環境色彩デザインを考える人へ

長年の経験と実践の中から、色彩デザインに役立つ情報やアイデアを紹介して行きます。

長く付き合いたい素材-国産タイル

2011-06-15 20:43:43 | 素材と色彩
2月の末、計画中の物件に使用する外装タイルの製品検査に行ってきました。愛知県半田市にある湿式タイルの工場です。

【生地を押し出す時に使う金型。押し出して中央の部分で分割すると、二枚のタイルになる】


タイルは普段から好んで使用する建材の一つです。色や質感のコントロールが比較的自由にできる素材、という意識があります。標準品を使うことももちろんありますが、規模の大きな現場ではタイルの割り付けから係わることが多いため、施工方法も含め形状の選定から検討に参画しています。

決定品を選定するまでに数度の見本焼き(サンプル作成)を行い、形状や色を確認し、さらには目地を詰めた大型の見本まで作成しますので、工場で行う検査は最終確認に過ぎません。ですが数百~数千㎡の製品として製作する際、見本焼きとは色の幅が異なったり少し色相がずれたりする場合もあります。そのズレ方の許容範囲を工場で確認を行うための検査です。

大人になり工場を見学する機会は滅多になくなりましたが、何かがつくり出される場には何とも言えないワクワク感があります。原料である土や窯に入れる前のタイルの数々。焼き上がって間もないタイルからは湯気が立ち昇っています。窯は温度等がコンピュータで制御された近代的な設備が使用されていますが、土を扱っているせいかどことなくおおらかな雰囲気が漂っていました。

ハツリタイルという製品があります。心太のように押し出された生地の表面を削り、岩肌のような表情を出すもので、壁面に貼ると陰影が大きく出て独特の雰囲気があります。その生産ラインも見せて頂いたのですが、たまたま近くに職人さんがいらして、ノミを使った“手バツリ”の技を披露して下さいました。ノミを入れた部分がサクッと削れる様は本当に鮮やかで、カンカンとノミを叩く音が工場内に響き渡ります。一枚をハツるのにかかる時間はわずか10~15秒ほど。それでも手作業は手間がかかるため製品としての値段が高くなってしまうため、現在ではこのハツる作業はほぼ機械で行われているそうです。

【長手の上下三か所にノミを入れることにより、表面にバランスよく面をつくっていく】


また別の粗面タイルの生産ラインでは、成型された生地を窯に入れるため台車に積み上げる作業が行われていました。作業台の台座には銅板が使われています。焼く前の生地はまだ湿っていますので、傷が付かないよう、ツルツルの板の上を滑らせるようにして作業が進められていました。それも惚れ惚れするような素早さ、無駄のない動き。少し意味は異なるかも知れませんが、これも大変優れた日本のものづくりの場だと感じました。

【金型から出てきたタイルを台に移す作業。右から出てきたタイルを立てて井桁状に積み上げて行く】


建造物の外観を保護し、多様な意匠の表現や外観そのものの美観性を保つために使用されるタイル。原料となる素材と金型、さらに表面加工によって実に様々な表情をつくり出すことが可能です。この検査で印象的だったのはご一緒した建築家やゼネコンの設計部の方々が『土の色ってほんと落ち着くなあ』と呟かれていたこと。特にゼネコン設計部の方は普段ガラスや金属等を多用したオフィスビルや高層マンションを多く手掛けられてきた方だったので、風合いのある素材がもたらす表情の豊かさや奥深さを満喫されていたようにお見受けしました。

日本の土を使い、日本の工場で、日本の職人が焼き上げるタイル。訪問した工場で扱っていたせっき質タイルは一枚ずつ微妙に色合いが異なり、とても自然な風合いを持つものばかりです。それは管理された現代の製品でありながら、工芸品としての価値をも見出すことが出来るように感じています。色彩デザインを依頼される案件はコストや工期、さらに構造計算が完了している建築物の場合、後から荷重のかかる仕上げ材を貼ることはできませんので、常にタイルが適しているとは限りません。それでも、色選定の巾の豊かさや多様な形状のバリエーション、そして長い時間の経過に耐える強靭さをもつ建材として、とことんタイルという素材と付き合っていきたい、と考えています。

タイルの検品(割れ・欠け等がないかを最後に人の目で確認する作業)について、工場の方からとても面白い話を伺いました。その場にいた男性一同が、苦笑い…してしまったお話、次回ご紹介したいと思います。