筆者の手元にオーストラリア情報保護委員会事務局(Office of the Australian Information Commissioner:OAIC)のFAQ形式のレポートが届いた。その内容は大臣あての直接公文書の公開請求および不服に関するOAICの対応等についてである。
筆者は、まず(1) OAICのFAQ内容を仮訳し、次に(2)わが国の情報公開法の運用に関するオーストラリアとの比較、すなわち、(ⅰ)わが国では大臣への直接公文書の公開請求はなしうるのか、(ⅱ)公開拒否決定に対する不服制度の制約、さらには(ⅲ)不服問題を審査する「情報公開・個人情報保護審査会]の委員構成等について問題提起するものである。
Australian Information Commissioner and Privacy Commissioner – Angelene Falk氏
1.大臣(minister)が保有する公文書の公開請求権に関するFAQ
(1) 国民等は大臣の公文書書類にアクセスできるか?
はい、できる。
オーストラリアの「1982年情報公開法(Freedom of Information Act 1982::FOI 法) 」は、文書が公開開示から除外されない限り、すべての国民に「大臣の公式文書」にアクセスする法的に執行可能な権利を与える。
同法にいう「文書」という用語はFOI法では広く定義されており、(ⅰ)書面、(ⅱ)地図、(ⅲ)図面、(ⅳ)写真、(ⅴ)録音、(ⅵ)フィルム、(ⅶ)ビデオ映像、(ⅷ)モバイルデバイスやメッセージングアプリケーション上のメッセージ、(ⅸ)マイクロフィルム、(ⅹ)電子計算機用磁気テープ(computer tapes)、ディスク、DVD、ポータブル・ハード・ドライブに保存されている情報を含むが、これらに限定されない。
FOI法では、FOI請求を行う時点で存在する文書のみを要求することができる。ただし、公開請求後に作成された「文書」を求めることはできない。
(2)大臣の公文書とはどのようなものを意味するのか。
大臣の公式文書とは、機関の事務に関連する大臣の所有物の文書である。「所有(Possession)」には、大臣室に保管されている文書や、大臣が保有する権利がある文書を含めることができる。この文書は、個人的なデバイス上にある場合でも、大臣の公式文書である可能性がある。
「大臣の所管機関の事務に関連する」とは、文書が大臣の国務大臣としての責任( minister’s portfolio responsibilities )または機関の活動内の事項に関連しなければならないことを意味する広範な用語である。
(3)FOI法でみる大臣の公式文書ではないものとは何か?
FOI法では、以下のような機関の事務に関係のない大臣が保有する文書にアクセスすることはできない。
①大臣またはその事務方職員の個人的な文書
②政党の政治的性質をもつ文書
③大臣の国務大臣としての責任を扱わない地方国会議員として大臣の権限で保持されている文書
④文書の内容と、それが作成または保持されるコンテキストは、それが大臣の公式文書であるかどうかを判断する上で重要である。
(4)大臣は私のFOI要求をどのように処理するのか?
閣僚大臣はFOI法の目的でポートフォリオ部門から独立しており、彼ら(またはそのスタッフ)は彼らに対して行われたFOI請求を処理する責任がある。
しかし、時として関係部門が大臣に対して行われたFOI請求の処理を支援を提供することがある。たとえば、リソースを共有する場合(たとえば、閣僚通信を保存するためのリソース)、「文書」を検索することができる。
大臣が保有する公文書と部門が保有する文書との間には、何らかの交叉があるかもしれない。時には、文書の主題が部門の機能とより密接に関連している場合、大臣に対するFOI請求を当該部門に移すことができる。
FOI法は、大臣があなたの要求を解釈する際に合理的なアプローチを採用することを要求する。あなたの要求が大臣の公文書である場合、大臣はあなたが求めた公文書を見つけるために「すべての合理的な措置」を取らなければならない。すべての合理的な措置を講じ、大臣が文書が存在しないことを満した場合、彼らはあなたのFOI請求を拒否することができる。
(5) 新しい大臣がいたら公開請求はどうなるか。
FOI法は、大臣が所有する公文書にアクセスする権利を与える。新しい大臣が任命された場合、いくつかの文書は、元大臣から新しい大臣に転送される。しかし、すべての文書が新しい大臣に移されるわけではない。一部の文書はオーストラリア国立公文書館(National Archives of Australia)に移管され、他の文書は破棄される可能性がある。。
新しい大臣があなたが求めた文書を保持していない場合、当該文書はもはや大臣の所有物ではなく、したがって大臣の公文書ではないので、あなたのFOI請求を拒否することができる。
国立公文書館の一般記録局38( General Records Authority 38) は、閣僚日誌を含むすべての閣僚記録に適用される。この記録局は、「国立公文書館として保持する」ステータスの文書を保管のために国立公文書館に転送することを要求し、大臣がオフィスを離れるときに他の文書を破壊することを可能にする。一般記録局38の保管情報は、国立公文書館のウェブサイト(www.naa.gov.au)で入手できる。
(6) 国民の情報コミッショナーに対する審査請求権とその審査の仕組みは如何?
FOI請求に応じて行われた決定に同意しない場合、大臣の決定を見直すよう情報コミッショナー(OI)に審査(review)を依頼することができる。ただし、大臣の決定の内部審査の内容を求めることはできない。。
情報コミッショナーによる審査(IC審査)の申請に関する情報は、オーストラリア情報コミッショナーのウェブサイト(Information Commissioner review) にある。
大臣がIC審査の当事者であり、レビューの過程で大臣の変更がある場合、要求された文書が新しい大臣を所有している場合、新しい大臣が回答者になる。
要求された文書が新大臣の所有物でない場合、FOI法は適用されず、IC審査はもはや大臣の公式文書ではないので、IC審査を継続することはできない。
2.わが国における情報公開の運用とりわけ大臣への直接請求、決定内容に不服がある場合の審査機関及び根拠規定ならびに情報公開・個人情報保護審査会委員の専門性に関する疑問
平成十一(1999)年法律第四十二号
以下の内容は主に総務省サイトから引用した。
(1)公開請求の宛先は?
「行政文書開示請求書」(裏面)
<記載に当たっての注意事項>
1 宛て名について
内閣官房では、情報公開に係る権限及び事務を内閣総理大臣の下部機関の長に委任しております。したがって、開示請求書の宛て名は別紙から適当な者を記載して下さい。
以上から見る限り、オーストラリアのように新旧大臣位への直接請求はありえない、各省庁の事務方ににぎりつぶされ、大臣は国会で「聞いていないという答弁」で終わるのである。
(2)決定の内容に不服時の対処の仕方
Q10.決定の内容に不服があるときはどうすればいいのですか?
A10:開示決定等に不服があるときは、行政不服審査法令の規定により、その決定があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に、当該開示決定等をした各行政機関の長が経済産業大臣、資源エネルギー庁長官、特許庁長官又は中小企業庁長官である場合、これらの長宛てに審査請求を行うことができます。電力・ガス取引監視等委員会事務局長及び地方支分部局の長による開示決定等に不服があるときは、その上級行政庁である経済産業大臣宛てに審査請求を行うことができます。
審査請求を受けた上記の各行政機関の長は、情報公開法の規定により、原則、総務省情報公開・個人情報保護審査会に当該開示決定等の妥当性について諮問し、その答申を踏まえて裁決することになります。ただし、審査請求を受けた行政機関の長が審査請求が不適法である、又は審査請求の内容を全部認容すると判断した場合、情報公開・個人情報保護審査会に諮問することなく、却下又は認容の裁決を行うこととなります
(総務省情報公開制度サイトから抜粋)
(3)情報公開・個人情報保護審査会委員の人選
委員名簿にもとづき委員15名の専門分野を調べてみた。以下のとおりである。
(敬称略)
裁判官や検察官のOBや公認会計士、専門分野が不明の弁護士1人を除く学者はすべて公法、行政法の専門家である。かろうじて弁護士の佐藤郁美氏が情報保護を専門分野に挙げているのみである。
オーストラリアのIC(Information Commissioner )が個人情報保護法に則った人権保護の解釈、運用を行っている点と比較するとわが国の委員の顔ぶれは「個人情報保護審査会」いう看板を掲げるには極めて理解し難いと考えるのは筆者だけではあるまい。
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