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『 これならば短時間で何発もの

2024-07-22 20:51:20 | 日記
『 これならば短時間で何発もの弾を撃つことが出来る──。殿…やはり只者ではない 』


最初のやり方にも驚いた濃姫だったが、こちらの方法にはもっと驚かされた。

これほど優れた才能を持つ信長が、皆には大うつけに見えていようとは…。

濃姫は、一つのことに熱中し過ぎる自分の性分を、これまで何度となく母や侍女たちに注意されて来たが、

今度ほど、このような性分に生まれて来たことに感謝したことはなかった。

おかげで、賢き夫を見た目だけで判断するような、本当のうつけにならずに済んだのである。

やはり自分の目で確かめないことには、真実など見えてこないのだと、濃姫は改めて実感させられていた。植髮



その後 信長は、野駆けをしたり川で泳いだり、森や林で狩りをするなど、いつも通りの行動をとっていたが、

そんな、ただ遊んでいるように見える光景を目にしても、濃姫は少しも表情を歪めなかった。

これらの行動が、戦への備えだと考えれば全て納得がいくからだ。
「三保野。我が夫はそこらの大名たちよりも、随分と仕事熱心なお方のようじゃぞ」

「え…?」

「殿がなさっている毎日の野駆けは、尾張の地形調べを兼ねた馬の訓練。

川遊びは、戦の際に敵、またはこちらが川を渡る時に備えて、川の長さや深さを事前に知っておく為だったようじゃ」

「…まさかそんな…」

三保野は思わず、森の中で兎を追いかけている信長に目をやった。

「くそ!ちょこまかと動きおって!今に見ておれ、この信長が必ずやぬしを射抜いてみせるぞっ」

弓を構える信長は、必死ながらも、どこか愉しげな微笑を湛えながら森を駆け抜けてゆく。

三保野にはどう見ても“かぶき者”と言わんばかりの形(なり)をした若者が、無邪気に小動物を追い駆け回しているようにしか見えない。

「…あれも、戦への備えだと言われるのですか?」

三保野は、思わず指をさして訊ねた。
「そうじゃ。戦場(いくさば)で正確に敵を射るためのな」

「されど姫様、弓の稽古ならば、わざわざ森などに来なくとも出来ましょうに。
的(まと)を使っての稽古ならば、城内で幾らでも──」

三保野の言葉を聞いて、濃姫はふふっと上品に笑った。

「そなた、戦場で闘う武士たちが、弓矢の的のようにジッとしていると思うのか?」

「あ…」

「兎も猪も、森の生き物たちは皆、殿の前では戦場の敵となるのじゃ。少なくとも訓練中はな」

濃姫はどこか得意になって言うと、やおら踵を返し、元来た道を戻り始めた。

「姫様、いずこへ !?」

「寺へ戻る。これだけ見ればもう十分です」

そう言って如何(いか)にも満足気な表情を浮かべると

「それに何やら雲行きが怪しい…。天気が崩れる前に帰らねば」

濃姫は天候を気にしつつ、三保野とお菜津を連れて、速やかに萬松寺へ戻っていった。

濃姫一行が那古屋城に帰って来た頃には、時刻は夕七つ刻(16時)をとっくに過ぎていた。

朝の五つ半に城を出たのだから、普通の参詣ならば、正午には城に戻って来ていてもおかしくないはずである。

しかしもう既に夕方──。


「姫様、如何致すおつもりです? 御老女の千代山様に、こんな時刻になるまで戻らなかった理由を訊ねられたら」

三保野は奥御殿の廊下を歩きながら、不安そうな面持ちで姫に訊ねた。

「その時はその時じゃ。和尚様との話が思いの外(ほか)長引いて…とか何とか言えば良い」

ふいの告白に、三保野は吐息を漏ら

2024-07-22 20:48:36 | 日記
ふいの告白に、三保野は吐息を漏らすような軽い驚きの反応を見せる。

「今のこの心持ちならば、例え訃報が届いたとしても、甘んじて受け入れることが出来そうじゃ」

「そんなっ、姫様がそのようなことを申されては」

「無論、父上様には生き延びていただきたいと思うておる。生きて、母上様の元へ笑顔で赴き、胸を張って勝利宣言をしていただきたいと」

「……」BOTOX 美容

「なれど、戦況を伺う限りでは、それも難しかろうのう。少なくとも我が殿が、何らかの奇跡でも起こしてくれぬ限りは」

「姫様─」

「今の私に出来ることは、父上様の御為に祈ることと、殿を信じること………そして覚悟を決めることだけじゃ。いつものようにな」

物憂げな面持ちで、しんみりと呟く濃姫。

そんな彼女の視線の先では、橙色(ときいろ)の羽を持つ鮮やかな立羽蝶が二匹、

仲睦まじき様子で、花壇の花々の上を共にひらひらと浮遊していた。

蝶の世界にも婚姻制度が存在するならば、きっとこの二匹は夫婦なのだろう。

蝶たちは花壇の上を大きく二週ほど飛び回ると、天空から降り注ぐ白い光の源を目指すように、高く高く空へと舞い上がっていった。

濃姫は、上へ昇ってゆく蝶たちを目で追いかけながら、道三の文を握っているその手にギュッと力を込めた。



《 ──…此度送りし国譲りの書状が、いつか婿殿にとって有意義に働くことを切に願ごうておる。

その時は、帰蝶、必ずそなたも婿殿と共に美濃の地へ戻って参るのだ。

そなたを“帰蝶”と名付けた、この父の想いに報いる為にもな 》



文にしたためられた一文を思い返しつつ、濃姫は緊迫の面持ちで、舞い上がってゆく蝶たちを眺めていた。

自分と信長の姿を、目の前の蝶たちに重ねながら。


義龍が長良川の南岸に向かって軍勢を出したとの報を受けた道三が、それに応じて鶴山を下りたのは翌二十日の辰の刻(午前8時頃)であった。

そのまま長良川へと進軍した道三勢は、北岸に移り、義龍勢と対峙した。

緒戦は、義龍側の竹腰道鎮率いる一隊六百名ほどが円陣を組む形で長良川を押し渡り、道三の本陣へ迫り来て、旗本に斬りかかった。

両勢は入り乱れながら戦ったが、ここでは道三の的確な指揮が功を奏し、敵勢は敗走。

見事 道鎮を討ち取ったのである。


この折、道三は道鎮を討ち取って満足したらしく、床几(しょうぎ)にドンと腰を据え、母衣(ほろ)を揺すって得意になっていたという。


「大殿、この勢いであちらの軍勢を一隊一隊蹴散らして参りましょうぞ!」

「戦場(いくさば)においては日々の鍛練と実績がもの言うのだということを、数ばかりが頼りのあの謀反者らにとくと見せつけてやりまする!」

「使者の話が確かならば、程なく信長殿が手勢を率いてこちらへ参上あそばされるはず!それまで何とか我らだけで凌ぎましょうぞ!」

重臣たちは期待に胸を張って言ったが、信長云々に関しては道三も頑なだった。

「いいや、婿殿の助けは不要じゃ。この戦、儂は尾張の者共らを一人(いちにん)足りとも入れるつもりはない」

皆々の当惑の視線が、一点に道三へと注がれる。

「信長殿にお文とは

2024-07-22 20:44:48 | 日記
「信長殿にお文とは、やはり援軍をお頼みになられるのですか!?」

丹後が訊くと、道三は首を横に振りつつ、意味有りげに微笑んだ。

「いいや。万一に備えて、婿殿にとびきり大きな贈物をしてやるだけじゃ」

その頃、清洲城の信長の元にも、美濃からの使者によって義龍挙兵の一報が届けられていた。

既に予期していた事だったが、道三・義龍両軍の兵力の差が想像以上に開いていた為、easycorp

さすがの美濃の蝮も、僅か二千の手勢で六倍もの軍勢を食い止めることは不可能であろうと判断したのか

「鶴山の親父殿に伝えよ!この信長、出来るだけ多くの手勢を引き連れて、親父殿に加勢致すべく美濃へ参ると!」

信長は胸を張って使者に伝えると、大急ぎで仕度を整えた後、濃姫の居る奥御殿の座所を訪ねた。

既に侍女から報告を受けていた姫は、御居間の出入口近くに控え、厳めしい甲冑姿の夫を一礼の姿勢で出迎えた。

「お濃。そなたとの約束、今果たして参るぞ」

「……殿。お願いでございますから、ご無理だけはなされませぬよう。何かあれば、殿だけでも、ご無事にお戻り下さいませ」
「案ずるな、儂は必ずそなたの元へ戻って参る。吉報を土産としてな」

姫は不安の濃く浮かぶ顔に小さな笑みを作ると、ゆっくりと頭を垂れた。

「どうぞお気をつけて。…父上様のこと、お願い申しまする」

「分かっておる。──お濃、留守を頼んだぞ」

信長は笑顔を一つ残して、その場から去っていった。

遠ざかってゆく夫の背中に目を向けることもなく、濃姫はひたすら頭を下げ続けた。

これが、無力な今の姫に出来る精一杯のことであった。






信長が清洲城を発った翌十九日の巳の刻。


「不垢不浄不増不減   是故空中無色無受想行識        無眼耳鼻舌身意無色声香味触法 無眼界……」

奥御殿の仏間にこもり、信長と道三の無事を願ってひたすら読経を捧げる濃姫の元へ

「御免つかまつります。……お方様、暫しよろしゅうございましょうか?」

二通の文を携えた老女の千代山が、遠慮がちに顔を出した。

千代山が声をかけるなり、濃姫は読経をやめ、伏せていた双眼を薄く開くと

「何用じゃ」

視線を前に向けたまま静かな声色で訊ねた。

「それが、美濃のお父上様よりお文が届いているのでございます」

「…父上」

濃姫はわっと目を広げると、素早く膝を千代山の方に向け直し、彼女が手にしている文を睨(ね)め付けるが如く眺めた。

「二通届いておりまする。一通は殿に。そしてもう一通は、お方様に」

言いつつ千代山は、文を二通重ねて姫の手に預けてゆく。

道三の字で『婿殿へ』『帰蝶へ』と記された二通の文を、濃姫が難しそうな表情で眺めていると

「畏れながらお方様、そのお文、早々にお検めになられた方が良いのではございませぬか?」

「…え」

「このような状況にございます故、何か急ぎの用やも知れませぬ。せめてお方様のお文だけでも、先に開封なされてみては如何でしょう?」