ツアー編 ～その４～

　数日で行って帰って来られる場合は平気でしたが、あちこちを回るとなると日数もかかるしちょっと大変でした。ライブハウスの都合上、どうしても行きつ戻りつ、という行程になりましたし、ライブが終わったらそのまま夜のうちに次の街まで移動、ということもありました。

　一度、毎日場所を変えての５日連続でフル・ライブ、しかも途中から俺の面倒を見てくれるローディーが事情があってツアーから外れた、ということがあり、その時はさすがにくたびれました。ホテルはチェックアウトがあるので出発も早め、午後一でライブハウスに入り機材を組んでリハをやり、本番が終わったら今度は機材をばらして積み込んで、場合によってはそのまま移動、の繰り返しでした。組むのはまだ気が張ってるし、元気も出るんですけど、終わってからセットをばらしてケースに仕舞うのは本当に面倒くさかったですね。車から降ろしたり、運ぶのは基本的にやってもらってましたけど、セットを人に触られるのは大嫌いでした。

　自分なりになるべく早くドラムを組めるように工夫がしてあって、スタンドのつなぎ目とか動かしてはいけない所があったり、シンバルとかも他人に任せたら汗を飛ばしてそのまま仕舞われたり、とかもあったので、仕舞う時に全部自分で見ないと気が済まなかったのでした。気を利かせて手伝ってくれた現地のスタッフにマジで切れそうになったこともままあり…損な性格だったなと思います。

　ライブが続くと、いつもまずダメになるのが「手」でした。元々マメが出来やすいせいもあったんでしょうけど、手全体が痛くてスティック持つのも苦痛になったことが多かったです。ライブ中にマメが出来てそのまま破れ、翌日薄くなった同じ所にまた出来たり・・・。

　ある日、移動の車中で自分の手をしみじみと見て、形が変わっているのに気が付いて驚いたことがありました。親指と人差し指の付け根に盛り上がるほど筋肉が付き、よくマメが出来るところが厚くなり、どの指も第二関節から下が平べったくなっていて指に隙間がない感じになってました。「へー」と思って改めて袖をまくって腕を見たら腕全体も太くなっている感じでした。その時は「ま、ドラマーの手や腕に近づいたってことか」と嬉しかったですね。

　ライブが連ちゃんになる初日とかは「明日も明後日もあるんだから今日はセーブして叩こう」と思うんですけど、ライブが始まってしまうと、やっぱりいつも通りテンションが上がって、無意味に思い切り強く叩いていました。で、そういうライブ中によく口ずさんだのが「明日のことは考えるな～♪」という４４マグナムの歌の一節でした。

　あの頃はとにかく痩せていたし、ちょっと気を抜くとさらに痩せる、という今では考えられない体質だったので、出先ではしっかり喰って寝るようにして体調には気を付けてました。それでも疲れが溜まってくると体調を崩すことがあって、「車に酔う」ほどではなかったんですけど、一日中だるさと気持ち悪さが抜けず、ホテルに到着してベッドに倒れ込んだらそのまま起きあがれず、飯も食わずに翌日まで寝込んだ時もありました。でも、そういう時は「ああ、早く体調を戻してちゃんとやらなきゃ」と思うだけで「投げ出して東京に帰りたい」とかは思わなかったですね。

　ツアー中には、バンドもお客さんも異常に盛り上がり、自分的にもほぼ完璧、というすごく良いライブになることがありました。そうすると・・・なんか燃え尽きてしまった感じになり、翌日のライブはテンションも上がらず「並」で終わる、ということもありました。そういう「終わった」感に襲われると、普段はライブが続くこと、初めての場所へ行くことなんかが刺激的でハイテンションになってましたが、長く東京を離れてることが気になったりしてきます。

　移動日なんかは一日中外にいて、イヤでも日が暮れてきて夕陽なんかを見ると余計にそうでした。内心「ちょっと疲れたな」と思っていたら、確かテラチンだったと思うんですけど「ああー・・・なんかいっぺん帰りたくなっちゃったなー」と呟いているのを聞いたことがありました。そういうのが心に響くんですよ。そういう時に「自分もきついけど、みんなもきついのは同じなんだ、一緒に頑張ってる仲間なんだよなー」と思うわけですね。

続く