ちいさい ねこ♪

ひとつでも多くの心揺さぶられる瞬間をとどめておきたいから・・・。

石垣りん「その夜」によせて

2008-01-11 17:43:40 | 夕陽・夕景
  その夜
           石垣りん

 女ひとり
 働いて四十に近い声をきけば
 私を横に寝かせて起こさない
 重い病気が恋人のようだ。

 どんなにうめこうと
 心を痛めるしたしい人もここにはいない
 三等病室のすみのベッドで
 貧しければ親族にも甘えかねた
 さみしい心が解けてゆく

 あしたは背骨を手術される
 そのとき私はやさしく、病気に向かっていこう
 死んでもいいのよ

 ねむれない夜の苦しみも
 このさき生きてゆくそれにくらべたら
 どうして大きいと言えよう
 ああ疲れた
 ほんとうに疲れた  

 シーツが
 黙って差し出す白い手の中で
 いたい、いたい、とたわむれている
 にぎやかな夜は
 まるで私ひとりの祝祭日だ。

    ~詩集「私の前にある鍋とお釜と燃える火と」より~



 一人で生きてゆく、生易しいことではありません。何があっても誰にも頼れない、その心細さ。この詩を初めて読んだとき、私は見ず知らずの他人であるにもかかわらず、「お見舞いに行きたい」と思いました。何もできなくても、手を握っているくらいのことはできる、と。

 作者にとって「生きる」ことは、それだけで苦しみなのでしょう。ひたすらに働いて働いて、病気になるまで働いて、死ぬかもしれないその瀬戸際にも、親族にさえ頼れない、それはなんという寂しさでしょう。

 幸い、私は病のときにたった一人で寝込んでいた、ということがなく、今まで生きてこられました。そのことを心から感謝しています。もしもこの先、この詩のような状態におちいることがあったとして、絶望せずに生き抜くことができるかどうか、わかりません・・・。私は「一人」の状態にとても弱く、「孤独」に耐え切れないので。

 家族や友人が病気のとき、私はいつも落ち着かない気持ちになります。特に、誰にも看病してもらえない状態で、大切な人が寝込んでいると知ったらなおさら。何か自分にできることはないだろうかと、あれこれ一人で密かに気を揉んでいたりもします。心配したからといって、病状が良くなるわけでもないのに。

 風邪やインフルエンザが流行っています。皆様どうぞお気をつけて。失って初めてその重要さ・ありがたさがわかるもののひとつは「健康」ですよ。元気でいてくださいね。

 


「この写真いいなぁ」と思われましたら、バナーをクリック♪お願いします。
にほんブログ村 写真ブログ デジタル写真へ

ちいさい ねこ♪ のプロフィール@にほんブログ村


最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ふと、思い出しました。 (Red Rose)
2008-01-11 21:10:46
私もかつては大病を患って、1年程、静養生活を強いられた事がありました・・・。
その時期は、今まで生きてきた自分とこれから生きていく自分・・・そして相手・人をを客観的に見つめ直せるいい機会となりましたね。
言葉もいらない・・・何もしてくれなくてもいいから、そばにいてくれるだけで・・・安らぐものです・・・。

返信する
Red Roseさん (ねこ♪)
2008-01-11 22:22:30
病気や怪我で長期の静養、人生観が変わるほどの経験でしょうね。
そこで何かをつかめる人は、しっかりと自分の道を歩んでゆけるはず。
Red Roseさんのblogにはその経験も活かされているんですね。

病気で心細いとき、誰かがそばにいてくれる、ついていてくれる、それだけでも何かの手助けになるものでしょうか?
それなら嬉しいのですが。
私はいつも、「あぁ、私ってなーんにもできないんだなぁ」って、思ってしまうので・・・。
返信する
Unknown (ぽるか)
2008-01-13 02:03:33
この詩と写真を見て・・・。

「ねむれない夜の苦しみも
 このさき生きてゆくそれにくらべたら
 どうして大きいと言えよう
 ああ疲れた
 ほんとうに疲れた」 
そう母も思っていたのではないかと思いました。

今日も江原さんの番組を観てて「母の本心」を聞きたくなりました。
返信する
ぽるかさん (ねこ♪)
2008-01-13 08:13:28
病の床で感じる苦痛、思いやる側の人間には計り知れないくらいに辛く厳しいものなのでしょうね・・・・。
それでも、懸命に看病した人への感謝はあったと思いますよ。
返信する