支援法成立 医療的ケア児を学校に 家族ら「通学支援充実させて」
2021年6月30日 07時25分・東京新聞埼玉
人工呼吸器など医療的ケアが必要な子どもとその家族に対する支援法が、先の国会で成立した。背景に、教育現場で受け入れ態勢が十分ではなく、通学を断念する子どもが少なくない現状がある。県内でも重い負担を強いられてきた家族から、社会や行政へ変化を求める声が上がっている。
■バスに乗れず
川口市の浜野篤希(あつき)君(9つ)は先天性プロテインC欠乏症という難病で、四肢のまひや全盲などの障害がある。喉元から気管にチューブを入れて一時間おきにたんを吸引し、胃に栄養を直接送り込む「胃ろう」も一日に四回必要だ。
肢体不自由児が集う県立越谷特別支援学校の小学四年生だが、通学していない。車で往復二時間以上という遠距離のためだ。スクールバスはあるが、看護師の同乗がなく、乗車中に医療的ケアができず、安全面への懸念から利用できない。母紀子さん(40)もペーパードライバーで、自家用車での送迎は難しい。
「地元の小学校に行かせたいが、授業についていけない。せめて特別支援学校に通えれば、家庭でできない経験ができるのに」と紀子さん。篤希君は通学の代わりに、自宅での週三回の訪問教育を受けている。
■引っ越す家庭も
同市の山下美保さん(52)も、気管切開によるたんの吸引が必要な長女巴瑠花(はるか)さんの通学を諦めざるを得なかった。「呼吸用のチューブを勝手に外してしまうので、運転して十五分の距離でも目を離せなかった」
巴瑠花さんは五年前に事故で亡くなったが、越谷特支への月一回の登校日に見せた生き生きとした表情を山下さんは忘れられない。「学校に通えない子がいることを知ってほしい」との思いで仲間の親と署名を集め、肢体不自由児の特別支援学校を市内に設置するよう行政に働きかけている。
医療的ケア児がいる家庭が引っ越しを選ぶケースも珍しくない。脳性まひで体が不自由な小学生の長女を育てる女性(50)は六年前、川口市から東京都内に転居した。
新旧の自宅のローンが二重にのしかかるが、「通学環境には代え難かった」という。肢体不自由児を受け入れる都立の特別支援学校は十八校あり、そのうち医療的ケア児の在籍する十七校すべてに、看護師が同乗する専用車両がある。
■自治体の責務に
県立の肢体不自由児の特別支援学校は九校で、子どもたちは長距離通学を余儀なくされる。県教育委員会は、負担軽減のため、より近くの学校に通えるよう一部の通学区域を来年四月から見直す。しかし「東京のような専用車両の導入は、看護師の確保や予算の問題で難しい」と担当者。医療的ケアが必要な子どもの通学手段が限られる状況は変わらない。
今回成立した法律には、居住地域で支援に差が出ないよう、国や自治体は医療的ケア児と家族に適切な対応を取る「責務」があると明記された。これまで「努力義務」だったのが格上げされた。浜野さんや山下さんは「法律をきっかけに学校への看護師の配置が進み、通学支援も充実させてほしい」と願っている。
<医療的ケア児> たん吸引や人工呼吸器の管理、胃ろうなどの医療行為が日常的に必要な子ども。全国に約2万人いると推計され、医療技術の進歩で助かる命が増えたことで過去10年で倍増した。看護師不足などを理由に保護者が学校で付き添いを求められたり、保育所で預かってもらえなかったりする。支援法は学校や保育所への看護師の配置を求め、健常な子と一緒に教育を受けられるよう「インクルーシブ教育」の推進を盛り込んだ。各都道府県に相談や情報提供をする支援センターの設置も促している。
2021年6月30日 07時25分・東京新聞埼玉
人工呼吸器など医療的ケアが必要な子どもとその家族に対する支援法が、先の国会で成立した。背景に、教育現場で受け入れ態勢が十分ではなく、通学を断念する子どもが少なくない現状がある。県内でも重い負担を強いられてきた家族から、社会や行政へ変化を求める声が上がっている。
■バスに乗れず
川口市の浜野篤希(あつき)君(9つ)は先天性プロテインC欠乏症という難病で、四肢のまひや全盲などの障害がある。喉元から気管にチューブを入れて一時間おきにたんを吸引し、胃に栄養を直接送り込む「胃ろう」も一日に四回必要だ。
肢体不自由児が集う県立越谷特別支援学校の小学四年生だが、通学していない。車で往復二時間以上という遠距離のためだ。スクールバスはあるが、看護師の同乗がなく、乗車中に医療的ケアができず、安全面への懸念から利用できない。母紀子さん(40)もペーパードライバーで、自家用車での送迎は難しい。
「地元の小学校に行かせたいが、授業についていけない。せめて特別支援学校に通えれば、家庭でできない経験ができるのに」と紀子さん。篤希君は通学の代わりに、自宅での週三回の訪問教育を受けている。
■引っ越す家庭も
同市の山下美保さん(52)も、気管切開によるたんの吸引が必要な長女巴瑠花(はるか)さんの通学を諦めざるを得なかった。「呼吸用のチューブを勝手に外してしまうので、運転して十五分の距離でも目を離せなかった」
巴瑠花さんは五年前に事故で亡くなったが、越谷特支への月一回の登校日に見せた生き生きとした表情を山下さんは忘れられない。「学校に通えない子がいることを知ってほしい」との思いで仲間の親と署名を集め、肢体不自由児の特別支援学校を市内に設置するよう行政に働きかけている。
医療的ケア児がいる家庭が引っ越しを選ぶケースも珍しくない。脳性まひで体が不自由な小学生の長女を育てる女性(50)は六年前、川口市から東京都内に転居した。
新旧の自宅のローンが二重にのしかかるが、「通学環境には代え難かった」という。肢体不自由児を受け入れる都立の特別支援学校は十八校あり、そのうち医療的ケア児の在籍する十七校すべてに、看護師が同乗する専用車両がある。
■自治体の責務に
県立の肢体不自由児の特別支援学校は九校で、子どもたちは長距離通学を余儀なくされる。県教育委員会は、負担軽減のため、より近くの学校に通えるよう一部の通学区域を来年四月から見直す。しかし「東京のような専用車両の導入は、看護師の確保や予算の問題で難しい」と担当者。医療的ケアが必要な子どもの通学手段が限られる状況は変わらない。
今回成立した法律には、居住地域で支援に差が出ないよう、国や自治体は医療的ケア児と家族に適切な対応を取る「責務」があると明記された。これまで「努力義務」だったのが格上げされた。浜野さんや山下さんは「法律をきっかけに学校への看護師の配置が進み、通学支援も充実させてほしい」と願っている。
<医療的ケア児> たん吸引や人工呼吸器の管理、胃ろうなどの医療行為が日常的に必要な子ども。全国に約2万人いると推計され、医療技術の進歩で助かる命が増えたことで過去10年で倍増した。看護師不足などを理由に保護者が学校で付き添いを求められたり、保育所で預かってもらえなかったりする。支援法は学校や保育所への看護師の配置を求め、健常な子と一緒に教育を受けられるよう「インクルーシブ教育」の推進を盛り込んだ。各都道府県に相談や情報提供をする支援センターの設置も促している。