近年、話題になっている子どもの貧困。厚生労働省の調査では、平均所得の半分以下で生活する子ども(17歳以下)の割合は16.3%(平成24年)。実に6人に1人が貧困状態にあるという。

 そんな子どもたちを救う場として今、注目されているのが「子ども食堂」だ。夜ご飯をひとりで食べなければならない子どもや助けを必要としている親子ら向けて、民家や公共施設が開放している食堂で、数百円程度で食事をすることができる。実際に目で見て感じることの少ない貧困だが、その現実はどうなっているのか。豊島区にある子ども食堂を取材した。

 夕方5時を過ぎた頃。住宅街の一角にある一軒家の玄関は、訪れた多くの人たちの靴で、文字通りあふれかえっていた。家の中からは小学校低学年くらいの子どもたちのはしゃぎ声が聞こえ、バタバタと走り回る音も絶えず聞こえる。子どもたちが力いっぱい遊びまわれるのは、一軒家ならではの特権だろう。一方で、キッチンには大学生から60代まで、さまざまな世代のスタッフが忙しそうに、だが楽しそうに夕食作りに奔走していた。

 東京都豊島区にある「要町あさやけ子ども食堂」。ここでは月2回、民家を食堂として開放している。一食300円で栄養バランスのとれた食事を食べられるとあって、開催すると毎回、この盛況ぶりだという。利用する親子やボランティアスタッフ、さらには子ども食堂の活動を見学に来たという人で、4LDKの家はすれ違うのも大変なほどににぎわっていた。

 あさやけ子ども食堂は、この家の家主でもある山田和夫さんが、豊島区で学習支援などの活動を行う「NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク(以下、ワクワクネット)」の理事長・栗林知絵子さんらとともに立ち上げたもの。きっかけは、山田さんが6年前に奥さんを亡くし、さらに東日本大震災の影響で息子さん夫婦が引っ越してしまったことだった。広い一軒家にひとりになってしまった山田さんは、この家で何かできることがあればいい、と栗林さんと話していたという。そんな時に大田区で子ども食堂の活動をしている人がいる、という話を聞きけ、現場を見学した山田さんは、栗林さんらに「子ども食堂をぜひやりたい」と相談したことで、立ち上げるに至った。

 あさやけ子ども食堂がここまで盛況な背景には、先のワクワクネットが行っている「池袋本町プレーパーク」や「無料学習支援」といった活動とのつながりが大きいだろう。プレーパークは子どもたちに向けて遊び場を提供する事業で、午前中は保育園に入ることができなかった母子らが、午後は学校帰りの子どもたちが、遊び場として利用する場となっている。一方、無料学習支援は子どもたちが学校での宿題をすませたり、分からないところをボランティアスタッフなどに尋ねることができる場。勉強の悩みを解決するほか、子どもたちの居場所としての役割も果たしている。

 プレーパークや学習支援に携わる栗林さんは、その延長として子ども食堂を紹介している。プレーパークの利用者にとっては、顔なじみの栗林さんからの紹介なので気軽に子ども食堂も利用することができた。そこに地域の人の口コミも相まって、子ども食堂は多くの人が集う場になった。

 そんな大人気のあさやけ子ども食堂、どんな人が利用しているのだろうか。

「今多いのは、乳幼児〜小学校低学年の子どもたちと、そのお母さん。あとはシングルマザーの方もいますね。シングルマザーの方は、シングルならではの大変さなんかをお互いに話し合えるのが、いい気分転換にもなっているようです。なかにはお父さんが仕事でいつも遅いので『母子ふたりでは食事が寂しいので』といった理由で利用する人もいます」(栗林さん)

 食堂のにぎやかで明るい雰囲気は「貧困」のイメージとは程遠い。食堂に来る母子も、母親同士や、地域とのつながりを求めてやって来ている印象だ。だが、一見それとわからなくとも、助けを必要としている人は確実にいるという。子ども食堂をきっかけに仲良くなったとある母親から、栗林さんはメールでこんな相談を受けたことがある。

「とあるお母さんは、子どもが高校に入る際、制服代や教科書代、体操着もろもろで14万円学校に支払わないといけなかったんですが、それがなくて区の貸し付けを受けることになったんです。ただ、貸し付けを受けるにあたって、区役所から『お子さんを連れて来てください』と言われたそうで。そのお母さんは『確かにうちはお金がないからとは言っていたけど、子どもと一緒に区役所でお金を貸してください、というのはちょっと抵抗があるんです』と悩んでいました」(栗林さん)

 この悩みも、子ども食堂で「顔なじみ」になったことで打ち明けることができたものだ。そして栗林さんとともに行政と話し合うことで、この悩みも解決に向かったという。

 栗林さんは、あさやけ子ども食堂の意義についてこう話す。

「私たちが地域でできることというのは、そこまで問題が深刻になっていない、でもいつ深刻になってもおかしくないような状態の、『狭間』の親子。そうした親子と、プレーパークや子ども食堂で顔なじみになっておくことで、いざというときにサポートができる体制をつくっておくことは、(貧困対策として)かなり有効なんじゃないかと思うんです」

 貧困の「狭間」にある人々を、地域のつながりで助ける。あさやけ子ども食堂にはそんな役割もあるようだ。一方で、貧困から救うというと大げさに聞こえるが、実は私たちが簡単にできる支援もあると栗林さんは話す。

「例えば、知り合いのお母さんたちには『貧困は見えなくとも、母子家庭は周りに多いよね』と話したりしています。そういった母子家庭の親子に子ども食堂の活動を紹介することが、助けになることがあるかもしれない。それから『貧困は見えないけど、周りに同じクラスになりたくないなって子はいない? あのお母さんとは関わりたくないなっていうお母さんはいない?』って聞いたりするんです。学校や社会で『困った人だね』って言われている人は、実はその人自身が、何かで困っていることも多い。そういう人たちを私たちにつないでくれることによって、地域でその親子を見守るっていうことができるんですよね」

 実際、厚労省の調査では、子どもがいる現役世帯の貧困率は15.1%で、そのうち半数以上の54.6%がひとり親の世帯だった。ひとり親世帯にこういった地域の活動を知らせるだけでも、いざというときに救いになることはあるかもしれない。

 一方で、子ども食堂は多くの人に「貧困」への関心を持たせるきっかけにもなった。実際、栗林さんの身近にいる女性は、こんなふうに考え方を変えた。

「あるお母さんの話なんですが、彼女の家には毎週日曜の20時になると家に遊びにくる子がいて。息子さんの友達なんですが、いつも遅い時間に遊びに来るので『ご飯食べてからおいで』と言って突き返していたそうです。そうしたら、今度はその子がカップラーメンを持ってくるようになって『おばちゃんお湯ちょうだい』と。彼女はこれまで、すごく嫌な顔をして、お湯を入れて渡していたんだそうです。それが、子ども食堂や貧困の話を知ってから、そういう子たちには何か、彼らの自己責任ではない理由があるのかもしれないと思うようになった。彼らを放っておくことが社会的損失になるかもしれないとも、考えるようになった。そのお母さんは『今度その子が来た時には、対応が変わると思う』と話していました」(栗林さん)

 子ども食堂の活動そのものが人を助けることもあれば、貧困を知ること、そして貧困が必ずしも自己責任の問題ではないことを知るだけでも、地域のまなざしは変わっていく。そしてそれがひいては、地域で困っている人たちを支えることになっていくかもしれない。

 栗林さんは、こども食堂を「困っている人だけでなく、普通の人も気軽に利用できる場所」にしていきたいと話す。

「困っている、困っていないに関わらず多くの子どもたちが、子ども食堂を利用することで『僕は、私は、地域に大事にされて育ったんだ』っていう体験をしてほしい。そうした経験が次の社会をつくっていくのかなと思っています」(栗林さん)

 貧困問題をきっかけに注目され始めた子ども食堂。だがこれが、地域で親子を見守る温かい社会をつくるきっかけにもなるかもしれない。(ライター・横田 泉)


自分も関心がある子どもの貧困。

毎月、わずかながら支援団体に寄付をしているんだけど、もっと他に何か、自分にやれることはないのかなぁ。