映画「君の名は。」が大ヒットを飛ばしている。映画動員ランキングは3週連続1位。9月12日時点で興行収入62億円を突破し、100億円超えも視野に入ってきた。

数多くある人気の理由の中でも特筆されるのは、新海誠監督の持ち味ともいえる緻密な背景画である。誰もが知っている日常の風景が、新海監督の手にかかると、見ているだけで切なくなるような特別な風景に変貌する。実際に撮影した風景をベースとしつつ、「記憶の中にある思い出の風景」を描いているのだという。

「電車の走っている風景が好き」

新海監督の映画には、「鉄道のある風景」がしばしば登場する。「雲のむこう、約束の場所」(2004年)では、JR津軽線(青森―三厩間)が舞台の一つ。劇中で「南蓬田駅」として登場する蟹田駅は、本物以上に懐かしさにあふれる。「秒速5センチメートル」(2007年)は新宿駅、豪徳寺駅といった都会の駅やJR両毛線・岩舟駅が登場する。これらの映画では、列車内の吊り革、手すり、網棚といったごく普通の設備が、丹念に描き込まれることで旅情を誘う。

「君の名は。」は、山深い田舎町に暮らす女子高校生と、東京で暮らす男子高校生が入れ替わってしまうというストーリー。男子高校生の体を借りて初めて新宿駅の風景が眼に飛び込んできた女子高生には、普段は美しいとはいえない新宿駅が、朝の太陽の光を浴びてきらきらと輝いて見える。本物以上に緻密な背景画には登場人物の心情を表すという狙いがあるようだ。映画ではほかにも数多くの鉄道風景が印象的に描かれる。

新海監督は東洋経済オンライン8月26日付記事(「君の名は。」が1分たりとも退屈させない秘密)で自身と鉄道の関係について語っている。「実は(鉄道は)あまり詳しくない。撮り鉄でも乗り鉄でもない」と言いつつも、「電車が走っている風景は好きです。もっと言えば、電車のある風景にキャラクターを立たせるのが好きなんです」と明かす。

女子高生は山深い田舎町に住んでいる©2016「君の名は。」製作委員会

感動的な結末の余韻にひたりながら映画のエンドロールを見ていると、「ジェイアール東日本企画」の名前がそこにあった。東宝、KADOKAWA、アミューズ、ローソンHMVエンタテイメントなどとともにこの映画の製作委員会に名を連ねている。

ジェイアール東日本企画は、JR東日本のグループの広告代理店。2015年度の売上高は1090億円で、国内では電通、博報堂DYホールディングス、アサツー・ディ・ケイに続く第4位の座を占める。

駅のポスターや列車の中吊りといった交通広告を得意とするが、他の広告代理店と同様、映画製作への参加も積極的だ。最近でも「ふしぎな岬の物語」(2014年)、「ルパン三世」(2014年)、「映画妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!」(2014年)など幅広いジャンルの映画製作に参加している。

以前から「新海アニメ」に注目していた

近年の国内における映画製作は、製作委員会方式をとるのが一般的だ。製作委員会に参加した会社が映画の製作費を分担し、興行成績に応じて配当をもらう。

映画への出資は配当だけが目的ではない。映画に関する権利関係を得るのも目的の一つだ。映画に出資することで、テレビ局はテレビ放映権、映像制作会社はパッケージ化権、ゲーム会社はゲーム化権といった権利を得る。

こうした権利関係も含め、「君の名は。」に出資した狙いについて、ジェイアール東日本企画に聞いてみた。

同社は、新海監督の「秒速5センチメートル」「言の葉の庭」の映画そのものに加え、その中で描かれる駅や鉄道のカットの緻密さや、美しい色合いに以前から注目していたという。今回、東宝から同社へのオファーがあった際には「社内で作品内容、ビジネススキーム、タイアップの可能性等を考慮した結果、非常に魅力的かつ可能性の高い作品であると感じた」ことで出資に至ったようだ。

「君の名は。」がこれだけヒットしているのであれば、ジェイアール東日本企画に入る配当収入も多いに違いない。ただし、映画は当たり外れがある水モノであり、出資を決める時点でどれだけ配当を得られるか確証はない。それでも出資を決めたのは、配当以外の目的「映画のタイアップ展開にあった」と、同社は説明する。

この後、事態は急展開©2016「君の名は。」製作委員会

たとえばDVDレンタル大手のゲオが、この夏に実施した「映画をもっと楽しもう!」キャンペーン。映画の声の出演者がタイアップCMに登場し、映画鑑賞の面白さを語った。「ゲオ様にも大変好評で、成果の上がったタイアップだったと伺っています」(ジェイアール東日本企画)。

親会社のJR東日本とは、同社が展開する、東京の街を楽しむ「FUN!TOKYO!」キャンペーンとタイアップして、映画の劇中シーンに「FUN!TOKYO!」のポスターを登場させたほか、映画の舞台となった新宿、代々木など6駅をめぐるモバイルスタンプラリーを実施した。

さらに、新型山手線車両「E235系」をジャックし、「君の名は。」の広告とタイアップ企業の広告で電車を埋め尽くす展開を行なった。「ファン垂涎の企画として、SNSでも話題になりました」。

当初は、鉄道のシーンが多いからジェイアール東日本企画が出資したのかと思われたが、練り込んだタイアップ展開が行なわれたようだ。成功すればタイアップによる利益のほか、映画の知名度向上にもつながる。広告代理店ならではの相乗効果の高いビジネスといえる。

JR東海の列車も活躍

ところで、「君の名は。」には、JR東海エリアの鉄道シーンも多く登場する。東京に住む男子高校生や友人たちが東海道新幹線に乗って、田舎町に住む女子高生に会いに行く。名古屋駅で新幹線から乗り換え、JR東海の在来線エリアをめぐる。特急「ワイドビューひだ」などの列車が登場する。

JR東海はこの映画の制作協力会社には名を連ねていない。実は、映画の中で現実の東海道新幹線ではありえないシーンが登場する。映画の評価を左右するほどではないが、なまじ絵がリアルに描かれているだけに、かえって違和感が際立つ。映画の制作スタッフとJR東海の間でコミュニケーションが取れていればこうした描写は避けられたはず。JR東海にとっても自社エリアの観光貢献につながる。今後、映画と鉄道会社の距離がもっと近くなれば、お互いにとっていいことに違いない。


映画「君の名は。」かぁ。

感動する映画は、映画館だと見に行きづらいなぁ。

この頃、涙腺が弱いから、いい歳をしたオッサンが…ねぇ。

それにしても気になるのは、『東海道新幹線でのありえないシーン』とかいうもの。

う~む、どうしても気になる気になる。