NHK-BSで「BS 世界のドキュメンタリー」で放映された番組です。
演奏・歌・舞踏・劇を統合した総合芸術「楽劇」を完成させたコンポーザーであるワーグナーを熱狂的なファン(俗称「ワグネリアン」)である司会者が、自身がユダヤ人という矛盾を孕みながら紹介する、ときに緊張感が走る内容でした。
逆説的ですが、番組の中でワーグナーは「オペラ嫌い」と紹介されました。
それまでのオペラの題材になった貴族の生活だの、男と女の諍いなどには興味がなかったのです。
バイロイト歌劇場を造るときも、設計図に見つけた当時流行していた華美な装飾を全部取り去ったエピソードも紹介されています。
より普遍性・永遠性を求めていくと、その理想像は「ギリシャ悲劇」にたどり着きました。
なによりもギリシャ悲劇は神話を題材とし、かつ特権階級ではなく民衆の芸術だったことに魅了されたのでした。
これが彼の楽劇に神話から題材を取ったストーリーが多く採用されている理由です。
また、楽曲の放つ神秘性もそこに根源があるものと思われます。
ある作曲家は「ワーグナーの序曲は魔術的に美しいから危ない」と云いました。
カラヤンはワーグナーの楽劇のリハーサル中、その美しさに感動して涙したという言い伝えもあります。
ワーグナーが「反ユダヤ」であることは避けて通れない話題です。
私は以前から知っていました(偉大な作曲家たち Vol.4「ワーグナー」)。
ただ調べてみると、当時人気者であったメンデルスゾーンやマイアベーアへの嫉妬混じりの要素も指摘されており、今となっては詳細不明です。
番組中の各出演者のコメント;
・ワーグナーが性格の悪い反ユダヤ主義者であったとしても、彼の崇高な芸術は毅然として存在し続ける。
・人々はヒトラーを通してワーグナーを見がちであるが、するとワーグナーの素晴らしさの一部分しか見えない。音楽作品を通して見ればその偉大さに気づくはずだ。
これは「答えのない問い」ですね。
~番組解説~
ワーグナーとユダヤ人のわたし(前編)
2013年5月20日、13年10月7日、13年11月25日
イギリスの著名な番組プレゼンターで作家のスティーブン・フライはワーグナーの音楽に魅了されてきた。だが同時に、家族をホロコーストで亡くしている彼にとって、ヒトラーがワーグナーを深く信奉していたという事実が心に刺さったトゲとなっていた。フライはワーグナーの足跡をたどり、偉大な音楽と反ユダヤ主義という相入れない事実に折り合いをつけようと試みる。2013年はワーグナー生誕200年。旅するフライの目を通して今なお世界中のオペラファンをとりこにする芸術家の人生と創造性に迫る。
旅の始まりは、ワーグナーが自身の作品の上演のために建設したバイロイト祝祭劇場。毎年恒例の音楽祭の準備が進む舞台裏で、ワーグナーの魅力を最大限に引き出す劇場の秘密が明かされる。また、ワーグナーのかつての邸宅では彼自身のピアノで“トリスタンコード”を演奏して大興奮!
さらにフライは、ワーグナーが野心的な“楽劇”「ニーベルングの指環」四部作の着想を得たスイスで音楽の世界に一大変革をもたらすことになる創作の原点を探り、次にロシアのマリインスキー劇場へ。浪費癖による莫大な借金の返済のため、指揮者として各国をツアーしたワーグナーはここにも滞在し、初めて観客に背中を向け、オーケストラの正面から指揮するという当時としては考えられない革命的な上演で人びとを魅了した。
やがて、マリインスキー劇場の芸術監督への誘いを断って故郷ドイツに戻ったワーグナーだったが、演奏旅行で稼いだ金は借金の返済に消え、結婚生活も破綻。50歳にして、人生の集大成となる「指環」四部作を世に出すどころか、生活していくことさえ難しい状況に追い込まれる。
そこへ奇跡のように現れたのが、バイエルン王国の国王となったばかりの若きルードヴィヒ2世だった。
ワーグナーとユダヤ人のわたし 後編(再)
2013年5月21日、13年10月8日、13年11月26日
旅の後半はニュルンベルクから。ワーグナー中期の楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の舞台であり、後にヒトラーがナチス党大会の会場に選んだ場所でもある。ここでフライは、ナチスがいかにワーグナーの音楽をプロパガンダに利用したのかを読み解き、一方では、ワーグナーがいかに深くヒトラーの世界観に影響を与えていたのかをも思い知ることになる。
そして一行は、再びバイロイトへ。パトロンとなったルードヴィヒ2世の援助で自身の作品のための劇場を建てることになったワーグナーが設計者に出した指示が読み取れるオリジナルの図面や、ここで完成をみた「指環」四部作の最後の作品のオリジナル譜面を間近にしたあと、ついには夢にまで見たバイロイト祝祭劇場の客席と舞台に足を踏み入れる。そこで出会うのは、最近になって音楽祭の総監督となったワーグナーの曽孫のひとり、エファ・ワーグナー。
バイロイト祝祭劇場でのこうした体験に、音楽祭への期待を新たにするフライだが、どうしてもヒトラーとバイロイトとの密接な関係をぬぐい去ることができない。最後に、アウシュビッツ収容所に捕らえられ、オーケストラでチェロ奏者をしていたユダヤ人女性に会いに行ったフライは、バイロイトの客席でヒトラーと同じようにワーグナーの音楽を聴こうとする自分はユダヤ人として間違っているのだろうかと尋ねるが・・・。
演奏・歌・舞踏・劇を統合した総合芸術「楽劇」を完成させたコンポーザーであるワーグナーを熱狂的なファン(俗称「ワグネリアン」)である司会者が、自身がユダヤ人という矛盾を孕みながら紹介する、ときに緊張感が走る内容でした。
逆説的ですが、番組の中でワーグナーは「オペラ嫌い」と紹介されました。
それまでのオペラの題材になった貴族の生活だの、男と女の諍いなどには興味がなかったのです。
バイロイト歌劇場を造るときも、設計図に見つけた当時流行していた華美な装飾を全部取り去ったエピソードも紹介されています。
より普遍性・永遠性を求めていくと、その理想像は「ギリシャ悲劇」にたどり着きました。
なによりもギリシャ悲劇は神話を題材とし、かつ特権階級ではなく民衆の芸術だったことに魅了されたのでした。
これが彼の楽劇に神話から題材を取ったストーリーが多く採用されている理由です。
また、楽曲の放つ神秘性もそこに根源があるものと思われます。
ある作曲家は「ワーグナーの序曲は魔術的に美しいから危ない」と云いました。
カラヤンはワーグナーの楽劇のリハーサル中、その美しさに感動して涙したという言い伝えもあります。
ワーグナーが「反ユダヤ」であることは避けて通れない話題です。
私は以前から知っていました(偉大な作曲家たち Vol.4「ワーグナー」)。
ただ調べてみると、当時人気者であったメンデルスゾーンやマイアベーアへの嫉妬混じりの要素も指摘されており、今となっては詳細不明です。
番組中の各出演者のコメント;
・ワーグナーが性格の悪い反ユダヤ主義者であったとしても、彼の崇高な芸術は毅然として存在し続ける。
・人々はヒトラーを通してワーグナーを見がちであるが、するとワーグナーの素晴らしさの一部分しか見えない。音楽作品を通して見ればその偉大さに気づくはずだ。
これは「答えのない問い」ですね。
~番組解説~
ワーグナーとユダヤ人のわたし(前編)
2013年5月20日、13年10月7日、13年11月25日
イギリスの著名な番組プレゼンターで作家のスティーブン・フライはワーグナーの音楽に魅了されてきた。だが同時に、家族をホロコーストで亡くしている彼にとって、ヒトラーがワーグナーを深く信奉していたという事実が心に刺さったトゲとなっていた。フライはワーグナーの足跡をたどり、偉大な音楽と反ユダヤ主義という相入れない事実に折り合いをつけようと試みる。2013年はワーグナー生誕200年。旅するフライの目を通して今なお世界中のオペラファンをとりこにする芸術家の人生と創造性に迫る。
旅の始まりは、ワーグナーが自身の作品の上演のために建設したバイロイト祝祭劇場。毎年恒例の音楽祭の準備が進む舞台裏で、ワーグナーの魅力を最大限に引き出す劇場の秘密が明かされる。また、ワーグナーのかつての邸宅では彼自身のピアノで“トリスタンコード”を演奏して大興奮!
さらにフライは、ワーグナーが野心的な“楽劇”「ニーベルングの指環」四部作の着想を得たスイスで音楽の世界に一大変革をもたらすことになる創作の原点を探り、次にロシアのマリインスキー劇場へ。浪費癖による莫大な借金の返済のため、指揮者として各国をツアーしたワーグナーはここにも滞在し、初めて観客に背中を向け、オーケストラの正面から指揮するという当時としては考えられない革命的な上演で人びとを魅了した。
やがて、マリインスキー劇場の芸術監督への誘いを断って故郷ドイツに戻ったワーグナーだったが、演奏旅行で稼いだ金は借金の返済に消え、結婚生活も破綻。50歳にして、人生の集大成となる「指環」四部作を世に出すどころか、生活していくことさえ難しい状況に追い込まれる。
そこへ奇跡のように現れたのが、バイエルン王国の国王となったばかりの若きルードヴィヒ2世だった。
ワーグナーとユダヤ人のわたし 後編(再)
2013年5月21日、13年10月8日、13年11月26日
旅の後半はニュルンベルクから。ワーグナー中期の楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の舞台であり、後にヒトラーがナチス党大会の会場に選んだ場所でもある。ここでフライは、ナチスがいかにワーグナーの音楽をプロパガンダに利用したのかを読み解き、一方では、ワーグナーがいかに深くヒトラーの世界観に影響を与えていたのかをも思い知ることになる。
そして一行は、再びバイロイトへ。パトロンとなったルードヴィヒ2世の援助で自身の作品のための劇場を建てることになったワーグナーが設計者に出した指示が読み取れるオリジナルの図面や、ここで完成をみた「指環」四部作の最後の作品のオリジナル譜面を間近にしたあと、ついには夢にまで見たバイロイト祝祭劇場の客席と舞台に足を踏み入れる。そこで出会うのは、最近になって音楽祭の総監督となったワーグナーの曽孫のひとり、エファ・ワーグナー。
バイロイト祝祭劇場でのこうした体験に、音楽祭への期待を新たにするフライだが、どうしてもヒトラーとバイロイトとの密接な関係をぬぐい去ることができない。最後に、アウシュビッツ収容所に捕らえられ、オーケストラでチェロ奏者をしていたユダヤ人女性に会いに行ったフライは、バイロイトの客席でヒトラーと同じようにワーグナーの音楽を聴こうとする自分はユダヤ人として間違っているのだろうかと尋ねるが・・・。