十歳の同級生の死
1
死は突然にやってくるのだ―そう知ったのは、小学四年のときだった。地方の分教場の同級生が、とつぜん夜の間に亡くなったのだ。
翌日、担任の先生から告げられた時、「信じられない」という驚きと、「かわいそう」という胸苦しさとが、わたしたちを覆(おお)った。
彼女には、小さな弟か妹がいた。まだ赤ん坊だった。農家で忙しく、両親の代わりによく面倒を見ていると、彼女の家に近い友達が言っていた。世話するために学校を休むこともあった記憶がある。おんぶして学校に連れてきたこともあった。
物静かな子で、わたしは特に親しかったわけではないのだが、きょうだい思いの子、という印象が強くあった。
その彼女が、突然亡くなったのである。昨日も一緒に勉強していた、その彼女が。
2
彼女が埋葬された墓地は、村はずれの小高い山の斜面にあった。当時は土葬だった。遺体を焼かず、そのまま土に埋めるのである。
担任の先生が、ある日、みんなをお墓参りに連れていった。何日か前に激しい雨が降った。
しょっちゅう行く場所ではないから、わたしたちは何となく不安な思いで出かけた。おごそかな気持ちと混ざり合っていた気がする。
お墓は、少し土がえぐられていた。斜面に当たった雨の勢いだろう。そして、棺が、わずかだがのぞいていた。棺の端が少し開いていて、もしかしたら遺骸の一部が見えた気もする。
その後の記憶がないから、強い衝撃を受けたのだと思う。ちょっとだけ見えた木の箱、そして見えたかどうかわからないほどの亡骸(なきがら)が、恐ろしかったのだ。
つい昨日まで生きていたひとが突然に亡くなる。亡くなって墓地に葬られる。
その墓地の土が崩れて棺が見える。そして死者の姿さえのぞく。十歳の子どもには圧倒的な光景であった。
「死の貌」を見た初めての体験である。
3
古着着て幼な子背負う小学児絶えると知らず今宵のいのち
子守りする女児十歳のかなしさよ赤子の明日を見守りもせで
草草の茂る斜面に埋められしいのちの淡き十歳の女児
死の顔に恐れあるなし毎日の重き暮らしの絶えぬと比べ
十年の笑い声あり十年の泣き声もあり天よ聞き取れ
★いつも読んでくださり、ほんとうに有難うございます。
半世紀以上前の同級生の死ですが、深く記憶に残っています。「死」のもつ力、「いのち」のもつ力の強さだと思います。