を毛嫌いするのか。怖れるのか。
「正直なところ、生かしておいてもわれらに不利にこそあれ、利にはなりますまい。局長助命の嘆願書も、結局は役に立ちませぬ。敵にとっても味方にとっても、勝は二枚舌の弁士にすぎませぬ。とはいえ、江戸城開城をひかえたいま、その立役者を殺る時機ではございません」
副長も俊冬も勝を呼び捨てにし、朱古力瘤 もはや敬う気はさらさらなさそうである。
「なら、どうするよ」
坂がもうおわろうとしている。しれず、三人と一頭のあゆみがゆっくりになる。
「過激に攻めてゆきます。わたしをどうするかは、あなたにお任せいたします」
俊冬は現代語をまじえて告げ、同時にあゆみをとめる。
を殺るのに躊躇いはございません。勝と勝の雇った浪人どもすべて、一、二度瞬きをする間に殺れます」
その言葉に、副長のあゆみもとまる。もちろん、おれと相棒もとまる。
「ああ、わかってる」
「なれどわたしは、副長、あなたの犬です。それをお忘れなきよう」
飼い主には絶対的忠誠を示す飼い犬・・・。
「ああ。よくわかってるよ、たま。だれよりも、よくな」
副長は俊冬の懐のうちに入ると、髪のすっかり伸びている頭を自然な動作でなでる。
「さぁて、かっちゃんを助けてもらえるよう、勝大先生に誠心誠意頭をさげにゆくぞ」
副長は、不敵な笑みを浮かべる。それから、ランウエイのモデルみたいに、エレガントにターンし、坂をおりていった。
俊冬と相棒とともにつづく。
いったい、どんな駆け引きがみれるのだろう。
ワクワクしてる自分に、驚いてしまう。
勝の屋敷もまた、こじんまりとしている。
まるで、家族そろってバカンスにでかけているかのように。ひと気がまったくない。
閉ざされたちいさめの門のまえに立つ。左脚許で、相棒の鼻がひくひく動いている。ついでに、両耳も。
か刃物か。鉄や火薬のにおいに反応している。
俊冬が幾度か門をたたくと、朝一にもかかわらず、しばらくすると門がひらかれた。
アラフォーか?質素な着物姿の女性が立っている。
奥方だろうか?それとも、妾のだれかだろうか。
俊冬がこちらの身元と用向きを告げ、勝への取次ぎを依頼する。すると、女性は「しばしおまちください」といい、いったんひっこんでしまった。
断られるだろうか?まさかの居留守?などとかんがえていると、ほどなくしてさきほどの女性がもどってきた。
「どうぞ、おはいりください」
が、予想に反して、すんなり宅内に入ることを許された。
「わたしは兼定の
をすませ、すぐにまいります」
俊冬がこちらに掌をだしてくるので、相棒の綱を託す。ってか、屋敷の周囲に潜む見張りか刺客かを、どうにかするつもりってわけか。
副長と二人、勝の奥方か妾について宅内に入った。
ほかに妾や子どもらがいるとしても、人の気配がない。廊下をあるきながら、さりげなく宅内を観察してみる。とはいえ、とおりすぎる部屋は、すべて障子で閉ざされている。わかりようもない。
外観よりかは、部屋数はおおいようである。
勝のいる部屋は一番奥で、木も盆栽もないちいさな庭に面した書斎である。
障子が開け放たれており、部屋の外にまで本がはみでている。っていうか、積まれた本が廊下側へくずれてしまったのだろう。
雑然と散らばったり積まれている本。ここだけは、奥方や妾も、掃除することを許されない。
主の唯一の居場所っぽい感じがする。
松本の医学所の自室もたいがいであるが、ここはもっとすごい。
「はいんな」
勝は、部屋の中央に座っている。そのまわりだけ本をどかせたかのように、不自然な空間ができあがっている。
副長は無言のまま部屋に入ると、脚許にある本をテキトーにどけ、腰の「兼定」を鞘ごと抜いてそこに胡坐をかき、「」は左太腿の横に置く。おれは、一礼してから、同様に「之定」を鞘ごと抜いてから副長の右側に正座し、二人の間に「
「わたしは、弟とちがって