環境色彩デザインを考える人へ

長年の経験と実践の中から、色彩デザインに役立つ情報やアイデアを紹介して行きます。

大規模建築物の色彩について -その1

2011-02-16 21:19:22 | 日々のこと
都市の特徴ある景観の一つに、高層・大規模建築物が挙げられます。こうした大規模な建築物は、形態自体が既にランドマークとしての存在感を持っている場合が殆どですので、少し距離を置いた中景や遠景からの見え方を相当意識して素材・色彩を検討する必要があります。

また、建物に近付いた時には全体像をよりもいわゆる基壇の部分、地上15メートル程度の見え方が重要になります。100mを超える高さの全体と、歩行者の行き交う足元部分を相互に調整しながら、おおらかにシルエットを生かす部分ときめ細やかに素材感や陰影を演出する部分とをしっかり区分して考えることが重要です。

大規模な建築・工作物は地域の景観に与える影響が大きいことから、東京都では平成16年(2004)に施行された景観法に基づく景観計画により、平成18年(2006)高さ15m又は延べ面積3,000平方mを超える建築物に対し、外装色彩の基準が設けられました(地域別基準の例・一般地域では高さ60m延べ面積30,000平方m他)。

日本の住宅における高層化の始まりは、1976年に建設された高さ66m、21階建ての集合住宅が第一号とされています。今から35年前のことと考えると、建築における歴史は比較的浅いものであると考えるべきではないか、と考えています。その証拠の一つとして考えているのは、竣工年代別に見ていくと建築の工法や意匠に実に様々な試みが見られることにあります。そして素材・色彩も当然、それに連動しています。

【東京都内にある高層住宅・32階・2000年竣工】


これはWebで調べたところ、外装仕上げはRC打放しと記述がありました。とすると、かなり経年変化しているのかも知れず、近いうちに測色して来ようと思っています。ファサードのフレームと本体の色の明度差が少ないため、少し距離を置くと全体にかなり明度が低く感じられます。

【札幌市にある高層住宅・40階建・2006年竣工】


これは中・高層部のバルコニー手摺に透明ガラスを用い、本体には高明度の白系を採用しているため、全体に限りなく軽快で透明感のある雰囲気です。

上の二つはいささか極端な例ではありますが、景観法の策定を間に挟んでいること、また超高層棟の“デザイン”が様々な技術開発と共により軽快な印象に移り変わってきた様子を伺い知ることが出来ると思います。高層建築物はそれまでのオフィスビル仕様からより開放性や快適性を重視した住宅仕様への変遷を遂げていると感じます。

ちなみに、札幌市の例では1階にあるコンビニエンス・ストアもかなり景観配慮型のデザインとなっています。店舗の正面に植栽があって、普通は(見通しが利かなくなるので)問題になるのでは、と思ったのですが、冬季の降雪時を考えた時、風や雪除けとしての役割を担っているのかなと考えています。これは植栽の専門家に確かめてみたいと思います。



そして私達(CLIMAT)は2009年春より、都内のとある超高層住宅の計画に携わっています。基本設計段階から様々な高層住宅を見学してはその見え方を検証しながら、どのような素材・色彩がふさわしいか、建築設計者と協働してきました。外装の色彩にも既に一年以上の検討を費やし、昨年ようやく着工したところです。

このプロジェクトも当然、行政の景観協議にかかり、景観審議会での検討を経て来ました。目立つ存在である以上、形態や色彩の工夫により、できる限り景観にも配慮を行いました。同時にクライアントからの要望であった“いたずらに目立つのではなく、でも品良く際立つような”色彩計画案を何とか提示できたと思います。

そしてここからが本格的な色彩調整の始まりです。タイルや焼付塗装を始めとする様々な部材の色彩を慎重に選定していきます。全体の方針に添いつつも、不具合は徹底的に調整を行います。今月はタイルの製品検査が愛知県の工場にて実施されます。

私はかつて別のプロジェクトで数回、工場検査を体験しているので、今回は若いスタッフに任せる決意をしました。出荷前の最後の検査です。色の振れ具合を判断する製品検査の機会は中々ありませんから、よい経験になることでしょう。もちろん、事前にその判断基準の打合せを行わなくてはなりません。送り出す方も気が気ではありませんが、そこは日頃の信頼感が効果を発揮してくれる(はず?)と信じています。