体。彼らが敢然と巨大な陰謀に立ち向かっていくあたりでこの曲が流れれば、否が応でも盛り上がるというものです。

アタリと犬たちは、最初、うまく意思疎通ができません。(なぜか)犬たちは英語を話し、アタリは日本語を話すからです。それでも一緒に行動するうちに絆が生まれ、最後には手を取り合って戦うことになります。
 5匹の犬のリーダー格である元野良犬のチーフが途中で仲間とはぐれ、アタリと二人きりになるところで、先述したテーマが如実に示されます。アタリはかつて飼い犬のスポッツと戯れたように、棒切れを投げてチーフに取りに行かせようとしますが、当然チーフはそんなことをしません。ところが、何度も棒切れを投げるアタリを見たチーフは、「お前が気の毒だから」という理由で棒切れを取りに行き、くわえて戻ってきます。それを見たアタリは感激し、そっとチーフを抱きしめます。チーフは不本意ながら、内心で快く感じてもいます。言葉が通じず、お互いに違うことを考えているようでいて、心は通じ合っている。それを表現した見事なシーンです。

ただ本作、見た目も表現方法も独特ですので、もしかしたら犬好きな人ほど敬遠されるかもしれません。無機質でクールでなんとなく薄気味悪い、そんな先入観を持たれるかもしれません。しかし、それで観ないとしたらとてつもなくもったいないです。主軸は弱き者達が団結して悪に立ち向かう王道ストーリーですし、ときおりまぶされる奇妙なユーモアもたまりません。黒澤映画やこの監督のことをよく知らなくても、十二分に楽しめる内容になっています。


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