もし全部の日本人が、彼と同じように学ぶことの好きな国民だとすれば、日本人は、新しく発見された諸国の中で、最も高級な国民であると私は考える。このアンヘロは、私の聖教講義に来て後、信仰箇条のすべてを自分の国語を以って書き留めた。彼はたびたび教会へ来て所りをなし、私に無数の質問を浴びせた。彼は、何でも、知り尽くさずにはおかないという、強い欲望を持っている。これは進歩が早くて、短時日の間に、真理の認識に到達することのできると人物だという、確かなしるしである。アンヘロが來てから八日の後、私は印度へ向って出発した。私は、この日本人が、私と一緒に同じ船に来ることを、大いに希望した。けれどもアンヘロは、今まで彼の願ひを叶え、大いに厚遇してくれたポルトガル人と、今別れることはよくないと思ったのである。私は彼を、十日の後まで、コチンで待っている。
聖フランシスコ・ザビエル
聖フランシスコ・ザビエル
まず、クリスチャン以外はみんな地獄に落ちるか、という疑問に返答するなら
全員が地獄に落ちるとは限りません。キリスト教を知らなかったが可能な限り善意に生きた人は、滅びるとは限りません。
聖書には
1、信じて洗礼を受けるものは救われ
2、信じない者は滅びる
とあります(マルコ16:16)。信じることを拒んだ者でしょう。
実際、ピオ9世や10世はじめ数名の教皇様の解釈(回勅等)の中に、そのような教えは多く見られます。
ただし、全きキリスト教は誤謬が少なく(聖伝の中に教義上の誤りは全くない、ただし教区ごとにもしくは宣教者・司牧者個人の運用に誤りがあることは勿論ある)、他の宗教は誤謬が多く、誤謬の多い宗教に従うより、少ない宗教に従った方が救われやすいことは確かです。
これは完全に正確な表現ではなく、原罪だったり十字架の贖罪だったりその恩恵の範囲だったり、いろんなことが絡んできますが、未信者の方にはアバウトにこう書いた方がわかりやすいでしょう。だからこそ、宣教師たちは命の危険を冒して宣教に行きました。
少し正確に書くなら、洗礼を受けて許されぬ大罪なく生きた者は救われるが、そうでない者はクリスチャンでも救われない、未信者は原則として救われないが、本人の過失によらず受洗に至れなかった場合、可能な範囲で正しく生きていれば例外として救われることはある(望みの洗礼等の解釈があります)、という感じです。ただし、最後者に期待するのはとても危険だとされます。
そして、ご指摘のザビエルとのやり取りの件ですが、確かに、先祖はどうなっているか、先祖を救えないか、という日本人からの質問や要望はザビエルに対してありました。ザビエルがどう答えたかはわかりませんが、こう答えた可能性もありそうですね。
「もし先祖たちが限りなくみ旨にかなった生活をしていたら、天主は奇跡を起こされたはずである。もう少し早くキリスト教は伝来していたろう。しかし、そうはならなかった。・・・」
私が読んだある本では、ザビエルはユークリッドを学んでいたので、なんとか答えることができた、とのみ書いてありました。しかし、その答えまでは載っていませんでした・・。
でも、ある聖人はキリスト教伝来前の異教徒について、こう述べていましたから。
実際、本当に日本人が可能な範囲で聖徳に近い生き方をしていたのであれば、空海の時代あたりにキリスト教が到達していたかもしれません。その一歩手前までは行ったのです。実現はしませんでしたが。元寇の時代に到達する可能性もあったでしょう。
そうはならなかったのはなぜか、とすると、穏当ではない表現ですが、全員ではなくとも多くが滅びた可能性はありそうに思います。
「この国の人びとは今までに発見された国民のなかで最高であり、日本人より優れている人びとは、異教徒のあいだでは見つけられないでしょう。彼らは親しみやすく、一般に善良で、悪意がありません。驚くほど名誉心の強い人びとで、他の何ものよりも名誉を重んじます。大部分の人びとは貧しいのですが、武士も、そうでない人びとも、貧しいことを不名誉とは思っていません。 」
しかし、日本での布教活動はインドなどに比べて独特の困難さが伴った。布教中、ザビエルは日本人からこんなことを聞かれたという。
「そんなにありがたい教えが、なぜ今まで日本にこなかったのか。その教えを聞かなかった我々の先祖は、今 どこでどうしているのか?」
ザビエルは、「洗礼を受けない者は地獄に堕ちる」という旨を説明した。すると、日本人はこう返す。
「あなたの信じている神さまというのは、ずいぶん無慈悲だし、無能ではないのか。全能の神というのであれば、私のご先祖さまくらい救ってくれてもいいではないか」
返答に窮したザビエルは本国ポルトガルに次のような書簡を送った。
「日本人は文化水準が高く、よほど立派な宣教師でないと、日本の布教では苦労するであろう」
できれば、哲学の素養のある宣教師が望ましい。
お邪魔いたしました。