「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.31 ★ 中国日本商会アンケート 中国は「一番重要な市場」と「三つの重要な市場の一つ」が51%

2024年01月28日 | 日記

CGTN Japanese/AFPBB News

2024年1月20日

中国日本商会による記者会見の様子(2024年1月15日提供)。(c)CGTN Japanese

 

【1月20日 CGTN Japanese】

中国日本商会が15日に行った最新の発表で、同商会会員企業を対象として実施したアンケート調査の結果、2024年以降の中国市場について、「一番重要な市場」および「三つの重要な市場の一つ」と答えた企業が51%となり、半数を超える日本企業が今後も中国市場を重要な市場と位置付けていることが分かりました。  

同商会は昨年9月、四半期ごとに実施する調査として、1回目の「会員企業景気・事業環境認識アンケート」を実施し、10月にその結果を発表しました。今回は同じテーマで行った2回目の調査で、基調としては多くの項目で前期より「小幅な改善をしている」という認識が示されました。  

中でも、売上については「減少」および「やや減少」が47%(前期比8ポイント減)で「増加」および「やや増加」の27%(前期比2ポイント増)を上回り、「変化なし」は26%(前期比5ポイント増)でした。

また、事業環境に対する満足度は「非常に満足」および「満足」が54%と、前回より3ポイント増えています。さらに国内企業と「同等に扱われている」という回答も71%と、前回より2%増えています。

同商会の本間哲朗会長は同日の記者会見で、「製造業・非製造業共に、今年の投資を前年と同額程度か、増やすという企業が依然として5割超で、厳しい環境下でも中国ビジネスに前向きな意欲を示す日系企業が半数以上を占めている」と紹介しました。その上で、2回の調査結果から読み取れるメッセージとして、「改革開放45年を経て、在中国日本企業の事業活動は成熟度を増し、したたかさを兼ね備えている」という見方を示しました。  

同商会の宮下正己企画委員長は席上、記者からの質問に対し、北京やその他の各地で中央政府および地方政府関係者と交流する中で、政府関係者からは「日本企業を含めた外国企業から課題をヒヤリングし、それを吸い上げていく」という声を多数聞いているという実体験を紹介し、中国政府の外資と向き合う姿勢に現れた変化をポジティブに評価した上で、中国国務院が昨年8月に発表した「外資誘致の24項目措置」で、政府調達や標準策定において外資を平等に扱うことを強調したことが結果に結びつくことへの期待感を示しました。  

なお、今回のアンケートは中国日本商会の会員企業8300社を対象に行われ、回収した有効回答は約1700件ということです。

(c)CGTN Japanese/AFPBB News

 


No.30 ★ 中国の高齢化、新たな経済成長モデルへの転換に暗雲

2024年01月28日 | 日記

ロイター

2024年1月20日

中国の高齢化は国内消費の拡大と膨れ上がる債務の抑制という政府の目標を脅かし、長期的な経済成長見通しに深刻な課題を突きつけている。写真は北京の公園を訪れる高齢者。16日撮影(2024年 ロイター/Tingshu Wang)

Farah Master [香港 18日 ロイター] –

中国の高齢化は国内消費の拡大と膨れ上がる債務の抑制という政府の目標を脅かし、長期的な経済成長見通しに深刻な課題を突きつけている。 2023年の出生率が過去最低となり、新型コロナウイルスによる死亡が相次いだ結果、2年連続で人口が減少。労働人口も大幅に減ることなどにより、政策当局者が懸念する構造的不均衡が悪化する。

中国経済に占める家計消費の割合はすでに世界で最も低い水準にあるほか、年金や高齢者福祉を担う地方政府の多くは数十年にわたる信用による投資主導型成長の結果、多額の債務を抱えている。

ビクトリア大学(メルボルン)政策研究センターのシニアリサーチフェロー、シウジェン・ペン氏は「中国の年齢構成の変化は経済成長を減速させるだろう」と述べた。

今後10年間では、現在50─60歳の約3億人(中国最大の年齢層集団で米国のほぼ全人口に匹敵)が退職する見込みだ。ただ、中国科学院によると、35年までに年金制度が資金不足に陥ると予想されている。 

<低い定年>

中国は定年が世界で最も低い国の一つであり、男性は60歳、ホワイトカラーの女性は55歳、工場で働く女性は50歳となっている。今年は過去最高の2800万人がリタイアする予定だ。

無職のリー・ジューリンさん(50)は、国有企業でキャリアを積んだ夫が27年にリタイアした後、月約5000─7000元(697─975ドル)の年金だけに頼ることに不安を感じている。 リーさんは一人娘の「負担を減らそう」と出費を減らすなど余念がない。「娘が結婚すれば自分の家族を養うだけでなく、(夫婦双方の父母)4人の高齢者の面倒を見ることになる。それがどんなに大変なことか想像もできない」と語る。

中国社会は伝統的に、親が年をとっても子どもが経済的に支え、同居して介護することを期待してきた。 しかし、多くの欧米諸国と同様、急速な都市化によって若者は大都市に移り住み、親元を離れるようになった。自身や政府の給付に頼る高齢者が増えている。

米ウィスコンシン大学マディソン校の人口統計学者、イー・フーシェン氏は、20年には1人の退職者を支える労働者が5人いたが、35年には2.4人、50年には1.6人にまで減少すると予測。「中国の年金危機は人道的大惨事に発展する」と述べた。

日本政府によると、同国ではこの比率が22年に2対1で、70年には1.3対1になると予測されている。しかし、日本は高齢化が加速する以前から高所得国だった。  

<消費者の高齢化>

中国第2の年齢層集団である30─49歳の約2億3000万人は、住宅や自動車を購入できるほどキャリアを積み、子どもの教育に出費し始める消費の最盛期を迎えている。 この層が50歳代に達すると、子どもは就学を終え、自分で収入を得るようになるため、国内消費への参加は少なくなると予想される。 将来的にこの層に代わることになる現在の20歳代の人口は飢饉(ききん)があった1950年代以降で最も少なくなっている。1980年から2015年までの一人っ子政策の結果だ。

マッコーリーの中国担当チーフエコノミスト、ラリー・フー氏は「日本の経験は生産年齢人口の割合が減少するにつれて住宅需要も減少することを示している」と述べた。

<生産性鈍化>

人口統計学者によれば、どの経済体でも子どもの数が域内消費と直接相関しているという。 前出のペン氏は国内市場の縮小が中国の輸出依存度を高めるだろうと話す。中国はすでに信用フローを不動産業から製造業へと切り替えている。 ただ同氏は、労働人口の高齢化によって「イノベーションを起こすインセンティブが低下し、生産性の向上は速まるどころか鈍化している」と指摘する。

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No.29 ★ ダボス会議で中国・李強首相の熱弁に世界のVIPが冷たい眼差しを向けた理由 ー 東アジア「深層取材ノート」(第219回)

2024年01月28日 | 日記

JBpress (近藤 大介)

2024年1月20日

1月16日、スイスで開催されたダボス会議で演説する中国の李強首相(写真:AP/アフロ)

聴衆のしらけた表情

 その映像を見ていて、思わず目を疑った。これは、いかなるものの成れの果てだろう?

 1月16日午前、スイスの寒村ダボスで行われた世界経済フォーラム(WEF)年次総会(通称「ダボス会議」)の開幕式。欧米の政財界のVIPたちを始め、1500人もの聴衆が集まった大広間の中央の壇上では、わざわざ遠く北京から駆けつけた、中国ナンバー2の李強首相が熱弁を振るっていた。

 だが、聴いているVIPたちの、しらけ切った表情と、疑心暗鬼の眼。習近平政権の外交を評して、「戦狼外交」(狼のように吠える外交)と言われるが、彼らは壇上中央の弁者を、まるで「狼少年」のように見ているようだった。

 思えば、いまから20年前、ダボス会議の最大の話題は、伸び盛りの中国経済だった。2001年末にWTO(世界貿易機関)に加入し、2008年北京オリンピックと2010年上海万博を控えた中国の経済は、どこまで伸び行くのだろう? それで、2004年から2006年までの予備的な北京フォーラムを経て、2007年から毎年9月に、中国(大連と天津で隔年)で「夏のダボス」を開催することにしたのだ。

 私は、2004年の北京フォーラムから2013年の大連での「夏のダボス」まで、10年連続で参加し、温家宝首相や李克強首相のスピーチを、会場で聴いてきた。あの時の欧米のVIPたちの期待と羨望の眼差しを生で体感しているだけに、ダボスの外の雪景色のように冷え切った李強首相の演説風景に、驚きいってしまったのだ。

李強首相が主張した光り輝く中国経済

 李強首相は、いまの中国政府の「官製流行語」で言うなら「中国経済光明論」を、切々と説いた。箇条書きすると、以下のような内容だ。

・中国は全世界の発展の重要な牽引役であり、この数年、世界経済成長の3割前後を貢献してきた。

・2023年の中国経済は総体的回復傾向にあり、GDP成長率は5.2%前後になり目標値の5%前後を達成する。

・中国は製造業の世界成長の約3割を占め、14年連続1位。200以上の成熟した産業グループを形成している。

・中国の「人口ボーナス」は「人材ボーナス」に昇華しており、人材資源総数・科学技術人材資源・研究開発人員総数などは世界トップだ。毎年の資本形成額は全世界の約3割に上っている。

・中国のデータ産業は巨大で、データ資源は豊富で、世界第2位の「データ埋蔵国」だ。

・先端技術を持った企業は約40万社に上りユニコーン(企業価値10万ドル以上の非上場企業)数は世界2位だ。

・現在、中国の中間層は4億人を超え、今後十数年で8億人に達する。

・3億人近い農民が市民化への過程にある。

・全世界の新エネルギー車の過半数は中国で走っており、新エネルギー車保有数は2000万台を超える。

・中国はすでに、140カ国・地域の主要貿易パートナーであり、関税の総平均は7.3%まで下降した。

中国の公式発表に世界が疑いの目

 だが、上述のように、会場は極めて冷淡だった。20年前の「熱気」は、いまや「冷気」に変わっていた。現場を取材した西側メディアの記者に聞くと、「昨年は中国の外相と国防相が忽然と姿を消したが、今年は首相のあの人の番ではないか、などと囁かれていた」という。

昨年3月11日、中国・北京の人民大会堂で行われた第14期全国人民代表大会(全人代)第1回会議の第4回総会で李強氏と握手する習近平氏。李強氏は習近平主席の指名を受けてこの会議で中国首相に承認された(写真:新華社/アフロ)

 この翌日、1月17日には、北京で国家統計局の康義局長が、高らかに述べた。

「初期の概算によれば、全国の国内総生産(GDP)の増加値は、126兆582億元で、物価変動を入れない数値で、年率5.2%成長した。これは、当初の目標値である5.0%前後を上回るものだった」

 この速報が出た直後、ある大手企業の中国担当部署の知人が、SNSを送ってきた。

「いま、ウソだろうってざわついている」

失速は明らかなのに…

 よくよくこの日の国家統計局の発表を読み込めば、以下のような内容も盛り込まれていた。

・1月~11月の全国規模以上工業企業利潤は-4.4%

・通年貨物貿易の輸入額は-0.3%

・12月の住民消費価格(CPI)は-0.3%

・12月の若年層(16~24歳)失業率は14.9%

・昨年末全国人口は14憶967万人で、-208万人。通年出生数は902万人で1000万人割れ

・労働年齢人口(16~59歳)は61.3%に減り、65歳以上は15.4%に増加

・全国不動産開発投資は-9.6%。うち住宅投資は-9.3%

・不動産開発企業家屋施行面積は-7.2%。うち住宅施行面積は-7.7%

・不動産開発企業家屋新規工事開始面積は-20.4%。うち住宅新規工事開始面積は-20.9%

・商品家屋販売面積は-8.5%。うち住宅販売面積は-8.2%

・商品家屋販売額は-6.5%。うち住宅販売額は-6.0%

・昨年末の商品家屋売れ残り面積は6億7295万m2で+19%。住宅売れ残り面積は3億3119万m2で+22.2%

・不動産開発企業手元資金は-13.6%。うち国内融資-9.9%、外資-39.1%、自己資金-19.1%

・12月の不動産開発景気指数は93.36で、過去一年で最悪

・12月の70大中都市新築商品住宅販売価格は、前月比でプラス7都市、マイナス62都市、変化なし1都市。同じく70大中都市中古住宅販売価格は、70都市すべてでマイナス

 このように、特に「GDPの3割を支える」不動産業界は、まだ「V字回復」にはほど遠いことが分かる。いくら中国が「光明論」を説いても、世界は実態を直視している。

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No.28 ★ 中国経済、2024年に向けて足踏み 不動産市場と所得の伸びがより安定するまで、成長率は正常化しない 見通し

2024年01月28日 | 日記

DIAMOND online  (The Wall Street JournalNathaniel Taplin

2024年1月19日

Photo:NurPhoto/gettyimages

 中国の2023年の経済成長率は5.2%となり、3%にとどまった前年から拡大した。新型コロナウイルス禍前は6%以上の成長率が当たり前になっていた投資家にとって、これは極めて低い水準だ。大きな政策転換がない限り、24年も同じような状況が続くだろう。

 17日発表された昨年12月分の中国経済指標には、好材料もいくつかあった。固定資産投資は10月まで8カ月連続で伸びが減速していたが、11月に横ばいとなり、12月にはやや加速した。これは11月以降に金融環境がやや緩和したこととも合致している。12月の社会融資総量は前年同月比9.5%増と、5月以来の伸びとなった。

だが、全体として見れば状況はまだ厳しい。

 公式統計によると、昨年の都市部の可処分所得は実質で4.8%増にとどまった。2020年と2022年を除けば、これは少なくとも2002年以来の低い伸びであり、2016~19年の四半期平均をほぼ1ポイント下回る水準だ。消費者心理は低迷したままで、消費者金融はほとんど伸びておらず、住宅価格は下がり続けている。

 金融環境が緩めば、地方自治体に加え、債務を過剰に膨らませた信託銀行などの「シャドーバンク(影の銀行)」が債務を借り換えやすくなり、本格的な金融危機を防ぐことができるかもしれない。しかし、経済成長が力強さを取り戻す兆しや、重要な不動産セクターが完全に底入れした兆しはほとんど見られない。

 だからといって、政府の金融政策を通じた対応が最小化されるわけではなく、その一部は次第に不動産へと波及するだろう。短期借入金利と中国国債利回りは、いずれも昨秋の終わりには懸念されるほど高水準で推移していたが、足元では低下している。

 その理由の一つは、中国人民銀行(中央銀行)が特別融資制度による資金供給を拡大したことにある。人民銀は昨年11月、中期貸出制度(MLF)を通じて正味8000億元(約16兆6300億円)を銀行システムに供給した。1カ月の総額としては過去最大となった。さらに、担保付き補完貸出(PSL)制度を通じて3500億元を供給した。

 PSL制度は、2015年に前回の不動産暴落が起きた後、中国の政策銀行が通称「スラム再開発」を通じて家計、ひいては不動産開発会社を支援するためにこの制度を利用したことから注目される。

 今回も同じような展開になるかは定かでない。政府の数年にわたる住宅投機対策がそれを阻むかもしれない。とはいえ、PSL融資が増え続けるとすれば、それは政策当局が本気で不動産セクターの落ち込みに歯止めをかけようとしていることの表れだろう。


 少なくとも現時点では、中国の不動産市場はまだ深刻な問題を抱えている。ゴールドマン・サックスによると、昨年12月の加重平均不動産価格は季節調整済み年率換算で2.4%下落し、11月の2倍の下落率となった。新築住宅販売(床面積ベース)と不動産投資は昨秋にやや持ち直していたが、いずれも12月には再び前年比のマイナス幅が拡大した。

 最後に、労働市場はなお不安定に見える。中国国家統計局が発表した昨年12月の購買担当者指数(PMI)によると、建設業の雇用見通しが改善した一方、製造業とサービス業では悪化した。

 不動産以外の投資は安定しているようだ。これは朗報である。ただし、不動産市場・サービス部門の雇用・所得の伸びがより安定するまでは、中国の成長率はかつての「当たり前」に比べて鈍いものにとどまるだろう。

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No.27 ★ 中国 「5%成長達成」の裏で習近平が金融界に戒厳令 空振りの「GDPフライング発表」に映る切実

2024年01月28日 | 日記

東洋経済オンライン (西村 豪太 : 東洋経済 コラムニスト )

2024年/1月/18日

1月16日、中国共産党の金融に関する勉強会で演説する習近平国家主席。金融リスクへの現状認識は「戒厳令」を思わせる厳しさに(写真:新華社/アフロ)

不動産不況の長期化やデフレ傾向が懸念された2023年の中国経済。その総仕上げとなるGDP(国内総生産)統計が1月17日の午前11時(日本時間)に公表された。最大の注目点が、実質成長率が「前年比5%前後」という政府目標を超えるかどうかだった。2024年に政府が景気対策にどれだけ踏み込むかの判断材料になるからだ。

発表前日に統計データをポロリ

ところが、発表前日に思わぬ「フライング」があった。スイスのダボス会議で、李強首相が「中国経済は全般的に回復・改善し、2023年の成長率は5.2%前後になる」とあっさり明かしてしまったのだ。

統計数字の事前流出が望ましくないのは中国でも同じだ。2011年には、国家統計局の官僚が発表前の統計データを漏洩した疑いで取り調べを受けたことが報じられている。「目標は達成できる見通し」とほのめかす程度ならともかく、国家指導者が数字そのものを事前に明かすのは異例だ。

それだけ「超過達成」をアピールしたかったのだと思われる。李首相は大規模な景気刺激策に頼ることなく目標を達成したことを強調し、中国経済は「着実な進歩」を遂げているとした。今後の方向性については「高質量(質の高い)」成長を目指すという。「高質量」は習近平国家主席が最近強調している経済政策のキーワードだ。

李首相は、ダボス会議に集まった世界の経営者に向かって対外開放政策の継続を約束した。そのうえで、「過去5年間、対中直接投資の収益率は約9%だった。これは国際的にも比較的高い水準にある。中国市場を選択することはリスクではなく、チャンスだ」と強調してみせた。

理由としては、中国の市場の潜在力の高さがあるという。李首相は「中国の中所得層は現在4億人であり、今後10年程度でその数は2倍の8億人になる」「中国の都市化率はまだ先進国の平均より10ポイント以上低い。また、3億人近い農民工が市民権を得るプロセスを加速させており、住宅、教育、医療などに大きな需要をもたらす」などと好材料を列挙してみせた。

中所得層の拡大も都市化率の向上も、中国政府の「営業トーク」の定番だ。いま中国は海外からの投資を切実に求めている。中国の対内直接投資は2023年7~9月期に統計開始以来初めてマイナスを記録した。李首相としては、成長率の「目標達成」を手がかりに中国経済への期待値を上げたいという思惑があったのだろう。

2023年12月中旬に行われた中央経済工作会議では、2024年の方針の一つとして「経済宣伝、世論の誘導を強化し、『中国経済光明論(中国経済の先行き楽観論)』を高らかに謳う」ことが打ち出された。習主席の側近中の側近として知られる李首相は、統計のフライング発表というかたちで世界に向かって「光明」を謳い上げた。

そのメッセージがダボスに集った経営者にどれだけ響いたかはわからないが、株式市場は冷淡だった。中国の代表的な株式指数である上海総合指数は17日の終値で2833.6ポイントと、前日より2%あまり下落した。

GDP統計と同時に公表された2023年1〜12月の不動産開発投資は前年同期比9.6%減となり、1〜11月から下落幅が広がった。成長率の超過達成くらいでは、不動産不況をめぐる投資家の不安はぬぐえない。IMFは2024年の中国経済の成長率を4.2%と予想しており、2025年以降も成長率の低下を見込んでいる。

習近平主席が異例の会議を招集

李首相が対外的な広告塔としての役割を果たしていたのとまさに同じ日。習主席の姿は北京の中央党校にあった。共産党の幹部候補を育成するための学校で、習主席も国家副主席時代には校長を兼務していた。

「金融の高質量な発展を推進するための勉強会」と銘打たれたセミナーの開催はGDP関連報道の陰で目立たなかった。だが、集まった顔ぶれは内外の中国金融ウオッチャーを驚かせた。閣僚・省指導者レベル以上の共産党幹部が勢ぞろいする、異例の規模だったからだ。

ひな壇には習主席のほか、共産党最高指導部である常務委員会メンバーが外遊中の李首相をのぞいて全員集合した。金融のような専門性の高い分野で、これほどの動員がかかることは珍しい。

李首相がダボスで語った明るい未来と、北京で習主席が示した厳しい現状認識のコントラストは強烈だ(写真:ブルームバーグ)

その開幕式で習主席は「中国の金融には国情に適した特色があるべきで、西側の金融モデルとは根本的に異なる」「金融リスク、特にシステミック・リスクの予防と解決に努めるべきだ。金融監督には長い牙とトゲが必要だ」と演説した。尖った言葉づかいから、習主席の危機感の強さが伝わってくる。

1100兆円の隠れ債務が大問題

中国経済の矛盾は金融に集約されている。地方政府は不動産(土地使用権)の売却収入で財政をやりくりし、景気対策のためのインフラ投資の原資にもあててきた。その結果、地方政府の資金調達機関である「融資平台」の債務は増加の一途だ。

中国では地方政府の「隠れ債務」といわれるが、その規模はIMF(国際通貨基金)の推計では2022年の時点で57兆元(約1100兆円)に及ぶ。不動産の値下がりは、こうした構造を根底から揺るがすことになる。

不動産不況のもとで金融リスクが拡大しているなか、習政権は国務院(内閣)から権限を奪って共産党への一極集中体制を築き、危機管理を強化しようとしている。党側には、金融リスクの管理に当たるべき専門家への不信もあるようだ。2023年には金融当局や国有銀行幹部の汚職摘発が続いた。

2023年10月には習主席の肝いりで中央金融工作会議が開催され、「金融強国」の建設に向けて共産党の指導を強化する方針が示された。12月の中央経済工作会議を経て、1月には中国人民銀行(中央銀行)も党の方針にしたがって金融緩和とリスク削減を進めると表明している。金融分野へのグリップの強化ぶりは「戒厳令」とでも形容すべきものだ。

方向性は決まったはずなのに、わざわざ全国から幹部を集めたのは、なぜなのか。中国の金融に詳しい大阪経済大学の福本智之教授(元日本銀行国際局長)は、その意義付けについて「中央金融工作会議の延長線上だが、攻めと守りで金融を強くして、システミックリスクを起こさせないのだというメッセージを伝えたかったのではないか」と分析する。

「攻め」と「守り」のうち、より優先度が高いのは「守り」だろう。「攻め」の内容は中央金融工作会議で宣言された金融強国の建設だ。究極的には、基軸通貨であるドルを握るアメリカに経済の首根っこを押さえられている現状を打破するのが目的だとみられる。かなり長い時間軸での取り組みだ。

一方「守り」では、監督管理の強化とリスク処理メカニズムの確立に強いメッセージを出している。不動産のリスク処理に対してはまだ目立った動きはないが、地方債務への対応に加え、2023年秋から地方金融機関の合併再編が加速している。まさに「いまそこにある危機」を見据えた内容だ。

金融リスクの処理は待ったなし

習政権は、金融リスクの処理は待ったなしという意識を強めているとみられる。2024年には地方政府の債務のリストラ、中小金融機関の清算と合併などが一層進む可能性がある。

習主席のリーダーシップのもと、共産党に権限を一元化することで問題処理のスピード感は増しそうだ。ただ、「西側の金融モデルとは根本的に異なる」部分を強調しすぎて市場メカニズムを活かせなくなれば、経済効率の低下を招くだろう。

金融関連で繰り返し同趣旨の会議を開いている裏には、習指導部に対する国務院や地方の抵抗がありそうだ。水面下での主導権争いの激しさをうかがわせる。中長期での経済政策を定める共産党の重要会議「3中全会」は、2023年中に開かれるとみられていたが、まだ開催のメドがたっていない。

外資を呼び込むための「対外開放」の旗印と、危機管理を大義名分とした強権発動を両立できるのか。ダボスで李首相が語った明るい未来と、習主席が示した厳しい現状認識のコントラストは象徴的である。2024年は中国経済にとって大きな分岐点になりそうだ。

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