【地デジ カウントダウン】あと1カ月(中)非常時に「真価」(産経新聞) - goo ニュース
■3・11、ワンセグが救った命
3月11日。震度6強の激しい揺れがようやく収まった後、停電した工業用刃物会社「東洋刃物」本社(仙台市宮城野区)で、高橋允(まこと)専務は携帯電話を取り出し、ワンセグ画面に見入った。
「大津波警報だ」
本社は仙台塩釜港からわずか500メートルほど。一刻の猶予もない。約100人が避難所へと走った。高台の多賀城市文化センターにたどり着いた午後3時半ごろ、本社と工場は津波で全壊していた。
「停電でテレビは消えたが、ワンセグのおかげで情報が早かった」と高橋専務。
JR新地(しんち)駅(福島県新地町)では、停車中の常磐線車両に居合わせた福島県警の巡査2人が、乗客のワンセグで警報を知った。巡査は乗員乗客40人を高台に誘導し、津波を逃れた。
情報が生死を分けた東日本大震災の現場。平成18年に始まったワンセグは地上デジタル放送のサービスの一つ。地デジ化を進めてきたことは、確実に人々の命を救った。
NHK広報部は「地デジの機能は被災地でこそ発揮されている」と指摘する。ワンセグが役立った以外にも、同じチャンネルで複数の番組を同時提供する「マルチ編成」、「データ放送」などが特長を発揮したという。
□ □
たとえば4月17日、東北地方でプロ野球・楽天の試合を中継していたNHKは、飛び込んできた福島第1原発の事故収束工程表の発表を、マルチ編成で放送、野球中継の中断はなかった。データ放送では、放射性物質の飛散に関連して3月28日から福島、新潟、水戸放送局で「風の予報」を新たに提供し、福島では4月19日から「環境放射能測定値」も提供している。
地デジで標準機能となった字幕放送は、平常時の1日4時間から震災後は7時間に拡大。また、ハイビジョンの効果は明らかだった。避難所を映したテレビ映像から避難者名簿の文字などを読み取り、それをネットでデータベース化する作業が震災後は活発に行われた。アナログ放送ではにじんで読めない、地デジだからできた作業だった。
□ □
総務省は、震災被害が深刻な岩手、宮城、福島の3県での地デジ完全移行を、予定の7月24日から最大1年延期した。アナログ停波でテレビが見られない人が出ることを懸念した措置であり、「今は被災者に電話して『地デジのご準備はどうですか』という状況ではない」(NHKの浜田泰人・送受信技術センター長)という事情も大きい。
関係者が懸念するのは、延期で地デジ化が必要以上にスローダウンすることだ。「アナログ延長で余分な費用が発生するし、スポンサーのCM出稿にブレーキがかかる恐れもある」。CM自粛で4~6月の放送収入が前年比約6割に落ち込んだ仙台放送の小野寺秀彰技術局長は、危機感を募らせ、延期期間の短縮を求める。1年延期で必要な費用について、NHKと民放は各4億円と試算している。
大震災1週間後の3月19~20日に野村総合研究所が行った調査で、震災関連で重視する情報源はNHKテレビが80・5%、民放テレビが56・9%と高率を占めた(20~59歳のネットユーザー3224人が回答)。「テレビ離れ」が言われて久しいが、震災という非常事態がテレビを復権させた格好だ。
ただ、NHKによると、震災後のマルチ編成などについて視聴者からの反響は少ない。最も多かったのは「元のチャンネルに戻すにはどうしたらいいの」といった初歩的な問い合わせだった。
地デジの利点をどれだけの人が活用し、あるいは理解しているのか。それがよく見えないまま、完全地デジ化の国策は最終局面に入っている。
◇
【用語解説】マルチ編成
1つのチャンネルを分割し、アナログ放送と同じ標準画質で3番組まで同時に放送できる機能。たとえばスポーツ中継が延長に入った場合、次の番組を放送しながら引き続きサブチャンネルで延長戦を放送することなどが可能となる。サブチャンネルはリモコンの上下ボタンで選択でき、新聞のテレビ欄では「S2」マークに続いて表記されている。
地デジ以降まであと1カ月を切りました。
非常時に効果を発揮した一面がある半面、まだ視聴できない人もかなり残っているようです。果たして混乱はどの程度発生するのでしょうか。
■3・11、ワンセグが救った命
3月11日。震度6強の激しい揺れがようやく収まった後、停電した工業用刃物会社「東洋刃物」本社(仙台市宮城野区)で、高橋允(まこと)専務は携帯電話を取り出し、ワンセグ画面に見入った。
「大津波警報だ」
本社は仙台塩釜港からわずか500メートルほど。一刻の猶予もない。約100人が避難所へと走った。高台の多賀城市文化センターにたどり着いた午後3時半ごろ、本社と工場は津波で全壊していた。
「停電でテレビは消えたが、ワンセグのおかげで情報が早かった」と高橋専務。
JR新地(しんち)駅(福島県新地町)では、停車中の常磐線車両に居合わせた福島県警の巡査2人が、乗客のワンセグで警報を知った。巡査は乗員乗客40人を高台に誘導し、津波を逃れた。
情報が生死を分けた東日本大震災の現場。平成18年に始まったワンセグは地上デジタル放送のサービスの一つ。地デジ化を進めてきたことは、確実に人々の命を救った。
NHK広報部は「地デジの機能は被災地でこそ発揮されている」と指摘する。ワンセグが役立った以外にも、同じチャンネルで複数の番組を同時提供する「マルチ編成」、「データ放送」などが特長を発揮したという。
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たとえば4月17日、東北地方でプロ野球・楽天の試合を中継していたNHKは、飛び込んできた福島第1原発の事故収束工程表の発表を、マルチ編成で放送、野球中継の中断はなかった。データ放送では、放射性物質の飛散に関連して3月28日から福島、新潟、水戸放送局で「風の予報」を新たに提供し、福島では4月19日から「環境放射能測定値」も提供している。
地デジで標準機能となった字幕放送は、平常時の1日4時間から震災後は7時間に拡大。また、ハイビジョンの効果は明らかだった。避難所を映したテレビ映像から避難者名簿の文字などを読み取り、それをネットでデータベース化する作業が震災後は活発に行われた。アナログ放送ではにじんで読めない、地デジだからできた作業だった。
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総務省は、震災被害が深刻な岩手、宮城、福島の3県での地デジ完全移行を、予定の7月24日から最大1年延期した。アナログ停波でテレビが見られない人が出ることを懸念した措置であり、「今は被災者に電話して『地デジのご準備はどうですか』という状況ではない」(NHKの浜田泰人・送受信技術センター長)という事情も大きい。
関係者が懸念するのは、延期で地デジ化が必要以上にスローダウンすることだ。「アナログ延長で余分な費用が発生するし、スポンサーのCM出稿にブレーキがかかる恐れもある」。CM自粛で4~6月の放送収入が前年比約6割に落ち込んだ仙台放送の小野寺秀彰技術局長は、危機感を募らせ、延期期間の短縮を求める。1年延期で必要な費用について、NHKと民放は各4億円と試算している。
大震災1週間後の3月19~20日に野村総合研究所が行った調査で、震災関連で重視する情報源はNHKテレビが80・5%、民放テレビが56・9%と高率を占めた(20~59歳のネットユーザー3224人が回答)。「テレビ離れ」が言われて久しいが、震災という非常事態がテレビを復権させた格好だ。
ただ、NHKによると、震災後のマルチ編成などについて視聴者からの反響は少ない。最も多かったのは「元のチャンネルに戻すにはどうしたらいいの」といった初歩的な問い合わせだった。
地デジの利点をどれだけの人が活用し、あるいは理解しているのか。それがよく見えないまま、完全地デジ化の国策は最終局面に入っている。
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【用語解説】マルチ編成
1つのチャンネルを分割し、アナログ放送と同じ標準画質で3番組まで同時に放送できる機能。たとえばスポーツ中継が延長に入った場合、次の番組を放送しながら引き続きサブチャンネルで延長戦を放送することなどが可能となる。サブチャンネルはリモコンの上下ボタンで選択でき、新聞のテレビ欄では「S2」マークに続いて表記されている。
地デジ以降まであと1カ月を切りました。
非常時に効果を発揮した一面がある半面、まだ視聴できない人もかなり残っているようです。果たして混乱はどの程度発生するのでしょうか。