私の研究日記(映画編)

ここは『智に働けば角が立つ』の姉妹ブログ。映画の感想や、その映画を通してあれこれ考えたことを紹介しております。

『夜のピクニック』(CATV)

2008-09-11 23:59:35 | や行
 前回書いた『日本以外全部沈没』同様、こちらも8月の終わり頃に見た作品である。

 原作は、恩田陸の同名小説『夜のピクニック』。

 茨城県のとある高校の伝統行事「歩行祭」。1000人の生徒が24時間徹夜で80キロを歩き通すという行事である。物語は、高校最後の「歩行祭」を迎えた主人公、甲田貴子(多部未華子)を通して進む。「歩行祭」に臨む貴子は、密かに賭けをしている。それは、「歩行祭」の間に、一度も話したことのないクラスメイトの融(石田卓也)に話しかけること。「歩行祭」が始まり、クラスの友人達と歩いていく貴子は、なかなか融に話しかけることができない。そうしている間に、貴子や融たち、1000人の高校生は徐々にゴールへと近づいていく。

 ひたすら歩き続けるという作品。主人公 貴子と融の関係を軸に、登場人物たちの会話や回想、時折起こるアクシデントにより、場面が展開していく。ちなみに、当初はこの作品を、二人の淡い恋愛を描いた、青春ラブストーリーだろうと想像していた。だが、ふたを開けてみれば、恋愛映画などではない。二人の関係には秘密があるのだが、ネタばれになるので、ここには書かない。

 それはともかくとして、登場人物のゆっくりとした歩みとともに、物語は進行(あ、上にも書いているか)。あえてジャンルをつけるならば、青春ものということになるのだろうが、当然『ウォーター・ボーイズ』や『スイング ガールズ』のような派手さはない。ひたすら歩くだけなので。物語は淡々と進んでいくのである。

 でも、始まってから終わるまでの約2時間、飽きることは全くなかった。

 どう説明すればよいのだろう。旅行などのイベントになると、いつも以上に友人達との会話が盛り上がったり、普段話さないような人と話したり、普段なら絶対に言わない本音を話すことができたり、相手の言葉がやたらと胸に響くことがないだろうか。うまく言えないが、この映画を見ていると、そうしたある種の興奮状態が伝わってくるのだ。

 そういう意味で重要な役割を果たしていたのが、登場人物たちである。原作の人物設定が実際どうなっているのかわからないので、あくまで私の印象だが、主人公 貴子は物静かで控えめだが、意思が強そうな女の子。融はやはりどちらかというと寡黙なスポーツマン。貴子の親友 遊佐美和子(西原亜希)は、文武両道で何かとリーダーを任されそうなしっかりさん。融の親友 戸田忍(郭智博)は、飄々としているが意外と信念を持ったハンサム(死語?)。貴子のクラスメイトの後藤梨香(貫地谷しほり)は、明るく元気なクラスのムードメーカーであろう。良い味を出していた高見光一郎(柄本佑)は、性格の良いロック小僧。

 どの登場人物も、別に現実離れしているほど個性的というわけではない。逆に、こういうやつっていたよなーと思うような人物ばかり。このキャラって●●に似ているなとか、△△さんもこんな子だったなーと。思わず自分の中学高校時代の友人達と重ね合わせてしまう。そうしたリアリティが、登場人物に妙な親近感を抱かせ物語へと引き込んでいく。こうして、見ているうちに、自分も一緒に歩いているような錯覚にとらわれてしまうのである。淡々と進む物語に飽きようはずもなかった。

 そして、もう一つ私をぐいぐい物語に引き込んでいったのが、ビジュアル部分である。物語の舞台となっているのは、水戸市とその周辺部。登場人物たちがゴールへ向かって歩いていく途中、広大な田園とレタス(?)畑などが映し出される。田園は稲の香りが今にも匂ってきそうなほど青々としている。素朴だがとても美しい景色だなのだ。

 また、時間ごとに変わりゆく情景の描写には、思わずため息が出る。見事という他ない。しみじみと夕日に照らし出される筑波山を見ていると、残像が目に焼きつきそう、日の出前の薄暗い森林や朝もやのかかった田園では、見ているこちら側までマイナスイオンを感じるようだった。

 何気なく暮らしていると見過ごしてしまうような日常の景色が、時間によって美しい姿に変貌することがあると思うが、この映画ではそうした美しさがうまく捉えられている。「時間が目に見える」という融の親友 戸田忍のセリフは、まさに言いえて妙といえるだろう。

 高校時代の記憶を思い出して懐かしくなることや、切なくなることは、誰にでもあると思うが、まとめると、この映画はそんな気持ちに浸れる作品である。作品ホームページで恩田陸が「誰でも映画を見ている間は18歳になれます」と述べているが、まさにその通りだと思う。とりあえず、映画を見終わった後、母校の卒業アルバムを開き、ホームページをチェック。しんみり高校時代を懐かしんでみた(笑)。

 もう一度見たいと思える良い映画であった。今年見た邦画の中では、今のところベストである。原作もぜひ読んでみたい!

(ところで、この作品は原作者 恩田陸の母校、水戸第一高校で実際に行われている行事が元になっているのだという。どの高校にもかわった伝統行事があるもので、この映画のホームページに行くと、「全国高校 おもしろ行事MAP」で学校の面白行事を調べることができる。夜ピク系の行事が多いが、男子が上半身裸だったり山の中を歩いたりと、歩き方も様々なようだ。)

『日本以外全部沈没』(CATV)

2008-09-11 15:14:45 | な行
 8月の終わり頃、「ムービープラス」で『日本以外全部沈没』を見た。

 『日本沈没』がどちらかというと、危機に追い込まれた時の人の愛や献身に主眼を置いているのに対し、『日本以外全部沈没』の視点はあくまでシュールである。
 この映画では、日本に逃げ込んで来る外国人に対し、日本人があくまで高圧的、排他的。『日本沈没』では、こうした危機に置かれた人々の醜い姿が余り描かれておらず、リアリティに欠けていると感じたが、『日本以外全部沈没』は余りにシュール過ぎて、逆にリアリティの欠如を感じる。

 また、もともと原作が「ナショナリズムや人種差別に対する逆説的な強い批判精神」に基づいて書かれたということは知っているが、少なくとも映画の方はパロディ部分を強調し過ぎな気がする。映画批評については甘口であることを自負している私も、珍しく見終えた後に不愉快な気持ちになった。