ティム・バートン

ティム・バートン(Tim Burton/映画監督)に関する情報・感想をつづるブログ [シネストック別館]

「チャーリーとチョコレート工場」 解説

2006-07-14 00:01:00 | 「チャーリーとチョコレート工場」
 原作は全世界で愛読されるロアルド・ダール著の児童書「チョコレート工場の秘密」(64年刊)。近年、バートンは原作ものの映画化が続いている。同書は“Willy Wonka & the Chocolate Factory”(ビデオ邦題:夢のチョコレート工場)というタイトルで、1971年に映画化されており、バートンにとっては、『PLANET OF THE APES/猿の惑星』に続くリメイク作品でもある。ただし「猿」がオリジナルへの新解釈を披露したのに対して、「チョコ」はあくまで原作に忠実であろうとした点が、大きな魅力になっている。
 素晴らしいのは、見事に再現された摩訶不思議なチョコレート工場だ。国際空港をまるごと再現してしまった『ターミナル』が高く評価された美術監督アレックス・マグダウェルによる、壮大な実物セットは、そのほとんどが360度で作られ、俳優たちの自然な演技を引き出した。また、原作の人気シーンでありながら、71年版では実現できなかった「くるみを上手に割るリス」が、ついに映像化された。
 バートンとは4度目のタッグとなるジョニー・デップが、5人の子どもたちを大冒険に誘う工場主ウィリー・ウォンカを嬉々として怪演。とことんエキセントリックな役作りは、あのマイケル・ジャクソンをモデルにした……という噂も飛びかったが、果たして? 原作にはない脚色として、ウィリー・ウォンカの少年時代を通して、前作『ビッグ・フィッシュ』と同様、父子の確執と和解が描かれる。この展開は、少々おまけっぽくも感じるが、チョコレート工場主の父親が、歯科医だった(しかも演じるは、クリストファー・リー!)という強烈なアイロニーが、ピリリと辛いスパイスになっている。ディープ・ロイ演じるウンパ・ルンパがキモ可愛い、華麗でシュールなミュージカル・パートも最高! 作・歌唱はもちろん、ダニー・エルフマン。この毒気は、子どもたちにはちょっと強すぎるかも?
 2003年に愛息が生まれたバートンにとって、初めて“パパ目線”で作った今作は、まさに父から息子へのプレゼントである。だからこそ、これほど完璧なファンタジーの傑作となったのだ。素晴らしすぎる。

「チャーリーとチョコレート工場」 データ

2006-07-14 00:00:00 | 「チャーリーとチョコレート工場」
STAFF ● 監督:ティム・バートン/脚本:ジョン・オーガスト/原作:ロアルド・ダール『チョコレート工場の秘密』(評論社刊)/製作:リチャード・D・ザナック、ブラッド・グレイ/製作総指揮:パトリック・マコーミック、フェリシティー・ダール、マイケル・シーゲル、グレアム・バーク、ブルース・バーマン/撮影:フィリップ・ルースロ, AFC/ASC/美術:アレックス・マクダウェル/編集:クリス・リーベンゾンA.C.E./衣装デザイン:ガブリエラ・ペスクッチ/音楽:ダニー・エルフマン/視覚効果監修:ニック・デイビス/キャスティング監督:スージー・フィッギス

CAST ● ジョニー・デップ、フレディー・ハイモア、デイビッド・ケリー、ヘレナ・ボナム=カーター、ノア・テイラー、ミッシー・バイル、ジェームズ・フォックス、ディープ・ロイ、クリストファー・リー、アダム・ゴドリー、フランツィスカ・トローグナー、アナソフィア・ロブ、ジュリア・ウィンター、ジョーダン・フライ、フィリップ・ウィーグラッツ、リズ・スミス、アイリーン・エッセル、デイビッド・モリス

DATA ● 原題:CHARLIE AND THE CHOCOLATE FACTORY/ビレッジ・ロードショー・ピクチャーズ提携/ザナック・カンパニー/プランB制作/ワーナー・ブラザース映画配給/2005年/アメリカ映画/115分/ビスタサイズ/SR/SRD/DTS/SDDS/全米公開:2005年7月15日/日本公開:2005年9月10日(ワーナー・ブラザース映画配給)

「ビッグ・フィッシュ」 解説

2006-07-13 00:01:00 | 「ビッグ・フィッシュ」
 1998年に出版されたダニエル・ウォレス著のベストセラーを映画化。当初はスピルバーグが監督候補に挙がっていた。“ほら吹き、ほら話”を意味するタイトルは、主人公エドワード・ブルームの虚実入り交じる破天荒な人生を象徴する。ストーリーの軸となるのは、父子の確執。死期が近づく父親エドワードの人生に隠された“真実”を、現実主義の息子ウィルが見つけようとするのだ。バートン色あふれるファンタスティックな映像美(父親の視点)と、これまでにないシビアな現実描写(息子の視線)が巧みに交錯しながら、微妙に、しかし確実に近づいていく父子の関係性を、ロマンチックに描いている。バートンの新境地というべき、感動的な人間ドラマ。どこか素朴な暖かさを感じさせるのも新鮮だ。
 同時に、効果的なキャスティングによって、「人間の二面性」という変わらぬテーマを追求している。E・マクレガーが若年期、A・フィニーが老年期のエドワードを演じるが、これは単なる時間経過の描写ではなく、一人の人間が持ちえる二面性を体現しているのだ(A・ローマン、J・ラングによる妻サンドラも然り)。また、常に姿かたちを変える“水”がモチーフになっており、やはり実体のつかみきれない人間の内面を見事に暗示している。
 それにしても、今作には、忘れがたい瞬間(シーン)が数え切れないほどある。特に、空想と現実が融解する、つまり父親と息子が和解するクライマックスは何度観ても、高揚してしまう。間違いなく「第二期集大成」と呼ぶにふさわしい傑作である。ちなみに、バートンは、今作撮影前に、実父を亡くし、完成後に、愛息が誕生している。映画そのままなのだ。
 『シザーハンズ』『エド・ウッド』に続く“エドワード三部作”の最終章という解釈も可能かな?

「ビッグ・フィッシュ」 データ

2006-07-13 00:00:00 | 「ビッグ・フィッシュ」
STAFF ● 監督:ティム・バートン/脚色:ジョン・オーガスト/原作:ダニエル・ウォレス『ビッグフィッシュ 父と息子のものがたり』(河出書房新社刊)/製作:リチャード・D・ザナック/製作:ブルース・コーエン&ダン・ジンクス/製作総指揮:アーン・L・シュミット/撮影監督:フィリップ・ルースロ, AFC/ASC/美術監督:デニス・ガスナー/編集:クリス・リーベンゾンA.C.E./衣装デザイナー:コリーン・アトウッド/音楽:ダニー・エルフマン

CAST ● ユアン・マクレガー、アルバート・フィニー、ビリー・クラダップ、ジェシカ・ラング、ヘレナ・ボナム・カーター、スティーブ・ブシュミ、ダニー・デビート、アリソン・ローマン、ロバート・ギローム、マリオン・コティヤール、マシュー・マグローリー、エイダ・タイ、アーリーン・タイ

DATA ● 原題:BIG FISH/コロンビア映画提供/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント配給/2003年/アメリカ映画・PG-13/125分/ビスタサイズ/ドルビー・SRD・SDDS/全米公開:2003年12月10日/日本公開:2004年5月15日(ソニー・ピクチャーズ配給)/アカデミー賞作曲賞ノミネート/ゴールデン・グローブ賞作品賞(コメディ/ミュージカル)、助演男優賞、音楽賞、歌曲賞ノミネート/英国アカデミー賞作品賞、助演男優賞、監督賞(デヴィッド・リーン賞)、脚色賞、プロダクションデザイン賞、メイクアップ&ヘアー賞、特殊視覚効果賞

「PLANET OF THE APES 猿の惑星」 解説

2006-07-12 00:01:00 | 「PLANET OF .../猿の惑星」
 あまりにも有名なSFクラシック『猿の惑星』(1968年)のリメイク。ただし、ストーリーや設定などは大きく異なり(むしろ、P・ブール著の原作に近いかも)、バートン自身も「リメイクではなく、リイマジネーションだ」とコメント。完全なオリジナル作品であることを強調している。R・ベイカーが手掛けた特殊メイク、「猿アカデミー」による徹底した演技指導、どこか東洋テイストな美術と衣装、バートン作品には珍しい重厚なアクションなど、映像面での見応えはたっぷりだが、結果的には、熱狂的なファンを満足させるには至らなかった。
 今作に欠けているのは、ずばり恐怖である。68年版に比べて「猿が意外とおバカで、人間が割と頭イイ」という設定ゆえ、支配者たる猿たちの言動が、文字通り“人間の猿マネ”にしか見えないのだ(ベースは南北戦争?)。だから、救世主が、人間を解放に導いても「それ以前に、革命が起こっていても不思議じゃないよね」という元も子もないツッコミが許されてしまう。泳げもしない猿のどこが怖いのか。M・ウォルバーグ(人間役)が、一番、猿に似てるっていうのも笑える…。
 バートンにとって、最大の収穫(?!)は、ヘレナ・ボナム=カーターとの出会いかもしれない。結果、究極のミューズであったはずのリサ・マリーと破局し、ヘレナとの交際がスタート。今後の方向性にも影響を与えるのでは、という憶測がファンの間で飛び交った。わずかな時間だが、猿メイクを施されたヘレナ・ボナム=カーターとリサ・マリーのツーショット・シーンがある。ちなみに、68年版へのオマージュとして、チャールトン・ヘストンが猿メイクで出演した(セード将軍の父親役)ほか、パウエル湖でロケ撮影が敢行されている。