神の手は力ある働きをする。

 主の右の手は高く上げられ、
 主の右の手は力ある働きをする。

(詩篇118編16節より)

少女パレアナ-【4】-

2015年10月20日 | 
【August in the City】エドワード・ホッパー(オールポスターズの商品ページよりm(_ _)m)


 パレアナと「その男」――ジョン・ペンデルトン氏との出会いというのは、あとになってみると実に不思議な行き会い方だったような気がします。

 パレアナは彼のことが一目見るなり気になって「こんにちは」だの「良いお天気ですわね」と言ってさかんに話しかけるものの……男のほうでは「ふん!」だの、「なんだって?」としか言わなかったにも関わらず、パレアナのほうではめげずにしつこく話しかけ続けたのですから(笑)

 このジョン・ペンデルトン氏はスノー夫人同様、相当「ふうがわり」な人らしく、立派なお屋敷にたったのひとりきりで住んでいるということでした。


 >>ナンシーは目を丸くして、

「あの男はだれとも口をきいたことがないんですのよ。お嬢さん――ほんとに長年のあいだ、よくよくの用事がなければ、人と話をしないんです。ジョン・ペンデルトンですよ。ペンデルトン丘の大きな家にたった一人で暮らしてるんです。料理番さえおかないで――三度三度ホテルへ食事にいくんです。ホテルであの人の給仕に出るサリー・マイナーって娘を知ってますがね、ペンデルトンはなにを注文してるんだか、聞き取れないくらい小さな声なんだそうですよ。しょっちゅうこっちが察していなけりゃならないんだけれど、それが安いものでなけりゃいけないんですとさ。それだけは確かだって言ってました」

 パレアナは思いやり深くうなずいて、

「無理もないわ。貧乏だと安いものでなけりゃ買えないのよ。あたし、お父さんとよく外で食事をしたけど、たいていはお豆と魚(フィッシュ)ボールだったのよ。豆を好きでよかったって言って喜んだのよ――七面鳥のローストが見える時なんかには、なおのことそう思ったわ。七面鳥のローストは六十セントもしたのよ。ペンデルトンさんはお豆を好きかしら?」

「好きもきらいもあるもんですか。お嬢さん、あの人は貧乏じゃないんですよ。お金はありあまるほど持ってるんです――お父さんの遺産がありますからね。この町じゅう一の金持ちです。ドルのお札を食べてだっていられるんですよ――それで痛くもかゆくもないんですのにさ」

 パレアナは笑いました。

「お札を食べて知らずにいるなんてことあるかしら?だってかむ時にわからないってことないわ」

「そのくらいの金持ちだってことですよ、お嬢さん。お金の使いかたを知らないんです。ただ貯める一方なんです」

「それはね、外国伝道に寄付するためなのよ。偉いわねえ。それこそおのれを捨てて十字架を取るということだわ。お父さんがおっしゃってたわ」

 ナンシーはなにかひどい言葉を言おうとしたようでしたが、パレアナの無邪気な、明るい顔を見た時、出かかった言葉もひっこんでしまいました。

(第九章『その男』より)


 そしてある時、パレアナは、ペンデルトンの森の<鷲岩>の下で、このペンデルトン氏が足を折って横たわっているところに遭遇します。

 というのも、パレアナがそのあたりを散歩していると、ペンデルトンの飼っている犬が倒れているご主人のほうへ彼女のことを導いたからなのです。

 その後、ペンデルトンは近くの自分の家までいって、ドクター・チルトンに電話して助けを呼んでくれるようにとパレアナに命じます。何分小さな子供のことですから、ペンデルトン氏としてはいくぶん心許なかったようですが、パレアナは氏の言いつけどおりに致しましたので、やがてその場にはドクター・チルトンと担架を持った救助の男性二名が駆けつけたのでした。

 こののち、パレアナはペンデルトン氏とすっかり打ち解けた仲となり、大金持ちのジョン・ペンデルトンはやがて、パレアナを自分の養女にしたいと考えるようになり――というのも、ミス・パレー=ハリントンは彼女の崇高な義務心により姉の子を引き取ったというだけなのだろうと考えていましたので――そのことをパレアナにとうとう打ち明けます。

 と、その前に、やはりこの件には触れておいたほうがいいのでしょうね(笑)

 お話のあらすじを大体追うだけでいいのであれば、抜いたほうが物語の進みのほうは速いのですが……最初のほうに、ナンシーがトム爺より「あの方には好きな方があんなさっただ」といったようなことを聞くシーンがあります。

 そしてこのメイドのナンシーは、性格がそそっかしいもんですから、パレアナからペンデルトンの話を聞いているうちに、こう早とちりしてしまうのです。

 パレー叔母さんがかつてつきあっていなすったのは、おそらくこのジョン・ペンデルトンなのだろう、といったように。まあ確かに、それなら「誰とも話をしない」というのもわかろうものだと、そう思ったのですね(笑)

 またパレアナのほうでも、ペンデルトンにゼリー寄せを届ける時に、パレー叔母さんより「わたしからだと思われないようにね」と言われたことがあったため、「きっとそれでだったんだわ」というように、いよいよ誤解してしまうのでした。

 ところが、ペンデルトンがパレアナを養女にしたいと言った時――とうとうこのおかしな誤解というか、食い違いのことが露見することになります。


 >>「パレアナ、もうずっと以前のこと、ぼくはある人をたいへん愛した。ぼくはその女性(ひと)をいつかこの家へ迎えたいと思っていた。ぼくはその女性といっしょにこの家で一生幸福に暮らせると思っていた」

「そうでしょうね」

 パレアナの目は同情で輝き、思いやり深い答えをしました。

「ところが――つまり、ここへは迎えることができなかったのだ。そのわけはどうでもいい。とにかくその婦人はこなかった。――それだけなんだ。それ以来、この大きな石の建物は、ただの屋敷で――けっして家庭にはならない。家庭には婦人の手と心か、子供の存在が必要なんだ。パレアナ。ぽくにはそのどれもない。こういうわけだから、きみにきてくれないかとぼくが頼むんだ。どう、きてくれるかね?」

 パレアナは飛びあがりました。顔は輝きわたりました。

「ペンデルトンさん、おじさまは――いまいまでずうっと、女の手と心が欲しいと思っていらしったんですか?」

「まあ、そうだね、パレアナ」

「ああ、あたし、うれしい!もうだいじょうぶだわ」

 と安心の息をついて、

「そんなら、あたしたち二人とも入れてくださればいいわ、それでみんなよくなるわ」

「二人を――入れる――と言うと?」

 と、ペンデルトンはのみこめない様子です。

 パレアナの顔にかすかな不安が浮かびました。

「さあ、パレー叔母さんはまだ承知していらっしゃらないんですけれど。でも、おじさんがいまあたしにおっしゃったようにお話しになれば、きっと承知なさるわ。そうしたらあたしたち二人ともきますわ、もちろん」

 ペンデルトンの目の中にほんとうにおそれが見えてきました。

「パレー叔母さんがくる、ここへ!」

 パレアナの目が少し大きく開きました。

「それとも、おじさまのほうからあっちへいらっしゃること?このお家ほど立派じゃありませんけど、近くて――」

「パレアナ、きみはなにの話をしてるんだ?」

 と、いまはもうすっかり落ちついてたずねました。

「あたしたちの住むところのことよ、もちろん」

 とパレアナのほうが驚いてきました。

「あたしね、初めはここのことを言ってらっしゃると思いましたの。ここを家庭にするためにパレー叔母さんの手と心が欲しかったとおっしゃったと思ったの、そして――」

 ペンデルトンは異様な叫びを発しました。手をあげて話し始めましたが、すぐその手を神経質に下げました。

(第十九章『ちょっとばかり驚いたこと』より)


 ジョン・ペンデルトンが驚いたのも無理はありません。ペンデルトンがずっと以前に愛した女性というのは――実はパレアナのお母さんのことだったのですから!

 けれども、家族がみな祝福していたこの結婚話を退けて、パレアナのお母さんのジェニーは、情熱のある若い牧師……すなわち、パレアナのお父さんと結婚したのです。これ以後、ハリントン家は牧師の妻として南部に出ていった長女のジェニーとは一切関係を持たなかったといいます。また、パレアナのお母さんのほうでも頼らなかったということでした。

 この場合、パレー叔母さんにはおそらく、仮に引き取らなかったとしても、世間体が悪いといったことはなかったでしょう。けれども、パレーおばさんは例の崇高なる義務心からこのことを行ったのです。また、ペンデルトン氏も、ジェニー・ハリントンを失った時、この義務心をミス・パレー=ハリントンより受けていたため、彼女がどんな人かよく知っていました。

 ジョン・ペンデルトンとしては、「義務心からだけで養女としたパレー・ハリントンより、心からこの子を愛している自分こそが育てたほうがよい」という思いがあったのかもしれませんが、このひねくれ者の男の心を溶かしたように、パレアナの感化力は(たとえて言うなら)金剛石か大理石、あるいはダイヤモンドのように硬いパレー叔母さんの心をも変えつつあったのです。

 そしてパレアナのほうでも、確信まではありませんが、パレーおばさんの善意がただの義務心からだけでないとわかっていましたし、それでペンデルトンの「自分の財産をすべて君に与え尽くしたい」という有難い申し出を断ることにするのでした。


 >>「恋人どうしだって!きみのパレー叔母さんとぼくがだって?」

 あまりにペンデルトンの驚きがはげしいのでパレアナも目を丸くしました。

「あら、ナンシーがそう言いましたわ」

「なるほど!どうもナンシーはまちがっていたと言うよりほかはないな――なにも知らないんだ」

「じゃあ、おじさまたち――恋人どうしじゃあないんですか?」

 パレアナは悲劇的の声をだしました。

「絶対にうそだ!」

「じゃあ小説のようにはならないんだわ」

 答えはありませんでした。ペンデルトンはもの思わしげに窓の外へ目をやっていました。

「つまらないわ!あんなにすばらしくなりそうだったのに」

 パレアナは泣きださんばかりでした。

「あたし、ここへ来たかったわ――パレー叔母さんといっしょに」

「で、きみはこないのか――いまは?」

 と顔はこっちへ向けずに答えました。
 
「こられませんわ。あたしはパレー叔母さんのものですもの」

 ペンデルトンはかみつかんばかりの勢いでこっちを向きました。

「パレー叔母さんにつく前には、きみはお母さんのものだったんだ。ぼくがずっと以前に求めていたのはきみのお母さんの手と心なんだ」

「あたしのお母さんの!」

「そうだ。きみには話すつもりじゃなかったが、こうなったらなにもかも言ってしまおう――結局、話してしまったほうがいいのだ」

 ジョン・ペンデルトンはまっさおになりました。話しにくそうでした。パレアナは大きく目をみひらき、口を開いたままで、穴のあくほどペンデルトンの顔を見つめていました。

「ぼくはきみのお母さんを愛していた。だが、きみのお母さんは――ぼくを愛してくれなかった。そしてしばらくすると遠くへいってしまった――きみのお父さんといっしょに。その時までどのくらいあの人を愛していたか――実際には自分でも知らなかった。世界じゅううがまっくらになったような気がした。そして――まあ、それ以上は言うまい。それ以来、ぼくは意地悪の、おこりっぽい、気むずかしやの年よりになってしまった――と言ってもぼくはまだ六十にもならないんだがね。パレアナ。ところがある日、きみがあんなに好きなプリズムのように、きみはぼくの生活の中へおどり込んできたんだ。そしてぼくのまっくらな世界へ、紫や金色やまっかな色をした、きみの喜びを持ってきてくれた。そのうちに、ぼくはきみがだれかということを知ったんだ、そして――二度ときみを見たくないと思った。思いだしたくなかったんだ――きみのお母さんを。だが――それがどうなかったか、きみが知ってるとおりだ。どうしてもきみを見なけりゃいられなかった。いまじゃきみなしではいられなくなっている。パレアナ、こられないか――いまから?」

「でも、ペンデルトンのおじさま、あたし――パレー叔母さんがいらっしゃるわ」

 パレアナの目には涙があふれてきました。

 ペンデルトンはそれをおさえて、

「ぼくはどうなんだ?ぼくはどうしたら、なんでも『喜ぶ』ことができるのかね――きみなしに?パレアナ、きみがきてから初めて、ぼくは生きていることが半分だけでもうれしくなったんだ。きみを自分の子としてここへおけたら、なにをでも喜ぶことができるようになれると思うんだ。そして、きみをいくらでもうれしくさせるようにする。どんな望みでもかなえてあげる。ぼくの持っている財産は、最後の一セントまできみをしあわせにするために使うんだ」

(第二十章『もっと驚いたこと』より)


 このペンデルトンの痛ましい告白のあったのち、パレアナは悩みます。けれどもナンシーが、「パレアナ嬢ちゃま、あなたがいらっしゃらなくでもなったら――(パレー叔母さまは)どんなにさびしがりなさることやら」と言うのを聞いて、すっかり心が決まります。

 本当はパレアナ自身、パレー叔母さんのそばにいたかったのですが、パレー叔母さんが果たして、単に義務心という以上に自分のことを屋敷に置きたがっているのかどうか、確信がなかったのでした。

 けれど、「雨が降りそうだから」とパレーから傘を言いつかってきたナンシーがそう言うのを聞いて、「いま、叔母さんから離れるなんて、とんでもないことだわ」と考えが定まります。

「あたしはパレー叔母さんといっしょにいたいわけなんだわ――だけど、パレー叔母さんがあたしといっしょにいたいと思ってくださるといいと――どのくらい、あたしが思っていたか、それが自分にもわからなかったらしいわ」
 
(第二十一章『質問と返答』より)
 

 こうなりますともちろん、ペンデルトンの申し出は断らなくてはなりません。けれどもパレアナは、<婦人の手と心>は無理でも、(自分以外の)『子供の存在』を彼に与えることは可能だと考え、そのことを次に会った時に打ち明けるのですが……。

 では、次回はこの続きからということでよろしくお願いします♪(^^)

 それではまた~!!



※本文の引用箇所はすべて、角川文庫『少女パレアナ』(エレナ・ポーター著/村岡花子さん訳)からのものですm(_ _)m





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