カトリック情報 Catholics in Japan

スマホからアクセスの方は、画面やや下までスクロールし、「カテゴリ」からコンテンツを読んで下さい。目次として機能します。

7-9-6 ガルガンチワの笑い

2023-10-29 02:16:23 | 世界史


『文芸復興の時代 世界の歴史7』社会思想社、1974年
9 カルバンとフランス・ルネサンス
6 ガルガンチワの笑い

 ラブレーは『ガルガンチワ物語』と『パンタグリュエル物語』という、思いきってふざけた本を書いたということで有名なのであって、とくに世間的な意味でえらかった人ではない。
 生まれた年はだいたい一四九四年ごろで、一五五三年に死んだことになっている。
 ラブレーは僧侶で、医者であり、その学識は古典語に通ずるとともに、法律、神学、歴史、植物学、解剖学、天文学から料理学におよび、学術書の類も出版している。
 つまり彼はヒューマニストだが、その代表作は、つぎのような順序で書かれた物語類であろう。
 一五三二年 パンタグリュエル物語(第二の書)
 一五三四年 ガルガンチワ物語(第一の書)
 一五四六年 パンタグリュエル物語(第三の書)
 一五五二年 パンタグリュエル物語(第四の書)

 なおラブレーの死後、一五六四年に『パンタグリュエル物語』(第五の書)が出版されたが、これは彼の作かどうか、疑われている。
 この妙な名前の人物は、中世の民間の伝説物語からとられた巨人親子のことで、その冒険や遍歴の物語が展開するのである。

 ガルガンチワは生まれるとき、「飲みたい、飲みたい、飲みたい」と大声でせがみたてて、グビリグビリとぶどう酒をのんだとか、授乳用に一万七千九百十三頭の牝牛(めうし)があてがわれたとか、大きくなってパリヘ行ったとき、その小便で二十六万四百十八人がおぼれたとか、パンタグリュエルはガルガンチワが五百二十四歳のときに生まれた子供で、四千六百頭の牝牛の乳を食事のたびにたいらげて育ったなどという、ケタはずれのお話である。
 ちょっと読んだところでは、「雄弁、博識、でたらめ、しゃれ、才気、皮肉、わいせつ」の一大混合のようにみえる。
 しか事実はそんなものではない。
 そのなかにはヒューマニストとしての作者の、堕落した僧侶階級や形骸化した神学者によせる諷刺や、人間性解放のはげしい夢や、中世的禁欲主義に対して、歓喜と快楽の母である自然への讃歌や、現世の積極的な肯定があふれている。
 またラブレーの教育観としては、たとえば幼時のガルガンチワが「飲んで食べて眠って、食べて眠って飲んで、眠って飲んで食べて」大きくなったというように、なにものにも束縛されない人間の肉体や精神の自由な発達が考えられているのであろう。
 あるいは、ガルガンチワがはじめてこれまでどおりの教育をうけ、本をおしまいのほうから逆に暗誦(あんしょう)できるようになるほど勉強したが、人の前でろくに口もきけないで、泣き出してしまうというバカな子供になってしまったり、薬をのませて頭のなかのくだらないことを全部忘れさせ、りっぱな学者たちと交際させるうちに、彼の精神がのびのびしてきたというような話は、当時の形式的な教育に対する痛烈な批判であろう。
 しかし一方で、ガルガンチワは知能、肉体両面におよぶきびしい教育をうけるが、そこには作者のまじめな見解をくみとることができよう。
 またラブレーは専制主義的な君主を諷刺し、軍事については、巨人たちの馬の小便が大きな川となって、多くの敵兵をおぼれ死にさせるなどというようなバカ話とともに、侵略的意図のおろかさや捕虜待遇の問題などがまじめに論じられている。
 そしてそれらは巨人族一味徒党の高笑いとあいまって、生き生きと読者にせまってくるのだ。
 こうしたルネサンス人ラブレーの面影をもっともよく伝えるのは、『ガルガンチワ物語』のなかの「テレームの僧院」であろう。
 ガルガンチワは、悪い王さまピクロコルと戦争する。この王の軍隊が、ある修道院を掠奪しにきたのに腹をたてて、そこの僧ジャン・デ・ザントムールという人物が登場する。
 彼は、兵士たちが修道院のぶどう園を荒らしているところへ、棍棒(こんぼう)をふりまわしておそいかかり、かたっぱしからなぐりたおした。殺された敵兵一万三千六百二十二人となっている。
 ジャンは酒のみで、快活、果断な働きもので、弱いものを助け、大食漢で、ものすごく強く、お祈りはあっさりやってのける。
 ピクロコル王を負かしたのち、ガルガンチワはジャンにほうびとして寺をひとつやろうとする。
 ジャンは、自分のことさえとりしまれないのに、他人さまである僧侶たちはとてもだめだとことわりながら、いう。
 「もしどうしてもくださるなら、私が考えるような僧院をつくってくだされ。」
 こうして「テレームの僧院」がつくられることとなった。





最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。