COCCOLITH EARTH WATCH REPORT

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食糧を武器にしたモンサントの世界戦略の脅威 PART I

2008-06-18 22:30:48 | Weblog
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目 次
はじめに
1.モンサント社の設立と化学会社としての所業
2.遺伝子組換え作物の誕生と、骨抜きにされた安全度評価
3.遺伝子組換えウシ成長ホルモン(rBGH)をめぐる問題
4.モンサントとアメリカ政権との人事交流と癒着
5.遺伝子組換え食品の安全性への警鐘
(以下はPART IIに続く)

はじめに
 6月14日(20、21日の両日にも再放送)NHK衛星第一で放送された、「アグリビジネスの巨人“モンサント”の世界戦略」(原題:The World According to Monsanto)を見た。モンサントは、安全性をめぐる論争の絶えない遺伝子組換え作物で、圧倒的シェアを誇る多国籍企業である。そのホームページでは、世界のあらゆる地域に持続可能で環境にやさしい食糧生産を拡大するため、遺伝子組み換え技術をはじめとするバイオテクノロジーの可能性を最大限に活用し、研究開発、安全性の維持・確立、一般への情報提供や対話を行いながら、その恩恵を社会全体で共有していくことを目指すとしている。このドキュメンタリーは、モンサントが展開してきた恐るべき所業の数々を、フランスの女性ジャーナリスト マリー・モニク・ロバンがグーグルで検索しながら、関係者の証言を交えて展開された。このドキュメンタリーにはモンサント側の直接関係者の証言がごく僅かで、再三にわたるロバンの取材請求に応じなかったのは残念である。しかし、放送内容からアメリカ政府をはじめとする国家をも動かす、食糧を武器にした恐るべき世界戦略が明らかにされた。番組をご覧にならなかった方もあるかも知れないので、内容を書き留めておく。

1.モンサント社の設立と化学会社としての所業
 モンサントは1901年にセントルイスで設立され、20世紀最大級の化学会社に成長し、ベトナム戦争で枯葉剤に使われたAgent Orange(不純物としてダイオキシンを混入)や、1980年代に製造・販売の禁止されたPCB(発ガン性)などいわくつき薬品の製造に関わった。番組にあったアラバマ州アニストンでは、数十年にわたってPCBの地中埋め込みや、PCBを含む廃液の河川への放流を行ったことを隠蔽していた。2001年に2万人の住人が訴訟を起こし、被害者への損害賠償、汚染地域浄化、専門病院建設への7億ドル支払いで和解したが、企業幹部は一人も訴追されなかった。アメリカの法律では大抵、企業責任者が刑事責任を問われず、民事裁判で損害賠償が請求されるが、賠償金は企業が長期にわたって手にした利益のほんの一部に過ぎないので、企業側が長期にわたって隠蔽を図るという。
 1974年に発売されたモンサントの主力商品ラウンドアップは、グリホサート(ホスフォメチルグリシン)と呼ぶ化学物質を基本構造に持ち、全ての植物を枯らすが微生物に分解される(生分解性)ので土壌に優しく、環境を汚さないという触れ込みであったが、ニューヨーク(1996)とフランス(2007)で、不当表示であると有罪の判決を受けた。その上、多くの科学的調査で高い有害性が指摘されている。例えばフランス国立科学研究センターのロベール・ベレはウニ受精卵の初期発生への影響の研究から、ラウンドアップが細胞分裂の調節機構に影響を及ぼし、分裂異常やがんを誘発する可能性を報告したが、研究所上層部から公表を差し控えるよう指示を受けたと述べている。

2.遺伝子組換え作物の誕生と、骨抜きにされた安全度評価
 除草剤耐性大豆ラウンドアップ・レディーは、土壌細菌から取り出したラウンドアップ耐性遺伝子を微小な金粒子に吸着させて植物体に撃ち込むという乱暴な方法で作られた。その商業栽培は1996から始まり、今やアメリカの大豆栽培面積の9割を占めている。これを積極的に導入しているアメリカ大豆協会のジョン・ホフマン副会長は、春一回目のラウンドアップ撒布の6~7週間後、2回目の撒布を行えば全く雑草が生えないので除草の労力が省け、安全性も問題ないと食べて見せた。
 問題は、このような方法で生産された食品の安全性が、どのように評価されたかである。クリントン政権の農務長官を務めたダン・グリックマンの証言によると、政権内に巨額な開発投資が行われた遺伝子組換え作物を許可しないと、科学の進歩の妨害になると見る雰囲気があり、迅速な審査に批判的意見を出すと、政権関係者、特に通商代表部が強い不快感を露わにしたという。農業関係の業界にも十分は分析を望まない雰囲気があったという。1992年5月29日に出されたFDA(食品医薬品局)の安全審査に関する報告書は、植物の新品種由来の食品に、伝統的品種改良で開発された食品と同じ規制を適用するというものであった。つまり、遺伝子組換えの結果生じる食品成分は、通常の食品に含まれる成分と同じか、実質的に同等である(実質的同等性の原則)という判断が下された。当時のFDAバイオテクノロジー部門の責任者だったジェームス・マリアンスキーは、従来の法律が十分整備されていて、遺伝子組換え食品について新たに法律を作らないという、科学的でなく政治的判断だったと述べている。
 上記に対する3人の識者の反論が紹介された。ジェフリー・スミス(食品安全問題の活動家)は安全性の認可には、同領域の専門家が認める多数の研究論文と、科学界の圧倒的コンセンサスの必要性を指摘した。マイケル・ハンセン(消費者同盟の科学者)は、ごく少量使われる食品添加物でも要求される厳密な安全審査が、遺伝子組換え食品には要求されなかったことを批判した。また、最初に実質的同等性の原則を批判した、ジェレミー・レフキン(エコノミック・トレンド財団代表)は、ワシントンでロビーストがたむろするバーで訊いてみると、誰も実質的同等性を信じていない。政府の意思決定に企業がこれほど影響することはなかったと述べている。
 規制緩和をスローガンとしたレーガン政権時代の副大統領父ブッシュがモンサントの研究所を訪問し、健康・環境面での安全審査の緩和で産業振興を目指すモンサント社員と言葉を交わしている場面も放送された。1992年、父ブッシュ政権のクエール副大統領は、アメリカはバイオテクノロジー分野で世界のトップを走り続け、前年の実績40億ドルから2000年までに500億ドルの産業への成長を予測して、不必要な規制の撤廃を呼びかけた。

3.遺伝子組換えウシ成長ホルモン(rBGH)をめぐる問題
 成長ホルモンは脳の下側にある下垂体と呼ぶ小さな器官から分泌される、ごく少量で有効な生理活性物質である。天然由来のものを大量には入手するのは不可能なので、バイオテクノロジーを用いて人口的に作ったものがrBGHである。rは組換え技術で作ったもの(recombinant)のr、Bはウシ(bovine)、GHは成長ホルモン(Growth Hormone)から来ている。乳牛に注射すると乳量が20%増えると言われる。そうして得られた牛乳の安全性に疑問が持たれたが、モンサントはPOSILACの商品名で1994年に酪農家向け販売を開始した。ところが、モンサントがFDAに認可申請のためにカナダの実験用牛群を使って1984年に行った試験研究のデータが、FDA上層部に改ざんされた疑いが発覚した。FDAの獣医師リチャード・バローズは、乳腺炎症や生殖機能に問題を起こす乳腺炎のような疾患の調査の不備を理由に再調査を指示して認可を遅延させ、審査メンバーから外された。また、モンサントがFDAに提出した大量の資料が盗まれて、がん予防連合代表のサムエル・エプスタインに送られた。エプスタインは1990年に雑誌ミルクウィードに、rBGHを投与された乳牛に卵巣肥大や生殖機能障害を起こしたというデータを掲載した。rBGH投与で乳腺炎発症率が高まり、牛乳中に膿みや治療用に投与された抗生物質の混入や、種々のがん発症との関係が報告されているインシュリン様成長因子(IGF-1)の増加もあるという。(注:この件は遺伝子組換え操作そのものより、人間の欲望で、乳牛体内の成長ホルモン濃度を非生理的レベルまで高めた影響によると考えられる)。1998年に厚生省の学者達の内部告発で、モンサントの贈賄容疑が発覚したカナダと、ヨーロッパではrBGHは認可されていない。

4.モンサントとアメリカ政権との人事交流と癒着
 ミルクウィード誌編集主幹ビート・ハーディンは、モンサントが政権内部と強いコネを持つ強大な企業で、政権内部にバイオテクノロジーが極めて重要で、乳牛や人体の安全に多少の犠牲があっても突き進む考えが主流であったという。政権とモンサントの間には隠語的に回転ドアと呼ばれる政府機関と産業部門の人事交流が盛んに行われていた。前国防長官ドナルド・ラムズフェルドは元モンサントの子会社のCEO、元通商代表ミッキー・カンターはモンサントの役員へ、最高裁トーマス判事は元モンサント弁護士だったように、ホワイトハウス、FDA、環境保護庁(EPA)とモンサントの間で盛んに人事交流が行われており、マイケル・テイラーのように何度も往復している人物もあるという。
 弁護士スチーブン・ドラッカーはNPO連合体を代表してFDAを提訴し、遺伝子組換え食品に関する内部資料を開示させたところ、FDAが安全性に疑義を唱えた内部科学者達の警告を無視して、1992年から問題ないとの立場と取り続けていたことが分かった。バイオテクノロジー部門責任者だったマリアンスキーはロバンの質問に、異なる研究者が大勢いたと答えていた。

5.遺伝子組換え食品の安全性への警鐘
 アメリカでは1989年に栄養補助食品トリプトファンによる中毒事件が起こった。これは好酸球増多・筋肉痛症候群 (EMS)と呼ばれ、37人が死亡し、1000人以上に障害が残った。使われたトリプトファンは、日本の昭和電工が遺伝子組換えを施した細菌に生産させたもので、目的のトリプトファン以外に生じた予期せぬごく少量の不純物が除去されていなかったためではないかと考えられている。マリアンスキーはこの件に関して、遺伝子組換えによる可能性を排除しなかった。
 遺伝子組換えにより直接的疑義を投じたのは、イギリスアバディーンのロウエット研究所の高名な研究者アーパド・パスタイの研究である。彼はイギリス政府の要請で、遺伝子組換えを施したジャガイモの安全性を調べた。当時のイギリスは遺伝子組換え大豆の輸入開始を間近に控えており、安全性に関して有望な結果が期待されていた。遺伝子組換えでジャガイモに挿入された遺伝子は、ヒトには無害でアブラムシに殺虫効果のある植物タンパク質レクチンであった。レクチン遺伝子やレクチンタンパク質を食べたラットには異常が見られなかったが、遺伝子組換えジャガイモを食べたラットでは、消化管内の細胞の増殖の活発化と、免疫システムの異常が見られた。遺伝子組換え技術に問題ありと考えたパスタイは、テレビインタービューでイギリス国民をモルモット代わりに使うのは極めて不当と発言して関係者の激怒を招き、研究チームは解散、パスタイは解雇された。研究チームの一員が耳にした情報によると、アメリカから圧力を受けた当時のブレア首相から研究所に電話が入ったとのことである。(注:この件は遺伝子組換え食品反対派にしばしば引用される。実験結果が本当であれば大問題であるが、科学の世界で重要な結果の再現性について検証が行われていないのは残念なことである。いずれにせよ、科学の世界に政治権力の大きな介入が行われたのである)。

PART II に続く)
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3 コメント

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未知への欲求? (マリモ)
2008-06-19 21:44:56

はじめまして。
アメリカの先進科学には本当に驚かされることが多いです。
一体、私たちが知ったことは何年前から手がけられていたことなのでしょう?という程の進化の差を感じます。
まるで宇宙との時間差のようにも思えます。

食料の殆どを輸入に頼っている 日本の国 からしても
重要な問題であることは間違いない。
だけれども一般消費者は、売りに出されているものは、ただ信じて買って食る。
っと言うことを忘れないでほしいです。
自分たちが毎日でも食べれない不安なものは、市場に出さないべきです。


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Unknown (Unknown)
2008-06-19 22:04:36
ちなみに…
私的に、ですが。こんな発明者だったら信用できます
参考になれば…と
http://minnypharma.blog87.fc2.com/blog-entry-95.html
返信する
コメント御礼 (coccolith)
2008-06-21 23:30:38
コメントをお寄せいただき有難うございます。次の記事の作成に忙殺されてレスポンスが遅れてしまいました。敵もさるものです。疑わしいものは買わない、食べない、使わない、倫理感の欠如した会社には投資しないで行きましょう。
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