環境色彩デザインを考える人へ

長年の経験と実践の中から、色彩デザインに役立つ情報やアイデアを紹介して行きます。

惹かれる景色

2011-06-30 21:22:52 | 素材と色彩
これは一昨年の9月、江蘇省・徐州市で色彩調査を行った際の写真です。中国での仕事は主に新しく開発の進む地区に対し、都市計画の方針等との摺り合わせを行いながら、外装色の範囲や使い方の基準(ルール)を考えて行く、という内容が殆どです。

計画の対象が新しい地区のみである場合も、必ずその周辺に残る古い集落へ案内してもらうことにしています。かつてのまちの素材・色彩がどのようなものであったか、興味があるのはもちろんのこと、色の巾や配色の特徴など、新しいまちの計画へ引き継ぐべき要素を探すためでもあります。



こうした集落を訪れると、初めてのはずなのに何故か懐かしいと感じたり、奥に行くほど少し立派な門構えの家がある、といったような集落毎のスケール感や構成が何となくわかるように感じたりすることもあります。最近では、もし自分が建築学科に進んでいたら、集落の研究をしていたかも知れないなあ、などと思うこともあります。



この集落の僅か1キロ程先のまちなみは、既に高層の住棟が建ち並びつつありました。開発のスピードが日本とは比べ物にならない速さである中国において、もしかするとこの景色も既に消失しているかも知れない、と思ったりもしています。



調査の際の写真と測色のデータは国内外問わず、CLIMATの相当なストックとなっています。研究のために集めてきたデータではありませんが、環境色彩デザインという仕事において、何かここから引き継げるものを次代へ繋いでいくことは出来ないだろうかという意識が、いつの間にかびっしりと身体にこびりついている様な気がします。

なぜその地で長い時を経てきた素材や色彩に惹かれるのか。失われゆくものに対する郷愁だけでなく、人々の暮らしぶりやその営みがつくり出した風景を見ていると、それぞれの国や地域の文化を肌で感じているという感覚を持つことがあります。勢いのある新しい時代へと変化を遂げる様に魅力を感じ、それを否定することが出来ないのと同時に、そうした時間の蓄積を簡単に切り捨てることもできない・してはいけないのでは、という思いが働くためかも知れません。

何が何でもとにかく古いものはいいのだ、と決め付けている訳ではありませんが、それでも自身がどうしようもなく興味を引かれる景色。これまでに訪れたまちを振り返り、素材・色彩の観点からその要因をきちんとまとめてみることにも取り組んで行こうと考えています。