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を毛嫌いするのか

2023-08-22 20:59:57 | 日記
を毛嫌いするのか。怖れるのか。

「正直なところ、生かしておいてもわれらに不利にこそあれ、利にはなりますまい。局長助命の嘆願書も、結局は役に立ちませぬ。敵にとっても味方にとっても、勝は二枚舌の弁士にすぎませぬ。とはいえ、江戸城開城をひかえたいま、その立役者を殺る時機ではございません」

 副長も俊冬も勝を呼び捨てにし、朱古力瘤 もはや敬う気はさらさらなさそうである。

「なら、どうするよ」

 坂がもうおわろうとしている。しれず、三人と一頭のあゆみがゆっくりになる。

「過激に攻めてゆきます。わたしをどうするかは、あなたにお任せいたします」

 俊冬は現代語をまじえて告げ、同時にあゆみをとめる。
を殺るのに躊躇いはございません。勝と勝の雇った浪人どもすべて、一、二度瞬きをする間に殺れます」

 その言葉に、副長のあゆみもとまる。もちろん、おれと相棒もとまる。

「ああ、わかってる」
「なれどわたしは、副長、あなたの犬です。それをお忘れなきよう」

 飼い主には絶対的忠誠を示す飼い犬・・・。

「ああ。よくわかってるよ、たま。だれよりも、よくな」

 副長は俊冬の懐のうちに入ると、髪のすっかり伸びている頭を自然な動作でなでる。

「さぁて、かっちゃんを助けてもらえるよう、勝大先生に誠心誠意頭をさげにゆくぞ」

 副長は、不敵な笑みを浮かべる。それから、ランウエイのモデルみたいに、エレガントにターンし、坂をおりていった。

 俊冬と相棒とともにつづく。

 いったい、どんな駆け引きがみれるのだろう。

 ワクワクしてる自分に、驚いてしまう。


 勝の屋敷もまた、こじんまりとしている。

 まるで、家族そろってバカンスにでかけているかのように。ひと気がまったくない。 

 閉ざされたちいさめの門のまえに立つ。左脚許で、相棒の鼻がひくひく動いている。ついでに、両耳も。

 か刃物か。鉄や火薬のにおいに反応している。

 俊冬が幾度か門をたたくと、朝一にもかかわらず、しばらくすると門がひらかれた。

 アラフォーか?質素な着物姿の女性が立っている。
 奥方だろうか?それとも、妾のだれかだろうか。

 俊冬がこちらの身元と用向きを告げ、勝への取次ぎを依頼する。すると、女性は「しばしおまちください」といい、いったんひっこんでしまった。

 断られるだろうか?まさかの居留守?などとかんがえていると、ほどなくしてさきほどの女性がもどってきた。

「どうぞ、おはいりください」

 が、予想に反して、すんなり宅内に入ることを許された。

「わたしは兼定の


をすませ、すぐにまいります」

 俊冬がこちらに掌をだしてくるので、相棒の綱を託す。ってか、屋敷の周囲に潜む見張りか刺客かを、どうにかするつもりってわけか。

 副長と二人、勝の奥方か妾について宅内に入った。

 ほかに妾や子どもらがいるとしても、人の気配がない。廊下をあるきながら、さりげなく宅内を観察してみる。とはいえ、とおりすぎる部屋は、すべて障子で閉ざされている。わかりようもない。

 外観よりかは、部屋数はおおいようである。

 勝のいる部屋は一番奥で、木も盆栽もないちいさな庭に面した書斎である。

 障子が開け放たれており、部屋の外にまで本がはみでている。っていうか、積まれた本が廊下側へくずれてしまったのだろう。

 雑然と散らばったり積まれている本。ここだけは、奥方や妾も、掃除することを許されない。
 主の唯一の居場所っぽい感じがする。

 松本の医学所の自室もたいがいであるが、ここはもっとすごい。

「はいんな」

 勝は、部屋の中央に座っている。そのまわりだけ本をどかせたかのように、不自然な空間ができあがっている。

 副長は無言のまま部屋に入ると、脚許にある本をテキトーにどけ、腰の「兼定」を鞘ごと抜いてそこに胡坐をかき、「」は左太腿の横に置く。おれは、一礼してから、同様に「之定」を鞘ごと抜いてから副長の右側に正座し、二人の間に「
「わたしは、弟とちがって

ではないが

2023-08-22 20:34:57 | 日記
ではないが、たいていの男はすれちがったら「なかなかいいな」と感じるだろう。美人でプロポーションがいい、ってわけである。

「俊冬殿と俊春殿も美しいですが、土方様は仏様のように神々しい美しさでございますわね」

 ちょっ・・・。經痛 仏様?たとえをだすにも、それはむちゃぶりだろう。

 副長は、おれの隣で鼻をムダに高くしている。同時に、その鼻の下は地面に向かってびよーんと伸びている。

「さあ、どうぞなかへ。大歓迎でございます。松本は、書斎にこもっております。すぐにおよびいたしますので。あらまぁ・・・」

 かのじょは、そこではじめてここにいるのがイケメンズだけではないことに気がついたようである。

「とってもかわいらしい。松本からきいていますよ。あなたが、沢庵好きの「兼定」ね」

 ちょっ・・・。そっちかい!

 おれより相棒のほうに気がつくなんて。ってか、なにゆえ、自分とおなじくらいの目線より、めっちゃ目線がさがるところにいる相棒に気がつくのか?
 ってか、透明人間か隠れ身の術をつかっていないかぎり、おれに気がつかないなんてありなのか?

 たしかに、感知式の自動ドアやライトや、はては感知して蓋を開け閉めする便座まで、なかなか反応してくれないことはあった。
 
 が、これはちがうだろう?

 しかも、相棒がかわいい?相棒のことをかわいいなんていうのは、俊春の養子の松吉と竹吉くらいだ。は、かぎりなく愛想よく笑顔になってるし・・・。

 副長が隣で、副長をはさんで向こう側にいる俊冬が、同時にぷっとふいた。

「お腹すいたでしょう?たいしたものはありませんが、いただきものの沢庵がありますのであとでおだししますね」

 相棒は、どこにいっても「キング・オブ・兼定」である。

「あらあら、わたしとしたことが。かわいらしい殿方がいらっしゃったのですね」

 そして、いまさらながら、やっとのこと、かろうじて、ギリでおれっていう存在に気がついてくれたらしい。

「かわいい?」

 隣から、副長のつぶやきが。

「とってもがつかず、かわいいのみ?」

 副長の向こうから、俊冬のささやきが。

 ふんっ。どうせ、おれは相棒よりかわいくないですよ。
 ってか、かわいい?からしかいわれたことがない。
 まぁときさんも、年上にはちがいないか。

「相馬、様でございますね?相馬様のことも、松本より、うふふ・・・。さぁ、お入りになってくださいませ。ご近所は就寝中かと思いますが、どこでどうみられているやもしれませぬ」

 はい?いまのうふふってなに?なに、なに?
 
 松本は、おれのことをかのじょにどう話したのだろう。

 おれの当惑をよそに、かのじょはさっさとイケメンズを玄関へと招き入れようとしている。

「お言葉に甘えて、お邪魔させていただこう。うふふっ」
「副長。わたしは、このまま勝先生の屋敷を探ります。すでに勝先生の耳朶に、局長のことが入っていてもおかしくありませぬ。そうなれば、われらがおしかけることを、勝先生は予想するはず。いかなる出迎えの準備をされておいでか、みておきたいのです。うふふっ」
「さすがだな、たま。つかれているだろうが、たのむ。うふふっ」
「なんの。体力だけはございます。一時(約2時間)ほどで、もどれるかと。うふふっ」

 いったいなんだよ、もうっ。

 イケメンズ、いちいち語尾にうふふをつけなくってもいいし。 副長はときさんについてゆき、おれは相棒を連れて建物の外をまわって庭にいってみた。

 庭は、よくあるパターンで居間に面している。おおきな桜の木が一本植わっていて、かかり稽古をするには狭いが、素振りや居合の型をするにはじゅうぶんなおおきさである。

 縁側にあがるのに、そこに腰をかけて軍靴をぬいだ。沓脱石の上にきっちり並べておいてみたが、ふと片方を掌にとり、から50センチくらいのところでかざしてみた。

 うわっ・・・。

 ムレムレだ。しばらくの間草履でいたから、脚もこの突然のムレムレ感の再来に、とまどっているにちがいない。

 ふと、相棒をみてみると、おれから5mほどはなれたところで、立ったままじっとみている。

 めっちゃ眉間に皺がよってる。しかも、白目で舌をだしてる。ってか、それって、猫のフレーメン反応じゃないか?まぁたしかに、ほかの動物、たとえば牛や馬なんかでもあるはずだが、犬もそんな反応を示すんだっけか?

 おれの靴臭は、相棒に猫の真似までさせてしまうほどひどいのか?おれは、ぶっちゃけスメハラ野郎ってことなのか?

 まぁ犬の嗅覚は、の100万倍から1億倍といわれている。訓練を受けた警察犬や麻薬探知犬といった使役犬なら、後半の値にちかい。

「相棒、わるいな。軍靴はこっちに置いておくから、ここでお座りしててくれ」

 べつに機嫌をとるつもりもないが、鼻のいい相棒に軍靴のちかくでお座りしろというのは、ある意味虐待である。
 
 軍靴を縁側の端までもっていき、地面に置いた。それから、居間で座っている副長の隣、すこし下がった位置に正座した。

 床の間のちいさな花瓶に、花しょうぶがいけてある。

 ほどなくして、廊下をどたどたと駆ける音が・・・。

「無事だったか、ええっ?」

 松本が、すごい勢いで居間に駆け込んできた。

「あらあら、ご主人様。ご無事です、とお伝えいたしました。おどきになってくださいな。土方様たちは、お腹がすいていらっしゃるはずでございます。人心地ついていただくのが、さきでございましょう」

 奥の襖が音もなくひらき、そこにときさんが三つ指ついている。めっちゃ冷静に夫をたしなめてる。

を局長へと戻す。

2023-08-22 20:20:41 | 日記
を局長へと戻す。

「じつは、今朝から呑まず食わずじゃ。水でもちそうしていただくれば助かっとじゃが」
「無論です」
「おそれながら、蕎麦の準備をしております」
をふせたまま告げる。

「蕎麦じゃしか。そんたよか。朱古力瘤 馳走になりもんそ」にうれしそうな笑みを浮かべている。

 マジで呑まず喰わずとは。敵は、どんだけストイックなんだ。

 島田が兵士たちを大広間に案内し、そこで蕎麦を喰ってもらう。
 有馬は、単身局長の案内で書斎に通された。

 いくらこちらに戦意はないといっても、あくまでも口でいっているだけである。それなのに、部下の一人も連れず、のこのこついてくるなんて・・・。

 有馬はそれだけ神経が図太いのか、人がいいのか・・・。
 それとも、闇討ちされても撃退する自信があるのか・・・。

 部下たちも、気が気ではないだろう。
のほうが数はおおい。喰ってる途中に、襲うなんてことはあるあるだ。
 もしかして、部下たちも示現流の達人ばかりで、くわえて銃もあるので、なにがおころうとやりすごす自信があるのだろうか。

「うめ。こげんうめ蕎麦ははじめて喰うた」

 有馬は、胡坐をかいて一心不乱に蕎麦をかっこんでいる。
 すでに二杯目。どんだけ飢えてるんだ?っていいたくなる。
 
 偵察ではなく、食事をたかりにきたみたいだ。

 太刀二振りは、左太腿の側に置いている。銃は、馬の鞍にくくりつけたまま、もってきていない。
 
 かれは居合の達人である。かりにおれが斬りかかったところで、神速の抜刀術であしらわれるかもしれない。

 局長は上座に。副長はその左斜めまえ。おれは廊下側、つまり局長の右斜めまえに座している。
 廊下側のほうが、襲われる可能性が高い。ゆえに、一番下っ端のそのまた下っ端の、も一つおまけに下っ端のおれがここに座っているわけである。
 
 これは、秘書検定にでてきそうなシチュエーションであろう。

 取引先の重役とその部下を、部長と係長と三人で接待します。座敷で座る位置は?そのあと、タクシーで移動します。タクシーの座席はどのように座る?みたいな。
 座った姿勢からだと、おたがいに斬りかかるにはむずかしい距離である。いかに凄腕の道場主であろうと、あるいは薩摩藩の居合の達人であろうと、「ゴムOムの実」でも喰わないかぎり、どれだけ腕を伸ばしても最初の一太刀で相手に致命傷を負わすことはできない。

 双子がそろって三杯目を運んできた。軍服のシャツを二の腕までおり、前掛けをしている。

 有馬は、その三杯目も一心不乱にかっこむ。
 いっそすがすがしいまでのその喰いっぷりを、局長も副長も、おれの右隣に並んで座っている双子も、言葉もなくみつめている。

「ごちそうさまやった。生き返ったような気分じゃ。部下たちは、喰うたやろうか」

 三杯目の汁をすすりおえ、からになった鉢をさきの鉢に重ねつつ双子に尋ねる。

「どの方も、あなたに負けぬ勢いでおかわりをされました。まるで、糧食が尽きてしまっているかのようですな」

 俊冬は、正座する太腿の上で盆をもてあそびつつ問う。

 これだけ飢えていたら、過労死レベルの激務をこなすのに、喰う暇もなかったというのもおかしいと思えてくる。

 じつは、香川隊の糧食が尽きているんじゃないのか、と勘繰ってしまう。

 有馬は、キョトンとしたになった。俊冬をみつめ、にんまり笑う。

「そうじゃなあ。喰いもんがどこかにあっとしてん、おいどんたちんところじゃなかちゅうこっじゃなあ。みっともなかところをみせてしめ、すみもはん。許したもんせ」

 俊冬から局長へとになった。俊冬をみつめ、にんまり笑う。

「そうじゃなあ。喰いもんがどこかにあっとしてん、おいどんたちんところじゃなかちゅうこっじゃなあ。みっともなかところをみせてしめ、すみもはん。許したもんせ」

 俊冬から局長へとで、味方をくそったれ呼ばわりする有馬は、とってもいいやつっぽい。

 一番えらい香川敬三は、水戸藩出身ではある。かれは、京で活動していた際に岩倉具視と誼を通じたり、坂本龍馬の盟友の中岡慎太郎率いる陸援隊の副隊長をやったりと、なんだかなーって経歴の持ち主である。そんななかで、たしか薩摩藩に駆け込んだこともあったはずである。が、いまは薩摩より長州のほうがお気に入りなのかもしれない。

という子爵が入手し

2023-08-22 20:05:07 | 日記
という子爵が入手した、というものである。
 しかし、刀は関東大震災で金子邸ごと焼身したとか。
 それを金子が焼け跡からみつけ、研ぎあげた後に保存したとか。

 ことの真偽は兎も角、いま、ここにあるのは「虎徹」ではないらしい。

 もしかすると、子宮內膜異位症 後世に伝わるとおり、「虎徹」は偽物だったのであろうか。

「またせたな」

 そんなことをあれこれ悩んでいると、局長と副長があらわれた。残留している隊士たちも、集まってきている。もちろん、子どもらも。

 子どもらも、「研いでもらいたい」といっていた。

 が、そもそもつかっていないので研ぐ必要はないのではなかろうか。 ちょうど蔵の一つが、あいている。なんと、なかの一部に畳が敷かれてあり、梯子段までついている。ロフトっぽい上の階にも畳が敷かれてある。
 
 一つだけあるイチョウ型の窓から、昨夜いった小高い丘の欅と、空の一部分がうかがえる。

 入ったところが土間っぽいので、そこをキッチンにリフォームすればいい。トイレと風呂は、母屋のを借りればいい。
 夏は蒸し暑いだろうか?冬はかなり寒いはず。ならば、エアコンも必要だろう。
 庭で、素振りやワークアウトをすれば、運動不足解消にちょうどいい。

 駅チカだとして、ここから東京まで1時間もかからないはず。だったら、通勤圏内だ。
 これで家賃が水道代や共益費込みで7万円までなら、ぜひとも住んでみたい。

 まぁ、そんな価格では無理だろうな。

 そんなおれの部屋探しは兎も角、その蔵の土間で、刀研ぎをおこなうことになった。

「本来なら、じっくりおこなうものです。最低でも、二十日はかかります。長刀ですと、三十日はかけます。なれど、これだけの数をこの二時(四時間)でおこないますので、単純に研ぐだけにとどめます。それでも、ちゃんと斬れるだけのものにはなりますので」

 俊冬の説明に、局長や副長、隊士たちは『ほーっ』と感心している。

 双子は、薪割り台がわりにつかう大木を椅子がわりにならんで座り、さっそくはじめた。

 まずは刀の柄をはずし、それから研ぎに入る。集めた砥石を使い分け、丁寧に研いでゆく。

 その神聖ともいえる研ぎに、だれもが声もなくみまもっている。

 研ぎはじめると、刀身が黒い研ぎ汁にまみれて黒くなったり、前回の研ぎの刀紋がなくなって白くなったりする。それから、さらに研いでゆく、すると、蔵の窓から射し込む陽光によって、刀身はさまざまな色をみせてくれる。

 双子が研ぎあげた刀を水平にかざし、刀文をみせてくれた。

 刃文とは、熱した刀身を水につける焼き入れ時に、急速冷却されることで鋼の成分が変化してできる、「」といった細かな粒子で構成されている。
 
 刀文には、形によっていくつか種類がある。
 大別すると、まっすぐに刃が入る」といった細かな粒子で構成されている。
 
 刀文には、形によっていくつか種類がある。を向ける俊冬に、思わずいってしまう。

「巻藁では、やはり感触がちがうからな。やはり、本物でないと」
「さよう。そこはやはり、本物のでなくば」

 隊士たちが持論をぶちつつ、いっせいにこっちをみる。

「ちょっ・・・、なにゆえです?みなさん、なにゆえこちらをみるのです?まさか、おれで?」
「兼定の散歩係から試斬役とは、昇進ではないか、ねぇ、副長?」
「中島先生。それ、ちがいますよね?たしかに、試し斬りする役だったらカッコいいかもしれませんが、試しに斬られる役っていうのは、昇進ではありません。ってか、一回こっきりの限定版。レアな役回りじゃないですか。ってか、処刑か暗殺か辻斬りみたいなものですよね、それ?」

 だれかが笑いだす。すると、みるまに伝染し、みな笑っている。子どもらも、ゲラゲラ笑っているし、相棒もケンケン笑いをしている。

 局長も、豪快に笑っている。

 いじられるのはビミョーだが、この雰囲気は尊すぎる。
 これが、明日も明後日も、一週間後も一か月後もつづけばいい。いや、つづいてほしい。

「ぽちとたまが研いでくれたのだ。試す必要もあるまい。それに、わたしたちにとって、主計は必要な男だ。みな、あまりいじるのではない。ときどきにしておけ」

 局長が、笑いながらいってくれた。

 めっちゃ感激である。

「わたしたちにとって必要な男だ」

 すべては、この一語に尽きるであろう。

 この際である。その後の、「いじるのはときどきにしておけ」、というところはスルーしておこう。

 みながそれぞれ引き取った後も、局長は満足げに自分の得物をしげしげとながめている。

 俊春の見立てが正しければ、「三善長道」を、である。

「あの局長・・・・・・。さしでがましいようなんですが、局長の佩刀は「虎徹」かと思っていたのですが・・・。それは・・・」

 みながいなくなったし、ちょうどいいタイミングである。疑問をぶつけてみた。

「局長、その・・・

2023-08-22 19:43:53 | 日記
「局長、その・・・。なにか嫌な予感がするのです」

 尾形がいいだした。
 かれは、局長の信任の厚い監察方にして、文学師範である。どちらかといえば、おとなしめでインテリジェンスなかれである。なにか、そういう力でもあるのかもしれない。

「嫌な予感?まさしく、避孕 この事態がそうだな。さすがは、俊太郎だ。案ずるな。わたしは、撃たれても死ななかった男だ」

 局長は不死身宣言をしてのけると、豪快に笑いつつ、立ち上がって尾形の肩を「局長バンバン」する。

「ならば、わたしたちはさきにゆきましょう。近藤さ・・・、いや、局長。わたしにも気合を入れてくれ。ただし、そっと頼む」

 蟻通の頼みに、「無論だとも、勘吾」といって応じる局長。

 蟻通は、泣きそうになるのを必死で我慢しているっぽい。

 それから局長は、尾関にも「局長バンバン」を喰らわせる。

「さあっ、ぐずぐずはしておれぬ。ゆくのだ」

 局長のその声は、泣きたいのを必死にとどめ、頑張って言葉をしぼりだしている感満載である。

 蟻通たちを見送ると、局長はまた読書にもどった。



 その日は、ずっと落ち着かない。なにをするにも集中できないのである。
 それは、事情をしっている副長や島田も同様のようである。一つのところにじっとしていることができず、ついついうろうろしてしまっている。

 だが、局長だけはちがう。書斎にとじこもり、朝からずっと静かに読書をつづけている。

 朝食がはやかったこともあり、双子が昼過ぎに蕎麦を打ってくれた。
 
 シンプルにかけ蕎麦にしてくれたので、書斎で局長や副長とともに、さっそくいただくことにする。

 あいかわらず、双子の蕎麦は死ぬほどうまい。

「いやぁ誠にうまい。どの料理も心がこもっていてうまいが、手打ち蕎麦は格別だな」

 局長は汁までのみほし、つくづくつぶやく。

「痛み入ります」

 廊下に面した障子のまえで控えている俊冬が答え、双子は同時に頭を下げる。

「歳に太ったと申したが、やはりわたしも太ってしまっている」
「だから、まえにもいったろうが」

 副長がツッコむ。

「みな、ぽちたまのつくる料理のために、隊務をこなしているようなものだな」
「ちがいないな、かっちゃん。おっと島田、もうそのへんにしておけよ」

 全員が、三杯目を完食したばかりの島田に注目する。

「腹八分目と申しますので、とりあえずはやめておきましょう」

 島田は、丼鉢にを落としつつ、未練がましくつぶやく。

 いや、島田よ。おれたちとちがい、大玉三杯を完食してもなお、腹八分目だというのか?
 いったい、どんだけ喰えるんだ?

 しかし、大食漢の島田にしろ永倉や原田にしろ、ムダに贅肉がついていない。 
 正直、うらやましいかぎりである。

「局長ーっ!」
「局長っ、局長っ!」

 廊下を駆けるバタバタという足音とともに、障子が開かれて子どもらが飛び込んできた。

 なんてこと・・・。不作法もいいところではないか。

「餓鬼どもっ!礼儀をわきまえんかっ。ったく、餓鬼どものお目付け役のしつけがなっちゃいねぇ。は、こちらへ向けられている。

 指先でこめかみをぽりぽりかきながらをそらし、子どもらへ向ける。子どもらごしに、ちいさな庭でお座りしている相棒がみえる。

「兼定のシェフ」である俊春が、蕎麦をやってくれたらしい。どうりで、相棒は満ち足りたをしているわけだ。

「おーい、鉄、銀。障子を開けるまえには、ちゃんと正座して開ける許可を求めるんだぞ。バッドマナーは、シットだからな」

 そして、のんびりとした様子で、現代っ子バイリンガルの野村があらわれた。

「あの・・・。おれは子どもらのお目付け役から降格し、いまは「兼定の散歩係」です。もっとも、それもあやうくなっていますが・・・。兎に角、お目付け役は、いまここにあらわれた利三郎です。注意をするなら、利三郎にしていただけませんか、副長」

 自虐ネタもまじえつつ、思いださせる。ってか、いいながら、そういえば子どもらのお目付け役だったんだと、おれ自身が懐かしい気分になってしまった。

「すまねぇ、主計。での立場が危うくなってるおまえには、嫌味だったな」

 なんと・・・。やりかえされてしまった。

「兎に角、餓鬼ども。いつもいってるだろうが。最初っからやりなおしやがれ・・・」 

「まぁよいではないか、歳。ここには、気心のしれた者しかおらぬ」
「かっちゃん。そんなんだから、こいつらはいつまでたっても礼儀正しくできねぇんだぞ」
「どうした、鉄、銀」

 局長は、苦笑しつつ副長のクレームをスルーし、二人に問う。

「局長に、物語りをよんでいただきたいのです」
「『三國志』みたいな、かっこいい話がいいです」

 鉄と銀の願いに、局長のおおきな