海流のなかの島々

狭く浅くな趣味のあれこれを
波の彼方から語ります

「焼肉ドラゴン」 @兵庫県立芸術文化センター 4/9

2011-04-12 13:39:42 | 演劇

ネタバレあります。

 

 

  • 第43回紀伊國屋演劇賞 個人賞(鄭義信)
  • 第8回朝日舞台芸術賞 グランプリ
  • 第12回鶴屋南北戯曲賞
  • 第16回読売演劇大賞 大賞・最優秀作品賞
  •       〃        優秀男優賞(申哲振)
  •      〃         優秀女優賞(高秀喜)
  •       〃        優秀演出家賞(梁正雄・鄭義信)
  • 第59回芸術選奨 文部科学大臣賞
  • 韓国演劇評論家協会の選ぶ2008年 今年の演劇ベスト3
  • 韓国演劇協会が選ぶ 今年の演劇ベスト7

2008年の東京、ソウル公演でこれだけの賞をかっさらった作品の再演です。

  

といいつつ「焼肉好きのカンフーマスター」をイメージさせるそのタイトルがどうも馴染めず興味を持てなかったんですが、ふと思い立ってチケットを予約。2階最後列をギリギリゲットできました。

その思い立った理由というのは、よく聴いているラジオで「面白いなぁ、頭いいなぁ」と思っていた笑福亭銀瓶さん(彼自身も在日3世)が出演されていたから。彼の仕事関係者も多かったんでしょうか、こんなにおっさん率の高い客席を見たのは初めてかも。当日午前中のラジオで桂吉弥さんも「今晩観に行きます」と言っていたので目を皿のようにしてロビーをチェックし、無事発見。ファンらしき女性に話しかけられていたけど、私にはそんな勇気もなくチラ見が精一杯。

 

在日一家が経営する焼肉屋さんが舞台。アボジの名前、龍吉(ヨンギル)から「焼肉ドラゴン」と通称されているらしい(ようやくタイトルの意味が分かった)。土間と一段上がった畳(?)敷きだけの小さな店。そこでは焼肉が焼かれ2階席の私にも香ばしい匂いがぷ~んと漂ってきた。店の外は狭い路地を挟んでトタン屋根のバラックが連なっている。最終的にこのセットが綿密に考え抜かれたものだと分かり、唸らされた。

一家はアボジとオモニと4人の子ども。長女と次女はアボジの、三女はオモニの連れ子。長男の中学生時生(トキオ)だけがふたりの間に生まれた子どもである。この家族構成が実にいい。微妙に血の繋がったり繋がらなかったりする彼ら。嫉妬もあり、憎しみもあり、愛情も思いやりもある。罵り合い、泣き叫びながらも身を寄せ合って暮らす在日の一家。

私は人が怒鳴ったり殴り合ったりするのが苦手で、正直第1幕はちょっと馴染めないものもありました。働きもせず昼間っから飲んでダラダラする男たちにも腹が立ったり…(でもまともに仕事にありつけない彼らはこうするしかないのだけど)。しかし時生がトタン屋根の上から音もなく飛んでしまった瞬間に、彼らの物語にグッと引き込まれた感覚があった。こういう言い方はなんだけど、その飛び方がとても静かで美しくて衝撃的だったのだ。

登場人物は全て関西弁。時々韓国語のセリフもあるけど、字幕も関西弁だった。関西で公演する限りはこれって重要だよね。関西ネイティブにとって標準語からイメージするものと関西弁からイメージするものとは微妙に違ってきてしまうから。東京公演では標準語字幕だったんでしょうか?

そして劇中何度も飛行機が爆音をたてて頭の上を通り過ぎる。きっと私の育った豊中市の近くが舞台なのかなと思ったら、アフタートークで豊中とは空港を挟んで反対側の伊丹市の一地域がモデルになっていることが判明。実際「豊中」が台詞にも出てきて一層親近感を覚える。

とにかく韓国の俳優さんが演じるアボジとオモニがなんともいえずいい。ちょっと頭の薄くなった無口なアボジ。でっぷりとした巨体を重そうに歩くオモニ。この2人が韓国語なまりの関西弁でたどたどしく話す台詞がどれも心に残る。国有地への不法占拠だと立ち退きを迫られるが、「佐藤さんから買うた」と譲らないアボジ。多分本当に佐藤さんに騙されてお金を払ったんだろうなぁ。貧しいけれど不法なことはしてこなかった彼の生き方が垣間見える台詞でした。

物語は春→夏→秋→冬→翌年の夏→その翌年の春と進んでいく。どの場面も1970年前後の雰囲気と季節感が溢れていて妙に懐かしい。そしてラストシーンは再びトタン屋根の上に立つ時生の絶叫と舞い落ちる無数の桜の花びら。すすり泣きの声がもう随分前からあちこちに聞こえていたけれど、悲しくて美しいこの場面に私もとうとう落涙…。

ああ、いい舞台だった。前日に観た「国民の映画」の記憶がすっかり消されてしまったほど。再々演があればもう一度観たい。4/16、17は北九州芸術劇場で千秋楽です。まだチケットが残っているのか分かりませんが、地元の方、これを観ないともったいないですよ!



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