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珍友*ダイアリー

管理人・珍友の書(描)いた詩や日記、絵や小説をご紹介☆

『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』第三十七話

2006-09-30 15:16:26 | 第五章 きまぐれは気のせい
 食べながら歩いていると、
「武蔵」 
 と、呼びかけられた。
 声のした方を見ると、いか焼きの出店の中で、日に焼けた男が笑っていた。
「ユウジ!」
 嬉しくなって、かけ寄った。昔の露天商のバイト仲間である。
「お前、どーしたんだよ。バイト?」
「そー。あっちーよ。汗だくだく」
 ユウジは手にしたうちわで自分を扇ぎながら言った。
「今日の祭りのために来たんだけどさぁ。なーんか聞き覚えのある街の名前だと思ってたんよ。そしたら、お前の街なんだわ。元気そうだな」
「ああ。ユウジもな」
「お前の彼女?カワイーじゃん」 
 ユウジが、おれの横のせいあを見て、ニヤニヤしながら言った。
「ばっか、ちげーよ」 
 笑った。
「孫」
「ぶっ、何言ってんの、オメ。ま、いーや、食ってけよ、いか焼き」
「悪(ワリ)ィ。金無い」 
 マジでそろそろ金欠。
「しょうがねぇな、奢ってやるよ。かわいい彼女に免じて」
「マジで?やった、ラッキー」
 我ながらよく食う。 
 いか焼きを2本もらって、1本せいあに渡そうとすると、彼女は、
「あたし今いい。まだかき氷あるし。あんたもどーすんの。かき氷、溶けるよ」
 と、非常に的確に指摘した。
 ほんとだ、どーしよう。右手に食べかけのかき氷といか焼き。左手にもう1本のいか焼き。ユウジがタレをいっぱいつけてくれたから、指に滴り落ちそうになっている。 
 すると彼女は、いきなり無言で左手のいか焼きを奪い取り、おれのかき氷の上に思いっきりブスッと突き立てた。いか焼きはすぐに、くてん、と倒れて、タレがかき氷のイチゴシロップと混じり合った。タレとシロップの混合液は、出店の裸電球に照らされて、世にも奇妙な色彩で、光り輝いている。
「何すんだよ、オメーっ!」
 思わず叫んだ。だが彼女は、無愛想ないつもの顔で、眉をピクリとも動かさない。
 信じらんねぇ。鬼か、コイツ。
 …まぁ、食えないことなさそうだけど。
 いやいや、そういう問題じゃねぇ。あの、箸ぶっ刺すお供えもののご飯じゃないんだから。
 ユウジも、
「…オメーの彼女、機嫌ワリィのか?」
 なんて、心配そうに聞いてくる。
「いや、これが、ふつー…」 
 …いい加減慣れろよ、おれも。 
 わさびおにぎりといい、これといい、彼女の言動が基本的にブラックだということに。
 するとその時、彼女がぷっと吹き出して、そのままおかしそうに笑い転げた。
夕方見た、彼女の母親の写真を思い出した。でも、おれにとってはそれよりも。
 …なぁ。気づいてっか。お前、今、すげー無邪気に笑ってるよ。
 なんつーか、ホレ。…かわいいよ。

 その時、ドンッと大きな音がして、夜空に大きな花が咲いた。おれも彼女もユウジも驚いて、一斉に空を見上げた。周りの客も、同じように空を見上げて、わぁっ、と感嘆の声をあげる。花火大会の始まりだ。
次々に打ち上げられる花火に向かって、誰かが「たーまやー」と、声を張り上げる。するとその周りから、笑い声がおこる。
 茂さんたちの花火は、やっぱりサイコ-だ。
                              ≪つづく≫

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『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』第三十八話

2006-09-30 15:15:59 | 第五章 きまぐれは気のせい
 花火大会が終わった。祭りもおひらきになり、人々は各自、帰路につきはじめた。
 祭りは、思ってたよりも楽しかった。
 おれはまだ、その余韻を感じていたくて、せいあを「『ガーリック』に行こう」と、誘った。今頃、仲間が次々と店を訪れているはずだ。今日は深夜からの出勤だけど、今夜だけなら店長も、仕事の前に少しぐらいなら、酒を飲むのを許してくれそうな気がする。
 
 『ガーリック』に向かう道は、今は人通りが少なかった。
「楽しかったな、今日」
 歩きながら傍らのせいあに声をかけると、彼女は、
「うん」 
 と、素直にうなずいた。そして、
「カエル、ありがとね」 
 と、照れてるのか、下を向いたまま、つぶやくような小さな声で言った。
 あんがとって。どしたの、この人。ミョーに素直だし。つーか、こっちが照れる。
「別に。はずしただけだって」
「うん」 
 彼女は、くすっと笑った。
「…星がキレイだな」
 平然を装いたくて、似合わないことを言った、と思った。けど見上げた夜空は、満天の星が本当にキレイだった。…普段はめったなことでもない限り、星なんか見ないくせに。あの詩の本といい、今といい、コワれてる、おれ。でもこいつのことだから、どーせ『似合わねー』って冷たく言い放たれるか、よくって鼻で笑われるくらいのもん。…って、どっちもよくねーよ、それ。つーか、おれマジ、ネクラ? 
 そんなことをごちゃごちゃ思いながら歩いていると、突然後ろで、トサッという小さな物音がした。振り返ると、せいあが少し離れた場所で立ち竦んだまま、うつむいて小さく震えていた。彼女の足元にはさっき射的で獲った犬とカエルが入った小さな袋が転がっている。
「せいあ?」
 不審に思って近づくと、過呼吸みたいな彼女の呼吸の音が聞こえた。やがてその呼吸とともに、体が激しく震えだした。両肩に指が喰いこむほど、強く体を押さえつけてる。だけど震えはひどくなるばかりで、足にも力が入らないのかガクガクして、今にもフラッと倒れそう。肌の表面に噴き出した汗は、夏の夜のむし暑さのせい、なんかじゃねぇ。
「どうしたんだよ」
 鼓動が速くなる。思わず彼女の両肩を掴むと、瞬間、
「いやっ…!」
 彼女が鋭く身を切った。その反動で、彼女はよろけて地面に倒れこみそうになる。一瞬見えた横顔は、ゾッとするほど真っ白だった。おれは彼女が倒れこむ前に抱きとめた。
 ――! 冷てぇ。
 心臓が、ひやっと飛び上がる。人間の温もりが吸い取られたみたいに冷たくて、氷のように固くなった彼女の体。おれの腕に捕らわれた瞬間、身をきつくした彼女が吸った息を、吐き出す音が聞こえない。
「せいあ」
「嫌だ…ッ、ごめんなさい。ごめんなさい!」
 何度もそう叫びながら、おれの腕から逃れようとして、必死に踠く。悲痛な表情(かお)と涙と汗と、叫び声が、目や耳に焼きついて離れない。そんな彼女の姿を見ていて、悲しくなるのに。それでもなんで。おれは両腕に、さらに強く力を入れてる。
「せいあっ」
「ぃ…やぁああっ!」
「………ツッ!」
 彼女は、おれの刺青を力まかせに引っ掻いた。苦しそうに、何度も何度も。

「せいあっ!おれだよ。武蔵だって!」
 痛みの中で何故かそう叫ぶと、彼女を強く抱きしめていた。 
                                       ≪つづく≫

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『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』第三十九話

2006-09-30 15:15:33 | 第五章 きまぐれは気のせい
「ム…サシ…?」
 彼女は引っ掻くのをやめて、涙と汗で濡れた顔をあげた。ほんの少しだけ赤みが戻った頬に、まだ青ざめた唇。少し力をゆるめたおれの腕の中で、カタカタ震えながら、弱々しく怯えたまなざしで、おれの顔に目を向けている。彼女が震えた息を継ぐ小さな音。
「ごめん…武蔵……あたし…」
 震える体と声でつぶやくと、彼女は同じまなざしを、少し刺青に向けた。おれも刺青を見ると、無数の引っ掻き傷のいくつかから、血が滲んでいた。
「………っ!」
 彼女はギュッと目をつぶると、おれを突き飛ばしてかけ出した。

 通りに飛び出した彼女の横から車ーーー
「せいあ!」
 おれは彼女に手をのばした。

「…………っ」
 道路にへたりこんだ彼女とおれ。彼女の手首とそれを掴んでいる自分の手が、まだ震えてる。
 車は、彼女の目の前スレスレを通り過ぎたのだ。

「…………」
 彼女は静かに手首を降ろすと、一度もおれを見ることなく、ふらりと立ち上がって、そのまま走っていった。

「…………」
 おれはそんな彼女を引きとめることもできずに、道路に座りこんだままだった。
 彼女の手首を掴んだ、自分の右手を見る。細い手首を掴んだ感触が、まだ残っていた。

 なんなんだよ、ごめんなさいって…。
 掌を見つめた。
 おれ、なんだよ、武蔵だ、なんて…。
 鼻で嘲(わら)った。 
 けれど彼女は、何も見ていなかった。

「………ッ」
 傷を押さえる。指に血がついた。 
 彼女が見ていたのは、おれじゃなくて…
 …。
 サラ婆の所へ行こう。
 立ち上がった。
 初めてせいあに出逢った夜のことを、今頃思い出していた。

 サラ婆の家に入ると、入り口のすぐ側で、ラウが眠っていた。
「武蔵…。お前、せいあはどうした。一緒じゃないのか」
 奥の座敷から出てきたサラ婆は、おれを見るなり驚いて、声をあげた。だがおれは、彼女の顔を真っすぐに見据えて問った。
「サラ婆、あいつ…昔、何かあったのか」
「………っ」
 彼女は口をつぐんだ。 
 だがやがて、おれの刺青の上の傷に気づくと、重たそうな口を開いた。
 彼女は刺青に顎をしゃくって聞いた。
「その傷、どうした」
「これか?…せいあにやられた」 
 痛みはもうなかった。
「そうか…」
 サラ婆は深いため息をついて、再び口をつぐんだ。とても悲しそうな顔だった。                                    
                               ≪つづく≫

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『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』第四十話

2006-09-30 15:15:05 | 第五章 きまぐれは気のせい
「なあ!黙ってないで教えろよ。サラ婆!あいつ、昔、何があったんだよ!」
 彼女に詰め寄った。
「武蔵」
 おれの視線に、サラ婆のそれがぶつかる。が、彼女はすぐに目を伏せて、
「後で金払ってやるから、そこのジュース、適当にケースに入れておいてくれ」
 と、おれの後ろを指差して言った。
「はあ?何言ってんだよ、ふざけんな!」
 思わず叫んだ。
「わしは寝る」
「おい…サラ婆!」
 座敷に戻るサラ婆を追いかけた。だが、彼女は振り返ることもなく座敷に戻ると、すぐ横になってしまった。揺さぶっても、頑なに閉じた瞳を開けようとしない。
 おれは舌打ちをして、仕方なく入り口の方に戻った。
 寝ているラウの隣にあるダンボール箱を開ける。中の缶ジュースを2,3本取り出して、ラムネのガラスケースの上から2段目、残り少なくなった、缶ジュースの後ろの空間に、乱暴にまとめて入れていく。
 ガシャン。ガシャン。ガシャン。ガシャン。
 缶同士がぶつかる音、下の網棚に当たる音。家の中の音は、それだけ。
 しばらくその作業を続けていたら、突然、サラ婆の静かな声がした。
「武蔵。お前、せいあの左腕を見たことあるか」
 手を止めて、声の方を振り返った。
「ああ…。一度だけ。傷がたくさんあった」
 彼女の姿はそこにはない。声だけが、奥の座敷から聞こえる。
「どう思った」 
 同じ声。
 どうって…。なんなんだよ。
「気持ち悪かった」
 すると彼女は、少しだけ笑ったようだった。
「お前、正直だな。相変わらず」
 それから少しの沈黙。
 やがて彼女はゆっくりと、震えた声で、信じられないことを口にした。

「せいあの左腕には、昔、お前とそっくりな刺青があったんだ。……父親に彫られたんだ」

「………っ」
 なんだって。 
 その場に立ち竦んだ。
「そんなことできるのか。大体、なんでそんな…」
 声が震えた。
「それ以上は云えない。知りたかったら、お前がせいあの口から直接聞くんだな」
 ぴしゃりと言い放たれた。
 彼女が座敷から出てくる。
 おれの目を真っすぐに見据えて、静かに問った。
「武蔵…お前にあの子を癒せるか?」
 なんだよ、それ。
「知らねー…」
 目を伏せて答えると、後ろを振り返った。 
 出口に向かって歩くおれに、サラ婆が後ろから声をかけた。
「そこのカゴから、好きなだけ、金、取っていけ」
 おれは天井からぶら下がった竹カゴに手をのばして、中の小銭を取るかわりに、1回小突いて、そのまま家の外へ出た。
 冷たい風が、背中を吹き抜けた。
                                     ≪つづく≫

*            *            *


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