3次元紀行

手ぶらで地球にやって来ました。生きていくのはたいへん。そんな日々を標本にしてみました。

映画「コーラス」について ・2

2007-12-10 00:26:20 | 映画
映画「コーラス」に観る、天使の仕事

音楽家をめざして音楽家になれず、寮の舎監になったものの、その職も失った先生は失意で学校を後にする。学校から一番近いバス停でバスを待っていると学校のほうからかけてくる子供がいた。
ペピノだった。ペピノは学校では最年少の子供。眠るときはクマのぬいぐるみを抱いて寝る。そのペピノが、小さなバスケットを下げて、クマのぬいぐるみを抱いて一生懸命かけてきた。
「先生、ぼくも連れて行って!」
先生はは断った。
「それは無理だ。はやく、学校にお帰り。でないと罰を受けるよ」
先生はペピノを残して一人バスに乗った。バスは発車した。が、ペピノの顔が輝いた。発車したバスが止まって先生が降りてきたのだ。先生はペピノをバスにのせるとペピノと一緒に旅立った。
ナレーションがはいる。
「ペピノは正しかった。今日は土曜日だ」


音楽家をこころざして、音楽家になれなかった男。チビでハゲでデブ。歳も中年にさしかかった。しかもやっと探した舎監の仕事も失った失業者。
このとき、この先生は自分を敗北者だと思ったろう。
だが、この映画が2004年全仏の興行でトップの成績を収めたのは、実は彼が人生の敗北者などではないことを観る人が感じたからに違いない。
寄宿学校「地の底」に、もし、この先生が来なかったら生徒たちはどうなっていただろうか。もし、この先生がこの学校にこなかったら、生徒のうちの何人かはきっとすさんだ人生を送っただろう。犯罪者となるものも出たかもしれない。
天使の顔をした悪魔といわれたピエール・モランジュも、巷でよく見かけられるような女ったらしのチンピラになって身を持ち崩し、老年期は一人さびしく安アパートで薄い毛布にくるまってゴホゴホとしわぶいていたかもしれない。
が、ピエールは、先生に音楽の才能を見出され、音楽学校に進学してゆくすえ世界的な指揮者となるのだ。
土曜日になるといつも門の前でパパが迎えにくるのを待っていたペピノはやさしい先生をパパにした。そして先生がどんな仕事をしたかずっとそばで見ることになった。
この物語はそのペピノがピエールのもとを訪れ、先生の日記を通じて昔話をするという形式ですすめられていく。先生の日記はペピノをつれて寄宿学校を後にするところで終わっているが、その後のことはペピノが語った。
「あの学校をやめた後も、先生はずっと音楽を教え続けたんだ」

もし、先生の夢がかなって、先生が音楽家になっていたとしたら、先生は寄宿学校の舎監になって子供達に合唱を教えることもなかったろう。が、音楽家の夢がかなわなかったために、先生はどさまわりのようにして底辺の子供達に合唱を教え続けた。
しかし、そのおかげで救われた子供達がどれだけいただろう。
先生は天使の仕事をしたのだ。
が、現世に生きていると、地位や財力に目を奪われて、何が価値のある人生かはなかなかわからないものだ。


映画「コーラス」について ・1

2007-12-10 00:16:06 | 映画
映画「コーラス」が語るもの

「コーラス」という映画をレンタルDVDで観た。
この映画は合唱で歌う少年達と、合唱指導する先生との感動物語というよくあるパターンでありながら、2004年のフランス興行成績1位を記録した映画である。
この映画の見所は、このコーラスグループのソリストを務める少年の、美声を備え持つ美少年ぶりだろう。この少年は、合唱をしている3000人の少年の中から選ばれたという。そして、少年達が歌う歌声は、彼、ジャン=バティスト・モニエが所属する「サン・マルク少年少女合唱団」が受け持っている。

物語は、音楽家になることを夢見て夢破れた中年の男が、しがない寄宿舎舎監となってその学校「地の底」にやってくるところから始まる。
「地の底」とは、親がいないとか、親が子供の面倒を見られないなどのいろんな事情で寄宿生活を余儀なくされている子供達ばかりの学校だった。
門を通過するとき、扉の鉄の柵を握り締めてじっと外を眺めている小さな少年がいた。
「彼は?」ときくと「ペピノといいます。両親は亡くなっているんだけど、それを認めようとしないので、お父さんが土曜日に迎えにくるよ。と言ったんです。そしたら毎週土曜日、ああしてお父さんが迎えにくるのを待ってるんですよ」

そう、ここにいる少年達はみないつかは親が迎えにくるのを待っている子供達。そのさびしさを紛らわすため、子供達はしょっちゅういたずらをして問題をひきおこす。ところがもっと問題なのはこの学校の校長で、誰かがいたずらをすると、全体責任にして犯人が名乗り出ないと名簿から適当な子供をピックアップして罰を与えるという横暴な男だった。それなのに出資者である伯爵夫人に取り入って、勲章を貰おうとしているせこい男なのだ。こんなのが教育者でいいはずはない。
そのおかげで学校は荒れ放題、子供達のいたずらもエスカレートしていた。
新任の舎監と入れ違うようにしてやめていく教師が「ピエール・モランジュに気をつけな。天使の顔をした悪魔だ」と新任にささやいて去っていく。

ピエール・モランジュ。教室に座っているだけで、他の子供達とは一線を画すような美少年だ。いたずらといっても、授業中、校長先生をネタに悪意を込めた漫画をノートにいたずら書きするくらいじゃなかったかな。それでも校長に見つかれば罰の掃除当番だった。画面をみていると、ピエール少年は年中掃除をしたり、窓ガラス磨きをやっていた。
そんななか、新任の舎監は子供達に自分のもともとの専門である音楽を教えることを思いついた。この先生はチビでデブでハゲ。さえない中年男だが、心根のやさしい先生だった。自分にされたいたずらを校長先生にばれないようにかばってやったり、生徒の一人が用務員さんを傷つけたとわかると、校長先生には内緒で用務員さんの看護を命じて少年の良心をめざめさせた。
合唱指導をはじめると、少年達の生活態度が目に見えて変わっていった。そして、例の美少年ピエール・モランジュは最後まで合唱の列にくわわるのを拒否していたが、ほんとうは歌いたくて陰でかくれて歌ってるのを先生はきいた。その声は何万人に一人という天使の歌声だったのだ。
先生はさっそく、ピエールをソリストとすることで合唱の列に加え、さらに母親に少年を音楽の道に進ませるようアドバイスする。
「地の底」の少年達が合唱をしていることを聞きつけた伯爵夫人が、合唱を聞きにきた。総てが順調にいっているように見えた。
が、休暇で学校が空っぽになった日、学校は放火された。
放火は校長によって泥棒の濡れ衣をきせられて少年院送りになった少年による報復だった。

放火されたとき、無断で生徒とピクニックにいったという理由で、この音楽の先生は校長から首をいいわたされる。
本当は、校長はこの先生が気に入らなかったのだ。先生が合唱を通じて生徒たちの心をつかんだことがまず気に入らなかった。伯爵夫人には、合唱の手柄を自分のもののように吹聴していたが、伯爵夫人も評価したその仕事ぶりが目障りだったというのがもっと大きな理由だ。
悪魔は天使の存在そのものが気に食わないのだ。