1000万人単位で人が消える「日本消滅」の危機に打開策はあるのか
『未来の年表』著者が提言からの転載
少子高齢化がこれから本格化するという日本の未来を具体的に描き出し、41万部のベストセラーとなった、『未来の年表─人口減少日本でこれから起きること』。著者・河合雅司氏に「刊行後の反応」を聞いた。
イギリスのTV局からも取材が
─昨年6月の刊行から半年が過ぎましたが、読者からの反響はいかがでしょうか。[…]
60代の男性からいただいたお手紙には、本を読んで、自分やそれよりも上の世代が残した問題の深刻さを痛感し、それを若い世代にツケとして回すことが申し訳ない、といったことが綴られていました。
その方は若い世代に少しでも少子高齢化、人口減少問題を考えてもらいたいと、この本を10冊以上も購入されて、若い方にプレゼントされているそうです。
衆議院議員の石破茂さんは、本がボロボロになるまで読んで、全国の講演先でも薦めてくださっているそうです。野田聖子総務相や松山政司少子化担当相にお会いしたとき、「自民党の同僚議員や官僚に読むよう宣伝していますよ」と話されていました。本当にありがたいことです。
与野党の勉強会や、国交省、総務省、農水省、厚労省、人事院などからも講演や講義をしてほしいという声をいただいています。
先日は、イギリスのTV局からも取材を受けましたよ。世界史上類を見ない日本の少子高齢化は、世界的な関心事となっています。アジア諸国や西欧諸国もこの先、少子高齢化が深刻化していきますからね。
─内容についての感想で、印象に残っているものは?
今の生活が足下から崩れていくような変化に対して、これほど早く影響してくるとは思わなかったという衝撃とともに、将来をかなり悲観的に捉えた読者が多いようですね。そういう方の中には、第2部に書いた「戦略的に縮む」というキーワードをネガティブに捉える方もいます。
「縮む」という言葉には、どうしてもマイナスイメージがあるようです。ある講演では、「演題から“縮む”という言葉を削除してください」と主催者から要請されたことがありました。
高度経済成長を実現させ、豊かになった社会を目にしてきた私より前の世代などまさにそうですが、拡大して数字が伸びることこそが成功だという固定観念があります。
しかし、皆さんは勘違いしているかもしれませんが、この本で提言している「縮む」ということは、決して「衰退」や「負け」を意味しているわけではありません。やりようによっては現状の豊かさをより豊かにもできるし、より日本が世界から尊敬される国になれると思います。[…]
私は楽観論者です。日本の未来を悲観してはいません。
すでに兆候が出始めている
─なぜ人口予測は外れないのかを、改めてお伺いしたいです。
まず、この世に誕生して生活している人たちというのは年齢を重ねていき、大きな災害などが起これば別ですが、日本のように衛生面がしっかりしていて経済力もある国では、一部の世代人口だけが極端に減るということはありません。
1歳の子供が50年後には51歳になることが推定でき、5年後にどれくらい高齢者が増えるかも、20年後にどれくらいの方が亡くなっているかも大まかに計算できます。
人口を変化させる出生数についても、国が発展を遂げて社会が落ち着いてくると、一人の女性が生涯に子供を産む数を示す合計特殊出生率は低下してくるのが通例です。この出生率と出産可能な女性人口などで、将来的な出生数もほぼ割り出せます。
これまでの少子化の影響で、出産可能な年齢の女性が大きく減っていくことが決まってしまっています。これは、政府が掲げる「国民希望出生率1・8」を実現しても、出生数減に歯止めがかからないことを意味します。
そうした人口動態の将来推計をベースに書いた『未来の年表』は、数年の違いはあるかもしれませんが、大きくは外れません。
─実際、本に書かれていることの端緒がすでに起こり始めています。
たとえば、2017年下半期のニュースを拾うと、「2021年 介護離職が大量発生する」に関連して、親族の介護に携わった経験のある管理職の47・5%が「退職を考えたことがある」という民間の調査結果が出ている。
「2030年 百貨店も銀行も老人ホームも地方から消える」に関しては、山形県の老舗百貨店が1月末に閉店予定ですし、みずほFGが2024年度末までに拠点を約500から約400に減らすと発表しています。
そう、それだけではありません。2020年を機に少子化がぐっと進むと言われていますが、すでに2016年の年間出生数は100万人の大台を割り、17年は94万人ほどとなります。年間出生数が4万人も減るのは危機的状況です。
また、「2026年 認知症患者が700万人規模に」と書きましたが、認知症リスクを高める糖尿病が強く疑われる患者数も2016年調査で推計1000万人に上り、認知症予備軍も右肩上がり。今後も本著で予測する出来事を想起させるようなニュースが、当たり前に出てくるでしょう。
─人口減少、少子高齢化は待ったなしの未来。我々でも身近にできることとして、どんなことがありますか。
まず我々が求められるのは高齢化していく社会への対応でしょう。2022年には団塊の世代の先頭である1947年生まれが75歳となります。並行して、子供が独立して残された老夫婦の一方が亡くなるなどして、高齢の独居世帯がますます増えていきます。
そうなった時、家族で住んでいた広い住居で高齢者ひとりが生活するのは限度があります。人手不足が進み、社会サービスを十分に受けられない可能性もある。子供の手もなかなか借りられません。
今からできる工夫
─民間の企業でもできることは何でしょうか。
たとえば「この仕事は本当に30代の人がやる必要があるの?」という仕事を30代にやらせているケースがたくさんあります。それなら高齢者でもできる、という仕事は山ほどあるはずです。
逆に30代の人達には若い世代にしかできない仕事に特化してもらうことです。そのほうが若い世代からしてもやりがいが出てくるでしょう。単に年齢だけで区分けしていくような働き方を変えるのは、政府の改革を待たずとも経営者の判断や工夫でできる課題だと思います。
企業の工夫で言えば、商品開発の時点から高齢者のニーズを取り込む試みがもっとあっていいと思います。家電メーカーで言えば、8Kなど高画質テレビの開発に躍起になるよりも、小さな音でも聞こえるスピーカーを開発したほうがよい。高齢者には宅配便が鳴らすインターフォンの音が聞こえないっていう方もいますから。駅のエレベーターの数だって今後、増設していく必要が出てくると思います。
─では少子化問題に対して、我々ができることは何でしょうか。
少子化の問題については、家族計画など個々人の価値観に根差しているので、周囲が口を出すのは難しいところがあります。やれるとすれば若い世代の結婚への気運を高めるよう気を遣ったり、子どもを産む喜びや子育ての楽しさを語ったりするとか。
少なくとも「結婚は人生の墓場だ」とかマイナスなイメージを植え付けることはやめる。あとは、これから結婚する世代や子育て世代の転勤をやめてしまうとかね。
─最後に、これからお書きになりたい内容は、どんなものでしょうか?
『未来の年表』ではこれからの日本をかなり俯瞰できたと思っています。[…]
『未来の年表』著者が提言からの転載
少子高齢化がこれから本格化するという日本の未来を具体的に描き出し、41万部のベストセラーとなった、『未来の年表─人口減少日本でこれから起きること』。著者・河合雅司氏に「刊行後の反応」を聞いた。
イギリスのTV局からも取材が
─昨年6月の刊行から半年が過ぎましたが、読者からの反響はいかがでしょうか。[…]
60代の男性からいただいたお手紙には、本を読んで、自分やそれよりも上の世代が残した問題の深刻さを痛感し、それを若い世代にツケとして回すことが申し訳ない、といったことが綴られていました。
その方は若い世代に少しでも少子高齢化、人口減少問題を考えてもらいたいと、この本を10冊以上も購入されて、若い方にプレゼントされているそうです。
衆議院議員の石破茂さんは、本がボロボロになるまで読んで、全国の講演先でも薦めてくださっているそうです。野田聖子総務相や松山政司少子化担当相にお会いしたとき、「自民党の同僚議員や官僚に読むよう宣伝していますよ」と話されていました。本当にありがたいことです。
与野党の勉強会や、国交省、総務省、農水省、厚労省、人事院などからも講演や講義をしてほしいという声をいただいています。
先日は、イギリスのTV局からも取材を受けましたよ。世界史上類を見ない日本の少子高齢化は、世界的な関心事となっています。アジア諸国や西欧諸国もこの先、少子高齢化が深刻化していきますからね。
─内容についての感想で、印象に残っているものは?
今の生活が足下から崩れていくような変化に対して、これほど早く影響してくるとは思わなかったという衝撃とともに、将来をかなり悲観的に捉えた読者が多いようですね。そういう方の中には、第2部に書いた「戦略的に縮む」というキーワードをネガティブに捉える方もいます。
「縮む」という言葉には、どうしてもマイナスイメージがあるようです。ある講演では、「演題から“縮む”という言葉を削除してください」と主催者から要請されたことがありました。
高度経済成長を実現させ、豊かになった社会を目にしてきた私より前の世代などまさにそうですが、拡大して数字が伸びることこそが成功だという固定観念があります。
しかし、皆さんは勘違いしているかもしれませんが、この本で提言している「縮む」ということは、決して「衰退」や「負け」を意味しているわけではありません。やりようによっては現状の豊かさをより豊かにもできるし、より日本が世界から尊敬される国になれると思います。[…]
私は楽観論者です。日本の未来を悲観してはいません。
すでに兆候が出始めている
─なぜ人口予測は外れないのかを、改めてお伺いしたいです。
まず、この世に誕生して生活している人たちというのは年齢を重ねていき、大きな災害などが起これば別ですが、日本のように衛生面がしっかりしていて経済力もある国では、一部の世代人口だけが極端に減るということはありません。
1歳の子供が50年後には51歳になることが推定でき、5年後にどれくらい高齢者が増えるかも、20年後にどれくらいの方が亡くなっているかも大まかに計算できます。
人口を変化させる出生数についても、国が発展を遂げて社会が落ち着いてくると、一人の女性が生涯に子供を産む数を示す合計特殊出生率は低下してくるのが通例です。この出生率と出産可能な女性人口などで、将来的な出生数もほぼ割り出せます。
これまでの少子化の影響で、出産可能な年齢の女性が大きく減っていくことが決まってしまっています。これは、政府が掲げる「国民希望出生率1・8」を実現しても、出生数減に歯止めがかからないことを意味します。
そうした人口動態の将来推計をベースに書いた『未来の年表』は、数年の違いはあるかもしれませんが、大きくは外れません。
─実際、本に書かれていることの端緒がすでに起こり始めています。
たとえば、2017年下半期のニュースを拾うと、「2021年 介護離職が大量発生する」に関連して、親族の介護に携わった経験のある管理職の47・5%が「退職を考えたことがある」という民間の調査結果が出ている。
「2030年 百貨店も銀行も老人ホームも地方から消える」に関しては、山形県の老舗百貨店が1月末に閉店予定ですし、みずほFGが2024年度末までに拠点を約500から約400に減らすと発表しています。
そう、それだけではありません。2020年を機に少子化がぐっと進むと言われていますが、すでに2016年の年間出生数は100万人の大台を割り、17年は94万人ほどとなります。年間出生数が4万人も減るのは危機的状況です。
また、「2026年 認知症患者が700万人規模に」と書きましたが、認知症リスクを高める糖尿病が強く疑われる患者数も2016年調査で推計1000万人に上り、認知症予備軍も右肩上がり。今後も本著で予測する出来事を想起させるようなニュースが、当たり前に出てくるでしょう。
─人口減少、少子高齢化は待ったなしの未来。我々でも身近にできることとして、どんなことがありますか。
まず我々が求められるのは高齢化していく社会への対応でしょう。2022年には団塊の世代の先頭である1947年生まれが75歳となります。並行して、子供が独立して残された老夫婦の一方が亡くなるなどして、高齢の独居世帯がますます増えていきます。
そうなった時、家族で住んでいた広い住居で高齢者ひとりが生活するのは限度があります。人手不足が進み、社会サービスを十分に受けられない可能性もある。子供の手もなかなか借りられません。
今からできる工夫
─民間の企業でもできることは何でしょうか。
たとえば「この仕事は本当に30代の人がやる必要があるの?」という仕事を30代にやらせているケースがたくさんあります。それなら高齢者でもできる、という仕事は山ほどあるはずです。
逆に30代の人達には若い世代にしかできない仕事に特化してもらうことです。そのほうが若い世代からしてもやりがいが出てくるでしょう。単に年齢だけで区分けしていくような働き方を変えるのは、政府の改革を待たずとも経営者の判断や工夫でできる課題だと思います。
企業の工夫で言えば、商品開発の時点から高齢者のニーズを取り込む試みがもっとあっていいと思います。家電メーカーで言えば、8Kなど高画質テレビの開発に躍起になるよりも、小さな音でも聞こえるスピーカーを開発したほうがよい。高齢者には宅配便が鳴らすインターフォンの音が聞こえないっていう方もいますから。駅のエレベーターの数だって今後、増設していく必要が出てくると思います。
─では少子化問題に対して、我々ができることは何でしょうか。
少子化の問題については、家族計画など個々人の価値観に根差しているので、周囲が口を出すのは難しいところがあります。やれるとすれば若い世代の結婚への気運を高めるよう気を遣ったり、子どもを産む喜びや子育ての楽しさを語ったりするとか。
少なくとも「結婚は人生の墓場だ」とかマイナスなイメージを植え付けることはやめる。あとは、これから結婚する世代や子育て世代の転勤をやめてしまうとかね。
─最後に、これからお書きになりたい内容は、どんなものでしょうか?
『未来の年表』ではこれからの日本をかなり俯瞰できたと思っています。[…]