土手猫の手

《Plala Broach からお引っ越し》

「チャイム」(転載)

2013-06-02 23:52:58 | 掌編小説(改稿)
   「チャイム」

                          本居 寝子

突然、先生の言葉が説明が耳馴染みの有るものに変わった。
ぼうっと流れていた時間、頭にスパークが翔る。「ええっ? これもうやったとこ……」
瞬間私は顔を上げた。「……いや」その頭を振って考える。「おかしい!?」
いくら勉強嫌いな自分でも、さすがにそれ位は解る。言葉・内容、繋ぎ方が全てまるまるおんなじならば。おんなじ、カリキュラムでは無く段取り、話そのものが同じだったのだから。
眉間にしわを寄せながら「あれっ?」ハッキリとして来た?目で辺りをそっと伺うと、誰一人として声を挙げる気配も無い。気づいて無い?
「何で?」ぼんやりを引きずったまま、かの頭を無理矢理に、回転数を上げさせて、答えを探そうとする。え……っと、
『同じとこやってるよ!(笑)』『進まなくてラッキー!』って魂胆?
つかの間、納得を見つけた気分になる。でも……
にしても、この静寂さは『異常』では無い『いつも』過ぎる?

取り敢えず「仕方無い」私は混乱した頭のまま、その時間を遣り過ごす事にした。他にやる事も無い授業中だ。聞き覚えの有る授業ではあってももう一度、聞きながら休み時間を待つしか無い。
「そうは言ったって!」どうしたって、まして「もうやった」なら。『勉強』の二文字なんて造作無く滑り落ちてしまう。
窓ガラスの先は花の色にけぶっている。時計の針は9時22分。
「目は開いている。開けてるけど……」「もしやこれは夢? 夢を見ている? また随分とハッキリした夢よね……」
「夢か……」もし、ならば。もし白日夢なら終業のベルに依って覚まされる筈だ。
でなければ。級友達のはやし声によって覚まされるだろう。「うんうん」
そうきっと、ここに居る一同にベルは告げることだろう『もういいよ』そして『さあいいよ』と。うん論理的。
あれこれとくどくどと巡らせている内にやれやれやっと、
『もういいよーーーー』は来た。

一気に教室の空気が緩む。ONからOFFへの瞬間移動だ。
開けた窓の隙間から花びらが吹き込んで来た。
『春は曙』かぁ。もうそんな時間じゃないか……さて起きなくっちゃね。
休み時間に「起きる」とは、はてさて困った生徒であるなと我ながらに思う。
学校もとんだ新入生を受け入れてしまったものだな。なぁんて、さっきまでとは打って変わった呑気さで、私は待っていた。
そうだろう当然の反応を待つ。しかしクラスメートはこれといった、別に格段変わった様子を見せる気配は無い。おしゃべりをしたり、伸びをしたり。いつもの光景だ。
お菓子をまわす、スカートを扇ぐ。真似して扇ぐ。
回転数安定、動作確認。スリープはしてない。
「やっぱり……」つまり、そういう事? 私はやっと飲み込んだ。
本当は、ずっと目が覚めていた事に今の今まで気づいてなかった、らしい私は確かめるかの様に声を出してみた。
「私だけが聞いていたのか、同じ授業をもう一度」

白日夢は目覚ましのベルと共に「そのまま」現実へとスライドして行っていたのだ。

キンコンカンコーン……
夢じゃない事を音が告げる。
「そうか中学じゃなかったっけ……」

始業を知らせる音だけが晴れやかに、チャイムへと姿を変えていた。

2008.4.26初稿。(4.27加筆修正)

2008.4.26「Open Sesame」。
http://pub.ne.jp/nekome9_1/?entry_id=1358700

過去に経験した事を、ブログ用に書き始めたところ、小説風な文章になった?からという事で、小説に転換して書いたもの(最初に書いた掌編)。
大昔の、高校生の時(「時をかける少女」のロードショウを見る以前)に経験した不思議な体験がベースです。
『…』を二つ重ねる、『?』の後ろにスペース、「」の中の『。』を削除するのみ変更しました。
(文章に手を入れることも考えましたが、やめました)

《Plala Broach「土手猫の手」2013.6.2》



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