エバ夫婦の山紀行ログ

道産子60代、四季を通じて主に夫婦で登った北海道の山を中心に紀行文を載せています。アウトドア大好き夫婦。

中部日高・ピラトコミ山(1588m)

2021年09月16日 | 山紀行 (日高山系)
いま、動けるうちに・・・復活山行
師匠が導く新ルートは、完璧な踏破ルートだった・・・
中部日高・ピラトコミ山(1588m)
■ 山 行 日     2021年9月13日(月)~   (2泊3日)   テント泊
■ ル ー ト     札内川七ノ沢~北西面直登沢~北西尾根ルート 往復
■ メ ン バ ー      夫婦登山 №24
■ 登 山 形 態      道道歩き&一部沢登り&藪漕ぎ (ピンシューズ使用)
■ 地 形 図     1/25000地形図   「札内川上流」
■ 三角点・点名    三等三角点 点名「平戸古美 ペートコビ」
コースタイム      一日目   あかしやトンネル出口P帯~七ノ沢出合まで 約1時間40分
            二日目   登り 5時間25分    下り  3時間20分
            三日目   BC~P帯まで約1時間50分

<一日目>
12:50           あかしやトンネル出口P帯出発
13:35~45        滝見橋 休憩
14:15           六ノ沢出合付近
14:30           七ノ沢出合 約6.2㎞   しちのさわはしにて C1

<二日目>
05:00           C1出発
05:55           北西面直登沢出合
06:15           北西尾根への取付き
06:55~07:00     北西尾根上C820付近
07:30~40        C950付近 休憩
08:45           C1200付近
09:30           C1400付近
10:25           ピラトコミ山頂上

11:00           下山開始
11:20           C1400付近
11:50           C1180尾根分岐点
12:00           C1150付近
12:45           C820下降点
13:05~15        直登沢出合 (標高点668) 休憩
13:20           本流(七ノ沢)出合
14:10           C1到着 C2 

<三日目>
05:20           C2出発
06:00~10        滝見橋 休憩
07:10           P帯到着



GPSを元に地形図に移行したルート図です・・・

★ いま、動けるうちに・・・
8月具体的に計画がまとまって出発予定だった「ピラトコミ山」。
予定日と雨予報が見事に的中し、呆気なく中止になった事は先月のブログでも報告したところだ。
BCから往復12時間を要する山行だけに陽が短くなる晩秋まで待つ訳にはいかなかった。先月
の中止からすぐに次のリトライは9/13と決めていたので、それまで訓練と言う訳でもないが
二つの未踏峰に登って来た。体力的にすっかり自信を無くしているが、少しでも動けるうちにト
ライしたい厳しい未踏峰への挑戦。私と一回り違う師匠の手助けもあって必ずやアタックせねば
と意欲だけは消さないようにと思っていた。


★ 師匠の新ルート・・・
このルートは、師匠であるKさん(76)が導き出した新ルートだと思っている。仮に誰かがこのル
ートで登頂済みだったとしてもその記録はまだ見た事は無かった。師匠の地図を読む力と何度で
も現地へ出向いて偵察する慎重さ、私には絶対真似の出来ない事でもう尊敬しかない。困難と思
えるルートでも現地に行く事でどこかに弱点を見付け、尚且つ安全なルートを見付ける達人だと
思っている。山歴はすでに50年以上で途中空白も無い。ずっと山から離れる事無く山と向き合
っている方で、もう30年来お世話になっている先輩でもある方だ。

先月のブログでもピラトコミ山の一般的ルートは、「山と谷」等で紹介されている東面直登沢か
東尾根ルートが多いと述べて来た。しかし、いずれも上級者向けのルートであり私たちには無縁
だったのだ。それだけに勧めてくれた「北西尾根ルート」は、ほぼ真逆からのアプローチだが、
ダメ元で挑戦すべき未踏峰だと感謝した。これを逃したら・・・という思いも強かったのだ。



9/12 に確認したカムエクの「テンクラ」情報・・・

★ お膳立て・・・
全くもって他力本願な挑戦である事は承知している。すべてはお膳立てされた師匠の計画に乗っか
り後は体力だけが自分持ちで進める計画である。もはやこれがエバ風山行と言っても過言では無い。

とは言っても、最大の心配は「天気」。
10日ほど前から注視していたが、なかなか晴れマークにはならなかったし、一時は雨マークも付
いていた。完全に運から見放された感で準備へのモチベーションが上がらないまま計画の日は近づ
いて来た。しかし、決行の二日前から予報が変わって来た。雨⇒くもり⇒晴れへと好転する。












★ 久しぶりの重装備も・・・
初日の早朝自宅では、台風並みに荒れた天気でとても山行が出来る状態では無かった。
しかし、予報は昼から晴れであり明日以降も現地は晴れとあったので決行する。
家を出る時は、嘘のように風も治まり青空も出て来て不思議だった・・・。

順調過ぎるほどのタイムで予定の登山口となるあかしやトンネル出口に着いた。数台の車が停ま
っていたがほとんどは登山と関係の無い昆虫調査や林道の測量関係で来ていた車と思われる。

準備をして持ち上げたザックはずっしりと重く、でも期待が膨らむ軽やかな足取りのスタートだ
ったと自分で言う・・笑

途中、大きな昆虫採りの網を持った方と猟銃を持ったハンター風のサポートを伴った2組とすれ
違う。また、釣りと思われる自転車が2台道路脇にデポされていたが、登山者とすれ違う事なく
七の沢出合に着いた。GPSでは6.2㎞で1時間40分で着いてしまった。



最高のテント場になった「しちのさわはし」のたもと

★ 最高のテン場・・・
カムエクに向かう場合、通常七ノ沢出合から右手の本流に出るが、左手には道路が続き少し上り
坂で先が見えない。私も何度かカムエクを登っているが、いつも本流に出てしまい左手の道路を
気にする事が無かった。その先には立派過ぎる大橋があって七ノ沢に架かっている。知る人ぞ知
る旧日高横断道路建設の残存で莫大な金額を投資しながら途中で中止になった工事跡である。


※ ちょっと横道に逸れるが、歩いて来た道路は、林道では無く道道111号線静内中札内線で
ある。現在の新ひだか町と中札内村を結ぶ道道で、現在開通している区間については、工事計画
が中止された2003年までの間に、工期19年、建設費約540億円が費やされいる。
日高山脈を貫く21.3㎞の未開通区間については、両町村の境界に掘削予定の静中トンネル(延
長4,782m) を含む7.4㎞は未着工となっている。この未着工区間については追加で約40
年の工期と約980億円が必要になること、また、自然保護の流れに伴い計画の見直しが行われ、
2003年(平成15年)8月8日に北海道開発局より計画の凍結(実質中止)が発表された。


その工事中止になった橋のひとつが「しちのさわはし」。
ピラトコミ山を目指す場合、最高のテン場となった橋である・・・。


★ 本番・・・
橋のテン場からすぐ下の七ノ沢に袂から降りる事が出来る。
小さな渡渉は何度かあるが基本靴は濡れなかった。直登沢出合まですべて右岸を辿る。出合の手
前で未完成の大橋に出合いその橋台が右岸を塞いでいるように見えた。しかし、近づくと橋台の
裏側に隙間があり、通り抜ける事が出来た。抜けると間もなく直登沢の出合だ。ここまで約50
分ほどだったが、七ノ沢右岸側のところどころには巻き道のような獣道もあるので利用すると少
しだけ早いかも知れない。

北西面直登沢は、本流とは一変する渓相で一気に狭く小さくなる。ここの渡渉も難なく靴を濡ら
さずに左岸を辿り、あとはガレた河原を歩いて少し登る。地図上の標高点668付近に枯れかけ
た柳の木が沢中央にありピンテが付いている。ここが尾根取付きの出発点で、左岸側にピンテが
連続して導いてくれる。そこには明瞭な鹿道もあり急斜度の登りの始まりだ。

標高差は約100mでほぼ直登する。笹原がほとんどだが細く短い。立木や灌木もあるしピンシ
ューズなら滑る事は無い。約40分ほどでC820付近の北西尾根上に出た。尾根は急峻で左右
切れ落ちた顕著な尾根である。尾根上には明瞭・不明瞭な鹿道がありほぼ頂上まで続いていた。
ピンテは頂上まで付けて来たが、完全ではないし今シーズン限定と思った方が良いかも知れない。

途中のC1180付近に尾根の分岐があるので下りは特に注意したいところだ。
1000mを超える頃から鹿道は明瞭となりまるで登山道のようでもあった。基本尾根上を辿る
が、頂上付近は斜面を辿る場合もある。ピンテと鹿道に注視しながら登ると藪漕ぎなしで頂上に
着いた。

C820の尾根上から頂上まで約3時間半だったが、これは老体のタイム。若く元気な方ならも
っと早く登れるだろう。途中の尾根上から垣間見る主稜線は、鋭鋒の1823峰を始め振り返る
とピラミッド峰やカムエクの名峰を望み、まるで別世界の神秘な景色がすぐそばにあった。
標高1500mより上の斜面が紅葉し始め、秋の気配を感じながらの登行に疲れは感じなかった。

絶対に登れないと思っていた一座に登れた感動と幸福感は信じがたい現実と噛み締める。
三角点に感謝のタッチをして写真を撮り、望む景色は北から東側だけ。コイカク、ヤオロマップ、
1839峰などを望み、西側の1823峰やカムエクは木の隙間から辛うじて見えるだけだった
が、最高の天気に恵まれて満足の登頂だった。



七ノ沢右岸の河原を歩く・・・


北西面直登沢出合前に、この大橋に驚く。右岸の橋台裏に隙間があり通り抜ける事が出来る


北西面直登沢668付近にある柳の木にピンテ。ここが尾根への出発点だ。


北西尾根上C850付近にて・・笹原に見えるが踏み跡は明瞭だ。


尾根登りの右側に望む、日高の主稜線・・・神々しく紅葉している


上の写真のすぐ左側に見えた「1823峰(1826m)」が格好いい!


C1260付近の尾根上にて・・・

★ 100%師匠に感謝の登頂・・・
元々厳しい山と思い込んでしまった時、その山のルートや時期を決めて来たのは誰かの記録であ
る。ピラトコミ山も同じで、登れるルートは東面直登沢か東尾根しか無いと疑わなかった。そし
て、他人の記録やガイド本の解説だけ見てはもう私たちのレベルでは無いと諦めていたのだ。

それが、こうして登る事が出来たのは、思い込みを捨てた発想で地形図を読み込み弱点を探して
偵察するという師匠の拘りと慎重さ、そして長きに渡る経験と勘が導いた新ルートを私たちに勧
めてくれたと感謝しているし、であればそれに応えたいと強く感じた山行だった。

一般的に「日高は厳しい」というイメージが強いが、そこに活路を開いたのは「鹿道」だと言う。
急峻で切れ落ちたナイフリッジも首が痛くなりそうな急斜度にも登れない沢もどこかに弱点があ
り、チャンスが生まれると言う。その一つが尾根の鹿道だと師匠の話は止まらない。

思い掛けないピラトコミ山の登頂は、2021年の一名山となり春の海別岳を超えたかも知れな
い。あわよくば360度の眺望も期待したが、それは贅沢過ぎた。

本当に感謝100パーセントの登頂に感無量である。



三等三角点 「点名 平戸古美 ペ―トコミ」


頂上から東側の眺望・・十勝側の街並みが見えた


ピラトコミ山 (1588m) 初登頂  標識が無いので作って来たこの日だけの頂上標識




南側の展望もまぁまぁでした。1839峰だけは分かり易かったが・・・?


下り約1450m付近から望む、1807峰とピラミッド峰(1853m)、そしてカムエクが後ろに。


尾根の下降点から直登沢に降りる斜面で・・・


大きくキレイだったキノコについ足が止まった・・・


直登沢668付近から本流側を撮る・・・


直登沢出合付近にあった大橋の橋台裏・・・


七ノ沢本流右岸を下る・・・


無事、下山しましたぁ~。橋の上にテントが見えます。


沢で冷やしていたご褒美・・・


まったりタイム・・・・

★ 敢えて泊まる事に・・・
下りは、なんの不安も無くピークに別れを告げて開始。
それは、ピンテ。ちょっと多過ぎる程付けて来ただけに迷う心配はほとんど無かった。
急斜度の下りも、ピンシューズなら滑る事も無く順調に高度を下げた。C820~頂上まで3時
間半掛かったものが、下りでは1時間45分で着き、自分たち自身が一番驚いていた。

そして、テン場に無事戻った時、時計はまだ14時過ぎだからテントを撤収し、車まで帰る事も
可能な時間ではあった。だが、ここから現役時代と違うところ・・・。

元々2泊の予定だったのは、山行の往復で12時間を要すると覚悟していたからヘロヘロでテン
トに到着したらそのままバタンキューだろうと予想していた。それがこんなに順調に早く着いて
しまったのは大いに歓迎であり、また荷物を背負って歩く事など考えもしなかった。

冷やしていたビールを取り出し、栓を抜けばこっちのもんだった。
まったりとした後片付け、ほのかな酔い気分、初登頂の喜びと無事下山の安堵感・・なんと言う
幸福感に酔いしれていた。仮に車に戻ったとしても、札内ヒュッテの駐車場で車中泊するつもり
だったから、ならばここでも良いだろう・・と結論は早い。

量の少ないビールはあっと言う間に空き、残るウイスキーをお湯割りにして飲んでも暗くなる前
には底をついた。今宵も午後6時の就寝だった・・・。



橋のすぐ向こう側が七ノ沢出合の広場がある・・・


テン場の橋から札内川本流側を望むとその正面には中岳(1628m)を望むのだが、同定せず。

★ メジャーにしたい新ルート・・・
三日目、朝はコーヒーを飲んで終了。早々にテントを撤収し、ゆっくりとパッキングをして出発
した。そして、7時過ぎには車に着き帰路となった。緊急事態宣言下、どこの温泉も臨時休業。
帰宅して早々「エバの湯」で汗を流した。


山は私有物で無いし、ピンテを残して来たことも褒められる事ではない。
しかし、ダメだと思われていた山が、新ルートを開拓した事で登れる山になったとすれば、紹介
したくなるし、知りたいと思う愛好家も多いのでは?と勝手に思う。まして早々に山友が登る宣
言を表明していたので、敢えて残したピンテは安全対策だと理解して欲しい。

秋も深まり、陽が短くなる時期だけにこのルートを紹介したとしても限られた期間しかないだろ
う。そして、東面とは違うアプローチの長さを考えれば、あの快適なテン場で1泊する事は勧め
たいし、そうして欲しいとさえ思う。もし、このルートがメジャーになれば日高の楽しみは増え
るだろうと願ってやまない。



無事、駐車場に着きましたぁ~・・・!


ぴょうたんの滝、見物。キャンプ場は緊急事態宣言で閉鎖中でした・・。



最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ピラトコミ山新ル-トの件 (yamakichi)
2021-09-21 16:36:01
ピラトコミ山登頂おめでとうございます。
いつもブログを拝見拝読させていただいている、エバ夫婦の山紀行ログのフアンの一人です。
今回登られたルートが新ルートと書かれていましたが、結構たくさんの方に登られているようです。
神原照子さん著「日高辿路」に、十勝在住のガイドツアーで1993年7月4日に総勢10名で、エバさんとほぼ同じルートで登られたことが書かれています。
ちなみに私もこの記録を参考に、2005年7月3日幌尻ゲートから日帰りで登っていました。
余計なお節介だったかも知れませんが、エバさんのブログは影響力が大なので、失礼とは思いながら、お伝えさせて頂きましたことお許しください。
返信する
嬉しいです・・・ (エバ)
2021-09-21 21:11:04
yamakichiさん こんばんは
コメント嬉しいですし、ブログのファンなんて照れます・・です。笑

私のブログの影響がどれ程なのか分かりませんが、アップする時はまだこのルートで登った記録を見ていなかったので、新ルートと言う表現をしました。

ご教授頂いた神原さんの登行ルートは微妙に違いますし、7月の残雪が残っていた事も登頂出来た要因だと私は分析しています。
ツアー隊の神原さんたちは、北西面直登沢のC800付近から小沢を利用して北西尾根に取付いたと思われますし、上部は雪渓が残っていたので登れたと思っています。恐らく尾根に辿り着いた標高は1000m前後だと思いますが、かなりの斜度です。

私たちは、完全な無雪期で取付いた標高は668から820の尾根上です。

因みにyamakichiさんの登行記録が公開されているのなら教えて下さい。
また、結構沢山登られているとありますが、どこに記録があるのかご存知でしたら合わせて教えて頂きたいと思います。

その上で、表現が間違いならすぐに訂正しますので、よろしくお願いします。

本当にありがとうございます。
これからもちょこちょこコメント下さいませ・・。
返信する
新ルートの件 (yamakichi)
2021-09-22 15:24:29
神原さんたちのルートをご存じで、北西尾根への取り付き点の違いで新ルートとされたこと判りました。

<因みにyamakichiさんの登行記録が公開されているのなら教えて下さい。>
登っても多くの方たちが記録を発表していないと思いますが、私もその一人です。

<結構沢山登られているとありますが>
これは私が登った時に異なった標識布が複数取り付けられているのを見たので、この尾根を登っている方が結構いるんだな~と思ったことを書きました、言葉足らずでした。
<ピンテと鹿道に注視しながら登ると藪漕ぎなしで頂上に着いた。>
と、エバさんが書かれていいますが、私が登った時もそのような状況でした。

私は神原さんの記録を見て登ったので、先人への敬意でコメントいたしました。
拙い文章で失礼がありましたらお詫びいたします。
返信する
後悔も少し・・・ (エバ)
2021-09-22 21:59:22
yamakichiさん ご丁寧な返信に恐縮です。

神原さんは、当時ツアーに参加して登ったルートを日高遍路で紹介したに過ぎないと思っています。ガイドさんが導いたそのルートも素晴らしいのですが、はやり時期も違えば残雪の有無でも難易度は変わって来ますよね。

そして、微妙に登った取付き点も違うしやはり私たちが登ったルートは、未発表の新ルートと今のところ訂正はしないでおこうと思います。
ただ、そんなルートを公開する事自体が日高を楽しもうとする愛好家には迷惑な話だったかもと後悔するところは少しあります。

色んな意味で是非論もあるかも知れませんが、ひとつの紀行文として読んでいただけたら嬉しいです。

日高遍路にも強く影響されたエバです・・。
返信する

コメントを投稿