・薬効のある秋の七草Medicinal seven herbs of autumn
秋の七草の主な用途は「観賞用」です。春の七草は七草粥にして無病息災を祈りますが、秋の七草は美しく咲き誇る花々を観て楽しみます。
秋の七草という、言い方、言葉自体は、この山上憶良の詠まれた一首からといわれます。万葉集の山上憶良(やまのうえのおくら 奈良時代の歌人660~733年没)の歌に詠(よ)まれる「秋の野に 咲きたる花を 指折(およびお)り かき数ふれば 七種(ななくさ)の花」(山上憶良 万葉集 一五三七 巻八)
萩の(が)花 尾花 葛花 瞿麦の(が)花 女郎花 また藤袴 朝貌の(が)花(山上憶良 万葉集 一五三八 巻八)
当時の「朝貌の花」は、「アサガオ(朝顔)」とも「ムクゲ(木槿)」とも「キキョウ(桔梗)」とも「ヒルガオ(昼顔)」ともいわれ、諸説がありますが、一般的には「キキョウ(桔梗)」を指すとするのが有力な説です。「お花」はススキ、「あさがお」はヒルガオ科のアサガオ(平安初期[9c]に渡来)ではなく、キキョウであろうといわれます。
萩は7~10月に]紫がかったピンクで開花しているのが見られます。
尾花(オバナ:馬などの尾に似ていることから)は、8月~10月にみられススキの別名です。茅(かや、萱)とも呼ばれ茅葺き屋根に用いていました。 ススキはスクスクと育つ木(草)の意味からきているという説と稲などに似た草ススケが語源という説があります。
葛は、7月~9月に可憐な赤と紫色の花が咲きます。
なでしこの花は、6月~8月にみられます。
オミナエシは、7月~10月に花が咲いています。
藤袴は、8月~10月に開花しています。
キキョウは、6月末~8月に掛けて紫または白のきれいな花を咲かせます。
咲く場所によっても多少は咲く時期がずれてくるかもしれませんが、地域によっては夏にも咲いているようです。咲く時期が長いものがほとんどで秋にも咲いているから秋の七草ともいえます。
秋の花の開花で秋の訪れを楽しむ秋の七草は、あまり食用としてはなじみませんが薬効が知られています。
◇萩Bush clover はぎ
マメ科、全国の山野にみられる落葉低木で、別名ヤマハギといい2mほどに成長します。葉は3枚の小葉からなる複葉で秋口に赤紫色の蝶のような花をつけます。
ハギは古い株から新芽を出し生え芽(ハエキ)から転じたものといわれています。枝を乾燥させ箒(ほうき)、炭俵にしていました。根、葉、茎を乾燥させ、煎じてめまい、のぼせに用いられます。
◇尾花Japanese pampas grass おばな
イネ科、 一般にいうススキ(薄・芒:草むら)のことでありカヤともいい、すだれ、炭俵、草履(ぞうり)に使われていました。
葉の出る前、発芽する前の春に掘り出した根を乾燥させ解熱、利尿に利用していました。
◇葛Arrowroot,Kudzu くず
マメ科、葛粉は、葛の大きな根を砕きもみだし沈殿させ精製し翌年の2月ごろに多くを製品化しています。新芽、若葉、花が漬物に、茹でてあえ物、新芽、若葉は揚げ物、油炒めに利用していました。葛の根は、マメ科で「葛根湯(かっこんとう)」とし、解熱、発汗、保温、抗酸化作用があり漢方薬とし風邪予防、下痢症に用いています。
◇撫子Fringed pink,Large pink なでしこ
ナデシコ科、植物名の「ヤマトナデシコ」は、中国から入ってきた「カラナデシコ」と区別するために呼ばれた名前といいます。開花した全部、または根を乾燥させ瞿麦(くばく)といい、むくみ解消、生理不順に利用しています。秋に種子(果実)を熟した頃に採取してよく乾燥した黒い種子を、瞿麦子(くばくし)といい月経不順、利尿に用います。堕胎の恐れがあるとし妊婦には用いません。
◇女郎花Patrinia scabiosaefolia,Golden lace おみなえし
オミナエシ科、有効成分としてのオレアノール酸(トリテルペノイド)、サポニン、ステロール類を含み 根に消炎、浄血、排膿作用、利尿作用があるとして煎じて用いられます。特有の臭みがあるといい漢方で干した根を敗醤根(はいしょうこん)と呼んでいます。
また、根の煎じ汁で洗眼したり、飲んだりすると、目の充血、炎症によいとしています。
◇藤袴Thoroughwort ふじばかま
キク科、薬用としてむくみ、皮膚炎によく、高血圧、糖尿病に用いています。芳香があり中国では、香草と呼ばれ、その成分は、クマリンで香料として葉茎を乾燥させ匂い袋、入浴剤に利用します。
◇桔梗Balloonflower ききょう
キキョウ科、若葉と根を食用とし、ゆでてさらし、お浸し、和え物、揚げ物、花びらの三杯酢、根を晒して油炒めにしてきました。毒性が強いといわれ晩秋に日干しした桔梗の根を煎じてキキョウサポニン、 イヌリン、フィトステロールPhytosterol、トリテルペノイド類を含み咳止め、鎮痛、排膿(はいのう)、扁桃腺炎に用いられていました。開花は、日本各地の山野でみられ6~10月末ごろです。
秋の七草のうた
せいたかのっぽの おみなえし はぎ、くず、ききよう、ふじばかま
かくれんぼうの なでしこさん すすきが、みんなを、よんでいる
あきのななくさ、うつくしい いろとりどりに、うつくしい
秋の花の開花している秋の訪れを楽しむ観賞する七草になっています。
七草を順にカタカナにして並べます。
オミナエシ ススキ キキョウ ナデシコ フジバカマ クズ ハギ
頭の文字をつなげると「オスキナフクハ(お好きな服は)」。さらに並べ方を変えて「ハスキナオフク(ハスキーなおふくろ)」で覚えます。
秋には、他にもよく見られる
秋を代表する花々をみることができます。
コスモス Cosmos・オシロイバナ白粉花Four-o' clock・ヒガンバナ彼岸花Spider lily・シュウカイドウ秋海棠Begoniaceae・ハゲイトウ葉鶏頭Tampala・アカノマンマ(イヌタデ犬蓼)Persicaria longiseta・キク菊chrysanthemumを1935年(昭和10年)に『新・秋の七草』を作っています。さらに、1980年(昭和55年)に、植物学者の本田正次、遺伝学者の篠遠喜人らによって選ばれた新秋の七草は、『見渡せば 今も秋野に乱れ咲く 花かぞおれば七草の花』でホトトギス ノギク カルカヤ ヒガンバナ マツムシソウ またワレモコウ リンドウの花がありました。
近年は護岸工事、宅地の造成等により生息地が減り、 野生のものは数が減っており、環境省のレッドリストでは準絶滅危惧(NT)種に「フジバカマ」と「キキョウ」を指定しています。春の七草と共に知られる、秋の七草です。大切に守り、育てて生きたいものです。
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記載者:村上京子