goo blog サービス終了のお知らせ 

BIRDのブログ&ファンフィクション

タツノコプロの往年のアニメ「科学忍者隊ガッチャマン」の大ファンです。
この話題を中心に日常のことなどを綴ってみました。

火の鳥 その後 #6 ドクター・オーウェン

2017-03-05 17:17:58 | ファンフィクション


  #6   ドクター・オーウェン


「ドクター!」
夜勤のナースの上げた声に隣接する仮眠室で休息を取っていたドクター・オーウェンは部屋から飛び出して来た。
救出から一週間、意識が戻らずに深く眠り続けるばかりだった生存者に反応がある。
伸ばした手をナースに押さえられた彼はその手を振り解こうともがいた。
「君、まだ動いてはいけないよ」
ベッドに駆け寄ったドクター・オーウェンが宥めるように言いながら腕と肩を軽く押さえた。
「君、私の声が聞こえたら、ゆっくり眼を開けて」
小さく呻いた青年は落ち着いた声に励まされ、長い睫毛を震わせてそっと眼を開けた。
(綺麗な眼だな)
まじまじと自分を見つめる大きな青い瞳を注意深くのぞき込みながらドクターは言葉を続けた。
「よかった、気がついて。ここは難民キャンプの病院で、あなたは助かったんですよ」
「びょう…いん?」
奇跡的に火傷や重傷こそ負ってはいなかったが、火災に巻き込まれてさ迷ううちに煙を吸ったらしく
声がひどく掠れている。
「ドクターが診察しますから、起き上がらないでください」
さきほどの身動きで大きく揺れた点滴の具合をナースが確かめるのを見ながら、
脈拍や鼓動を確かめたドクター・オーウェンは意識を取り戻した青年に尋ねた。
「喉が痛みますか?」
凛々しく跳ねあがった眉を顰め、小さく頷いた彼にドクターは続けた。
「他に痛むところは?あなたの名前は?」
痛みを堪えている相手に気の毒ではあったが、カルテを作成する上で必要な問いかけに対して
さらに眉を寄せた青年に、ドクターはふと不安を覚えた。
それを裏付けるように彼は声もなく青い大きな眼を瞠って視線を宙に彷徨わせ、茫然とした
表情で長い睫毛を幾度も瞬かせた。
その様子に表情を引き締めたドクター・オーウェンが身元を訊ねる質問を重ねても、言葉を紡ぎだそうと
唇は小刻みに震えているが、青年は当惑したようにドクターに向かって首を振るばかりだった。


 「まあ、名前もわからないのですか?」
医務室に戻って来たドクター・オーウェンを迎えた別のナースが驚いて声を上げた。
「そうなんだ。もしかしたら頭を打っているのかもしれない。詳しい検査をしたいなあ」
医療器材の不足から行き届いた処置ができないのがもどかしくて、初老のドクターはデスクに向かい
カルテにペンを走らせながら嘆いた。
「それでしたら、ドクター・オーウェン、朗報ですわ」
「なんだい?」
カルテに書き込んでいた手を止めて、ドクター・オーウェンはナースを見上げた。
「生存者が見つかったので、医療機材や発電装置をこのキャンプに廻してもらえるそうです」
「えっ!ほんとうかい?」
ドクターは興奮のあまり立ち上がってしまった。
「ええ、先ほど国連からの通達がFAXでありました。確認していただけますか?」
「わかった。ありがとう」
ドクター・オーウェンは手渡されたFAXの用紙に目を走らせた。
「生存者2名って、君、生存者は彼1人だけだろう?」
不審そうな問いかけにナースが答えた。
「それが第三捜索隊が別のブロックでもう一人、生存者を発見したんです」
「なんだって?」
ドクター・オーウェンは驚いて声を上げた。
「こちらは女性で、まだ意識が戻らないそうですが」
ナースは痛ましそうに目を伏せる。
「そう…怪我はひどいの?」
「彼女はドクター・ガートナーが担当されているので、お訊ねになってください」
「うん、そうしよう。ありがとう」

火の鳥 その後 #5 母

2017-03-05 15:54:27 | ファンフィクション

 
  #5  母  


 健は閉じた瞼の向こうに光を感じ、辺りに満ちる芳しい香りに気がついた。
暖かい風が柔らかく頬を撫で、とても心地がよかった。
思い切って眼を開けてみた健は続いて身体を動かしかけ、もう長い間、自分の一部になってしまっている
慢性的な眩暈や激しい頭痛が急な身動きによって起こることを恐れて、また眼を閉じた。
予想に反していつもの痛みや眩暈は起こらず健は張り詰めていた息を吐き、今度はゆっくりと眼を開いてみて
自分が柔らかな草の上に横たわっていることに気がついた。
いつの間にかバードスタイルが解けている。健は驚いて左手首を見た。ブレスレットがない。
(外れたのか?)
「ここは何処だ?俺は…総裁Zと戦っていたのではないのか?」
思い切って長い脚と腕を伸ばし起き上がった健は、自分自身に言い聞かせるように声に出して呟いた。
辺りには見渡す限り薔薇の花があり、薔薇の花園では白、クリーム、ピンク、赤、オレンジ、黄色、ラベンダー、
深紅、あらゆる色の美しい薔薇が静かに芳香を漂わせ、花の香りを運んできた柔らかな風が零れんばかりに咲く
薔薇と彼の髪をまた揺すっていった。


「健…」
静けさの中で懐かしい声が呼び、健は振り向いた。
彼の後方、気品のある白薔薇が群生している先に大きな樫の木があり、大木が
伸ばす枝葉の下に小さな泉水が水を湛え、泉の中央に置かれた石造りの壷からあふれる水が
静かに流れ落ちていた。
その泉水の縁に白い服をつけたひとがこちらを向いて座っている。
長く裾を引くドレスを纏った女性はまるで翼を付けた天使が舞い上がろうと
するかのように優雅な仕草で立ち上がった。
すらりと背が高く長い髪を結い上げ、特徴的な美しい青い眼が健に微笑んだ。
健は息を呑み、小さく叫んだ。
「お母さん!」
立ち上がった母は微笑みながら、ほっそりした腕を彼に向って差し伸べた。
「ここへいらっしゃい、健。顔を見せてちょうだい」
優しい声に促された健は足元を確かめるように、母に向かって一歩、踏み出した。
「俺は…死んだのか?」

よろめくような足取りで歩み寄って来た彼を見上げる、青く澄んだ綺麗な瞳が潤んだ。
「健…大きくなって…こんなに大きくなって…」
母の声が震えほっそりした手が額に掛る髪をかき上げた。
「なんて立派になって――あの小さな健が世界を救うなんて」
茫然とする端整な顔を見つめながら母は微笑み、白い手で優しく頬を撫でた。
「世界を救った?俺が?」
声が掠れ、精神的な衝撃が健を貫いた。やがて襲ってくるであろう例の激しい痛みを
予感して、健はいつもするように苦痛を少しでも抑える為、固く眼を閉じて歯を喰い縛り、
母に苦痛を悟られないよう、頭の深部に奔る例の激しい痛みに耐えようとした。
と、拳の形にきつく握り締めた彼の指をほっそりした手が包み、激痛を紛らわせるために
その拳を押しつける額に柔らかな唇がそっと押し当てられた。
ふらついて倒れそうになった彼を抱き止め、全ての痛み、苦しみ、災いから我が子を
守ろうとする母の腕が健を引き寄せ、強く抱きしめた。
「健…」
白い頬が寄せられ健を抱きしめた懐かしい手が髪を撫で、戦慄く背中を静かに宥める。
心の底に長く沈んでいた寂しさ、恋しさを溶かすように母の温もりが優しく健を包んだ。
「お母さん…」


やがて、再び噴水の縁に腰を降ろした母に並んだ健は引き寄せられるまま、その胸に凭れかかった。
「健、長い間、独りで…」
いたわりを込めた声が潤み、白い指が彼の頬をつたう涙を拭いながら、嗚咽に震える
背をそっと撫でた。子供の時と同じように、優しい母に頬ずりされながら温かな胸に
抱かれていると、いつもいきなり襲って来る激しい頭痛や眩暈に対する不安や恐れと共に、
長く自分に付き纏っている痛みそのものがかき消すように去っていった。

ふと、濡れた睫毛が囲む大きな眼が母を見上げた。
「お母さん、お父さんも死んだんだ。お父さんはどこ?今度こそみんなで一緒にいられる?」
母は小さく頷いて微笑み、ほっそりした手でまた彼の髪にふれてその濡れた頬を静かに撫でた。
そして―― 母はゆっくりと首を横に振った。
「可愛い健、ここに居てはいけません」
「お母さん?」
健は母に向き直った。
母は静かに立ち上がった。
「健、まだ来る時ではありません」
「お母さん!」
跳ね起きた健は母を掴もうと手を伸ばした。
「いいえ、健、いけません」
寂しげに微笑みながらも母は優しく、だがきっぱりと健を遮った。
「いやだ!お母さん!もう、どこにも行かないで!」
健の頬を新たな涙が伝い、健を見つめる母の大きな青い眼にも涙があふれた。

「さあ、戻りなさい、健」
「お母さん!」
母を捉えようとした手は空を掴み、母の姿が遠ざかった。
「お母さん、行かないで!」
「健、またいつか…きっとね」
囁くような声を残し、母の姿は湧き出した霧の中に溶け込むように消えていった。
「お母さん!」
母を追いかけようと健は走り出たが、辺りを包むミルクのように濃い霧が白く輝きだし、
その眩しさに立ち竦んで健は眼を閉じた。

火の鳥 その後

2017-02-22 22:33:33 | ファンフィクション
#4  生存者


 「よかったなあ」
昼食後のひととき、捜索隊も医療班も今朝一番の朗報に喜びの声を上げていた。
「ドクター、彼は助かるんですよね?」
コーヒーの入ったマグカップを抱えて話に加わりに来た医療班のドクターに捜索隊の一人が心配そうに訊ねた。
「うん、衣服がズタズタに裂けていた上に居た場所で火災があったものだから、我々も覚悟していたんだが、
私が診た限りでは擦禍傷と打撲傷がいくつかあるだけで、火傷や骨折といった重い傷はなかったはずだよ」
多くの人が命を落とし、キャンプに収容されている人々の中にも重傷を負った者が珍しくない中、
グリッド捜査の手法に乗っ取った捜索を開始してからの奇跡ともいえる、初の生存者の発見は
死者を見ることが当たり前になっていた、捜索隊やドクターの表情を久しぶりに明るませた。
「早く意識が戻るといいですね」
「そうだね」
「主治医は誰なんですか?」
「ドクター・オーウェンが担当されているよ」
経験豊かなドクターで細胞学の専門家でもあり、難民キャンプでも医療の中心になっている、
ドクター・オーウェンなら…誰もが奇跡を願っていた。

 その頃、ドクター・パトリック・オーウェンは、落雷と山火事のあった丘陵付近で救出された生存者の
病室で眉を寄せていた。濃い焦げ茶の髪に縁どられた端整な顔に長い睫毛が影を落とす。
(肌の色からすると欧米系だろうか?)
朝一番に出発した捜索隊が大変な勢いで診察室に彼を運び込んで来た時は、生存者発見の朗報と
捜索隊の興奮も相まって、ドクター・オーウェンも舞い上がってしまった。
 だが、奇跡的に救出された生存者を捜索隊から引き継いで手当てにかかったものの、
診察した限りでは重篤な傷が見当たらず脈拍や呼吸も安定しているのに意識が戻らない。
(脳や内臓に損傷を受けているのかも知れないな)
一刻も早く詳しい検査をしたいが、検査用の機材がまったく足りず、応急処置以上の手当てが
出来ない現実に、昏々と眠り続ける彼を見守るドクター・オーウェンは焦燥感に駆られるばかりだった。

火の鳥 その後

2017-02-22 22:22:22 | ファンフィクション

    #3  捜索隊


 豪雨と雷鳴の一夜が明け、翌日は陽光も眩く晴れ上がった。
澄んだ朝の空気の中で、レンジャー、パラメディックらで構成される難民キャンプの捜索隊は
準備を整え、いつものように捜索活動に出発しようとしていた。
“総裁Zによる反物質小惑星と地球との衝突は科学忍者隊によって回避され、地球の脅威は去った”
国連本部からの公式発表をこのキャンプでも受信していた。
いまだ瓦礫の中に埋もれたままの死者も数知れず、生存者の発見や手の届いていない負傷者の救出を
目指しての捜索活動が世界各地で行われていた。
だが、日を追うごとに生存者の発見や負傷者の救出は減り、犠牲者、すなわち死者を収容することが
増えつつあった。

 山々も含めた捜索は地図を基に捜索範囲を碁盤目状(グリッド)の細かなブロックに分け、連日、
対象のブロックごとに念入りな捜索を行う、グリッド捜査の手法が採られていた。キャンプを出発した捜索隊は、
目的のブロックに向けてジープを走らせ、本日の捜索対象地に到着すると分散して、直ちに活動を開始した。
捜索ブロックの東側斜面から丘陵を担当したグループは、頂きに辿りつくまでもなく、
雨上がりの冷気の中に漂う、焼け焦げた臭いに心を重くしていた。生えている草が丘陵の中腹から
一面に黒く焼け焦げてなぎ倒されている。反物質小惑星の接近による天変地異でフェーン現象による
火災が起こった上に、昨夜の激しい雷でこのあたり一帯はさらに大きな被害を受けたらしい。
周囲は総てが焼け落ち、落雷を受けて幹の半ばから折れた木々は夜来の豪雨の名残を留め、
黒焦げの裂け目から水蒸気を盛んに白く吐き出して焼け焦げた大地はまだ熱を孕んでいた。

 草が焦げ木々も焼け落ちて、黒ずんだ色彩と鳥の声すらない死の静寂の中、誰もが反物質小惑星の
接近による破壊と立て続けに起こった森林火災の凄まじさに言葉を失っていた。
他の捜索隊と無線で状況を確認し合った後、次のブロックを捜索するため移動しようとしたその時、
同道していた災害救助犬に反応があって一同に緊張が走った。救助犬が緩い丘陵を駆け上がって行く。
「こっちだ!」
「応援を呼べ!」
「こちら、1-Gブロック!」
無線で交信する間も救助犬は力強くリードを引く。救助犬が立ち止まり吠えたてた。
広範囲に焼け焦げた黒い地面のほぼ中央に人が倒れている。驚きで一瞬、ざわめいた捜索隊は
救助犬をその場に留め、犬の声にも反応しない痛ましい火災の犠牲者を収容するために近付いていった。

「これは!」
「生存者がいたぞ!」
「パラメディック!」
パラメディックはもちろん、別のジープから駆け付けたレンジャーもその場の誰もが奇跡だと思った。
てっきり火災に巻き込まれた死者と思われたその青年は固く眼を閉じ、身に纏っている色合いが
ブルー系とおぼしきシャツは黒く煤けてあちこちが裂けており、かつては白地だったらしいスリムパンツや、
シャツと同系色のスニーカーの傷みようから、かなりの重傷が予想された。
意識を失ってはいたが、身体は温かく脈拍呼吸とも微弱ながら正常だった。
火災に追われて山中を逃げ惑ううち、炎に囲まれてついに身動きができなくなり、
焼死する寸前に昨夜の豪雨が消火の役目を果たして奇跡的に助かったのだろう、と推測された。
夜通しの雨に打たれはしたものの、火災の名残をとどめて熱さの残る大地が彼の体温を保ってくれたらしい。

 生存者の発見に喜びを隠せない一同が見守る中、パラメディックが施した処置が功を奏したのか、
青年は微かに呻いて薄っすらとその目蓋を開いた。
「君!聞えるか!?」
「しっかりするんだ!」
呼びかけが届いたのか青年は声の方に顔を向けようとしたが、相手を認める前に
乱れた焦げ茶の長い髪がガクンと仰け反った。
「あっ!」
「ボードを置け!」
「行くぞ、1・2・3!」
捜索隊は再び意識を失った彼をバックボードに移し、エマージェンシーブランケットで
包んだ身体をベルトで固定した。多くの力強い手がボードをジープに運び込む。
「急げっ!」
生存者を収容した捜索隊は山裾にある難民キャンプに向かって、全速力で引き返して行った。

火の鳥 その後

2017-02-19 20:56:10 | ファンフィクション
   #2  その夜


 世界のいたるところで街を焼き尽くす勢いの火災が起き、フェーン現象や落雷による山火事や森林火災も
発生していた。火災は規模が拡大するにつれ、人々の手に負えなくなり、消火の術がないように思われたが、
大規模火災による激しい上昇気流が上空で積乱雲を形成した結果、地上に急激な豪雨をもたらし、
少しずつ火勢は衰えの兆しを見せ始めていた。
『反物質小惑星との衝突は科学忍者隊のおかげで回避され、地球の危機は去った』このニュースが
世界中を駆け巡る頃にはギャラクターによる反物質小惑星の接近で、破壊の限りを尽された各地の
災害はようやく終息に向かいつつあった。
破壊と恐怖の中を生き延びたものの多くの人々が家や家族、友人を失い、心にも身体にも傷を負って
難民と化し世界各地のキャンプ、シェルターに収容されていた。

 地球の危機が去ったその夜、地上の荒廃とは無縁の煌めく星々を抱いた夜空が不意に眩い光に満ちて、
輝き始めた。遥か上空より炎に包まれた大きな美しい鳥が現れ、辺りを圧する叫び声を響かせ山脈が
囲む渓谷を翼を広げて飛翔した。
大災害を辛うじて生き残った野生動物たちは巨大な火の鳥の出現に驚き、長く尾を引く力強い叫び声に
身を竦ませて一目散に巣穴へ掛け戻った。
 火の鳥が翼を広げた夜、山脈全体に天を引き裂くような稲妻が幾筋も奔り、雷鳴が轟いて激しい雨が
渓谷と大地を叩いた。目の眩むような雷光と耳を劈く轟音、辺りを白く煙らせ一寸先も見えない豪雨と
雷鳴に山裾にある難民キャンプに収容された人々は、科学忍者隊の決死の活躍によって退けたはずの
悪魔の再臨かと怯え、震えながらその夜を過ごした。