環境色彩デザインを考える人へ

長年の経験と実践の中から、色彩デザインに役立つ情報やアイデアを紹介して行きます。

色合わせの許容範囲

2011-02-14 13:43:11 | 色彩指定のポイント
実際に使用する建材での色確認。ここでの検討が最終的な決定色の選定となります。指定した色見本は、下の写真にあるような45×45サイズに切り出して短冊状に並べておくと、他の材料(サッシや床材など)との比較・検証が行いやすく、便利です。小さな色票では正確な比較・判定がしにくいためです。

塗装色見本として提示した色票はケント紙にエマルジョンペイントを塗装したものですから、当然タイルや吹付け等とは質感や見え方が異なります。これは団地の改修の際に行った吹付け見本の確認の模様ですが、指定した色票に対して若干赤みが足りないかなという印象を持ちました。



指定色通りに再現されていない場合、どのように判定するかは難しい部分です。単色で使用する場合はこの程度の誤差は殆ど問題になりませんが、複数色を組み合わせて使用する場合、部分的な色相のズレが不調和な印象を与える恐れがあります。この時、やや不具合があるなと感じたのはアクセントカラーの部分でした。そのため、他の部位(基調色)と合わせてみて、色相のズレが気にならないかという点に注視して、検証を行いました。

【改修後】


上の写真は改修後の様子です。住棟数の多い、大規模な団地でしたので、基調色相はこの5Y系の他にも10YR系・5YR系の3色相を展開しています。この住棟に使用した5Y系は3つの色相の中では最も黄味よりの色相ですから、多少赤味が足りない分には問題ない、という判断をしました。これが逆の場合(赤味に寄りすぎている場合)は、隣の色相(10YR)との差が曖昧になってしまうため、再調整を行っていたと思います。

【改修前】


ちなみに、上は改修前の様子。5PB 6.5/0.5程度の色でした。ごく低彩度の青みがかったグレイですが、北側が日に影ってしまうととても暗く冷たい雰囲気が感じられました。各所で老朽化も目立っていたため、内部もリフォームして若い子育て世代にも入居してもらうようにしたい、という施主の要望から、暖色系の低彩度色を基調としながら形態に併せて適度な分節化を図り、明るく軽快な印象が感じられるような配色を検討しました。

施工直前の色彩選定は、指定した色見本通りに仕上がっているかを確認する作業ですが、どうしても微妙なズレが生じることは避けられません。その際は、他の部位との関係や、屋外で・大面積で出現する、ということも加味し、ある程度の許容範囲を持っておくことも大切だと考えています。

自然の変化を大切にするということ

2011-02-13 20:58:56 | 日々のこと
普段、とにかく色を測り、その値を把握するということを心がけています。その中でも自然景観はとても移ろいやすい易く、常に季節や時間、周辺の環境に影響されますから、その時の数値(マンセル値)はあくまで、参考値でしかありません。



これはある団地の敷地内で見かけた土の歩道です。湿った所、乾いた所。この一部分だけを見ても、明度・彩度に変化があることがわかります。
色相は10YR(イエローレッド)。黄赤の中でも、やや黄味よりの暖色系です。土や砂、樹木の幹など、自然景観の中で不動の大面積を占めるこのような色は、『自然界の基調色』である、と考えています。



そのような基調色に対し、樹木の緑や草花は土や砂などに比べると面積が小さく、一年の中でも色の変化が大きい、と言えます。落葉樹の色の変化が大きいことはよく知られていることですが、常緑樹も天候や時刻、湿度の具合などによって、見え方が異なります。

樹木の緑の色はGY系を中心に明度3~5程度、彩度2~4程度が多く見られます。樹種によっては、もっと鮮やかなものもあります。最近、自然の色を観察していて面白いなと思うのは、緑に限らず、多様で微細な“色の重なり”であるということです。

例えば、上の写真にあるように、樹木の葉は裏の色の明度が明るいものが多く見られます。風や光を受け、キラキラと輝くように見えたり、葉の重なりによって濃淡の階調があるように感じられたりすることもあります。

“自然を大切に”とは、よく言われることです。この言葉には、様々な意味が込められていると思います。私は最近、環境色彩デザインにおいては、『自然のもつ変化を大切にする』ということが最も大切にすべきことかな、と思っています。変化の少ない基調色に対し、刻々と移り変わる樹木や草花の色。この自然界の色彩構造には、いつも助けられています。

この週末、東京に雪が降りました。予報に反し、積もる程ではありませんでしたが、うっすらと乳白色のベールがかかったいつものまちなみは、トーンが一段落ち着いて、とてもやさしく見えました。東京での生活が長い私は、恐らく雪に降り込められたならばとたんに日常生活に支障をきたしてしまうことでしょう。ですから、安易に自然が美しい、等とは言ってはいけない、と常々考えています。何事も一つの側面からでけでは判断できないということが、近年とても気になっています。

それでも、私が建築や工作物、都市・まちの色を考える時、大切にすべきなのは『自然景観の持つ・あるいは自然がもたらす色の変化』であり、気を付けて注視しなければ見落としてしまうほど繊細で多様な変化と、環境色彩デザインの関係性を構築して行きたいと思っています。

デザインコンセプト提案という業務

2011-02-11 17:12:55 | 日々のこと
この仕事を始めてから、長く『デザインコンセプト提案』という業務に携わって来ました。対象は住宅や商業施設、まちなみ形成など様々なケースがありますが、共通しているのは『目指すべきビジョンを(特に色彩や素材の視点から)明確にする』ということです。

カタチが決まっていないのに、色の考え方?と入社当時は思ったものですが、ビジュアルなイメージのつくり易い色彩は、計画が進む中でボリュームや内容が変わっても、“ある雰囲気”を維持することが可能ですから、多くの人が係わり長期に渡るプロジェクトにおいて、ある効果をもたらすものであるということを体験して来ました。

このデザインコンセプト提案という業務、ここ2年あまりの間に更に頻繁に声が掛かるようになりました。2011年に入ってからは既に3件の依頼があり、その企画自体の構想から参画させて頂いている例もあります。その背景には当然、昨今の様々な社会情勢が潜んでおり、デザイン全般に掛かるコスト削減の問題等、決して喜んでばかりはいられない部分もあります。

ですが一方では様々な問題を解決するために、早期からデザインに取り組もう、更に多々あるプロジェクトの一貫性を今一度見直そうという企業の姿勢はとても素晴らしいものだと考えますし、そこで私達(CLIMAT)に声を掛けて頂けるということは誇りに出来る点でもあります。

先日もとある企業の商品企画室の方とお話した際、“私達は私達と対話の出来る設計者やデザイナーを求めている”と言われました。上から目線でこうあるべき、というやり方ではなく、相手の要望や考え方を十分に理解した上で、対話の中から課題を整理しデザインイメージを確立して行くという方法論は、特に私達の得意とするところです。

商品企画、という言葉は個人的にはいつも違和感を覚える点ではありますが、住宅メーカーやディベロッパーの方々にとって住宅は『商品』です。もちろん、創る方々も単なるモノとして扱っている訳では決してなく、設備やその機能、販売後のメンテナンス等を含め“企業としてきちんとした一定の質を供給し続けること”という意味での商品、と捉えています。

そのような企業に対し、対話の中からこういうデザインを目指すべきである、というビジュアルなイメージを素材・色彩によって提示するという作業は、空間の在り様やまちなみの景観、コミュニティの形成や賑わいの演出などソフト面の配慮や支援等、幅広い視点が不可欠です。

かといって、幅を広げすぎて視点がボヤケてはいけませんから、常に“最も重要な点は何か”“今、最も効果的なアピールは何か”“それが長く継続できるか”等、強調すべき点や時間の変化にどのように対応していくかを意識しながら、検証を重ねています。

私が理想としているのは商品として、或いは作品としての住宅の設計にではなく、建築や工作物、さらにまちや都市を設計するという行為に、色彩の専門家として程よいバランス感覚を持って係わり続けることです。

その“程よさ”は曖昧さと紙一重であるということも、十分に理解しているつもりです。だからこそ、そのさじ加減の部分を丁寧に考えて行くことが必要ですし、企業の要望に出来うる限りきめ細かく対応することが出来る設計者やデザイナーが求められているのだと感じています。

これは商品と位置づけられた住宅や建築家の作品を否定することではもちろんなく、私のような立場(=建築設計とは異なる職能)の人間がかかわることにより、もう少し緩やかに様々な立場を繋いでいくようなことが出来ないものだろうか、ということを考えています。

実際には、立場の異なる企業や設計者・建築家それぞれの論理、把握しようとするだけでもフラフラになることばかりです。ですが、それぞれに係わっている色彩デザインということを一つの軸として、自身に出来ることを日々積み上げ、それを整理した上で提示して行くことを続けています。

無彩色と低彩度色の間

2011-02-09 13:01:36 | 色彩指定のポイント
普段、建築や工作物の外装だけでなく、空間を構成する様々な要素の色彩設計を行っています。その際、どのようにすれば色彩調和が得られやすいかを第一に考えますので、色相(色味)に気を使うのはもちろんですが、特に彩度(鮮やかさ)には十分な注意を払っています。

そのように考えると、『無彩色(=ニュートラルカラー)』が最も万能選手のようにイメージされることが多いのですが、特に自然景観との関係性で色を見ていくと、彩度0の無彩色が人工的な印象が強調されすぎる場合が多い様に感じています。これまでの仕事を振り返ってみても、N-○○で色指定をしたことは僅かしかありません。

下の写真は、その理由を模式的に表したものです。左は彩度0のグレー系、右は彩度1.0程度以下のやや黄赤味を帯びたウォームグレイ系です。



例えば自然の石なども、一見無彩色に見えても実はほのかに色味を持っていることが殆どです。また、自然物は人工物やその塗装面と異なり、表面に凹凸があったり湿気を含んでいたりしますので、塗装色以上に、見方によって微妙に変化する色であると言えます。

こうした環境との調和を考えると、彩度を排除した無彩色は確かに控え目な印象を持っているものの、“周囲にあるものとの馴染み易さ”という観点で見た時、むしろ人工的で硬質な印象が強調されてしまっている場合が多いのでは、と感じています。

上の写真では自然景観を背景とした例を挙げましたが、これは例えば都市部のオフィス街などでは無彩色の場合がふさわしい状況もあると思います。色の持っているイメージや性質だけを取り上げ単独で判断せずに、常に周辺との関係性やその場の雰囲気に合せるべきであると考えています。

このような微細なこだわり、“どっちでもそんな変わらないのでは?”と言われることもしばしば。ですが、例えば建築物と舗道とストリートファニチャーと街路樹とサイン…等、私達の周りには実に様々な要素が複雑に絡み合って存在しており、それぞれが少しずつ“そのまちの雰囲気に歩み寄る”ことを考えて行けば、その配慮がもたらす効果は必ず“特に違和感のあるものがなく、自然やまちが生き生きと感じられる心地よいまとまり”として表れてくると思っています。

無彩色とカラード・グレイ、更に低彩度の間には、かなりの巾があります。ですから、“彩度を下げて環境に配慮しました”というとき、常に“どのくらいか”という数値的な押さえが必要だと思うのです。

無理に同色にするよりは、控え目に

2011-02-08 19:51:18 | 色彩指定のポイント
色彩計画の業務の中で、よく『背景合わせ』を考えなくてはならない場面があります。例えば集合住宅の内装の場合、タイル貼りの壁面に取り付けられる鋼製扉や消火栓BOX等です。質感が異なる素材の色合わせはとても難しく、特に片方が平滑な塗装の場合、タイルや石・左官調吹付けなど、色むらがあったり細かな凹凸により陰影が出来たりする素材とは、慎重に色合わせしたつもりでも、同じ雰囲気には見えないことが多々あります。

それは特に自然景観を背景とした場合、問題が発生しやすいように感じます。自然の樹木等の緑は明度・彩度にやや巾があり、新緑の明るい緑は彩度4以上の鮮やかさを持つものもあります。



自然の緑色を色票に置き換えたそのまま、或いはイメージとしての緑を人工物に展開すると、大変なことが起こります。似せたつもり・馴染ませたつもりでも、完全に目立ってしまっている例を数多く見てきました。下の写真は中国・河北省張北の高速道路で見かけた防護柵。蛍光色かと見間違うほど際立っていました。



塗装色を背景や取り付ける面の周囲の素材と合わせたいというとき、こうすればまず間違いないという私なりの考え方を示します。

・色相は背景,周囲の色と同じか、暖色系よりにする
・明度は背景,周囲の色よりも1.0程度以上、低めにする
・彩度は背景,周囲の色よりも1.0程度以上、低めにする

これは屋外の場合の目安で、インテリア(先のタイルと塗装色等)の場合は、0.5程度のあたりでもう少し慎重に検証する必要があります。屋外に比べインテリアは明るさの変化が(特に共用部分等の場合)少なく、一定の見え方が決定付けられやすいためです。

【写真を使った簡単なシミュレーション。明度・彩度共に低めの色は目立ちにくい。】


特に自然景観との関係においては、緑は常緑樹であっても微妙に変化をしますし、樹種によっても多様な巾を持っていますから、無理やり同色にしようとするとどうしても違和感が生じやすくなります。色彩の特性として、明度の高い色は手前に進出しやすく、鮮やかな色も同様に(背景との対比により)目立ちやすいという要因がありますので、それを意識すれば、馴染ませる時の基本的なルールが明確になってくると思います。

性格的に神経質な設計の方は、同色にしようと何度も色見本をつくっては納得いかないと言い、どのように指定すれば良いのかと相談されることが多くあります。私はそのような場合、むしろ全く同じように見せることは困難なので、少し控えめにすることによって存在を感じさせないようにすることをお勧めしています。