私の研究日記(映画編)

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『青い鳥』(Theater)

2009-01-07 17:20:35 | あ行
監督 中西健二
原作 重松清
出演 阿部寛、本郷奏多、伊藤歩、太賀、鈴木達也
製作年 2008年
製作国 日本
時間 105分

 京成ローザにて『青い鳥』を鑑賞(2008年12月13日)。

 新学期を迎えた東ヶ丘中学校の2年1組。前の学期、このクラスではイジメを原因とする自殺未遂事件が起きた。幸い大事には至らなかったものの、自殺しようとした野口は転校し、担任教師は重圧から休職した。新学期が始まり、事件の動揺がようやく静まった2年1組に、臨時教師として村内(阿部寛)が赴任する。
重度の吃音癖を持つ村内は、決して饒舌とはいえない。が、彼はどもりながらもゆっくりと生徒たちに語りかける。「忘れるなんて、卑怯だな」。片付けられていた野口の机を元に戻させ、その机に向かって「野口くん、おはよう」と毎朝声をかける。彼の静かな言動が、ようやく日常に戻った生徒達を動揺させていく。



 原作を書いた重松清は、以前日記でも取り上げているように、好きな作家の一人である。重松作品の重要なキーワードとなるのが、家族や友達、学校、仕事など、われわれの生活の大部分を構成するような身近な要素である。そして、重松作品の多くに共通しているテーマは、こうした身近な生活の中での暴力とでもいえようか。DVやイジメ、セクハラ、パワハラ、モラハラなど、われわれの生活の中には常に様々な暴力が潜んでいる。また、これらがわれわれの生活から切り離しがたいほど身近な家庭や学校、職場で起こるからこそ、問題が深刻化し、当事者は絶望的な状況へと追い詰められてしまうのであろう。こうして、登場人物を時にどうしようもないほど絶望的な状況に追い込みながらも、最後に必ず希望を残しておくというストーリー展開が、重松作品の好きな所である。



 本作もそのような作品の一つといえる。クラスメイトからのイジメに対し追い詰められた野口は、自殺しようとし、それを果たせずに転校していく。一方で追い詰められている人物がもう一人。園部真一(本郷奏多)である。彼は率先して野口をイジメていたわけではないが、つい一度だけ他の仲間たちと一緒にふざけてしまう。自殺未遂事件が起きて以来、園部はそのことを悔やみ続け次第に追い詰められていく。

 ちなみに、テレビドラマなどで、いじめられっ子を自殺に追いやったいじめっ子たちが、開き直っている場面を時折見ることがある。が、私には今時の子ども達を悪く捉え過ぎているように思えて、いまいちリアリティを感じない。恐らくワイドショーなどで映し出される今時の子どもの外見だけを演出しているのであろう。もちろん、人を死に追いやって開き直れるような子どもも世の中にはいると思うが、そうした子どもを一般化することには疑問を感じる。私は塾の講師をやっているが、少なくとも私が教えてきた子ども達には、そんな子はほとんどいなかったと思う。

 そういう意味で、本作の園部は無表情で、一見野口の自殺未遂に何も感じていないようにも見える。その限りではいわゆる「今時の子ども」のようだ。が、実は園部は野口の自殺未遂で深く傷ついている。子どもの無表情の解釈については、心理学的にも諸説あるようだが、私は無表情こそ何かを隠し守ろうとしている自己防衛の表情だと思う。ワイドショーなどでは、そうした無表情を捉えて「今時の子ども達は!」と目くじらを立てているが、それは子ども達の表面しか捉えていないのではないだろうか。一見何も感じていなようで実は深い傷を負っているという園部の姿は、今の子ども達をリアルに捉えていると思った。

 いずれにしても、追い詰められていく園部は、静かに穏やかに語りかけてくる村内を前に、ぼろぼろに泣き崩れながら感情を爆発させ、村内の言葉によって希望を見出していく。この辺りは、園部役の本郷奏多が多感で繊細な年頃の子どもの姿をよく演じており、見事だと思った。また、こうした絶望の中で見出す一筋の希望という構図は、上でも述べているように重松作品にはおなじみのものだが、どんな時でも希望があると励まされるようで私は好きである。

 それにしても、村内の言葉にハッとさせられるものが多かった。いじめられっ子といじめっ子の記憶の話や、だからこそ忘れないでいることが大切だという話には、なるほどな~、と「うんうん」うなるしかなかった。私も塾の講師をやっているが、生徒たちにどれだけ心に響く言葉を語っているだろうか。子どものイジメの問題を扱ってはいるが、実はイジメそのものというより、それを表面的にしか捉えようとしない大人の姿を、吃音を持ちながらも物事の本質を捉えようとする村内との対比によって、批判的に描き出した作品といえるのかもしれない。心温まる、そしていろいろと考えさせる作品だったと思う。



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