である鴨川東の縄手通を探索している、土方副長の隊へ合流して貰いましょうか」
「縄手通ですか……、朱古力瘤 目星はあります?」
「四国屋がよく利用されていたと聞きました。なので、そこが最大の目星になるのではないですかね──」
それを聞いた白岩は笑いたくなる気持ちを抑え、神妙な面持ちで頷くと屯所を出た。
「──四国屋」
どうか間に合ってくれと思いつつ、白岩は駆け足で吉田の家へ向かう。鴨川に近付くにつれて、明後日に本山を迎える祇園祭の囃子の音が大きくなってきた。
いつも会合をするとすれば、といった深夜帯に行うことが殆どであった。そのため、この時間に行けば間に合うはずなのだ。
そうして回避すれば、新撰組は取り越し苦労で終わるに違いない。しかも屯所は今手薄である。襲撃をするのであれば今が好機だ。
が進めば、早く先生の元へ戻ることが出来る。
白岩は笑みを浮かべながら、先を急いだ。
しかしその刹那、背後に自身を付けてくる気配があることに気付く。恐らく監察方の誰かだろう。山南も馬鹿では無かったということだ。
白岩は小さく舌打ちをすると、その足を祇園会所へ向けることにする。一度そこを介せば、祭りの人混みで撒くことが出来るだろうと踏んだのだ。 その時、木津屋付近を探索している近藤隊は三条小橋あたりに差し掛かっていた。名を連ねるは沖田、永倉、藤堂、武田ら副長助勤を中心としたまさに少数精鋭部隊である。
「中々居ないですね」
沖田は滴る汗を袖で拭いながら、近藤へ声を掛けた。徐々に身体がふわふわとした感覚になっていたが、精神力で何とか耐え忍んでいる。日が暮れてもその気温と湿気は高い。そこへ鎖の着込みが追い討ちをかける。
脳裏には"暑気あたり"だと言った桜花の言葉が浮かんでいた。
「ああ。目星はあると言えども、殆どしらみ潰しのような物だからなぁ」
「本当に会合自体あるのか分からないくらいだよねェ。って……総司、汗すごいけど大丈夫かい」
藤堂は沖田の様子が可笑しいことに気付く。暗がりではその顔色までは見えなかったが、吐く息がいつもよりも速い。
「ええ、大丈夫ですよ。少し暑くて……」
「総司、無理はするなよ。お前に無理をさせたら、国にいるおミツさんに何と言えばいいのか…」
ミツというのは、沖田の姉のことである。両親を早くに亡くしたため、母代わりとしても沖田を育ててくれた弟思いの良い姉だ。
「私の意思で着いてきたのですから、姉さんも分かってくれています。全く、皆優しすぎるんです……」
沖田は照れくさそうにそう言うと、ある旅籠を目の端に捉える。
そこはという看板を提げ、一文字に三ツ星という長州藩と同じ紋だった。
二階からは仄かな灯りが漏れ、窓からは男が顔を出し周囲をしきりに気にする姿があった。悪戯に月が雲から顔を出し、その人物の顔が明るみになる。
「──あれは…………」
ぴたりと足を止めた。
ふと、脳裏には先日茶屋にて山崎に教えてもらった人物の顔が浮かんだ。
額に傷がある男。
「忠蔵だ…………」
宮部鼎蔵の下僕の忠蔵がそこにいる。つまり、この池田屋で彼らの会合が行われているということを指していた。
それを認識するなり、つま先から脳天に至るまで武者震いが沸き起こる。
「総司、どうした」
「──こちらへ来て下さい」
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