FRP艇の船底補修続編です。
施工前
施工後
こんな感じに補修する過程を紹介します。
コメント:
今回の補修に関して私事ですが、ヨット(ディンギー・470級・~40ft)、プレジャーボート(~36ft)製造、補修を経験し、ならびに手積成形士を有する専門職として行っております。
対象艇
超軽量フィッシングカヤック。
今回は、軽量カヤックの中でもエポキシ樹脂のフィルムバッキングで成形されたカヤックです。
板厚は約2mmで、繊維構成はクロス+コアマット+クロスです。
損傷箇所
船底。
損傷状況
繊維断絶し貫通。浸水する状態。
補修方法
船底内部→エポキシ樹脂にて補強。
船底外部→ポリエステル樹脂にて補修。
それでは順を追って補修方法を紹介します。
注意:補修方法は損傷箇所の位置、大きさ、状態、対象艇の材質、板厚等によりケースバイケースです。あくまで参考として捉えて下さい。
①洗浄
まずは、真水でカヤックの中、外を洗い、その後しっかり乾燥させます。(ハッチ類は全て開けて1週間くらい放置)
これは貫通のみでなく、保管時のメンテナンスとして日常的に行うとベスト。
②面の固定
貫通して割れてる部分の面を固定します。
約2mmしかない板厚では割れ目がベコベコして作業が上手くいきません。
そこで、今回はポリパテ(カー用品の補修パテでもOK)を使用して面を固定します。
この作業は単純に面の固定を目的としてますが、本補修の前にこのパテは除去しますので、多く盛り過ぎないほうが後の作業が楽に済みます。
(写真のようにパテの上からマスキングテープを貼ってあげると余分な凹凸を減らせます)
③船底内部補強
今回の補修作業の中で一番キモとなる工程ですが、カヤックの船内は極狭なので、色々と工夫が必要となります。
まず、保護具(有機溶剤対応マスク)は必ず着用しましょう。
次に、損傷箇所の目視ができるか、手は届くのか、道具は届くのか、明かり取りは可能か。
ハッチ開口部、ロッドホルダー取付穴等から作業が出来るか判断します。
以上がムリなようでしたら、船体表面の補修のみになるか、損傷箇所近くのデッキ側に新たに開口部(点検口)を設ける事になります。
④養生作業
カヤックを必要以上汚さない為に開口部以外をマスキングします。
⑤下地処理(重要)
#100番くらいの粗めのサンドペーパーで損傷箇所、周辺の面(損傷箇所から半径5cmくらい)を荒らします。
今回は素材がエポキシ樹脂なので、この作業はとても重要です。
素材がポリエステル樹脂ならある程度面を荒らして溶剤(アセトン)で脱脂すれば、よっぽど補修可能となりますが、エポキシ樹脂の場合はそうはいきません。
エポキシ樹脂は硬化時、表面に膜が生じます。この膜(アミンと言う)を可能な限り除去しなければ、十分な接着力が得られません。
ただし、忘れてならないのが板厚2mm!
荒らし過ぎて貫通しないよう注意が必要です。
十分ペーパーをあてた後、削り粉を除去し、溶剤(アセトン)を布などに染み込ませて補修面を拭き、脱脂します。
⑥補強材準備
補修箇所の寸法を取り、必要量材料を用意します。
今回は確実に接着させる為にエポキシ樹脂を使用し、#200番のクロスを2枚重ねて施工します。
エポキシ樹脂は作業性の良い常温硬化型を用意。
補足
本作業に入る前に、クロスを置く場所と位置を再度確認しておきます。
手が届きにくい場合、道具類も柄を延長させたりして準備しておきます。
⑦樹脂含浸
損傷箇所のサイズが小さい場合は直接船内で作業しますが、大きい場合は船外で含浸させ、ソレを損傷箇所に置くだけにします。
⑧脱泡作業
繊維を補修箇所に置いたら、
あとは噛み込んだ空気を刷毛やローラーなどで繊維の外へ除去し、補修箇所に密着させます。
その後は完全に硬化するまで待ちます。
補足
熱を加えることで硬化を促進させる事が出来ますが、約一週間は放置します。(気温が10℃を下回るような時期は加熱が必要)
⑨船外(外観)補修
完全に硬化した事が確認できたら、次は表面の補修に入ります。
⑩下地処理
面の固定に使用したポリパテを#100番程度のサンドペーパーで擦り落としながら、ついでに補修箇所の下地処理を行ないます。
船内補修と同じ様に半径5cmくらいの面を荒らします。
この時も板厚2mmを忘れずに。
そして、表面の補修にはポリエステル樹脂を使用します。
素材のエポキシ樹脂に対し、ポリエステル樹脂の補修は接着力が十分ではありませんが、ちょっとコツがあります。
ポリエステル樹脂とゲルコートは十分接着力を得る事が出来ます。
なので、出来るだけゲルコートを残し、その上を補修するようにします。
今回はカヤック内部からしっかりと損傷箇所を補修出来ているので、恐らく表面はパテ補修だけでも問題ないと思いますが、せっかくなのでFRP補修を行っていきます。(カー用品の繊維入りパテで補修してもOKかと思います)
下地を荒らし終わったら溶剤(アセトン)で脱脂します。
樹脂はポリエステル樹脂、繊維はクロスを使用します。
先に述べた様に板厚は約2mmです。
ゲルコートを残す様に表面を荒らすだけなので、補修箇所の凹みはごくわずか。
ここに繊維を埋めますので、クロスをそのまま貼ったのではまったく役に立ちません。
そこで、そのままでは繊維が大き過ぎるので、ハサミやカッターナイフ等で、繊維を細かく裁断します。(はじめから細かく裁断されたモノもありますのでそちらを使用されてもOK)
ソレを損傷箇所の上に置いて、樹脂を含浸させます。
この作業自体は掛かっても20分くらいなので、硬化までの可使時間は1時間以内になるよう硬化剤の量を調整します。
そしてこちらはエポキシ樹脂ではないので、半日も経てば十分加工出来るようになると思います。
硬化が確認できたら、サンドペーパーを使用し、表面の面出し作業を行います。
面をキレイに仕上げる為に当て木をしてペーパー掛けします。
サンドペーパーは荒いものから順番に番手を上げていきます。
例
#100→#180→#240→#400
#400番まで当てたら溶剤(アセトン)で表面を脱脂し、ゲルコートを塗布します。
ゲルコート硬化後は耐水ペーパーにて表面を磨いて仕上げていきます。
最後にコンパウンドで仕上げれば補修完了です。
注:
補修箇所と既存の色目は紫外線等の外的要因により必ずしも一致しません。気になる場合は全塗装をオススメします。
以上、
軽量カヤックの船底補修を紹介しました。
何か参考になる事がありましたら幸いです。
最後に。
繰り返しになりますが、デッキの艤装、補修等はよっぽど大丈夫かと思いますが、船底補修の場合は浸水のリスクを伴い、命に関わる問題に発展し兼ねません。
専門知識を有したショップ等に必ず相談するようお願いします
施工前
施工後
こんな感じに補修する過程を紹介します。
コメント:
今回の補修に関して私事ですが、ヨット(ディンギー・470級・~40ft)、プレジャーボート(~36ft)製造、補修を経験し、ならびに手積成形士を有する専門職として行っております。
対象艇
超軽量フィッシングカヤック。
今回は、軽量カヤックの中でもエポキシ樹脂のフィルムバッキングで成形されたカヤックです。
板厚は約2mmで、繊維構成はクロス+コアマット+クロスです。
損傷箇所
船底。
損傷状況
繊維断絶し貫通。浸水する状態。
補修方法
船底内部→エポキシ樹脂にて補強。
船底外部→ポリエステル樹脂にて補修。
それでは順を追って補修方法を紹介します。
注意:補修方法は損傷箇所の位置、大きさ、状態、対象艇の材質、板厚等によりケースバイケースです。あくまで参考として捉えて下さい。
①洗浄
まずは、真水でカヤックの中、外を洗い、その後しっかり乾燥させます。(ハッチ類は全て開けて1週間くらい放置)
これは貫通のみでなく、保管時のメンテナンスとして日常的に行うとベスト。
②面の固定
貫通して割れてる部分の面を固定します。
約2mmしかない板厚では割れ目がベコベコして作業が上手くいきません。
そこで、今回はポリパテ(カー用品の補修パテでもOK)を使用して面を固定します。
この作業は単純に面の固定を目的としてますが、本補修の前にこのパテは除去しますので、多く盛り過ぎないほうが後の作業が楽に済みます。
(写真のようにパテの上からマスキングテープを貼ってあげると余分な凹凸を減らせます)
③船底内部補強
今回の補修作業の中で一番キモとなる工程ですが、カヤックの船内は極狭なので、色々と工夫が必要となります。
まず、保護具(有機溶剤対応マスク)は必ず着用しましょう。
次に、損傷箇所の目視ができるか、手は届くのか、道具は届くのか、明かり取りは可能か。
ハッチ開口部、ロッドホルダー取付穴等から作業が出来るか判断します。
以上がムリなようでしたら、船体表面の補修のみになるか、損傷箇所近くのデッキ側に新たに開口部(点検口)を設ける事になります。
④養生作業
カヤックを必要以上汚さない為に開口部以外をマスキングします。
⑤下地処理(重要)
#100番くらいの粗めのサンドペーパーで損傷箇所、周辺の面(損傷箇所から半径5cmくらい)を荒らします。
今回は素材がエポキシ樹脂なので、この作業はとても重要です。
素材がポリエステル樹脂ならある程度面を荒らして溶剤(アセトン)で脱脂すれば、よっぽど補修可能となりますが、エポキシ樹脂の場合はそうはいきません。
エポキシ樹脂は硬化時、表面に膜が生じます。この膜(アミンと言う)を可能な限り除去しなければ、十分な接着力が得られません。
ただし、忘れてならないのが板厚2mm!
荒らし過ぎて貫通しないよう注意が必要です。
十分ペーパーをあてた後、削り粉を除去し、溶剤(アセトン)を布などに染み込ませて補修面を拭き、脱脂します。
⑥補強材準備
補修箇所の寸法を取り、必要量材料を用意します。
今回は確実に接着させる為にエポキシ樹脂を使用し、#200番のクロスを2枚重ねて施工します。
エポキシ樹脂は作業性の良い常温硬化型を用意。
補足
本作業に入る前に、クロスを置く場所と位置を再度確認しておきます。
手が届きにくい場合、道具類も柄を延長させたりして準備しておきます。
⑦樹脂含浸
損傷箇所のサイズが小さい場合は直接船内で作業しますが、大きい場合は船外で含浸させ、ソレを損傷箇所に置くだけにします。
⑧脱泡作業
繊維を補修箇所に置いたら、
あとは噛み込んだ空気を刷毛やローラーなどで繊維の外へ除去し、補修箇所に密着させます。
その後は完全に硬化するまで待ちます。
補足
熱を加えることで硬化を促進させる事が出来ますが、約一週間は放置します。(気温が10℃を下回るような時期は加熱が必要)
⑨船外(外観)補修
完全に硬化した事が確認できたら、次は表面の補修に入ります。
⑩下地処理
面の固定に使用したポリパテを#100番程度のサンドペーパーで擦り落としながら、ついでに補修箇所の下地処理を行ないます。
船内補修と同じ様に半径5cmくらいの面を荒らします。
この時も板厚2mmを忘れずに。
そして、表面の補修にはポリエステル樹脂を使用します。
素材のエポキシ樹脂に対し、ポリエステル樹脂の補修は接着力が十分ではありませんが、ちょっとコツがあります。
ポリエステル樹脂とゲルコートは十分接着力を得る事が出来ます。
なので、出来るだけゲルコートを残し、その上を補修するようにします。
今回はカヤック内部からしっかりと損傷箇所を補修出来ているので、恐らく表面はパテ補修だけでも問題ないと思いますが、せっかくなのでFRP補修を行っていきます。(カー用品の繊維入りパテで補修してもOKかと思います)
下地を荒らし終わったら溶剤(アセトン)で脱脂します。
樹脂はポリエステル樹脂、繊維はクロスを使用します。
先に述べた様に板厚は約2mmです。
ゲルコートを残す様に表面を荒らすだけなので、補修箇所の凹みはごくわずか。
ここに繊維を埋めますので、クロスをそのまま貼ったのではまったく役に立ちません。
そこで、そのままでは繊維が大き過ぎるので、ハサミやカッターナイフ等で、繊維を細かく裁断します。(はじめから細かく裁断されたモノもありますのでそちらを使用されてもOK)
ソレを損傷箇所の上に置いて、樹脂を含浸させます。
この作業自体は掛かっても20分くらいなので、硬化までの可使時間は1時間以内になるよう硬化剤の量を調整します。
そしてこちらはエポキシ樹脂ではないので、半日も経てば十分加工出来るようになると思います。
硬化が確認できたら、サンドペーパーを使用し、表面の面出し作業を行います。
面をキレイに仕上げる為に当て木をしてペーパー掛けします。
サンドペーパーは荒いものから順番に番手を上げていきます。
例
#100→#180→#240→#400
#400番まで当てたら溶剤(アセトン)で表面を脱脂し、ゲルコートを塗布します。
ゲルコート硬化後は耐水ペーパーにて表面を磨いて仕上げていきます。
最後にコンパウンドで仕上げれば補修完了です。
注:
補修箇所と既存の色目は紫外線等の外的要因により必ずしも一致しません。気になる場合は全塗装をオススメします。
以上、
軽量カヤックの船底補修を紹介しました。
何か参考になる事がありましたら幸いです。
最後に。
繰り返しになりますが、デッキの艤装、補修等はよっぽど大丈夫かと思いますが、船底補修の場合は浸水のリスクを伴い、命に関わる問題に発展し兼ねません。
専門知識を有したショップ等に必ず相談するようお願いします