ちり一つないとまでは言わないけど綺麗に掃除された部屋をぐるりと見回す。
買い換えた遮光アンド防寒カーテン。
ずっとほしくて悩んでてついに買った人をダメにするソファー。
そして、テーブルに並んだお正月用の奮発した食材達!
お刺身!
お肉!
おかし!
米!
パン!
そしてそして何より素晴らしいのは!
癌陀羅ブルワリーから直送された瓶ビール!!
その飲みやすさとフルーティな味わいで人間界どころか魔界でも大人気で
品薄なこのビールが手に入ったのは全て全て蔵馬さんのおかげ。
ありがとう。魔界都市癌陀羅の長の奥様!!
「って言っても最近お喋り出来てないのよね〜」
買って来たサラミを齧りながら、冷蔵庫に刺身や肉を仕舞いつつ呟く。
お喋りと言っても顔を合わせるものじゃなくテレビ電話だけど。
「そう言えば修羅くんもこっち来てないのかしら?」
下の子が出来たと複雑な面持ちだった彼は、妹が誕生した瞬間に
瞬く間に兄馬鹿へと進化した。
さすが黄泉さんの子供と軀さんが大爆笑しながら電話くれたっけ。
目の中に入れても痛くない妹達の写真を、日に数回も送ってくるものだから
私のスマホの写真フォルダは双子ちゃん達で埋まってる。
黒髪の狐耳かえでちゃんと紅髪の二本角のさくらちゃん(三歳)は、
ほんと抱きしめて拐っちゃいたいくらい可愛い。
おねーちゃんおねーちゃんと鈴を転がすような声で呼んでくれるし。
サーモンと中トロを少しだけ切ってお皿に盛ってラップをかける。
奮発して買った鎌倉ハムは軽く炙って食べようかな。
ご飯はもうすぐ炊けるし。
何か汁物作ろうかしら。
「………」
視線をこたつに向ける。
私は今日の朝から、動かない物体を軽く蹴った。
「痛え」
「痛い訳ないでしょ。邪魔なのよ、アンタ」
「寒波来てる中一晩中働いてたオレに対して酷い言いよう」
「それアンタの仕事だし、アンタ私の旦那でも彼氏でもないじゃない」
「傷心中の幽ちゃんに優しくしてくれても良くねえ!?」
「……知らないわよ」
「オレが言わせたわけじゃねえのによ〜」
と言いながらも幽助の口元は嬉しそうに歪んでる。
「予定じゃ明日っから癌陀羅で宴会だったんだぜ?」
「宴会より先に自分の国に行くべきでしょ」
「あそこ正月行くと虫食わされっから嫌だ」
「……国民の食生活王様が改善しなさいよ」
「『幽助さんこそこの美味さがわからないなんて!!』って言われる」
「異文化交流難しいわね……」
「生活習慣の違いって簡単にゃいかねえよな」
「そうよね〜………」
ピピっ
待ち望んでいた炊飯器のタイマーが鳴る音が部屋に響く。
「あ、ご飯炊けた!」
「マジか!オレが持って来た紅茶豚炙って目玉焼き乗っけ丼にしようぜ!」
「……なんでそんなカロリー高い提案すんのよ」
「良いじゃねえかよ。二人で太ろうぜ!」
ニヤニヤと笑いながら幽助は六時間ぶりに炬燵から這い出し、窓を開けてベランダに
置いていた箱を持ち上げた。いつの間に置いたの?
「そっそれは!」
「プレミアムなモルツさま」
「外に置いてあったなんて…!」
「冷蔵庫に入れっとバレるからな!あとUberでパエリアとピザ頼んであんぜ?」
「くっ……あんた天才なの!?」
「だからよ」
「なによ」
「傷心の幽ちゃん今日泊めて!」
「……………」
本当だったら。
幽助は、今日の大晦日の営業終わりに、魔界へと向かっていたのよね。
十二月はかき入れどきだからと魔界には全く足を運んでいなかったから
久しぶりに仲間と会えるのを楽しみにしてたと思う。
黄泉さんの癌陀羅だけでなく、最近は軀さんの領地やそれ以外でも人間界の
技術を利用した開墾が行われて果物や野菜やお米が美味しくなって、
新しいお酒が出回るようになったらしいし。
癌陀羅ブルワリーからビールをケースごと運んでくれた陣くんが、言いにくそうに
伝えて来た一言さえなければ、幽助は今頃屋台を開けて居た筈。
「なんでオレ癌陀羅立入禁止なんだよ!」
「あーねえ」
「オレのせいじゃねえよな!?」
「アンタのせいじゃないけどアンタのせいっていうか」
「かえでがオレのおよめさんになりたいって言ったからってよー!」
修羅くんが兄バカなら。
蔵馬さんに良く似た可愛い可愛い娘達に対して黄泉さんが親バカにならない
訳がない。
だから。
可愛い娘が顔を赤らめて近づいて来て
『ゆーにいちゃんいつかえでのことおよめさんにしてくれるのかな。』
なんて打ち明けられた数秒後。
なんて打ち明けられた数秒後。
『浦飯幽助の癌陀羅立入を前面禁止。入国の手引きしたものは厳罰に処す』
なんて法律を作るのも無理は無いと思う。
なんて法律を作るのも無理は無いと思う。
何せそれは、『お父さんが娘から聞きたくないセリフランキング』上位に確実に
入るセリフなのだから。
「あのやろー」
そんなふうに言いながら幽助はニヤニヤと嬉しそう。
まあ、気持ちはわかるわ。
蔵馬さんを『独り占め』してる黄泉さんへの『お返し』という訳でもあるのよね。
「最後に直接会ったのって何年前?」
「十年以上前」
「画面越し以外で会いたいわよね…」
「おう」
蔵馬さんに会えないのは黄泉さんのせいじゃないけれど。
「そういえばかえでちゃんとさくらちゃんね」
「ん?」
「お正月明けに桑原くんのおうちにお泊まりするんですって」
「マジか」
「雪菜ちゃんが嬉しそうに色々用意してたから本当よ」
「……黄泉、くんの?」
フッフッフと私は不敵に笑った。
「今年お正月明けの癌陀羅は忙しい!
商業区画に劇場とショッピングモールがオープンするから」
「なんでオメーそんなの知ってんの」
ポカンとした顔で幽助は問いかけてくる。
「色々あるのよ、女には」
ーまあホントは軀さん情報だけど。
ーまあホントは軀さん情報だけど。
「て、ことは」
「そうよ」
満面の笑みで幽助は叫んだ。
「チビたちにあえんのか!」
「お年玉用にお金残しときなさいよ」
「残す残す!螢子!」
「ん?」
「ちょっと高い鮨頼まねえ?奢る!」
「奢られます!」
幽助の奢りで頼んだお鮨が届いて。
プレミアムなモルツのプルタブを開けて。
「「かんぱーい!」」
と私と幽助が声を上げたとき。
『あ、そ、速報です!
癌陀羅自治区総長兼魔界大統領補佐兼……あーもう!とにかく魔界の重鎮黄泉さんに
四人目のお子さんが誕生したと速報が入りました!て、いつの間に!?』
すっかりアナウンサーがいたに着いた小兎ちゃんが。
そう、慌てながらニュースを。
「「はああああああー!?」」
〜一年ぶりに書いてみました。
アラサー螢子さんは毎回毎回私の予想を超えた話になるなあ。
四人めですって笑
何年か前にpixivに書いた話とちょっと繋がってます。
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