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宇宙の片隅で

日記や「趣味の情報」を書く

隆一と有紀 -21-

2020-04-08 13:02:10 | 脚本

 一方、レースに参加する4人のメンバーは、明日に備えて特訓をすることになる。
 とくにブランクのある杉山と、駅伝は未経験のボクシング部の藤原のために、他大学だが陸上部・副主将の真野が特別アドバイザーを買って出て、ストレッチ運動や筋肉運動などの特訓を手伝うことになった。

 レースに参加するメンバーらは、きょう1日は練習でつぶれる。
 カップル相手の女性たちは相談して、ホテルの中で楽しめるところがないか「フロント」で尋ねてみることにした。
 そして、宿泊客にはホテル内の『エステ・サロン』が半額で、室内プールとサウナは無料で利用できるとわかった。
 こうして、彼女たちもそれなりに有意義な1日を過ごすことが出来た。

 本来の≪東京-箱根大学駅伝≫のコースは、東京大手町を出発点として箱根までの5区間107.2kmで往路優勝を競い、復路は逆に、箱根から東京大手町までの5区間109.2kmで総合優勝を競う。

 今回の姉妹都市提携を記念して行われる駅伝コースは、次の通りである。
1区(大学駅伝では6区)・・・箱根~小田原(20.7km)
2区(同上7区)・・・小田原~平塚(21.2km)
3区(同上4区)・・・平塚~小田原(20.9km)
4区(同上5区)・・・小田原~箱根(20.7km)

 隆一たちは、最初から積極的に飛ばし2位以下を大きく引き離し逃げ切ろうという作戦を立てた。メンバーとコースの割り当ては、
1区=高原隆一(関東大3年「陸上部」主将)
2区=桜井隆司(関東大3年「陸上部」)
3区=藤原昭男(関東大3年「ボクシング部」)
4区=杉山二郎(関東大「陸上部」OB)
と、届け出てある。

 4人は、この日のうちに、レースに必要な物の調達を済ませた。
 あとは体調を整え、あすのレースに備えるだけである。

隆一と有紀 -22-

2020-04-08 13:01:12 | 脚本

 いよいよ夜が明け、レース当日の朝になった。
 地元箱根町の駅伝大会本部も、ハワイ大学から男子ではなく女子学生を招いたのは、ぜひとも《華やかな大会》にしたかったからだ。
 せっかくハワイから選手を招くのだから、ハーフ駅伝とはいえ参加校が少なくては困る。
 そこで、参加資格を少し甘くしたのだった。
 結局、参加校は、箱根を知り尽くした関東勢を中心に10大学が集まった。

 スタート時刻まで、もう少し時間がある。
 有紀は、
「がんばってね、隆一さん」
と、激励する。
 隆一も、
「うん、頑張るよ。有紀ちゃんのためにもね」
有紀「・・・?」
 有紀は、今日のレースの優勝賞金の使い道は知らない。
 箱根滞在が延長されるぐらいに思っている。

 隆一は、(見たところ、そんなに強敵校はいない。ハワイから来た長身で、手足が長いチームだけは未知数だが・・・)
と、予想をたてた。

 いよいよ”スタート時刻”が近づいた。
 1区を走る先頭ランナーたちは、スタートラインに立とうとしていた。

 ホテルのロビーにある大画面テレビの前ではツーリング仲間たちが、このレースを祈るような気持ちで見守っている。

隆一と有紀 -23-

2020-04-08 13:00:23 | 脚本

 いよいよ、レースのスタート時刻になった。
 10校の第1走者は、スタートの合図を待った。
 『よーい』
  ・・・
 『パーン』
 ピストルの音を合図に、10校のランナーがいっせいにスタートをきった。

 隆一は、もともとスピードのある選手だが、10校のうちの真ん中あたりにつけた。先頭グループには、地元近隣圏のランナーが飛び出した。地元近辺の大学として負けられないという気持ちが強いのだろう。
 それに続けとばかりに、ハワイ大学をはじめ他大学のランナーも負けていない。先頭集団は、混戦模様だ。

 隆一は、知っていた。
 この区間は最初の4キロは登りで、あと箱根湯本駅までは一気に下りだ。下りだからといってスピードを上げ過ぎるとオーバー・ペースになる。その結果、下りきってからの3キロが苦しい。
 下りは、平地の何倍もの《負荷》が太股の筋肉にかかる。ランナーは、そのあとの平地コースを登りのように感じてしまい、思うように足が上がらなくなるのだ。

 隆一は、スピードを押さえ気味に、他の選手たちよりやや遅いペースで走っている。
 そして、登りと下りが終わってからは、彼本来のスピード走法を発揮し始めた。平地コースに入って何人も抜き、先頭に立ったかと思うと、2位以下との距離をどんどんと広げていった。

 ハワイ大の女子ランナーは、上り下りの激しいコースを他校と同じように始めから飛ばしすぎた。坂道では長い手足がかえって邪魔だったのか、平地に出た頃には大きく後退していた。

隆一と有紀 -24-

2020-04-08 12:59:44 | 脚本

 2位以下のランナーは、完全に視界から消えてしまった。
 ・・・・・
 ・・・・・
 隆一は、「小田原中継地」で第2走者の桜井隆司にタスキを渡した。

 第2走者の桜井も、スピードのある選手で、2位との距離を保ちながら走っている。
 その頃、長身で手足の長いハワイ大のランナーは、その体格を生かして何人かを抜き去り、徐々に順位を上げてきた。本領発揮というところだ。
 ・・・・・
 ・・・・・
 桜井は、隆一が広げた2位との差を保って、平塚中継地で第3走者の藤原昭男にタスキを渡した。

 後ろでは、ハワイ大のランナーが平均身長180cmの足の長さを生かして、とうとう4位にまで順位を上げてきた。
 前を走る選手にとっては、不気味な存在だ。

 第3走者の藤原は、1日目の『宴会』で酒を飲みすぎた。
 駅伝レースに出ることになるとは予想もしていなかったのだから無理もない。
 2位のランナーが少しづつ差をつめてきているものの、まだ視界には入ってこない。
 ・・・・・
 ・・・・・ 
 藤原は、小田原中継地で最終走者の『アブさん』こと杉山二郎にタスキを渡した。

 これを、ホテル・ロビーの大画面テレビで応援するバイク仲間たちは、
「アブさん、ガンバレー」
「杉山さん、頑張れー」
「マスター、抜かれるなよー!!」
と、思い思いに叫んでいる。

隆一と有紀 -25-

2020-04-08 12:59:08 | 脚本

 杉山は、箱根駅伝レースを走るという夢が叶ったことがうれしい反面、後続選手に抜かれるのではないかという不安と緊張で、必要以上に力んでいた。
 大舞台でトップを走っていることが、自分でも信じられず、地に足がついていないと感じていた。
(これではいけない・・・)
 杉山は走りながら、関東大附属から関東大の陸上部員だった当時を思い出すことで、自分を落ち着かせようとした。
 毎日のように走っていたあの頃、体に浸み込んだ経験という宝が自分にもあるはずだ。
 ・・・そういえば、いつもコーチに叱られてばかりだったなぁ・・・
 杉山は、懐かしい頃を思い出すうちに、気分が少し落ち着いてきた。
(よーし、最初で最後のレースで「悔いの残らない」走りをしよう)
 呼吸、フォーム、目線、コース取りはどうか、現役当時を思い出しながら、そういうことを考える余裕も出てきた。
 
 しかし、杉山が走る「小田原~箱根」間は、20.7kmだ。
 まだまだ先は長いし、『山登り』と呼ばれる難所が待ち構えている。
 杉山の年齢にしてみれば、たしかにきついコースであり、距離なのである。