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宇宙の片隅で

日記や「趣味の情報」を書く

隆一と有紀 -16 -

2020-04-08 13:05:31 | 脚本

杉山「そして卒業したら、僕の、お、お嫁さんになってくれないかい?」
 この急な申し出は、さらに有紀を驚かせた。
「僕と結婚すれば、将来の杉山建設の社長夫人だ。君の実家の家計の心配も一切しなくていい。全面的に面倒をみるよ」

 有紀は、このあまりにも唐突な申し出に、どう答えていいか分らなかった。それに、あきらかに杉山は、まだ酔っている。有紀は、杉山を一人の男性として見たことがなかった。
(・・・きっと酔った上の思いつきで言ってるんだわ・・・)
 そこで、意を決して言った。
「杉山さんが私の家の心配をしてくれる気持ちはとっても嬉しいわ。でも、私には結婚なんてまだまだずっと先の事で考えたこともないの」
杉山「ずっと先でもいいよ。僕はいつまでも待つよ」
有紀「ごめんなさい、もう充分暖まったからお先に出るわ。でもありがとう心配してくれて、杉山さんて優しい人なのね」

 杉山は、有紀が自分を傷つけないようにやんわりと応じたんだと酔っている頭でもすぐに分かった。
(俺って馬鹿だなぁ・・・)
 杉山は、酒に酔った勢いで口走ってしまったことを後悔した。
(これでもう、店にも来てくれないかも知れない)
 杉山は、自分の頭をポカポカと叩いて、湯舟の中に顔を沈めた。そして、息がくるしくなると「ぷぁ~っ」と湯舟から顔を出した。それを気が済むまで繰り返す杉山だった。

 宴会場で何が起こっているとも知らずに・・・。

隆一と有紀 -17-

2020-04-08 13:04:49 | 脚本

 ・・・・杉山が宴会場に戻ると、舞台のほうに集まっているグループと、あいかわらず宴席で飲んだり、食べたり、喋ったりしているグループの2つに大きく別れていた。
 何が起こったのか、露天風呂に入っていた杉山には、まるで見当がつかなかった。
 杉山は、舞台に集まるグループのほうに近づき、人をかき分けてやっと中心が見える位置に来た。
 そこには、新聞を大きく広げて一生懸命に記事を読んでいる隆一ら関東大生と他校の学生たちがいた。

(なんだぁ、新聞かぁ)
 杉山は当てが外れてがっかりした。なにか、もっと面白い物でもあるのかと思ったのだ。

 杉山に気付いた隆一は「アブさん、一体今まで何処に行ってたんだい?」
杉山「いや、ちょっと露天風呂で酔いを醒ましていたんだ」
 隆一の隣に、先に露天風呂から上がった有紀がいることに気付き、杉山は少しバツが悪かったが・・・、
有紀「杉山さん、先程はどうもありがとう」
杉山「有紀ちゃん、さっきは変なこと言ってゴメン。どうか・・忘れてくれよな」
 有紀は、この新聞記事のこともあって、悪びれた様子は少しもなく、いつもの有紀に戻っていた。

隆一「アブさん、この記事を読んで見ろよ」
 杉山は、隆一がいた場所と入れ替わった。
 この地元新聞は、やはり酔いを醒まそうと1階ロビーのソファーに座った関東大生が、近くの新聞差しから見つけたもので、何気なく見ている内にある記事を見つけ、宴会場の隆一に持ってきたものだった。
 新聞の片方を木枠で閉じた地元新聞は薄いので、2週間分束ねてあった。

杉山「なになに『ハワイのホノルルと神奈川県足柄下郡箱根町が姉妹都市を提携。これを記念して箱根駅伝コースのうち箱根を起点に往復4区間でハワイ大学女子学生と記念大会を催す』か、ふーん。で、この記事でどうして皆が騒いでるんだい? それにこの新聞は2週間前の日付けだぜ」
隆一「アブさん、よく見ろよ。参加申し込みは明日午前中まで。レースは、あさってだ。まだ間に合うし、賞金も出るんだぜ」

隆一と有紀 -18-

2020-04-08 13:04:09 | 脚本

 賞金と訊いて、杉山の目の色が変わった。
「え~と、ふんふんふんと、賞金、あった。なになに? 50万円!」
 杉山は昼間、金髪の若い女性たちと玄関ですれ違ったが、彼女達がこのレースに出るためにハワイから来たのかと、今になって思い当たるのだった。

杉山「それで、参加資格は?」
隆一「大学生4人だ」
杉山「メンバーは揃うのかい?」
隆一「現役の陸上部員は、関東大では俺と桜井、それに東朋大の真野の3人だ。あす朝一番に確認するが、おそらく他校との混成チームじゃダメだと思う。その代わり、うちのボクシング部の藤原が出てもいいと言ってくれている」
杉山「じゃあ混成チームがダメなら4人揃わないってわけか」
隆一「その下の特別参加資格者ってところを読んでほしいんだ」

「どれどれ」
 杉山は、言われたとおり読んでみた。
『4名のメンバーが揃わない場合、実業団に所属しないアマチュアOBの参加を認める・・・』
 杉山は、
「ふーん、そうかぁ。実業団に所属しないアマチュアのOBならいいんだ・・・、・・・えっ、まさか俺に出ろって言うんじゃないだろうな?」
「そのまさかだよ。きょう来てる全員にあたったんだ。メンバーが揃いそうなのは関東大だけ。あとは、アブさんが出てくれれば4人揃うんだよ」
と、隆一は杉山が”うん”と言ってくれるのを待っている。

杉山「隆一君、俺を買いかぶりすぎだよー。大学の8年間、たしかにずっと陸上部にはいた。けど、いつも補欠だったんだぜー」
隆一「アブさん、どうせダメでもともとじゃないか。もし優勝して賞金の50万円が手に入ったら、最初の計画通り”箱根”にいられるんだぜ」

「・・・そうか、ダメでもともとかぁ」
 杉山は、しばらく考えていたが、
「隆一君、ちょっと」
 と言って、隆一を舞台の端の方に誘った。

隆一と有紀 -19-

2020-04-08 13:03:33 | 脚本

 隆一を舞台の端の方に誘うと、杉山は、周りの者に聞こえないように声を低めて、
「このことは、もう皆に話したのかい?」と訊いた。
隆一「このことって、何のことだい?」
杉山「もし万一、優勝したときの賞金の使い道だよ」
隆一「それはまだだ。俺もついさっき、この記事を読んだばかりだ」
杉山「さっき、新聞記事を読んでいた連中にもか?」
隆一「彼らには、はっきりとじゃないが、もしかして、もう少し箱根にいられるかも知れないぞって」

杉山「じゃあ、俺からお前にぜひ頼みがある」
隆一「なんだい、あらたまって」
杉山「もし優勝して賞金が手に入ったら、それを有紀ちゃんの学費に回してやってほしいんだ」

隆一「アブさん、いや杉山先輩、本気かい?」
「本気さ」
 杉山は、真剣な顔でそう答えた。

 隆一は、杉山の真剣な眼差しに、
「そうか・・・、わかった。他の連中には俺から説明する」
と、約束した。

 そうと決まれば、杉山は俄然、身の引き締まる思いがした。
(よーし、有紀ちゃんのためにベストを尽くすぞ)
と、心の中で誓った。
 同時に、大学時代に抱いていた”箱根駅伝レースに出たい”という夢も叶いそうだ。

 隆一は、宴会が終わってから仲間らの部屋を訪れ、一部始終の経過を説明して皆の了承をとりつけた。

隆一と有紀 -20-

2020-04-08 13:02:52 | 脚本

 隆一は翌朝、レースの主催本部に混成チームでの参加の可否を確かめた。やはりダメということだったので、関東大メンバーのみでの参加を申し込んだ。

 駅伝に参加しないカップルらは、ホテルにあった『箱根観光ガイドマップ』を手に、今日はどこに行こうかと、それぞれで話し合っている。
 ・・・昨夜、隆一が『駅伝の夜は、もう1泊することになる。その分は自費で負担願いたい』と知らせに来ていた。
 とすると、せっかくのカップルで箱根を楽しめるのも、今日1日しかない。

 箱根観光ガイドマップには、
・芦ノ湖の東西を走る『芦ノ湖スカイライン』と『箱根ターンパイク』を通って、途中でバイクを置き『北箱根山林道』や対岸の『白銀林道』を散歩するコース。

・小田原インターから、真鶴道路を走り、福浦インターから『マリブグランプリ』に行くコース。ここでは本物みたいなフォーミュラーカーでタイムトライアルを楽しめる。

・真鶴サボテンランド(野鳥園や遊歩道がある)

・真鶴岬まで行くと、沖合200mに浮かぶ大きな岩、絶壁、奇岩が見え、遠く房総半島や伊豆半島まで見える絶景ポイントがあり、磯遊びもできる。

・箱根ターンパイクを東北に走ると、室町時代に築城された小田原城がある。戦国時代に北条氏の本拠地になった”天守閣”のまわりには『動物園』や『遊園地』があって1日楽しめる。

など、「道路」「施設」「ワンポイント解説」が載っていた。

 それぞれのカップルは、相談して行きたい場所を決めると、バイクで出掛けていった。