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衣類がここに

2023-04-15 19:27:53 | 日記
 衣類がここにあるということは、身ぐるみを剥がされたのは間違いない。女子だとバレただろう。その上、この傷では無事では居られまい。

 土方は顔を伏せたまま立ち上がった。

「歳、何処へ行く」

「総司を呼びに行くんだよ……。避孕 あいつは知らなきゃいけねえだろう」


 そう言いながら土方は部屋から出ていく。後ろ手で戸を閉めると、拳をキツく握り締めた。爪が食い込み、皮膚を破っても気にならない。腹の底からはふつふつと何か嫌なものが込み上げた。

「……ちくしょう」

 絞り出されたような声は酷く寂しげなもので、誰に届くこともなく風に攫われていく。


 やがてただならぬ様子の土方に呼び出された沖田は、言われるがまま後を着いていった。その道中、土方は一言も発さない。

 副長室へ続く渡り廊下に差し掛かった辺りで、沖田はふと立ち止まると空を見上げた。まるで桜の花びらのように小さな雪がふわりと沖田の元へ舞い落ちてくる。
 手のひらを天へ向けると、そこに吸い込まれた。だが、身体の熱ですぐに溶けてしまう。

──桜花さん。貴女は今、何処にいるのですか。許されるのなら、今すぐにでも探しに行きたいのに。


「総司、何やってんだ。早く来い」

「あ……、はい。すみません」

 土方の声にハッとすると、沖田は歩みを進めた。 沖田は部屋に入るなり、絶句する。眼前には血のついたボロボロの着物が広げられていた。
 同じ部屋で荷造りをしていたものだから、否が応でもこの持ち主が分かってしまう。


「こ、れは……?」

 やっと出た言葉は掠れ、あまりにも情けないものだった。目の前が真っ暗になるというのはこういうことを言うのだろう。目眩がした。

「鈴木の着物だ」

 土方はあくまでも冷静に告げる。それを聞いた沖田は力が抜けたようにそれの前へ座ると、冷たい着物へ手を伸ばす。血は硬く固まっており、それが桜司郎から流されたものだという事実が受け入れられなかった。

「嘘、ですよ。あの子がやられる訳がない。近藤先生も土方さんも知っているでしょう。あれ程強いんですよ。刀傷なんて、」

「総司……。すまねえ。俺を庇ってもらったばかりに。俺が悪かったんだ、長州へ入ることに必死になって周りが見えてなかったんだよ」

 近藤は沖田の隣へ行くと、横からその身体を抱き締める。このように茫然とした沖田を見るのは久し振りだった。彼が幼い頃、試衛館へ預けられた時以来だろう。山南の脱走が分かった時だって、此処まで傷付いたような反応はしていなかった。

 土方は沖田へ小さな袋を差し出す。

「総司、これ。名ばかりの御守りだが、鈴木の形見になるだろう。お前が持っていろ」

 それを受け取ると、沖田は顔を歪めた。池田屋で拾った、"桜花"が吉田稔麿へ渡した御守りである。それを後生大事に持っているという事実に胸の奥が痛んだ。

「……形見だなんて、そんな。まだあの子は死んだとは決まっていないでしょう。どうして、諦めるような事を言うのですか!」

 非難するような視線を向けるが、土方は渋い表情で首を横に振る。


「お前さんだって、人斬りの端くれだ。分かるだろう。この傷を見てみろ。背中にでけえ傷と、左の脇腹と肩先に銃弾だ。……これで生きていると思うか」

「……ですが!」

「信じたくねえのは分かる。だが、お前が受け止めてやらなきゃアイツも浮かばれねえだろうが。そうだろう?」


 沖田の目には悲哀の色が浮かんだ。信じたくないと言わんばかりに何度も首を横に振る。この残酷な現実を突きつけられても、それでも生きていると思った。
 土方の言葉を遮るように沖田は立ち上がる。そして悔しそうな視線を向けた。

「土方さんの鬼!鬼副長!これで諦めたら、私許しませんから!」


 そう言うと、沖田は御守りを片手に副長室を出ていく。そこらにあった

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