映画「コーラス」に観る、天使の仕事
音楽家をめざして音楽家になれず、寮の舎監になったものの、その職も失った先生は失意で学校を後にする。学校から一番近いバス停でバスを待っていると学校のほうからかけてくる子供がいた。
ペピノだった。ペピノは学校では最年少の子供。眠るときはクマのぬいぐるみを抱いて寝る。そのペピノが、小さなバスケットを下げて、クマのぬいぐるみを抱いて一生懸命かけてきた。
「先生、ぼくも連れて行って!」
先生はは断った。
「それは無理だ。はやく、学校にお帰り。でないと罰を受けるよ」
先生はペピノを残して一人バスに乗った。バスは発車した。が、ペピノの顔が輝いた。発車したバスが止まって先生が降りてきたのだ。先生はペピノをバスにのせるとペピノと一緒に旅立った。
ナレーションがはいる。
「ペピノは正しかった。今日は土曜日だ」
音楽家をこころざして、音楽家になれなかった男。チビでハゲでデブ。歳も中年にさしかかった。しかもやっと探した舎監の仕事も失った失業者。
このとき、この先生は自分を敗北者だと思ったろう。
だが、この映画が2004年全仏の興行でトップの成績を収めたのは、実は彼が人生の敗北者などではないことを観る人が感じたからに違いない。
寄宿学校「地の底」に、もし、この先生が来なかったら生徒たちはどうなっていただろうか。もし、この先生がこの学校にこなかったら、生徒のうちの何人かはきっとすさんだ人生を送っただろう。犯罪者となるものも出たかもしれない。
天使の顔をした悪魔といわれたピエール・モランジュも、巷でよく見かけられるような女ったらしのチンピラになって身を持ち崩し、老年期は一人さびしく安アパートで薄い毛布にくるまってゴホゴホとしわぶいていたかもしれない。
が、ピエールは、先生に音楽の才能を見出され、音楽学校に進学してゆくすえ世界的な指揮者となるのだ。
土曜日になるといつも門の前でパパが迎えにくるのを待っていたペピノはやさしい先生をパパにした。そして先生がどんな仕事をしたかずっとそばで見ることになった。
この物語はそのペピノがピエールのもとを訪れ、先生の日記を通じて昔話をするという形式ですすめられていく。先生の日記はペピノをつれて寄宿学校を後にするところで終わっているが、その後のことはペピノが語った。
「あの学校をやめた後も、先生はずっと音楽を教え続けたんだ」
もし、先生の夢がかなって、先生が音楽家になっていたとしたら、先生は寄宿学校の舎監になって子供達に合唱を教えることもなかったろう。が、音楽家の夢がかなわなかったために、先生はどさまわりのようにして底辺の子供達に合唱を教え続けた。
しかし、そのおかげで救われた子供達がどれだけいただろう。
先生は天使の仕事をしたのだ。
が、現世に生きていると、地位や財力に目を奪われて、何が価値のある人生かはなかなかわからないものだ。
音楽家をめざして音楽家になれず、寮の舎監になったものの、その職も失った先生は失意で学校を後にする。学校から一番近いバス停でバスを待っていると学校のほうからかけてくる子供がいた。
ペピノだった。ペピノは学校では最年少の子供。眠るときはクマのぬいぐるみを抱いて寝る。そのペピノが、小さなバスケットを下げて、クマのぬいぐるみを抱いて一生懸命かけてきた。
「先生、ぼくも連れて行って!」
先生はは断った。
「それは無理だ。はやく、学校にお帰り。でないと罰を受けるよ」
先生はペピノを残して一人バスに乗った。バスは発車した。が、ペピノの顔が輝いた。発車したバスが止まって先生が降りてきたのだ。先生はペピノをバスにのせるとペピノと一緒に旅立った。
ナレーションがはいる。
「ペピノは正しかった。今日は土曜日だ」
音楽家をこころざして、音楽家になれなかった男。チビでハゲでデブ。歳も中年にさしかかった。しかもやっと探した舎監の仕事も失った失業者。
このとき、この先生は自分を敗北者だと思ったろう。
だが、この映画が2004年全仏の興行でトップの成績を収めたのは、実は彼が人生の敗北者などではないことを観る人が感じたからに違いない。
寄宿学校「地の底」に、もし、この先生が来なかったら生徒たちはどうなっていただろうか。もし、この先生がこの学校にこなかったら、生徒のうちの何人かはきっとすさんだ人生を送っただろう。犯罪者となるものも出たかもしれない。
天使の顔をした悪魔といわれたピエール・モランジュも、巷でよく見かけられるような女ったらしのチンピラになって身を持ち崩し、老年期は一人さびしく安アパートで薄い毛布にくるまってゴホゴホとしわぶいていたかもしれない。
が、ピエールは、先生に音楽の才能を見出され、音楽学校に進学してゆくすえ世界的な指揮者となるのだ。
土曜日になるといつも門の前でパパが迎えにくるのを待っていたペピノはやさしい先生をパパにした。そして先生がどんな仕事をしたかずっとそばで見ることになった。
この物語はそのペピノがピエールのもとを訪れ、先生の日記を通じて昔話をするという形式ですすめられていく。先生の日記はペピノをつれて寄宿学校を後にするところで終わっているが、その後のことはペピノが語った。
「あの学校をやめた後も、先生はずっと音楽を教え続けたんだ」
もし、先生の夢がかなって、先生が音楽家になっていたとしたら、先生は寄宿学校の舎監になって子供達に合唱を教えることもなかったろう。が、音楽家の夢がかなわなかったために、先生はどさまわりのようにして底辺の子供達に合唱を教え続けた。
しかし、そのおかげで救われた子供達がどれだけいただろう。
先生は天使の仕事をしたのだ。
が、現世に生きていると、地位や財力に目を奪われて、何が価値のある人生かはなかなかわからないものだ。