カヤツリグサにもいろいろな種類がある。コゴメガヤツリは苞葉が3枚あり、1枚は花序より長いという特徴がある。この苞葉と穂の関係が蚊帳を吊っているようにみえるのだろうか。この特徴はどれも似たようなものだ。今では蚊帳を吊る家庭はほとんどなくなっただろう。「かやつり草蚊帳無くなつてしまひけり 藤田湘子 てんてん」だ。それでもざらざらとした蚊帳の手触りは、今でも夏の暑い夜を思い出させる。「蚊帳なき世蚊帳吊草の残りけり 能村登四郎」。カヤツリグサは六音だが、それでも俳句にしっかりと歌われているのに驚く。
(2019-09 川崎市 道端)
コゴメガヤツリ(小米蚊帳吊、学名: Cyperus iria)は、カヤツリグサ科カヤツリグサ属の1年草。やや湿った場所に生える雑草。
特徴
草丈は20-60cmになる。葉は幅2-6mmで線形、多数が根出状に出るが、花序が出た後は衰退する。桿(花序の柄)の断面は三角形。花序は15cmほどになり、基部には2-3の葉状の包が出る。数本の枝を出して、それぞれの先端の軸に、多数の小穂を並べる。小穂は軸にやや寄り添うように、斜めに出る。従ってその見かけはブラシのようではない。
小穂は長さ5-10mm、幅1.5mmで黄色みを帯びる。鱗片は丸っこい。果実は鱗片より小さく、倒卵形。
全体にカヤツリグサによく似ているが、小穂の鱗片の先が丸みを帯びることが異なる。また、カヤツリグサでは小穂が軸に対して大きな角度でつき、全体がブラシ状の外見を持つのに対して、この種ではその角度が小さくて、軸に沿うようになるため、ブラシのような形にはならない。
和名は、小花が小さく、鱗片の先端が丸っこくなっていることによる。小穂がカヤツリグサよりやや小さいことによるとの記述も出回っているようだが、誤りと思われる。
分布
日本では本州から琉球列島にまで分布し、中国からインド、マレーシア、アフリカ、オーストラリアにまで分布する。
雑草として
この種は、世界の各地において、畑地および湿性耕作地の重要な雑草である。いずれの条件においても、もっとも被害の大きい雑草の一つ、との評価もある。日本においては見かけがよく似たカヤツリグサも同様に畑地の雑草として重要である。
ただし、両者をくらべた場合、本種の方が水田で、カヤツリグサの方が畑地において重要である。種子の発芽についての実験によると、両者とも種子は休眠後に発芽し、その際に光があった方が発芽率が高かった。ただしコゴメガヤツリでは湿潤状態や水浸状態の方が発芽率がよかったのに対して、カヤツリグサでは、温暖な条件ではこのような条件で発芽が抑制された。
蚊帳吊草 の例句
*かやつり草を活けたる女あるじかな(青花女居) 細見綾子
かやつりぐさびつしよりの夜の障子とづ 大野林火 海門 昭和七年以前
かやつり草もおぼおぼと花大暑越す 古沢太穂 捲かるる鴎
かやつり草蚊帳無くなつてしまひけり 藤田湘子 てんてん
くさむしり蚊帳吊草はさはやかに 松村蒼石 寒鶯抄
ふるさとやかがみて*かやつり草ひくも 細見綾子
丈長き蚊帳吊草を吊り惜しむ 鷹羽狩行
口なしとかやつりふさぐいほりかな 土芳
塩莎草(しほくぐ)を指に巻くなど裸の子 佐藤鬼房
夕映の草ゑのころもかやつりも 藤田湘子 てんてん
夢二とは蚊帳吊草に秋日かな 石田勝彦 百千
寂しさにかやつり草の青穂抜く 山口誓子
小灰蝶かやつり草をないがしろ 藤田湘子 てんてん
屋根替の萱吊上ぐる大伽藍 松本たかし
手折らんとすれば萱吊ぬけて来し 杉田久女
提灯にかやつり草も照らさるる 高野素十
旅日焼*かやつり草の穂にしやがむ 細見綾子
暮し難き日や*かやつり草二本挿す 細見綾子
水の輪とかやつり草と祭かな 藤田湘子
浜草は蚊帳吊草のひとりじめ 清崎敏郎
秋団扇かやつり草は誰が描きし 三橋鷹女
種茄子にかやつり草の映るなり 中村汀女
終に苦しかやつりぐさの錯綜は 山口誓子
縦裂の仕置蚊帳吊草のため 後藤比奈夫
草の戸の二張三張蚊帳吊草 山口青邨
蚊帳なき世蚊帳吊草の残りけり 能村登四郎
蚊帳吊草ぐらりぐらりと風の中 山口青邨
蚊帳吊草昼酒のややふかかりし 草間時彦 中年
赤のまゝありし蚊帳吊草ありし 高野素十
足もとにかやつり草の露はじき 長谷川素逝 暦日
避暑の宿かやつり草の大いさよ 高屋窓秋
隔たりしこころかやつり草に降る 長谷川素逝 暦日
露呼ぶは桑の根土の*かやつり草 細見綾子 桃は八重
風流のかやつりぐさは残しおく 山口青邨
鵜は巌かやつり草は野にあふれ 三橋鷹女