Civilian Watchdog in Japan-IT security and privacy law-

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米国REAL ID ACT に基づくカード標準化とSSNのプライバシー保護強化立法の動き

2006-04-15 13:47:34 | 国民IDカード・認証技術問題

 Last Updated:March 12,2021

 米国は従来、EU各国と異なり国家レベルの法律に基づく身分証明書の考え方を強く否定してきた。1936年に収入を記録し、それに応じた社会保障給付が受けられ、雇用者が従業員に関するそれらの事務を管理するための識別キーとしてSSN(社会保障番号)カードが発行されたのがSSNの始まりである。このような限定された目的が、その後連邦や州の機関へ利用が拡大し、1970年代の急速なコンピュータ処理化と相俟って9桁の数字がまさに個人識別番号として、明確な利用制限等についての法律的根拠を持たないまま拡大したのである。その後も不法就労、低所得者医療扶助、福祉詐欺の防止、婚姻許可、死亡証明等多くの公共・行政分野への広がりを見せている。

 これと平行して、民間部門の利用制限は連邦法による利用制限がなかったことから、コンピュータ技術を活用した膨大な個人情報の収集をもとにデータ・ブローカー(実態は信用情報業者の場合がほとんどである)による検索・照合サービスのキーとしての利用が進んだのである。 

 しかし、一方でSSNなどの個人情報を違法に入手し、偽名、偽造文書の作成、金融取引の悪用等なりすまし詐欺(Identity Theft)被害の問題が大きな社会問題となってきつつあった。このような中、2001年9月11日国際テロ事件が起き、改めて市民・非市民の区別の明確化(移民問題)、出生証明や雇用管理におけるSSNの管理システムの強化が図られることとなり、SSNとなりすまし対策に関する法案もこの数年間で連邦議会に毎回のように提案されており、他方で州ベースではSSNの利用制限立法が多くなってきている点も見逃せない。(筆者注1)

 このような中で、2005年1月26日下院議会F .James Sensenbrenner Jr.氏は、「REAL ID Act of 2005(H.R.418)」法案を上程した。

 

F. James Sensenbrenner, Jr.

F .James Sensenbrenner Jr.氏

法案H.R.418の連邦議会の法案管理サイト(Congress. Gov.)(https://www.congress.gov/bill/109th-congress/house-bill/418)や法案追跡サイト(Govtrack)(https://www.govtrack.us/congress/bills/109/hr418)にあるとおり、2005年2月10日下院で賛成261、反対161、棄権11で可決したものの、上院では2005年2月17日第二読会や司法委員会までその後は審議されていない。廃案になっている。

 しかし、同法案自体重要な法整備の在り方を提起していることは間違いない。以下でその概要を取り上げる。

 同法の運営主体は、連邦・国土安全保障省(DHS)や州であり連邦主導型の施策をとっており、(1)運転免許証と(2)国民IDカードの2本は柱で構成されているが、主たる部分は後者といえよう。州の役割はDHS基準に適合したIDカードの発行であり、施行後はじめの3年間は連邦政府機関は202条に定めるIDカードの最低基準(記録項目)を満たさない場合は受け付けないなどが条文上明記されている。(筆者注2)

 以上、この問題を取り上げた背景には、わが国が本格的に取り組もうとしている電子政府、電子自治体やさらに重要な点は、これらの運用の厳格化のための新たな個人識別システムの構築である。先般英国で成立した「国民IDカード法」をはじめ欧州諸国、香港、マレーシア、シンガポール、韓国等はすでにIDカードシステムを運用済であり、わが国が従来是としてきた単一民族者社会自体すなわち「人的なりすまし」はありえないという考え方自身も見直すべき時期に来ているといえる。
 個人認証のあり方については、金融取引の厳格性確保(金融詐欺阻止)の観点から、民間金融機関における「生体認証技術」が優先的に導入されているが、このようなメーカー依存型ではない、人権保護に配意しつつも、これからのIT社会の個人識別制度のあり方を含む、少なくとも官民一体となった整合性のある取組みが今求められているといえよう。

 なお、この問題を論じるには、①米国におけるSSNの利用拡大の歴史的経緯と問題点、②なりすまし対策をめぐる州ベースにおける制限立法の内容に触れざるを得ないが、機会を見て改めて紹介する。特に、SSNとなりすまし阻止問題について、連邦議会への発言・証言を行ってきている連邦議会行政監査局(GAO) (筆者注3)EPIC(Electronic Privacy Foundation Center)の論じている内容を中心に比較、紹介する予定である。

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(筆者注1)EPICが2004年9月に連邦議会「エネルギー・商務委員会:商業・取引・消費者保護小委員会」で行った証言のURL:http://www.epic.org/privacy/ssn/ssntestimony9.28.04.html

(筆者注2) REAL ID Act of 2005の条文内容のURL:http://thomas.loc.gov/cgi-bin/query/D?c109:3:./temp/~c1091HCnqv::
なお、同法案は関連法案である「防衛にかかる緊急エネルギー供給の適正化、テロ行為による世界戦争及び津波救済に関する法律(Emergency Supplemental Appropriations Act for Defense,the Global War on Terror,and Tsunami Relief,2005:Public Law 109-13)」のDivision Bとして最終的に添付された。PL109-13の内容は以下のURLを参照。
   http://www.theorator.com/bills109/hr1268.html

(筆者注3) GAOのSSNに関する最新の議会報告としては、連邦議会下院の小委員会で行った証言(testimony)がある。
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