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本庶 佑さん 国際討論番組「パンデミックは収束するのか - 世界の専門家が大激論 - 」で大いに語る

2020-05-28 19:01:19 | Weblog
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はじめに
4月11日の「緊急対談 パンデミックが変える世界~海外知性が語る展望~」を含む3本のパンデミックに関する国際討論番組が放送されました。これらはいずれも音声は原語で、発言内容は詳しく日本語字幕で表示されたので、聞き取りに難のある筆者は大助かりでした。5月17日に初回放送された「パンデミックは収束するのか - 世界の専門家が大激論」にも大いに期待しました。ところが、現音声なしで同時通訳された外国人専門家達の発言は、理解しやすい文脈で語られたようには聞こえず、フラストレーションが募りました。しかし、2018年ノーベル医学・生理学賞を受賞、4月に新型コロナウイルス対策に緊急提言を行い注目された本庶 佑さん(京都大学特別教授)は、傑出したプレゼンテーションをされました。ここでは本庶さんの発言を纏めてみました。

も く じ
1.各国の感染者数増減の動向に関連して、日本の死亡者推計について
2.ウイルス感染がもたらす病態について
3.4月の緊急提言で推奨した治療薬としてのアビガンやアクテムラの使用について
4.変異していく特性のあるウイルスに対するワクチン療法の効果について
5.若しワクチンがなかなか見いだせない場合はどうしていったらいいか?
6.パンデミックに対する国際協調について
7.パンデミック下の政府の役割と、科学者は何ができるのかいついて
8.科学はウイルスをどう乗り越えていくべきか、そして今後の世界の展望について

1.各国の感染者数増減の動向に関連して、日本の死亡者推計について
「実際に下がってきていることは間違いないと、ただ、この絶対数ですね、感染者報告の絶対数に関しては、ご承知のように日本でPCRが十分に行われていない。それから統計データが正確に集計されているかどうか非常に疑問であるということで、この感染者の数に関してはあまり信頼できなくて、一桁、場合によっては二桁ちがうかも知れない。ただ私は死亡者というのはあまりごまかしが効かない数なので、特別のケースを除いて一般的に国際比較ができる。そういう点では日本は奇跡的に、大きなパンデミックを少ない犠牲者で乗り切ることができる可能性がある。これは非常に、現在の100万人当たりの死亡率というものがでておりますけれど、大体5くらいの数なのですね。アメリカは既に242、それからヨーロッパ諸国ではやはり数100というのがありますから、それを比べるとまあ二桁、死亡者、人口当たりの死亡者が少ないということは、大変驚くべきことであり、これは多分今後大きな議論が巻き起こる一つの関心事であると思います」

2.ウイルス感染がもたらす病態について
「話をこのウイルスの非常にユニークな状態について、私の考えをお話したいと思います。まず、このウイルスが示している病態の非常に多くが、生体側の免疫反応によります。それが人によって非常に反応性が違う。これが非常に重症になる患者さんと、非常に軽症でケロットしている患者さんとに大きく分かれます。それから、この重症化した場合の特色としては、先ほど話が出たサイトカインが非常に上がってくるフェイズ(筆者注釈:後述されるサイトカインストームに相当)がある。それは血中濃度を調べることによってきちっとモニターできるのですが、それと同時に非常にこれが不思議なところですが、リンパ球の数がだっと下がってくるという。白血球はそんなに下がらないのですが、リンフォペニア(画面注:免疫を担うリンパ球の数が異常に減少している状態)という現象が起きる。これがどうして起きるかということはまだよく分からない。このウイルスの特徴はスローグローイングである。従って免疫反応がだんだんだんだん加速して行って、最後に非常にディスレギュレーテッド(画面注:調節できない)な状態になる。ということが病態を複雑にしているのではないかと私は考えています。

3.4月の緊急提言で推奨した治療薬としてのアビガンやアクテムラの使用について
「感染症の最大の脅威は、死亡率が普通のインフルエンザに比べて異常に高いということです。ですから基本的に死亡率を低くするということが最大の関心事であります。感染自身はまあ何パーセントか知りませんが、少なくとも1/3ぐらいはほとんど症状がないくらいで済んでいる。ですからそこの点を考えると、重症化をしない、また重症化に入る直前のところで、サイトカインストームをブロックできる可能性がある、これはその時点で中国から報告をされていたわけですから、それを我が国で観察研究としていち早く取り上げるべきだ、ということを申し上げたわけでありまして、むちゃなことを言ったとは思っていません。
今議論されているのは既にある薬剤を使って何ができるかというで、これはどんどんやるべきです。ただ、このウイルスに対する非常に特異的な作用というのは、免疫系に対するものです。それで私は、これはあんまり強く言っていませんが、私が開発して抗がん剤としてのニボルマブ(画面表示:製品名 オブジーボ「がん免疫療法の治療薬)が、実は感染症にも非常によく効くことが、動物実験では確かめられております。ただ、これをCOVID19(筆者注釈:現在のパンデミックを引き起こしている病原ウイルスの呼称)に使うのがベストかどうかは、価格の面で問題がありますが、免疫力を高めることによって、私はこのウイルスに対する感染を非常に軽症ですますことができて、全快する可能性が非常に高いものと思っております。ですから現時点では、新しい発想に基づいた開発の提案はまだ少ないのですが、これからゆっくりそういうことも、並行して進めていくべきだと考えております」

4.変異していく特性のるウイルスに対するワクチン療法の効果について
「率直に言いますと、私はRNAウイルスに対するワクチンというのは、それほど楽観的にはなれません。その理由は、明らかにHIV(筆者注釈:エイズの病原ウイルスの略称)に関しては、膨大な投資と10年以上にわたる歳月が費やされていますが未だにできていません。また、インフルエンザのワクチンは、本当に効いていると信じている人は極めて少ない、非常に楽観的な人々だと思います。しかしインフルエンザワクチンを毎年打つことを私は意味があると思っています。先ほど少し死亡率の数字に問題があるという話がありましたが、しかしどんなに問題があっても二桁違うことはありません。アメリカ、ヨーロッパと日本が二桁の死亡率の差を何に求めるのか、私はこれがベーシックなイミューンパワー(免疫力)が東アジアでは高かった、私のポイントはですね、これまでワクチンというのは特異的免疫反応を目指して、ある特定のウイルスに向けたものを作るという考えでしたが、必ずしもそれが正しいとは限りません。一般の免疫力を上げる、例えばがんに対するPD-1ブロック(筆者注釈:がん細胞が活性化された免疫細胞上にあるPD-1に結合して活性を阻止するのをブロックして、活性を保つこと)はまさにそれをやったわけです。従って全てのがんに対して効くわけです。こういう仕組みを私は感染症にも十分応用できるかなと思っています。で、PD-1ブロックを使って全ての感染症に対処するということも夢ではないと思っております」

5.若しワクチンがなかなか見いだせない場合はどうしていったらいいか?
「私は基本的にはワクチンも含めてあらゆる努力をすべきだと思います。ただ、私自身はあまり楽観的ではないということを申し上げました。ただ、ワクチンということに皆さんが関心を持つことによって、世にはびこっているワクチン・ヘジテーション(ワクチンの有効性・安全性に疑いを持つ人が接種を控える動き)というこの悪い変な活動を止めさせて、全ての人が有効なワクチンを、税金を払うと同じように、社会防衛の一環として受ける。むしろ義務化すべきという方向に各国が動いてくれることが、まず第一に私の希望です。第二に、ワクチンがもし成功しなかった場合に最も重要なことは、死ぬことを少なくすることです。死亡率が0.2%レベルであれば、季節インフルエンザと変わりがないレベルですから、徹底してこの免疫異常の問題点を解決することによって、新しい薬剤なり治療法を見出して、死亡率を下げることによって、私は自然にいわゆる集団免疫が構築されるというふうに考えています」

6.パンデミックに対する国際協調について
本庶「私は、国際協調は非常に重要なことなのでたくさんやる、但し一つに絞るとか二つに絞るとかいう形の国際協調ではなくて、十とかたくさんの種類をやってみていただきたい。というのはどのワクチンが成功するかというのは、これは医学というものはやってみないとわからない。月にロケットを打ち上げるのとは大分意味が違うので、そういった形が必要なのです。それで途上国に対する支援に関しては、明らかに先進国で儲けて途上国では無料で放出するとか、そういう形での国際協調がまた求められる。そういうことができないと、多分オリンピックは開催できないでしょう」

7.パンデミック下の政府の役割と、科学者は何ができるのかについて
本庶「日本は極めて特殊な例で、これほどサイエンスと政治がうまく行ってなくて、しかも政府の対応が大変手遅れで失敗をした、にも拘らずなぜこれだけ死亡者が少ないのか、私は本当に不思議に思っています。ただ、これを国レベルでなくて地方の自治レベルで見ますと、幾つかの県、道、府に於いてきちっとしたアドバイザーを組んで、こうしてしっかりとしたプランを持って進行しているところもあります。ですから国全体のレベルと、いわゆる地方自治レベルでの体制との差ということも大変興味深い。しかし、日本が今後進んでいく方向としては、もっとサイエンティストの意見を重視して、しかも幅広いレベルでのサイエンティストが、意見を政治に直結できるような仕組みが重要だと思います」

8.科学はウイルスをどう乗り越えていくべきか、そして今後の世界の展望について
本庶「まずこれは明らかに二つのフェイズです。ワクチンができる、或いは治療法が素晴らしいものができて、これが恐れる状況でなくなった場合とそれまで。それまでは明らかに今我々が公衆衛生学的な手段でもって感染を最小限に抑える、そしてウイルスと付き合いながら社会生活を維持できる、こういうふうな社会システムを変えていくこと、特に日本に於いては全ての書類にハンコがいるというふうな行政を明らかに変えていかなければいけない。それから在宅勤務、それから通勤時間のラッシュアワー、こういったものを変えていかない限り、ウイルスとは付き合って行けないですね。一旦ある程度の征服ができた場合、それがワクチンなのか治療法なのか、或いは両者かも知れません。またかなり違った世界が見えてくるのではないかと考えております。基本的にこのパンデミックによって多くの政治家、国民はサイエンスの価値というものを改めて感じてくれること。それから、医学というものがまだまだ未発達で、これから長い投資と研究者の努力ということが欠かせない。それによって初めて新しい展望が開けるということに気が付いてくれることを期待しております」

追:本番組後半全体の記録は、詳報:パンデミックは収束するのか - 世界の専門家画題激論 後半 –でご覧になれます。


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