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聖教新聞 〈文化〉 広域避難者と自治体 2016年10月20日

2016年10月25日 21時41分52秒 | コラム・ルポ

聖教新聞 〈文化〉 広域避難者と自治体 2016年10月20日

借上住宅打ち切りで奪われる暮らし
当事者意識を持った支援を
吉田千亜
 
埼玉・川越市では避難者交流会を開催。互いが知り合う機会の場に(2014年10月)=筆者提供 
埼玉・川越市では避難者交流会を開催。互いが知り合う機会の場に(2014年10月)=筆者提供

 

唯一の経済支援が喪失
 2017年3月末をもって、避難指示区域外避難者(いわゆる自主避難者)への借上住宅の無償供与が打ち切られる。対象世帯は1万2436世帯。昨年6月に福島県が発表し、約1年4カ月が経過した。
 この打ち切りにより、多くの自主避難者が、「帰還」あるいは「引っ越し」そして「家賃負担」を迫られている。5年の避難生活で、何とか築いてきたものが、再び奪われる。「選択の強要」であり「再喪失を迫られた」ともいえる。
 今回打ち切りの対象になる自主避難者は、福島県中通りやいわき市等からの避難者が多い。
 原発事故当時、十分な情報もない中、多くが「子どもを被ばくから守りたい」という思いで避難をした。あるいは、もともと一般公衆被ばく限度であった年間「1ミリシーベルト」が20倍の「20ミリシーベルト」まで安全であるとされ、「それは許容できない」と判断して避難をした人たちだ。
 誤解されがちだが、自主避難者には東京電力からの定期的な賠償はない。借上住宅は、いわば唯一の経済支援だった。避難生活を維持するため、母子は避難し、夫は仕事のために福島県に残ったというケースも多い。
 二重生活の負担を、貯金を切り崩したり、生命保険などを解約した返戻金でまかなったり、見ず知らずの土地で夜遅くまで働いたりと、この5年以上の避難生活のほとんどを自力でやり過ごしてきた。
 そのため、経済的に逼迫している世帯も多い。打ち切りの発表直後から、全国で国や福島県に対し「打ち切りの撤回」「長期無償延長」が求められてきたが、その声はいまだ届いていない。
 福島県は、借上住宅打ち切りに際し、15年12月、独自の支援施策を打ち出した。公営住宅の確保や民間賃貸住宅の家賃補助等が掲げられたが、その支援施策の対象者が極めて限定的であった。今年8月には、施策の見直しを発表したが、それでもまだ、支援施策の枠組みからこぼれてしまう避難者がいる。
 今年6月に発表された「住まいに関する意向調査」では、7067世帯が回答し、そのうち県内避難世帯の56%が、県外避難世帯の78%が来年4月以降の住宅が未定だと回答している。
 
住民でも避難者でもない存在

 その状況の中、まさに今、問われているのが広域避難における全国の自治体の対応である。
 今回の原発事故は、47都道府県に避難者が散っていった前例のない事態だ。かつ、長期的避難を余儀なくされている。いわば「住民とは誰か」ということが問われている。
 さらに、「避難者とは誰か」という定義も曖昧なままだ。福島県の担当者は「帰る意思のある人」と話すが、事故収束が加速化される政府方針の中で、それが「いつまで」という時期も明確ではない。自主避難者は、いわば「住民」でも「避難者」でもない存在として扱われている。
 この問題は、原発事故直後からあった。当時、母子避難をしたある母親は、「避難のことで分からないことを問い合わせしたら、たらいまわしにされ、電話代が7万円になった」と話していた。
 それは、単純に「知りたい情報の所在が分からない」という問題ではなく、「どこが、私を助けてくれるのかが分からない」という問題だった。言い換えれば「自主避難者を救済する責任主体が曖昧」なのだ。
 本来、原発事故の責任主体は国と東京電力にある。しかし、そうも言っていられない。「自主避難者の借上住宅を打ち切る」とされた17年3月は、もう半年後に迫った。受け入れ自治体側は、これまで「東電と国の問題」あるいは「福島県の問題」というところで当事者意識を欠いていたのではないだろうか。

独自に財源確保する県も

 ひとたび原発事故が起これば、全国に避難者が散っていく。住民票は住んでいた自治体に残したまま、「学校は、行政サービスは、医療費は」と、多種多様な問題が発生する。今、直面している借上住宅の打ち切り問題も、その延長線上にある。避難者が住まいを追われたら、誰が助けるのか。
 もっとも近くで避難者に接し、抱えている問題を熟知している受け入れ自治体が、半年後に控えた自主避難者の借上住宅打ち切りまで、どう動くのかが注目されている。しかし、基礎自治体レベルでは、いまだこの問題を「知らない」というところもある。
 埼玉県は“自主避難者であれば誰でも応募できる公営住宅”の確保のため、10月議会で県の条例改正を検討し、14日可決した。北海道でも、7日、知事は予算措置に踏み込んだ発言をしている。新潟県や秋田県では独自に財源を確保し、家賃補助や引っ越し費用補助を決定済みだ。
 福岡県に伺ったとき、ある自主避難中の母親からこんな話を聞いた。
 「私たちは、木のようなもので、土がないと立て(育た)ない。土が合えばいいけれど、土が合わなくても立つことができない。避難先の土が、私たちに合えば、いいんだよね。でも、合わないこともあるから、つらいよね。子どもも、同じだよね」
 「土」という例えは、もちろん「土地」でもあるだろうが、「人」や「地域」「自治体」ともいえるだろう。
 木が枝を張り、葉を茂らせるための「土」とは、「あなたは、ここにいていいんだよ」と認めてもらえる安心ではないだろうか。
 こうした避難者の思いを反映した取り組みを全国の自治体に願ってやまない。
 (フリーライター)

 よしだ・ちあ 出版社勤務を経てフリーライターに。東日本大震災以降、放射能汚染と向き合う母親たちの取材を続ける。原発事故と母親を取材した季刊誌「ママレボ」、埼玉県内に避難する人たちへの情報誌「福玉便り」等の編集・執筆に携わる。著書に『ルポ母子避難――消されゆく原発事故被害者』、『原発避難白書』(分担執筆)がある。


 
自分は自主避難者に対して大きな誤解と偏見を持っていたことを、この記事を読んで知りました。 
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