Entrance for Studies in Finance

日航の更生計画案提出(2010年8月31日)

Hiroshi Fukumitsu

日本航空が会社更生法適用の申請(2010年1月19日)をして更生計画案を提出する(2010年8月31日)まで。
 2010年1月15日 日本航空が1月19日に会社更生法を申請し、その後直ちに企業再生機構(半官半民 財務省の100%出資)が支援決定する日程(プレパッケージ型=事前調整型)が正式に政府決定された。同日JAL労組が企業年金減額受け入れを決議したこととあわせて、日本航空が法的整理に向かうことが最終的に固まった。法的整理になったことで、再建途上で必要な資金の手当てを含め、政府が重い責任を一方的に負っている。政府としては再建計画を軌道に乗せて、民間銀行に再び協力を求めたいところ。しかし日本航空の再建が成功するかは不透明であり、民間金融機関は慎重な姿勢を崩していない。民間金融機関の慎重な姿勢は更生計画案がほぼまとまった2010年7月末に至っても変わらなかった。
 なお更生計画の作成ができるまでの資金をどうするかが焦点だったが、まず機構は日航の信用不安を回避する観点から、3000億円規模の出資をするとともに、一般商取引の債権(ジェット燃料など 運航への影響に配慮)を全面的に保護した。また日本政策投資銀行は1月15日に融資枠2000億円のうち残りの1450億円の融資の実行を発表。日本政策投資銀行では支援決定後総額6000億円規模に上る破たん企業向け融資DIP(debtor in possession)ファイナンスの枠を設けた(政策投資銀行2000億円 支援機構4000億円)。政策銀行の融資については、政府保証をつけないものの支援機構が5割について返済保証を付けた。
*DIP(debtor in possession)ファイナンスは本来は旧経営陣の続投させてファイナンスするという意味だが、今回の日本航空のケースの場合は、支援の枠組みが確定したところで現経営陣が退陣することが決まっていた。

 2010年に入ってからの政府(民主党政権)の動きは日本航空の法的整理を前提にしたものだった。
 1月3日(日) 管直人副総理、前原国土交通相などが協議して日本政策投資銀行の融資枠(CL)を1000億円(550億円を使用済み)から2000億円に引き上げ(いずれも政府保証はつけない)を申し合わせ(1450億円は3月末までの運転資金を十分まかなえる大きさ)。
 1月6日(水) 藤井裕久財務相が体調を理由に辞任(日航向け出資・融資に対する政府保証で菅直人副総理と対立し保証見送りを公表09年12月22日 官邸内の国民負担に国民の理解は得られないとの批判に財務省側を代表して抵抗し辞任へ)。後任には菅直人副総理兼国家戦略相。
 1月8日(金) 日本政府が日航再建で会社更生法活用の方針固める
 1月9日(土) 政府は日航CEOに稲盛和夫氏(京セラ名誉会長)に就任を要請 西松遥社長ら現役役員の大半は機構の支援決定を機に退任することになった。
 1月12日(火) 前原誠司国土交通相がメガバンク3行首脳に協力を正式要請。
 当時示された枠組みは、まず日本航空が1万人強のリストラを実施(3年で1万3000人:その後の数字では1万5000人の削減)。国内外で26路線の追加削減(その後の数字では国際で13、国内で12の計25路線を廃止)。2010年3月期についてはリストラと機材の償却で1兆円強(1兆2300億円)の最終損失。結果として2010年3月期の債務超過見込みは8000億円強(8400億円)。
 これに対して支援機構としては100%減資(上場廃止)で株主責任の明確化することを前提に、日航に3000億円出資(機構は3年以内に保有株を売却して投資を回収する方針)。日本政策投資銀行は3メガバンクなどに3500億円の債権放棄要請(有利子債務8000億円超の削減 私的整理では無担保債権の3000億円程度しか債権放棄できない。法的整理に踏み込む背景は担保付き債権の放棄を促す点にある。)する代わりに融資枠を用意するというもの。社債や退職金など債権カットは7000億円を超えた(7300億円)。
 最大の債権をかかえる日本政策投資銀行(ー財務省)は再建を成功させるため、法的整理案を主張した(財務省は最終的な国民負担の拡大を懸念したとしたが、財務省の権益ポストでもある日本政策投資銀行を守るためとも批判された)。
 日本航空(ー国土交通省)は風評被害などを懸念して私的整理案を希望した。→民間銀行は法的整理案に応じる代わりに会社更生法適用期間中の融資に応じないとした。法的整理は民間銀行にとり債権放棄の拡大のほか、普通株の無価値化、追加出資の優先株などの保有資産の毀損につながる(日本航空は2006年7月に普通株公募増資約1380億円。2008年3月には優先株第3者割当増資で約1500億円を調達している。こうした協力先が損失計上を迫られる。また2006年7月の公募増資の主幹事をつとめた、みずほ証券は売却した普通株の無価値化という事態に顧客に対して主幹事証券として重い責任があった)。
  
1月12日(火) 前原誠司国土交通相が日航株の100%減資に言及。
1月12日(火) 日本航空 現役社員や退職者との企業年金減額交渉成立を公表
1月13日(水) 最高経営責任者に京セラの稲盛和夫名誉会長(77)の就任が固まった。
1月13日(水) 企業再生機構は、日本航空が会社更生法の適用を申請しても、顧客の航空券、マイレージや燃料取引、機体のリースなどを含む一般債権などを全面的に保護すると正式に発表した。この発表は、内外の運航を継続するために、顧客や取引先の混乱を抑えることを目的として、再建計画の一部を支援決定の前に異例の公開に踏み切ったもの。
1月14日(木) 金融機関の債権放棄額が、日本政策投資銀行が1500億円弱。3メガバンクは合計で1000億円程度(みずほと三菱東京UFJが450億円程度、三井住友が150億円程度;三井住友は全日空のメインバンクであり、日航支援の意思はない)。
1月15日(金) 日本航空最大労組のJAL労組が、企業年金(年4.5%の予定利率前提にしたものを1.5%程度に下げる方針)の減額受け入れを決議(1月12日までに日本航空は現役社員、退職者の3分の2以上の同意をとりつけている)。減額により、受取額は加重平均でOB(約9000人)で3割、現役社員(約1万6000人)は5割減るとされる。減額についての説得の根拠は、法的整理に至った場合、残っている年金資産を分配すれば、提案額より減額は大きくなるというもの
 またこれにより積立不足額2400億円は1000億円程度に減少するが1000億円不足額がまだあるとされる。この1000億円の負担の調整はまだできていないという大きな問題がある。
1月19日 会社更生法の適用申請
1月月次 営業赤字続く

 なお日本航空の経営スタイルはhub and spokeといわれるもの。機体としては小型機と大型機の組み合わせ。そのため機体の種類が増えて高コスト体質を生む。いま利益を出している航空会社はpoint-to-point といわれる新興勢力。小型機で地方空港間を結ぶ。LCCとも呼ばれ機体の種類を絞り込み、経費を抑え低価格で顧客の支持を広げるのが特徴。なおLCCとはlow cost carrierのこと。以上の点は、日本国内についても、日本航空や全日空など大手航空会社が苦戦するなか、スカイマーク*、エアドウ、スカイネットアジア、スターフライヤーなど新興航空会社が不況下で営業黒字(09/07-09)を計上したことでも確認される。機材の絞り込み、小さな本社機能、燃料の値下がり、旅客の価格志向などが新興勢力に有利に働いているとみられる。
 *スカイマークはその後安全管理で問題を起こす。収益性と安全性の対立といえばそれまでだが、問題を起こしたのは西久保社長、井出会長など経営トップ自身。経営トップが乗務員交代との機長の判断に直接介入して、同意しない機長を交代させて就航させたというもの(2010年2月5日午後の羽田福岡便)。少ない人員でやりくりしている事情は理解できるものの航空法、運航規定などに違反し同情の余地はないのではない。国土交通省を悪物にするのはどうかと思われる(cf.『エコノミスト』2010年5月11日号, pp.12-13)。
 ⇒LCC(格安航空会社)

更生計画案提出まで(2010年8月までの展開)
その後2010年2月9日までに、2月1日に会長に就任した稲盛和夫氏の判断もあり、日本航空はこの間、2009年夏に国土交通省から話がでていたデルタ航空(スカイチーム)との提携(路線の効率化図れる? システム変更に時間かかる 独占法適用除外認められない可能性あり)ではなく、アメリカン航空(ワンワールド)との提携を維持する(米独占禁止法適用除外取得して路線統合へ)ことを正式に決めた(英BAや豪カンタス航空とも提携強化へ)。
2月
 2月17日 従業員給与5%引き下げ 年間一時金の支給見送りを8労働組合に提案
 2月18日 企業年金の減額に向けた制度改定を厚生労働省に申請
 2月20日 上場廃止(終値1円)
 2月月次 営業赤字続く
3月
 3月1日 早期退職2700人募集へ。
 3月2日 日本郵船との航空貨物事業統合断念(吸収合併提案を日本郵船が採算を理由に拒否)
 3月9日 早期退職を一般社員に拡大 
 3月13日 老朽機49機 大手商社や海外リース会社に売却打診
 3月16日 早期退職(グループ全社員約5万1800人の5%約2700人を削減)の対象をパイロットに広げる
3月17日 2011年度新卒採用は見送りが濃厚
 3月25日 貨物専用便撤退へ(現在は貨物専用機10機保有 海外17路線で定期便を自社運航)→ 専用機は売却あるいはリース会社へ返却
 3月月次  営業黒字を回復
4月
 4月6日  リストラ案概要(3月末に企業再生支援機構と日航が作成)明らかに グループ5万人の3分の1にあたる1万6452人の人員削減を2010年度末までに(当初3年間を予定したが前倒し) 10月以降に国際線16路線 国内線31路線から撤退 
 4月16日 日本航空による地方空港路線削減計画に対し16都県の代表者が民主党に対して路線存続の要望書を提出
 4月26日 16都県の代表者 民主党 日航本社 国土交通省回り 日航が10月以降に計画する国内路線廃止撤回迫る
 4月28日 新再生計画発表 2万人強の人員削減(整備部門の一部を外部委託など)
2010年度末までに国内30 国際15 合計45路線廃止(08年度比で国際線で4割 国内線で3割の縮小)
 4月月次 ふたたび営業赤字に転落
5月
 5月28日 ホテル運営子会社JALホテルズ(内外のホテルの受託運営)をホテルオークラに売却で最終調整(50-60億円)
6月
 6月4日 グループ約5万人の1割強のおよそ6000人の削減にメド。2010年度中に1万6400人を削減する
 6月10日 日本航空 機内食や物流事業の子会社などグループ14社を2010年度中に外部に売却・譲渡する方針固める 連結売上高は減るものの人員削減効果は大きい 約3770人の人員削減。売却益はリストラ費用にあてる。
 6月14日までに 日本航空 一時金の補てんとして検討していた再生協力金の支給見送り決定
 6月17日 パイロット部門で2年間で70億円のコスト削減
 6月17日 金融支援積み増し→リストラ強化がリストラ費用につながる 機材処理や退職費用など
 固定費圧縮して初年度から営業黒字目指す(いわゆるV字回復)
●国内外45路線からの撤退
●約1万6000人の人員削減
●燃費の悪い老朽航空機の全機退役(海外航空会社と売却交渉中)
 6月25日 約1万6000人の人員削減計画 契約派遣1886名を雇止めに 2010年度の連結ベースの人件費を2009年度比28%減の2763億円まで削減。
6月28日 日本航空 60歳以上の定年退職者の再雇用制度を当面凍結方針固める(事業規模縮小により就業機会提供は困難に)
7月
 7月1日  日本航空が銀行団に求めた追加支援策の全容が報道される
○銀行団に債権カット額 5000億円から5400億円に積み増し要求 →銀行団が強く反発
 カット率83%を90%に引き上げ(保有航空機の評価損が膨らんだため)
○企業再生支援機構に出資額 3000億円から3500億円に積み増し要求
○運転資金3600億円の新規融資要請(1月時点の5000億円から引き下げ)
今後航空機の購入資金も必要 
 7月23日 固まった更生計画案の内容が報道される
●人員を1万6000人削減するなどして営業コストを今後5年で4400億円大幅に削減する
●国際線の強化で2015年3月期の営業利益を1331億円に改善(2011年3月期253億円見込)
○年金除く一般債権カット率は90%から87.5%に引き下げ 債権放棄額は5216億円(うちわけは政策投資銀行が1421億円 みずほCBが566億円 三菱東京UFJ銀行が514億円 三井住友銀行が176億円 住友信託銀行が133億円など)
○銀行団にもとめる融資額は3668億円から3192億円に減額(支援機構と政策投資銀行からの融資を民間金融機関に借り換える 2011年3月末実施 減額は航空機売却収入などでねん出)
○12月に支援機構が3500億円出資  
7月28日 日本航空と企業再生支援機構(管財人)が記者会見。更生計画案を(2ケ月遅れ)8月末までに東京地裁に提出できる見込み。融資再開を巡る銀行団との交渉は難航を認める(銀行団は営業黒字見通しに懐疑的 追加支援を強いられた過去の経験)が、債権放棄額を圧縮するなどの努力もして説得につとめ更生案自体の了承を取り付ける。

日本航空が労働組合に伝えている新賃金案は以下の通り。日本航空が経営破たんに至ってもなお高賃金を払い続けていたことも分かる。
日本航空全日空スカイマーク
パイロット1,200(-30% 1,714)1,981803
客室乗務員420(-25% 560)430363
地上職500(-20% 625)666593
全日空とスカイマークは2009年度実績 日本航空は提案と前年度実績に対する下げ率
なお参照「日航の労使は対立続く」『エコノミスト』2010年12月14日, p.14

かくして2010年8月31日 更生計画案提出
 100%減資で経営責任明確化
 企業再生支援機構の3500億円の出資で債務超過解消
 銀行融資、社債など一般債権で5216億円87.5%の債権放棄要請(7月当初案の5400億円90%を圧縮 しかし1月のカット率83%に比べると上昇) コスト削減で2011年3月期からの営業損益黒字化目指す(今後5年間で営業コスト4400億円削減 10年3月期の営業費用1兆6286億円を15年3月期に1兆1900億円弱に引き下げる)
 銀行団は更生計画に同意したものの(貸し手責任もあり債権放棄には応じる)、2011年3月末までの3200億円の新規融資(更生債権返却に使う)には依然難色(営業見通しに対する不信があり融資は継続できない)。根強い不信感があるほか、支援機構の支援は3年間であるため支援が切れる2013年1月に一度返却を銀行団は求めている。また融資の返済を支援機構が保証する「公的保証」を求めている。
 融資は更生債権返済のためであるので、融資がまとまらなくても日航がただちに破たんするわけではないが、日航の再生は遠のくことになる。巨額の債権を踏み倒しながら、いつまでも再建に本腰にならない日本航空に対して、LCC(格安航空)となるか、国内線専業なるかの判断を迫る声が高まっている。

2010年9月以降
 9月 全職種で希望退職募る(3-8月には約3800人が応募。8月末本体で約1万4000人1500人削減が目標)
 10月25日 希望退職募集期限(目標に300人強足らず。目標約1500人に対し9月末までで約530人。10月に再募集。目標数に満たないパイロットと客室乗務員について11月9日まで追加募集。強制的な整理解雇の可能性も浮上)
 10月26日 主力取引行に出資打診へ(各行とも難色を示し反発する 依然として再建に本気にならない日本航空に対して極めて深い不信感がある)
 11月15日 整理解雇の実施を決定(パイロット約110人 客室乗務員約90人 休職者約50人 最大250人)
 11月19日 主力5行 融資に応じる方針を日航に伝える 2849億円(3192億円から減額)=債権残高の維持 343億円を日航は自力返済
 11月19日までに 更生計画案を金融機関など債権者が同意(更生計画案認可の目途)
 11月22日 日本航空キャビンクル―ユニオンがスト権確立(執行部 スト権行使は見送る)
      多くはJAL労働組合に所属
      日本航空乗員組合 はスト権投票の中止決める
 11月22日 日本航空と企業再生機構が更生計画案が債権者らの書面決議で可決されたと発表  
11月30日 東京地裁が更生計画案認可(これを受けて支援機構が3500億円出資へ)
 12月15日 新執行役員体制開始
 年内 支援機構による出資
 11年3月末 民間金融機関への借り換え 主力行の融資で更生債権3192億円を弁済し更生手続き終了 

 本来 地域の中堅中小企業の再建のために設立された再生支援機構の最大の案件になった。出資額3500億円。
 債権カット 人員削減 



Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
originally appeared in Jan.17,2010.
corrected and reposted in Aug.3 2010, October 29 2010 and December 5, 2010.

日本航空再建問題の迷走(2009年9月15日ー2009年11月29日)
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