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未来の読書ノート

読んだ本のメモ。あくまでもメモでその本を肯定したとは限らない。そんなノート。

高島康司著 『こんな時はマルクスに聞け』

2009-09-23 | 蟹工船
 マルクスの生きた19世紀や現代のみならず、小林多喜二が『蟹工船』を書いた20世紀のはじめにも同じことが繰り返された。 ㌻44

 過酷な奴隷労働を強いる蟹工船で働いていたのは、「函館の貧民窟」から来た「十四、五の少年」や、「北秋田」などからやってきた「百姓の少年」の集団だった。生きてゆくためには、過酷な奴隷労働をせざるを得ない境遇であったことは十分に想像できる。こうした状況の背景にはすさまじい貧富の差があったことは間違いない。 ㌻45

 マルクスの生きていた時代の「農村共同体」の解体も、『蟹工船』からみてとれる「奴隷労働をせざるを得ない貧民」の創出も、そして現代の「日本型資本主義=会社村」の解体も、すべて資本主義社会の本質的な構造がくり返し作り出した問題だ。資本主義の社会は極端な格差をくり返し作り出す傾向があるのである。 ㌻50

 資本主義社会は発展すればするほど、社会の存続さえ脅かしかねないほどの巨大な格差を必然的に作り出し、下手をすると自滅の道をたどりかねないという警告だった。 ㌻52

 未来記=マルクス、『資本論』、『蟹工船』が、これほど引用され、現代を照射しようとした時代があっただろうか。「蟹工船」化された現実を変えない限り、この傾向は続くだろう。

『季論21』第5号 田村栄子「「いま」ヴァイマル時代のドイツ共産党を考える」

2009-08-14 | 蟹工船
 「蟹工船」ブームに続いて、昨年九月のアメリカを発火点とする金融危機がグローバルに荒れ狂うようになり、私たちは一挙に、一九二九年一〇月アメリカのウォール街の株式大暴落に始まる世界恐慌が世界を奈落の底に突き落とした記憶に直面させられた。
 (略)
 一九三三年二月二〇日、プロレタリア作家小林多喜二は築地署で凄惨な拷問により虐殺された。
 (略)
 小論は、片や日本において発表当時高く評価されていた『蟹工船』が八〇年後の「いま」広汎な読者に迎えられることになり、片やドイツにおいて存在当時重要な政治的社会的文化的勢力として国民の広汎な期待をうけつつも弾圧された国内では抹殺されたドイツ共産党が、八〇年近く経った「いま」ようやく当時の政治的社会的文化的状況を踏まえて「まっとうに」検証されようとされるにいたったのには、以下の事情が大きく関わっている、という私見を出発点としている。 ㌻176-177

 未来記=マルクスボーイという言葉が使われた日本。1930年前後のドイツの考察は当時の世界の状況を知る手かがりになりそう。

『POSSE』 vol.4

2009-07-20 | 蟹工船
 蟹工船のリアリティ(永野潤)
 昨年(2008年)、今から80年も前の1929年に発表された小説『蟹工船』がブームになっている、とマスコミでとりあげられ、本誌vol.2でも特集が組まれました。この小説(やそれを原作としたマンガ)は、貧困や労働に苦しむ若者の共感を呼んだ、とされたわけですが、本誌の特集では、この小説に描かれた労働者の状況と、現代の若者の労働の状況は違う点がある、という意見も散見されました。たとえば『蟹工船』のラストでは、労働者たちが最後に団結して立ち上がり、ストライキを行います(結局弾圧されてしまうのですが)。このシーンについて、本誌vol.2の座談会では「今ってバラバラだからこんな団結なんてできない」とか、ストライキのシーンは「無理くねー?」と思った、などと言われていました。
 以下略 ㌻148

 巧妙に姿を隠した「敵」は、物理的な暴力を行使する必要はありません。労働者はバラバラにされ、イス取りゲームのような競争をさせられる中で、みずからを貧困の中に導いていくのです。これは、まさに現代の日本の非正規労働者がおかれている状況を示していると思いませんか? ㌻149

 未来記=「蟹工船」のリアリティについて様々な意見がある。当然80年前の労働実態とには相違がある。しかし、若者たちがそんな相違を超えて、自らの体験などから「本質は同じ」だと読み取ったところにリアリティがある。現象の相違を並べるのではなく、そこから本質を読み取り、本質の解決に向かう必要こそ重要。
 今はひとりでも加入できる労働組合が増え、バラバラな労働者が連帯できる場が増えている。ここには希望がある。どんな形の「ストライキ」を展開するのか、いま従来の発想・枠を超えた壮大な新しい形の「ストライキ」が求められている。

芹沢一也・荻上チキ編『経済成長って何で必要なんだろう?』

2009-07-13 | 蟹工船
 岡田靖 とろこが、現在のように日本経済がひどくなると、新左翼を飛び越えて「インド的低賃金」の世界に、もう一回振り出しに戻ってしまっている。『蟹工船』がベストセラーになって共産党の党員が毎年1万人増えるという話になってくる。 ㌻98

 未来記=赤木智弘氏や湯浅誠氏との対談が収録されているので読んだが、人間不在、人間軽視の「経済学」による「経済成長」神話の焼き直し。人間の生産活動という視点さえ不在。