おじさん日記 ~Okinawa Self-Diving Log~

セルフダイビングのブログ。ログや写真や器材が中心ですが、その他ダイビングに関係ないことも好き勝手書いています。

酸素の効果と危険性

2016-11-25 23:08:52 | リスクマネジメント
連日続いた酸素絡みの話題もこれで最後です。今回は酸素自体について。

ダイバーの間では酸素について誤解がたくさんあります。イントラでもベテランでも、間違った知識を持っていることが結構多い。

1.ナイトロックスや純酸素を使うのは何のため?
2.酸素の害についても知っておこう
3.海での緊急時にはまず酸素
4.減圧症でもないのにチャンバーに入って効果あるの?
5.ダイバーが言う「酸欠」はまず間違い
6.本当の酸欠って何?


といった内容を扱っていきます。結構長い記事になります。分かりやすく、なおかつ誤解を生まないように正確に書くのは難しいですね。正確性を重んじるとどうしても注釈だらけの長い文章になってしまう。

長いので気になる項目だけどうぞ。また、難しい話もありますが大切なところは太字や下線付きで書いてあるので、難しいところはすっ飛ばしても大丈夫です。


1.ナイトロックスや純酸素を使うのは何のため?

酸素は人間にとって不可欠で、海での事故や病院内で使う際は、主に体内の酸素が不足するような病態で酸素の吸入を行います。しかし、ダイビング中やダイビング前後で使う酸素は目的が全く違う。

酸素を体の中に入れる目的で酸素を吸うのではありません。体内にたまった窒素を体から出すために、酸素を吸う。理由は、空気と違って窒素を含まないから。

少し難しいことを言うと、血液中の窒素分圧と吸気中の窒素分圧の差があればあるほど、血液中の窒素が速く排出される。なので窒素分圧がゼロの酸素を吸う。

酸素が含まれていない気体を吸っていると酸欠で死んでしまうので、ある程度の酸素が含まれている必要がある。で、一番安価で使いやすいのが純酸素だから純酸素を使っているだけ。陸上であれば代わりに21%酸素で79%ヘリウムのヘリオックスなどでも良いのだけれど、わざわざそんなに高いものを使うことはないので。

重要なことなので繰り返すけれど、体にたまった窒素をできるだけ早く外に出すために、空気よりも窒素濃度が低いナイトロックスや酸素を吸うのです。主役は酸素ではなく窒素。ダイビングで使う酸素の目的は特殊だってことをまず理解しておくことが大切だと思います。


2.酸素の害についても知っておこう

ダイビングでナイトロックスの講習を受けると、教えてもらうのが中枢神経の急性酸素中毒と肺の慢性酸素中毒。

急性酸素中毒吸入する酸素分圧が高すぎる時に起こりうる。代表的な症状はけいれん。潜水深度に注意。
慢性酸素中毒長時間酸素を吸入しているときに起こりうる。代表的なのは肺障害。普通のダイビングでナイトロックスや酸素を使うくらいであれば大丈夫。

この2つはそこらじゅうで説明されているのでここではこのくらいでやめておきます。両方ともとても大切です。

では、高圧もしくは長時間の酸素吸入をしなければ酸素には害がないのか。まだ分かっていないことも多いのだけれど、害はあります。必要ないのであれば余計な酸素は吸わない方が良い。

特に、ヘビースモーカーの高齢者にはCO2ナルコーシスという呼吸が止まってしまう現象が怖いので、症状がないのであればあまり純酸素を吸わせたくはありません(後述しますが緊急時は迷わず吸わせます)。CO2ナルコーシスになりうるほど呼吸機能が低い人はダイビングなんてやってはいけないのですが、ボート上で「あ、この人アウトだな」って一目で分かる喫煙イントラを見たこともありました。ダイビングでは休憩時に上半身裸になることが多いので、見る人が見れば重度のCOPD(慢性呼吸製肺疾患)になっているだろうなということは一目で分かる。呼吸をする際に普通の人とはちょっと違った筋肉を必要とするのでその筋肉が大きくなっていたり、呼吸の仕方が変わったり、体型が変わったりするのです。

酸素自体の効果や副作用は机上では諸説あって、いろいろな人がいろいろ言っているけれど、「ある特徴を持った集団に酸素を投与したら、酸素を投与しない群に比べて、何らかの指標(生存率など)が改善するかor悪化するか」といった臨床試験を実際に行ってみないと何とも言えない。人間は理屈で考えた通りの結果になってくれるような単純な生き物ではないのです。有名な活性酸素についても、実際にどこでどれくらい悪さをしているのかは分かっていない部分が大きい。

例えば救急医療の現場で、昔は心筋梗塞を疑った患者全員に酸素を投与していた。心筋梗塞では、冠動脈(心臓自体に血液を送っている動脈)が詰まってしまって、その先に血液が流れなくなり、その結果その先の心筋組織に酸素が届かなくなって壊死してしまう。なので、せめて血液の中に溶解している酸素の量を増やして、少しでも心筋に酸素が届きますようにと願って酸素を投与していた。

でも実際に心筋梗塞患者で調べてみると、酸素を投与した群の方が酸素を投与していない群に比べて結果がよろしくないことが分かり(具体的には梗塞サイズを示唆するCKというマーカーのピーク値が酸素投与群の方が大きくなってしまった)、現在ではSpO2(動脈血酸素飽和度)が低下していない限り酸素を投与しない方が良いのではないかという流れになってきている。ただ肝心の死亡率の差については評価されていないので、それについては現在進行中の研究の結果が待たれているところ。なので、今後また事情が変わってくる可能性があるし、素人にとってはどうでも良い話なので、説明不足な感は否めないけれどこの辺にしておく。

ちなみに上記の論文はAVOID Studyと呼ばれる2015年にCirculationという雑誌に掲載されたもので、現在進行中の研究は通称DETO2X-AMI trialです。著者名とか論文のページとか本来必要な情報は面倒なので載せません。ブログでは論文の引用(小さい文字で数字ふるアレ)がやりにくいので専門的な議論には向かないですね。

難しいことは置いておいて、何を言いたいかというと、酸素は人体に害を及ぼすことがあるということ。心筋梗塞を含めて、酸素投与が有効と予想されるような場合であっても、実際には害の方が大きいなんてこともある。

ダイバーの中には、「酸素は無害で健康にも良い」と信じている人もいるけれど、さすがにそれは間違い。必要でないのであれば吸わない方が良い。「酸素って健康に良いらしいから吸ってみようかな」なんて思うのはやめましょう。

その誤解の原因ですが、おそらく、一昔前に流行った酸素バーとか、ナイトロックスを使うと体の疲れも少なくなりますよなんていう宣伝から、酸素に過剰な期待をしているのだと思う。

当然酸素がないと人間は生きていけませんが、かといって過剰な酸素を吸えば良いというものではない。

もう既に流行は去っていると思うので言ってしまうと、酸素バーなんて効果はありません。効果がないからこそ、「あのベッカムも愛用!」なんて言って宣伝をするしかないのかもしれない。もちろん酸素バーの業者はあたかも健康に良いかのような、何となく科学的に感じる説明をしますが、健康な人に酸素バーのメリットはありません。もしあなたが酸素バーは体に良いと信じるデータや論文を知っているのであれば、私に教えてください。まず間違いなくそのデータや論文の不適切・不十分な点を指摘しますので。データの集め方(ランダム割付や盲検化を含む研究デザイン)、データの解釈のどちらかで、効果があるそうに見せる意図的なトリックが含まれています。

自分が知らないところに本当に医学的に価値のあるデータがある可能性は否定しませんが、酸素バーを含め、通販やワイドショーなどで大げさにやっている商品のデータはツッコミどころ満載です。「何か体が軽くなった気がする」とか「すっきりした」というのは、いわゆるプラセボ効果だと思います。プラセボ効果っていうのは、実際にその成分が入っていなくても入っていると信じていれば何らかの効果を体に感じること。他にも、酸素バーの店内の雰囲気やアロマなどによって、リラックスできることもあるかもしれません。でもそれは酸素自体の効果ではないので分けて考えないといけない。

最近は酸素じゃなくて水素が流行っているそうですね。水素水も、マイナスイオンも、デトックスも、いわゆる疑似科学です。ニセ医学とも言う。一見科学的な説明をするものだから、信じてしまう人が出てきてしまうのでしょうね。商品を売る側もメディアも、視聴者の心を動かそうと必死にそれっぽい説明をするので。

メディアでは専門家が発言したとしても都合の良いところだけ切り取られて使われ、本人の本意でない誤解を引き起こすような結論になっているなんてこともよくありますから。中には本当にとんでもない持論を持っている医者もいますが。。まあ、不安を煽って視聴者を引き寄せようとするメディアの立場も分からなくはないですけれどね。視聴率とかスポンサーとの関係とかいろいろあるようですので。視聴者が賢くないとすぐに流される。

「〇〇の名医が勧める」「〇〇の権威である〇〇先生によると」といった三流週刊誌に出てきそうな言葉が出てきたら、その時点で気をつけた方がよいですよ。誰が言っているかというよりも、その根拠が信頼に足るものか、というところで判断した方が賢明です。仮に信頼に足る専門家の発言だとしても、メディアの都合の良いところだけ切り取られて使われ、本人の本意でない誤解を引き起こすような結論になっているなんてこともよくありますから。

ただ、信頼できる根拠どうかを判断するのは難しいし時間がかかります。一般の方からしてみたら「〇〇大学による〇〇といった論文で証明されました」なんて言われたら、ああそうなのかと思ってしまうでしょうから。論文は著者が自分の言いたいことを論じているに過ぎない。それが信頼に足るものかどうかは読者が判断する必要がある。意外かもしれないけれど論文なんて半分以上がゴミ同然で読む価値のないもの。結果うんぬんではなくて、研究のやり方(研究デザインという)に問題があって、結果を歪めるバイアスが大きすぎて結果を信用することができないもの。これがかなり多い。質が低く間違ったもので良ければ、自分にとって都合が良い事を言ってくれるデータは見つかってしまうことが多いです。

科学の世界では論文にしないと評価されないので、研究したら頑張って論文にするわけです。で、論文を科学雑誌に載せてもらうにはそれなりの結果が必要なので、論文の著者には「何とかして差を出して自分の説を立証したい」という強い動機があります。製薬会社など売る側による論文は特に良い結果を出したいという動機が強い。

なので、論文が信用するに値するかを、研究方法を見てしっかりと判断する必要があります。これを難しい言葉で批判的吟味って言ったりします。実際に専門外の分野でこれを行うのは難しいけれど、せめて「データが出ているから信用できる」って安易に考えるのはやめた方が良い。

話がそれた。とってもそれた。酸素にも害はあるので、必要でないのであれば余分な酸素は吸わない方が良いという話でした。


3.海での緊急時にはまず酸素

元気なダイバーが使うナイトロックスや純酸素は、主役は酸素ではなく窒素でした。体内に溶け込む窒素を減らすために、窒素の量が少ないという理由でナイトロックスや純酸素を使う。ダイビングならではの使い方ですね。

それに対して緊急時に使う酸素は、酸素自体が主役です。酸素自体が足りない、もしくは酸素が足りない「可能性がある」ので、酸素を使っていきます。病院で酸素を使う時もほとんどがこの使い方。

マリンスポーツでは原因か結果かを問わず、事故が起これば結果的に溺水になっていることが多い。元気なダイバーではありえない、酸素が足りない状態です。なので、文字通り「不足する酸素を補うために」酸素投与をする。酸素投与のメリット>>デメリットなので。

溺水などの水難事故の際は全例に酸素投与をします。マニアックな話になりますが、もし仮に先述したCO2ナルコーシスで呼吸が止まったとしても人工呼吸でしのぎます。


4.減圧症でもないのにチャンバーに入って効果あるの?

大方予想はつくと思いますが、効果はありません減圧症の方や潜水直後であれば理解できますが、そうでもないダイバーがチャンバーに入ったところで良いことはありません。日常生活をしていれば血中や体内組織の窒素は空気の窒素と平衡状態になっていて、仮に症状がないマイクロバブルがあったとしても同様で、日常生活を送っているうちに消えています。

チャンバーに入るっていうのはつまり高圧酸素療法を受けるということですが、こんなものに高圧酸素「療法」という言葉を使いたくはないので、ここでは「チャンバーに入る」と表現します。

なぜこんなことを書くかというと、沖縄県内で無症状のダイバーでもお金を払えばチャンバーに入れてくれる場所があるという都市伝説を何回か聞いたことがあるので。。しかも潜水直後というわけでもないのにチャンバーに入るとのこと。

「チャンバーのチケットがあって、一回○○円」「実際に行ったことがある」などなど。その施設のホームページを見てもそんな記述はないので真偽のほどは分かりませんが。

噂に聞いたところはしっかりとした医師が管理している施設なので、仮に職員の誰かがそういったチャンバーの使い方をしたいと言ったとしてもそんなことはさせないと思うのですが。。

あ、将来減圧症になった時のために「チャンバー体験」してみるだけなら別に構わないと思いますけれどね。さすがに医療機関が何らかの効果を謳って客(?)を集めるのはマズイと思う。だって効果がないのだから。怪しい酸素カプセル屋さんじゃあるまいし。美容整形とかと同じく、保険診療ではなく自由診療なら禁止されているわけではありませんが、医療機関でこういうことをしてしまうと、信用を失う原因になる。

そういえばDAN JAPANの機関誌でも、この話題は扱われていました。Alert Diver 59号の11ページ。今なら以下から閲覧できます。
http://www.danjapan.gr.jp/re/pdf/AD59all.pdf
その記事によると、「“窒素脱飽和治療”をルーティンで提供して現実にこの神話を広めているチャンバー操作員が複数いるという報告もあります」「ダイバーに対して企まれたでっち上げ」とあります。この記事は論文でも何でもなく引用も明確にされていませんが、分かりやすく説明されているし、内容自体は自分としても賛成できるものです。「ダイバーに対して企まれたでっち上げ」とまでは僕は思いませんが。

しかし、チャンバーがある施設に頭が上がらないDAN JAPANがもともと英語で書かれたこの記事を和訳してAlert Diverに載せるとはびっくりでした。まあ、本当にこんなチャンバーの使い方をしている施設があったら問題ですからね。

DAN JAPANの会員専用ページって以下のリンクに直接飛ぶと入れてしまいます(2016年11月現在)。
http://www.danjapan.gr.jp/re/index.html
Alert Diverの他の号もダウンロードできるので、興味がある人はホームページが修正されて本当に会員しか見られらいようになる前に見てみてください。

少し話がそれましたが、もし仮にチャンバーがこういった使い方をされていて、担当している方が本当に効果があると主張するなら、実際にデータをとって論文にすれば良いと思います。日本に限らず他の国でも健康なダイバーへの高圧酸素療法は「効果あるわけないじゃん、馬鹿じゃないの」といった風潮で今後他の施設でそういった研究をすることはないと思うので、もし効果ありという結果が出たのであれば高圧酸素療法や潜水医学の世界で大きな話題になると思いますよ。ボランティアダイバーを集めるだけであれば費用もそんなにかからないし。

・ボランティアで集めたダイバーをランダムで2群に割り振り
・酸素で高圧酸素療法を行った群と、プラセボとして空気での高圧療法を行った群で比較
・被験者にはどちらの群に割り当てられているか伝えない(プラセボ効果防止。それを了承してもらった上で協力していただく)
・高圧酸素(or空気)療法を実施する技師は被験者に接触しない(技師は装置を操作するのでどちらかの群か分かってしまい、その態度が被験者に影響を与えないようにするため)
・実施後の調査は、被験者がどちらに割り当てられているか分からない者が行う。

といったランダム割付や盲検化は必須です。論文執筆者が割付も調査も行うなんてことをしていたらバイアスが入りまくって論文としての価値がなくなる。笑顔で「今回は本当の酸素を使いました。効果はどうでしたか?」なんて聞かれたら、「効果ありました」って言いたくなるのが人間の性でしょ?

ちなみに、どれだけの人数のダイバーを集めればよいか(サンプルサイズ)は、どれくらいの差を見込めるかの判断から決まってきます。また、アウトカムを何に設定するかは、効果がないと思っている自分にはよく分かりません。「気分が良くなった」ではダメでしょうから、前向き研究にして「以後に減圧症を発症するか」あたりになるでしょうか。

また話がそれた。減圧症でもないダイバーがチャンバーに入ったところで効果はないという話でした。


5.ダイバーが言う「酸欠」はまず間違い

酸素がらみでダイバーがよく間違えていることについて。よくダイバーが使う「酸欠」という言葉。エア消費を少なくしようと頑張った結果、潜水後に頭痛がしたりなんかすると、「酸欠で頭が痛い」なんていう人がいます。ダイバーが言う「酸欠」はまず間違い。

基本的に、スキューバダイビングで酸欠、文字通りの酸素欠乏になることはありません背中に圧縮空気のタンクを背負って水中でレギュレーターから呼吸している限り、どんなに呼吸の数を減らそうがどんなに激しく泳ごうが、酸素が足りなくなることはありません。

水中では陸上で呼吸するよりも酸素分圧が高い空気を吸っているので、酸素が多すぎることはあっても吸う酸素が少なすぎることはないのです。例えば水深10mであれば2気圧になるので、吸う空気の酸素分圧(ちょっと違うけれど酸素濃度のようなもの)は2倍になり、水深40m近くでは陸上で100%酸素を吸っているのと同じ酸素分圧になります。

水深56mまで行くと水中での酸素分圧の上限1.4気圧になるため、それ以上深くは窒素の問題よりも酸素の問題から潜るのは危険なのです。酸素分圧が高すぎると、急性の酸素中毒になる可能性があり、突然けいれんをしてしまうリスクがあるのです。当然、水中でけいれんが起こると溺死します。

ちなみにチャンバーこと高圧酸素療法では酸素分圧2気圧以上で治療を行いますが、けいれんが起こることはめったにありません。ただ陸上で行う高圧酸素療法と違って、万が一水中でけいれんが起きると死に直結するので、酸素分圧はより安全な1.4気圧(純酸素での減圧時は1.6気圧)未満にするように指導されています。水中でのけいれんは減圧症なんかと比べ物にならないくらいヤバイですからね。

またまた話がそれた。

では酸素は足りなくならないのにダイビング中にエアの消費量を少なくしようとして呼吸の回数を少なくするとガンガンと頭が痛くなるのはどうしてか。初心者の時に残圧が減るのが周りより早いのを気にして頭痛が起こった経験がある人は多いと思います。これは、酸素が足りないのではなくて、二酸化炭素を十分に吐ききれずに溜まってしまったから。血中の二酸化炭素濃度が大きくなると脳の血管が拡張して頭の痛みを引き起こします。酸素は全く関係ないので「酸欠」ではない。

いわゆる「酸欠」についてのトリビアでした。


6.本当の酸欠って何?

ちなみに、溺れたりエア切れになったりリブリーザーが壊れたりしない限りスキューバダイビングではありえませんが、本当の酸素欠乏になると大変なことになります。前駆症状がなく突然目の前が真っ暗になって意識を失うこともある。水中で意識を失ったら当然溺れます。けいれんと同じくらいヤバイ。

素潜りやシュノーケリングので息を止めて潜って、水中で長居しすぎて水面まで浮上するまでに血中の酸素飽和度が足りなくなると(これが本当の酸欠)、浮上中にふっと意識を失います。友人が助けてくれたり惰性で水面まで浮き上がって偶然仰向けになるなんてことがあれば助かりますが、そうでない限り溺死します。素潜りやシュノーケリングではこの酸欠が怖いので、潜る前に過換気(ハイパーベンチレーション)をすることが禁止されているのです。僕らが「息が苦しい!息を吸いたい!」って思うのは酸素が足りなくなったからではなく、二酸化炭素が溜まったから。酸素は関係ない(COPDなどで慢性的に二酸化炭素が溜まっている人を除く)。潜る前に過換気をしてしまうと、血中の二酸化炭素が少なくなって、息苦しく感じるのが遅くなる。だから昔は過換気をしてから潜る人がいたのだけれど、そうすると息苦しく感じた時にはもう酸素が足りなくなっていて酸欠→意識消失→死亡という最悪の結果になる危険があるのです。



以上、6つの項目について扱いました。酸素については誤解がたくさん。他にも、人間に大切なのは血液への酸素溶解量ではなくヘモグロビンに結合する酸素飽和度で、だからこそ必要以上の高濃度酸素は必要ないということとか、窒素の排出に関わるoxigen windowという考え方とか、酸素に関する話題はまだまだあるのだけれど、話がより長く難しくなるのでこの辺にしておきます。

まとまりがない文章になりましたが、ダイバーが意外と勘違いしている酸素についてでした。せっかく酸素やナイトロックスを扱うのであれば正しい知識を持って上手に使いましょう。

誤解されている点はちらほらありますが、総じてダイビング絡みの酸素使用はメリットが大きいので、自分としてはもっと普及してほしいなと思っています。


ついつい長くなってしまいました。予備知識がない人にとっては難しくて長すぎ、違った意見をお持ちの方や専門家の方からすれば、説明不足に感じるところもあるかと思います。ブログではこのくらいが限界かな。

特に違った意見をお持ちの方や専門家の方からすれば、不十分に感じるところもあるかと思います。その場合はコメント欄かメッセージからご連絡ください。違った意見をお持ちであればその根拠となる論文やデータや書籍など(ネット情報であればURL)を明記していただければ、ネットでありがちな不毛な言い合いにならずに深い議論ができるので助かります。意見が食い違う部分については私も追加の説明をしますし、自分の書いた内容の根拠となる論文の具体的な紹介も必要であれば可能です。

私の素性を知らない方に関しては、匿名か実名かでコメント欄とメッセージを使い分けていただければ幸いです。

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専門的なディスカッションは本来実名で堂々と議論するのがスジですからね。まあでもこのブログも匿名でやっているし、匿名で気軽に議論するのもそれはそれで良いです。

どちらが正しいかということにとどまらず、議論はより深い洞察を生むので歓迎します。


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