杉山「そして卒業したら、僕の、お、お嫁さんになってくれないかい?」
この急な申し出は、さらに有紀を驚かせた。
「僕と結婚すれば、将来の杉山建設の社長夫人だ。君の実家の家計の心配も一切しなくていい。全面的に面倒をみるよ」
有紀は、このあまりにも唐突な申し出に、どう答えていいか分らなかった。それに、あきらかに杉山は、まだ酔っている。有紀は、杉山を一人の男性として見たことがなかった。
(・・・きっと酔った上の思いつきで言ってるんだわ・・・)
そこで、意を決して言った。
「杉山さんが私の家の心配をしてくれる気持ちはとっても嬉しいわ。でも、私には結婚なんてまだまだずっと先の事で考えたこともないの」
杉山「ずっと先でもいいよ。僕はいつまでも待つよ」
有紀「ごめんなさい、もう充分暖まったからお先に出るわ。でもありがとう心配してくれて、杉山さんて優しい人なのね」
杉山は、有紀が自分を傷つけないようにやんわりと応じたんだと酔っている頭でもすぐに分かった。
(俺って馬鹿だなぁ・・・)
杉山は、酒に酔った勢いで口走ってしまったことを後悔した。
(これでもう、店にも来てくれないかも知れない)
杉山は、自分の頭をポカポカと叩いて、湯舟の中に顔を沈めた。そして、息がくるしくなると「ぷぁ~っ」と湯舟から顔を出した。それを気が済むまで繰り返す杉山だった。
宴会場で何が起こっているとも知らずに・・・。