プロローグ
〔本ブログの開設理由とネーミング“Foreign Media Analyst”の裏話について〕
インターネットを含むIT技術の飛躍的向上によりわが国でも世界中の情報の入手が可能となった。しかし、わが国のメディアやいわゆる民間の総研や公的調査機関および大学などの公開情報(Open Source Intelligence ;OSNT)を読む限りにおいて「ブログの概要」に掲げてとおり正確性、専門性や最新性の3条件を満たすものがどれだけあるであろうか。
政治や社会問題に加え、金融、社会保障、技術、人権、情報ネットワーク社会など(note 1)に関する新聞や上記団体のウェブサイト記事などを素材としてその批判を試みるだけでなく、3条件の満たすべく新しいタイプのビジネス・ブログの構築を目指すものである。
また、私自身米国やオーストリアの人権擁護や議会への働きかけを目標とする積極的なディスカッション・グループのメンバー間の議論を日々読んでいる関係から、まさに正確な情報に基づく積極的議論の場として活用していただきたいと考える。
なお、“Foreign Media Analyst”と言う用語は防諜関係の人であればピンと来るであろうが、米国中央情報局(Central Intelligence Agency;CIA)の採用情報サイトで公開情報専門オフィサー(Open Source Officer;OSO)の別名として使われている。OSOの任務とするところは、外国語や当該地域に関する専門知識を駆使して、インターネットのサイト、新聞、通信社、テレビ、ラジオなどの幅広い海外情報をもとに影響度の高い最新情報を米国の外交問題関係者に提供することとされている。さらに外国のメディアにつき傾向やパターンの特定や分析結果を報告書としてまとめる能力も求められている。
筆者自身CIAとはまったく関係ない身であるが、当初考えていた“Media Watchdog”や“News Watchdog”といったジャーナリズムのあり方や中立性を意図したものよりは意味において正確であろうと考えた次第である。
2.いいかげんと思う例
本論に入る。わが国で頻繁に紹介されとりわけ海外の政治、経済やIT関連分野に強いメディアとして“CNET”、“ZDnet”の記事を読まれる方も多かろう。しかし、元となる原稿自体は当該国の読者向けに原稿を書いているから(さらに一定の専門知識レベルの読者である)法律自身や制度そのものの説明(特に法律の規定内容等)はほとんど省略されている。したがって、わが国の読者は「一体何をいっているの?もうちょっときちんと説明してよ!」といったストレスを感じる場合も多かろう。
筆者がたまたま読んだ記事で、具体的な問題点を挙げる。約3年前の記事であるが原文にも当った上での批判である(note2)。異論があればあらためて指摘していただきたい。なお、ニュースであり時間との勝負で解説をまとめる時間的余裕はない点は一応理解できる。しかし、筆者はこのブログ原稿を2時間で書いている(今回取り上げたCNETの記事は1日遅れで翻訳・公開している)。
(1)“Part 3 of the Regulation of Investigatory Powers Act”:
同法の名称を「捜査権限規制法」と訳しているのは問題ないが(正確には法律名は“the Regulation of Investigatory Powers Act 2000”である)“Part3”を第3章と訳すのは誤りである。同法の原文を見てみる。原文を見るにはOPSIサイトで検索するか内務省サイトから検索するのが効率的である。同法はパート、章、条からなる。ここで問題となっているパートⅢ(Investigation of electronic data protected by encryption etc.)49条以下すなわち、暗号化による保護されたデータの捜査権限(国家の安全保障等の目的で一定の暗号化されたデータについて警察が開示請求させる権限)に関するところである。第3章ではどのパートの3章なのかも分からず読者は調べることを放棄してしまうであろう。さらに重要な問題だけに本パート56条では人権侵害等が生じないよう定義の明確化を図っている。
(2)暗号キー:
同法56条は解釈規定であり、そこに本法に定める「キー」とは、「キー」以外の「コード」「パスワード」「アルゴリズム(コンピュータを使ってある特定の目的を達成するための処理手順)」その他電子データへのアクセスに関するものと規定されているが、その説明がぬけている。パートⅢの標題の最後に“etc”を使っている所以である。
(3)キーの開示を拒否した者に対する罰則:
「2年以下の懲役」というのは誤りである。原文は“two years of imprisonment”である。英国や米国の法律でいう“imprisonment”は「禁錮刑」または「拘禁刑」である。わが国の「懲役刑」に比較的類似する「重禁錮刑(imprisonment with hard labor)」もあるが一般的でない。
また、罰則の規定53条(5)項は「2年以下の禁錮刑または罰金刑(併科もある)」と定める。原文のとおり訳したではすまない。内務省サイトで条文に当るくらいは当然であろう。
(4)現行の反テロ法:
英国ではテロ対策法(Anti-Terrorism Act)は複数あり、2000年以降、頻繁に立法や改正等が行われている。5つの法律があり、1つ目が2000年9月24日施行の”the Regulation of Investigatory Powers Act 2000”、 2つ目が2001年2月19日施行の“the Terrorism Act 2000”、3つ目が2002年1月7日施行の“Anti-terrorism Crime and Security Act 2001”、4つ目が2005年3月11日施行の“Prevention of Terrorism Act 2005”、5つ目が2006年4月13日施行の“Terrorism Act 2006”である。このように2001年9月11日テロ攻撃を受けて疑わしい活動への捜査権の強化に伴う緊急立法等が相次いだ。では原文に言う“Under current antiterrorism legislation”とはどの法律を言うのか。記事が書かれたのが2006年5月18日であるから“Terrorism Act 2006”に刑罰の規定があるのか。
実はCNETの原文に書かれている「5年の以下の懲役(禁錮が正しい)が科される」と言うのは“Terrorism Act 2006”15条(2)項で”the Regulation of Investigatory Powers Act 2000”53条の最高刑について国家の安全保障に関する開示義務違反の場合は、最高5年以下の禁錮刑(それ以外の場合は2年以下である)が科される、というのが正しい説明である。
(5)ケンブリッジ大学のセキュリテイ専門家のRichard Clayton氏の発言:
「国際銀行」の原文は“international bankers ”である。こんな銀行名はない。原文が言いたいのは「英国に支店を構えるような国際的な業務展開を行っている銀行」である。
(6)内務省関係者がいう「協議中(原文は“in consultation”)」:
誰が誰に対して協議をしているのか:かいもく分からないのである。これは正確に言うと内務省は当時、警察に暗号化キーの提供を義務付けるという運用が警察の実践規範(Code of Practice)として的確かどうかにつき広くパブリックコメントを求めていたのである。その結果を受けて2007年10月に“the Regulation of Investigatory Powers Act 2000”のパート3を施行するということなのである。
以上、主な問題点のみピックアップしたが、項目(6)のレベルまでは要求しないが、冒頭述べたとおり、3条件をクリアーできるブログを目指したい。
(note 1) 筆者が従来から関心を持っている課題に「情報公開法」の運用問題がある。内外の動向も含め機会を改めて意見を述べたい。
(note 2)ウェブサイトも含め最新かつ適切なビジネス英和辞書がないことも誤訳が多い1つの理由であろう。特に筆者も日頃苦労している点であるが、①海外の“Law Dictionary”でも法律用語自体の定義がきちんとされていないこと、②法制度の違いからわが国で制度における適切な訳語が当てはまらない場合が多く、どうしても「意訳」や比較法的な補足説明が欠かせない。法律は生き物である。日々変化する。
〔参照URL〕
http://japan.cnet.com/news/sec/story/0,2000056024,20117347,00.htm
http://news.cnet.com/British-legislation-to-enforce-encryption-key-disclosure/2100-7348_3-6073654.html?tag=mncol
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