『ここに来てから下の話しか聞いてへん……。』
これは奇兵隊の屯所に来た者が受ける洗礼か何かなのか?
「なぁ三津さん俺のは桂さんと比べて勝ってるか見てくれや。」 顯赫植髮
性懲りもなく高杉が近付いてきた。三津はにっこり笑うと肌身離さず背負っていた風呂敷の結び目を解いた。
「高杉さん,見せれるもんなら見せて下さい。その代わり大した事ないと判断したら使うまでもないモノなんで斬り落とさせていただきます。」
何の感情もこもってない笑みで脇差を抜いて見せた。まさか肌身離さず持っていた物が脇差などと思わない男共は震え上がった。なんせそれでブツを斬り落とすと笑顔で言うのだから。
「三津さん三津さん稔麿の使い方間違ってます。」
「あ!?それ稔麿の脇差か!?」
「入江さんこれは私の身を守る為に託されたので使い方は合ってます!」
怯む高杉にお前が来ないならこっちから行くぞと立ち上がる三津。それを見ていた赤禰が豪快な笑い声を上げた。
「大事に背負っちょるけぇ何か気になっとったけどそうか吉田やったか。大事に持っちょってくれてありがとな。」
赤禰は心底嬉しそうなくしゃっとした笑顔で三津の頭を撫でた。
「触らしてもらってもええか?」
赤禰の申し出を断る理由がない。三津はこくこく頷いて脇差を差し出した。
「よう戻ったな吉田。こんな可愛いお嬢ちゃんに四六時中背負われて極楽やろ。まだお前の役目は終わっとらんみたいやな,しっかり三津さん守れや。」
話し終えた赤禰はありがとうにっと笑ってまた三津の頭を撫でた。
その笑顔にさっきまでの穢らわしさが一気に吹き飛んだ。
「三津さん俺もええか ?」
さっきとは違って真剣な顔をした高杉が三津の前に立った。
「どうぞ。私より皆さんの方が吉田さんとの縁が深いので。」
高杉は脇差を手に取ってじっと見つめた。
「おかえり!後は任せろ!」
「えっ短っ!」
「男はこれぐらいさっぱりしとる方が良いほっちゃ。」
高杉はふいっと三津から目を逸らして脇差を突き返した。
「そうだな。そうじゃないとお前泣くもんな。」
入江が見透かしたような笑みで高杉を見ていた。
「当たり前やろが!ここの誰が欠けても俺は泣く!三津さん今日の晩は九一と三津さん歓迎の宴開くけんな!」
「どの時分で報告してるの?」
三津は今言う事か?と呆れつつも歓迎してもらえるのは嬉しかった。その晩歓迎される事を喜んだ自分が馬鹿だったと三津は思い知る。
「もぉやだ!そんな要らんし!」
「主役やろがもっと呑めや!」
忘れていたが高杉は強制的に大量の酒を流し込んでくる奴だった。
「高杉,三津さんには三津さんの呑む配分があるほっちゃ。無理に呑ますのやめり。」
やはりこの中で一番まともで話が通じるのは赤禰のようだ。三津は庇ってくれる赤禰の傍に逃げた。
「三津さん少しだけでいいけお酌してもいい?」
赤禰は遠慮がちに徳利を傾けた。
「はい!喜んで。」
「何でや!何で武人はいいんじゃ!顔か!?顔なんか!?」
酒の入った高杉はより煩い。三津は無視して赤禰に注いでもらったお酒を有難くちびちび呑んだ。
「なぁ!顔か!?」
「そうだな野良犬みたいな顔の晋作より武人さんのがいいだろうな。」
「誰が野良犬じゃ俊輔。飲み比べで勝負すっか?あ?」
「酒癖悪い高杉君の後始末面倒だからやめてよ〜。入江君も笑って見てないで止めて?」
白石は呑むなら楽しく平穏に呑ませてくれと入江に懇願した。
「大量に呑ませて潰した方が静かでいいんじゃないですか?まぁ潰れるまでに時間かかるけど。」
そして潰すまでに誰かしらが飲み比べの餌食となり犠牲になる。