海流のなかの島々

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波の彼方から語ります

「静かな落日~弘津家三代」

2012-04-06 11:59:21 | 演劇

 劇団民藝公演です。

作:吉永仁郎、演出:高橋清祐

出演:樫山文枝、伊藤孝雄、水谷貞雄、小林勇二ほか

 

「1949年8月17日未明、福島県松川をおそった列車転覆の大事件。検挙された容疑者20名が第一審で死刑を含む有罪判決。無実の罪の被告たちを救うため、ペン1本で奮闘する弘津和郎。その父を支えつづける娘・桃子……(フライヤーより抜粋)」というお話。

このあらすじを読むと小難しい話のように思えますが、出てくる男性たちは「作家」という肩書きはあるものの、思想もさして無く、遊び人で、のんびりした「おじさん」ばかり。特に「我々は闘うぞ!」と拳を振り上げるでもなく、公判傍聴のために泊まった旅館で「寝ぼけて俺を蹴ったぞ」とかいってもめる可愛いおっさんたちです。 押しつけがましさや社会批判が前面に押し出されず、淡々とした中で物語が進んでいくのがとても良かった。

「松川事件」も「弘津和郎」の名も恥ずかしながら全く知りませんでした。容疑者の事情聴取が行われるシーンが少しだけあるのだが、これが怖い。容疑者は田舎の純朴な男性。証人として呼ばれる家族や仲間も無学な田舎者。刑事の口八丁手八丁に簡単に引っかかってしまう。容疑者の祖母などは字が読めず、警察に都合良く書かかれた供述証書にうっかり拇印を押してしまう。そして調べる刑事も田舎者。別に怒鳴った暴力をふるったりすることはないのだが、訛りのある言葉で巧みに「有罪」へと導いていくから余計に怖いのだ。この時代は恐ろしい、と思いかけたがいや待てよ。最近もあったではないか。厚生労働省の村木元局長の冤罪事件が。こうやって犯罪はでっちあげられていくのね。警察に関わり合いになるような事件にはできるだけ近づきたくないもんです。

と書くと、「松川事件」が物語の中心のように感じるかもしれませんが、実際は父と娘の長い長い物語。母や自分たちとは離別し、後妻と暮らす父に最初は反感を感じる桃子が、だんだんと父を理解し助けていくようになるというもの。こちらの方も淡々と描かれているのが良い。冒頭、20才前後を演じた樫山文枝に違和感なし。凄いです。

セットも気に入りました。構造はそのままで、小道具やなんかをちょちょっと変えると弘津の何軒かの家や旅館に早替わり。特に弘津が晩年に住む熱海の家が良かった。広く開け放たれた縁側からは真っ青な空が見え、庭の大木の枝が1本だけ横切っている。一幅の絵のように清々しい景色でした。



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