伊澤屋

歴史・政治経済系同人誌サークル「伊澤屋」の広報ブログ。

ジオン第八連隊記  報告書12 『白旗』

2012年02月26日 19時30分00秒 | Weblog
機動戦士ガンダム0079 ジオン第八連隊記 復興(あす)への咆哮


報告書12 『白旗』



TELLL... TELLL...

「はい。八連隊七中隊庶務係、シモムラ上等兵です」
「技術本部第一実験場解析班ナカジマ兵長です。 父から私宛のクリスマスプレゼント、本日無事到着受領しました」

「それは良かった。定期便のスケジュールがえらい逼迫しているから予定通りに届くかどうか心配でしたが一安心しました」


0079年12月25日、もう夕方で課業終了間際だったか。
地球発の官用機利用で発送した伝説の名品「プチ四駆」が無事届け先に着いたと係長の家の坊ちゃんから電話が入って俺は一安心した。もっとも明日には連邦とのクリスマス休戦が失効して無害行動区のココを除けばそんな不要不急の連絡どころじゃなくなるからな。正しい判断さね。
昨日は明けの代休。(大体レセプションで呑み過ぎ行動不能)今日以降は年末年始準備だよ。

しかし係長の坊ちゃんは若くてもしっかりしている。父の死に直面してもその事で電話口で泣く事も無く仕事に一切私情を挟まずにただ「クリスマスプレゼントがちゃんと着いた」とだけ伝えてくる太い神経は正真正銘の職業軍人だ。俺なんて七回生まれ変わっても真似できんわな。

本国からの行き帰りで遺族弔問と墓参の為のスペシャル便が連邦のコアブースター(って名前だったと思う)に追い回された?とかやばい情報もあったが無事帰れたようで幸いだ。


「シモムラ。大晦日には民生協力でそれぞれの家々と今年は仮設商店街を廻るナ・マハゲをやるんだがこれにヒノモトが当初の計画通り参加する。そこで、お前も一緒に…って、あ。待て!止めとく。俺がそう考える自体間違いだった!お前の顔はお面無しでも本物の鬼か妖怪だ!」
「中隊長。正解です」

「テメェ!上司を前にしてガキ相手の教師気取りのつもりか!? 気合入れる!」


俺は嬉しいよ。 父を失っても動じない兵士がいる。もう何も考えたくなくても意味も無く他人に突っかかって罵倒して悲しみをちょっとでも忘れさせてくれる上司がいる。有難い環境だ。


「…気合入れるのは後だ。言い忘れてたがお前に異動の命令が来ている。明日付けで当中隊の庶務係は解散。お前は第一小隊に配置だ。ってゆーかウチには今もう一小しか無いんだが」
「一小隊長は、確か先週にカハライ中尉からナンザキ少尉に交代しましたね」

「そうだ。カハライは白兵戦専門だから内密に宇宙に上げた。ナンザキは新規配置の部下の申告の受け方とか知ってるかどうかわからん。『教練は凄い苦手です』とか呑み会で言ってた奴だ」



12月26日 朝  


「申告します!シモムラ上等兵は第七中隊第一小隊に着任を命じられました!」
「着任を許可する」

「お前の入営期別見ると今年の10月には上等兵から兵長に進級してる筈だが」
「小隊長も御覧になっての通りィ!全身の重篤な火傷で進級禁止の処置でありますッ!」

「ふぅ…お前は歩兵のモスも持っていなくて慣れん仕事で大変だろうが頑張ってくれ」


先行き不安だ。元々七中自体が徴兵入営したての新兵かもしくは非戦闘兵科からの転科者の教育の為の「学校」みたいな立ち位置で予備ナンバーだったのがいつの間にやらレギュラーだ。
定数が連隊で3個大隊6個中隊なのにナンバー、番号は七まであると…な。気が重い。


「ようこそ! シモムラ上等兵がウチに配置されたの歓迎します。今夜は小隊で会食しません?」
「ヒノモト上等兵『殿』!私はヒノモト上等兵殿と違い歩兵のモス、資格も持っておらず一小にいても穀潰しの恥ずべき身でありますッ!上官から敬語で話されるなど立派な人間では到底なく殴る蹴る罵倒されながら一から技能を学ばねばならない私はクソでありますッッ!!」

「…えっ、シモムラ上等兵。 何て言うべきなのか部下の私にそんな丁寧に敬語で話さないで下さいよ。歩兵のモスでは上って古兵からそう接されると、かえって何かやりにくいです」
「私はこれからは、ヒノモト上等兵殿の命令を聞く事にするのであります!」

「そうですか。では、連邦軍との直接の戦闘になった時以外は今まで通り私の上官でいて下さい」
「了!」


「オバチャンといい舞妓はんといい同業の兵隊さんといい、シモムラはもてるねェ」

中隊長だか武器下士官だか誰の声だ?
連隊補給科と酒保に行って歩兵や白兵戦の教程は無いか探したら「無ぇよ」と。
考えたら教科書や取説読みながら目の前の敵と戦って殺せる奴なんている訳ないか。
ん。余震なのかそれにしては小さいが気持ちほんの少し地面が揺れた。

「ワーニング!ワーニング!警報『R』。各員決められた対処を行え!」


いきなりけたたましい放送がかかった。警報Rって放射線かよ!速やかに近くの建物に退避するのが準則だ。ワ・カヤマのアレは俺等がしっかり収束させたしココからはメッチャ遠い。
一体何の騒ぎだって言うんだ。気分良くないぜ。


「シモムラ上等兵は、戻りました。先ほど対放射線ワーニングが発令されたのを聞きました。」
「戻ったか、って準則上外歩いていいのか?まあココならまだいいが」

「はい。なるべく放射性の塵に触れないよう各建物内を通りながら中隊まで戻りました」
「悪い結果だな…。コーヤコーヤ山が連邦軍の核攻撃を受けてたった今消滅した」

「!」
「近隣都県のモニタリングポストに異常が無いからこいつは純粋水爆だ。1発目のこれは警告だ。この分だと次は旧式水爆、放射能ドバーッの最悪な奴が来やがるな」

12月26日 ヤープト時間0903i、地球圏標準時同日0003z(ゼブラ)だった。


一瞬、正直な話コレはあくまで中隊長得意のキツい冗談で、「コーヤコーヤ山時間」即ち遅刻が御利益などと毎度の如く遅刻、すっぽかしが常態化ししかも侘びの言葉の一つ無い同山の阿呆坊主ども煉獄の業火で焼き殺されやがれとかいう意味で警報Rついでに真剣極まる表情で名演技したんだとしか思えなかったが(俺も、冗談に引っ掛かったフリをして一旦は驚く真似をしたのだ)次第に正確な情報が軍民で交換されるにつれ認めたくないが真実と判ってきた。

予想の必要すら無いが官民問わずヤープトの世論は沸騰、それどころか赤熱した。


「南極条約もよう守らん腐れインケツ連邦に絶対報復しろ!旧式原爆なら1週間で作れるぞ!」
「ジオン軍の技術者も引き込んで、ワ・カヤマの材料で『ダーティー爆弾』今日即刻作れ!」
「無害行動区なんて無くても、もううちらも独自の軍隊作ってジオンと共同戦線張るぞ!」


これら憤りに対しては


「ヤープトは南極条約を批准していない。馬鹿じゃないのか」
「所詮、坊主がいっぱいバーベキューになっただけじゃないの」


前者はタカ派で差別主義者の連邦軍人。後者は連邦政府の警察大臣夫人の無神経極まる答だった。 
これらがあり良くも悪くも歯車が回り始めた。
ジオン公国と地球連邦で結ばれた南極条約では交戦国は軍事占領地を交戦国間の合意無く

・併合してはならない。
・独立させてはならない。
・交戦当事国以外の第三国に引き渡してはならない。

と旧世紀の万国公法以来続く交戦法規が踏襲されたが連邦側の「ヤープトは南極条約を『批准していない』ではないか」という暴言を前にこれまで「連邦も条約を守る限りは」と腰の重かった総帥府もヤープトの暫定州から国への昇格、完全な独立と国交樹立の方向へと舵を切った。



「ん、『ジオン公国とヤープト国の間の国交樹立基本条約』ってうちら側の奴はこれでいいんかな」
「コーヒーとかこぼして汚すなよォ。正文の原本の予備なんて今頃になって幾つもないんだぞ」

「こっちの作業の方がヤマだな。『日慈国交樹立基本条約』って中世語だとこの漢字でいいのか」
「ネイティブの国語学者とキ・ヨミズ寺の貫主がこの漢字でいいって言ったぞ!縁起良い字だと!」

「うち等の…軍旗じゃなくて国旗だ。ヤープトの旧国旗は用意できてるか?」
「旧じゃなくて『新』国旗って呼ばなきゃ。近くの洋裁屋で大小両方出来てる」

「条約の調印は…現時点ではここだけの話にしとけよ。まだ正月元旦でしかも役所や報道がもうすぐ閉まる、動きが鈍ってくる時間帯の宇宙世紀0080年1月1日1530ゼブラ。ヤープト時間だと日付越して2日0030iだ。まさかこんな時間だとは思うめぇ」
「うち等側の条約調印全権代表は第四飛行団長のターモ准将か。あのヒトごっつ地元愛強いからきっと『今から最高のお年玉だぁ!』ってメッチャ喜んでるだろうな」



「しっ、放送だ」
「達す。手空きの要員は総員連隊講堂に集合。本国からの重大決定を伝達する」


連隊講堂。

「連隊長の本官から伝えるのも辛い報せだ。ここにいる大部分の兵士諸官にとって故郷たる我々の48バンチコロニー ナ・ンバは内部住民を疎開させた上で今次独立戦争の決戦兵器たるソーラ・レイへ改修される。既に3バンチ マハルはこの改修を終えている。 年明けにも住民疎開と改修作業が開始される為家族のいる者は…方面軍通信団に調整し秘話レベルは最大に指定してあるので連絡を取れ」
「うっひょぉー」


俺は敢えて親父にもお袋にも電話とかはしなかった。「秘話レベルは最大にしてある」って…連邦の傍受部隊だって無能じゃないしナ・ンバで民間人の一般家屋にある電話なんざ話す内容丸裸筒抜けだ。 「意図的にわざとらしく」 形を整えた連隊長お得意の心理戦だと俺的に解釈した。



明けて宇宙世紀0080年1月1日15時09分(ヤープト時間同2日00時09分)

TELLL... TELLLL...

「はい。八連隊当直将校モリ中尉です。何?全軍で戦闘行動を停止、直ちに停戦と?」


                                      報告書12 『白旗』 完



次回予告

今更俺に、何を言えだと?


次回 最終報告書 『復興(あす)への咆哮』

最終回拡大スペシャルだ。見ろよな♪


                                        (C)伊澤屋/伊澤 忍  2671
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