家庭医療学について

家庭医療学周辺,教育の話題とWONCA(世界家庭医療学会)やSTFMなどの学会の参加記を少し。

10/13(水)WONCA plenary #2

2004-10-13 06:08:09 | 学会(WONCA,STFMなど)
Worldwide issues in Primary Care: Dr. Barbara Starfiled  AAFPも初めてなのですが、もう少しアメリカだけでなく世界にも目を向けようと思いましたのでWONCAのPlenaryをできるだけ優先して聴くように日中の予定を組みました。

Dr. Barbara Starfiledはヘルスケアポリシーの分野で有名な人で、現在Johns Hopkinsの公衆衛生大学院に、またInstitute of Medicine(IOM)のメンバーでもあります。結論から言うとプライマリケアの供給する医療は質が高い、ということなのですが、様々なデータを示しながら、様々な健康指標(平均寿命、乳幼児死亡率、周産期死亡率、5歳までの死亡率)などは国民総生産(GDP)と相関するが、同じぐらいのGDPのどうしで比べると、健康指標に大きな差が見られる。その差はその国のプライマリケアのレベルから生まれる。つまりシステムとしてプライマリケアがヘルスケアのシステムに組み込まれていると医療の質が高まるということでした。一つ気になったのは各国をworse primary careの国と、better primary careの国にわけて話をしていたときに、日本が前者に含まれていたことでした。確かにWHOのランキングでは上位にあるのでそうならざるを得ないのですが、生半可WHOで上位にランクされているために、また健康指標がいいために多くの人が日本のプライマリケアの質向上は必要ない、現状で十分だと考えてしまっているのではないかと思いました。日本の健康指標がいいのは医療政策や医師、医療の質の部分だけでは説明できないと思います。それよりももともとも遺伝的な素因(もともと他の民族より健康)、文化的素因、国民性などの影響の方が大きいと考えています。(確か、そういった健康指標や、順位の割に医療への満足とが他国に比べて低い、というデータがありましたね)。だんだんと日本人の生活や価値観が多様化、西洋化してきており、健康指標は悪化の傾向をたどると思いますが、それから慌てるのでは間に合わないと思います。今のうちに、政策としてのプライマリケアを、制度としての家庭医医療を。話はそれましたが、プライマリケア戸井両の質向上の関連性のevidenceとして、イギリスで人口1万人あたりプライマリケア医が一人増加するだけで(割合として20%増加)、住民の死亡率が5%下がったというデータ、アメリカでも同様に家庭医が一人増えるだけで(33%の増加)同様の効果が見られるということ、インドネシアでの健康政策の方針変更で病院への費用を変えることなくプライマリケアへの費用を削減したところ、健康指標がすぐに悪化に転じたことなどのデータが提示されました。
また、アメリカで人種ごとに低体重児の発生率が違うことは知られていますが、その率の高い黒人の地域の中でも地域にプライマリケアを供給するセンターが存在するだけでその発生を減少させることなども示されました。
また同じGDPの程度の国の中で、健康政策にさく、費用の割合の高い国20%と低い国から20%での5歳までの死亡率を比べたときに、1000人あたりで、25-150人の差があるということでした。
全てのデータは出せませんでしたが、効果、効率、公平性において、全般的な健康指標はプライマリケアによってよくなるということは数えきれないほどのevidenceがあり、逆に専門医の行う医療によって健康指標は悪くなるというデータも数多いということでした。
その理由として、専門医はよりまれな重篤な疾患を意識して探すように訓練されており、介入がより多くなること(その分医療事故や副作用も増える)、プライマリケア医に比べるとそのaccessibilityは劣ること、専門医は併存症を持つ患者(そういった人の方が多いのですが)の取り扱いが不得意なことが挙げられました。逆に治療ガイドラインの遵守は専門医の方がきちんとやるのですが、それはガイドラインそのものが併存症のない患者を念頭に書かれた物であって、プライマリケア医が日常扱う、併存症を多く持つ患者のことを念頭において書かれていないからである、併存症を持つ患者を念頭に置いたガイドラインの作成の必要性、専門医とプライマリケア医の連携をよりうまく行うための戦略の必要性などが提言されました。最後に、プライマリケア医は"must lead , not follow defending is not enough"(時代について行くのではなく自らが切り開かなければならない、自分の領地を守るだけでは不十分である)と締めくくられました。
はずかしながら、これほどにもプライマリケアの有効性を示す'evidence'が存在するとは知らず、やはり’マインドが重要だ’、’大事なんだ’と叫ぶだけでなく、確実にその必要性をデータ、実績として示していく必要性を感じました。ただ、日本では先に’プライマリケア’は誰が供給しており、誰が’プライマリケア医’なのかを、きちんと定義しないと研究として専門医との違いも示すことができないなというまた大きな問題を感じてしまいました。

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写真がDr. Starfieldです。

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